(5)
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一瞬想像しかけたが、すぐに妄想を振り払い、瑞稀は男に背を向けてまたコンビニへと歩き出した。
――ひとまず、コンビニに入れば人がいる。そして、あの明るさといつもの品揃えが私を現実に引き戻してくれる!
瑞稀はほとんど小走りに歩みを早めた。ヒールがアスファルトに擦れる。転びそうになる。
瑞稀は、映画の世界に浸り過ぎたせいで自分がその中に迷い込んでしまったのではないかと心配になった。
この男は、おそらく、いや、間違いなく危ないひと。
実際に何か犯罪歴があるかはわからないし、一見普通の会社員に見える。
しかし、このスーツの下に危険な願望が潜んでいるのが伝わってくる。
瑞稀は『恋の罪』の世界に浸っていたように、男もまた、彼なりの異常な願望が繰り広げられる妄想の世界に浸っていたのだろう。
きっとそれが、呼びあったのだ。
めちゃくちゃな電磁波が飛び交う秋葉原の街で、まったく接点のない男と瑞稀の意識が、混線してしまったようだった。
男が追いかけてくる。あっという間に追いつかれ、また腕を掴まれる。
「2じゃ足りない? ねえ、少し話しましょう」
振り返らず早足で進む。男も同じ速度で腕を掴んだままついてくる。
すると、前方にマンションの敷地に、暗がりになっている空間があった。自転車置き場に使われているようで、ブロック塀に囲まれている。
瑞稀は、ギクリとした。
心臓が止まるようだった。
思わず男を振り返ると、男の視線もその暗がりを発見していた。
不測のトラップをそのまま通り過ぎようとするが、男に引きこまれ、瑞稀はその暗がりの空間の隅に押し込められた。
ブロック塀の直角に瑞稀の背中が嵌め込まれるように押し付けられる。
続きます^_^