(4)
お楽しみください^_^
そして瑞稀に笑顔を向けた。それは非常に愛嬌に溢れた笑顔だった。
しかし、その裏に媚びがあった。
きっとこの男は、営業マンなのだろう。
自分も、自分の回りの営業部員もこういう笑顔をする。
目の前の相手の警戒を緩めたい時に。
変わらず表情を硬くしている瑞稀に向かって、今度はその手を離し胸の高さでパッと広げてみせた。攻撃しませんよ、のジェスチャーだった。
「ごめんなさい、ビックリさせて。僕、静岡から出張で来てまして……。
この辺りはあんまり慣れてなくって。ええとですね、あの、もうぶっちゃけ言いますけど」
男は、瑞稀の顔の前に指を突き出すと、ピースサインを作った。
「ぶっちゃけ、これでどうかな、と。2、で。2で、お姉さんを抱きたいんですけどね」
――!!
瑞稀は面食らった。
こういったことで声を掛けられるのは、実は未経験ではない。
指を出された時点で、うすうす意味もわかった。
しかしそれは、瑞稀がまだ10代や20代の頃。
その場所も、たとえば池袋駅の西口公園や、渋谷の109の休憩スペースなど、「そういう声かけのメッカ」とされる場所でだった。
うっかりそれを知らずに、友達との待ち合わせにそこを選び、ぼーっと携帯――当時はガラケー全盛――をいじっている時などに、「おじさん」から持ちかけられる話だった。
あの頃は、援助交際が流行っていたのだ。
そして、そういうふうに声を掛けられることを、男も女も薄々わかっていて、集まる場所があった。
あ、ここはそういうところなんだと学べば、近づかなければいいだけだ。
それさえわかっていれば、池袋も渋谷も別にそんな危ない土地ではなかった。
声を掛けられず過ごせる場所のほうが、むしろ多かった。
しかし今回は、それが秋葉原で、しかも自分はもう32歳で、相手も同い年くらいの男だ。
あの男たちは相手がとびきり若い女だから、その若さにお金を払うのだと思っていた。
『恋の罪』でも、ヒロインたちと歳が近そうだったり歳下と思しき男性たちは「カネ取るのかよ!」と怒っていた。
彼女たちを買うのもまた、年輩の男たちだった。
書泉もそうだが、メディアとして女性が消費されるものを扱う店は確かに秋葉原は多い。
メイド喫茶や、簡易的な風俗は多くある。
しかし、この通りのホテルがラブホテルでないように、生身の女性をがっつり貪るような場所や機会は案外少ない土地、というのが瑞稀の印象だった。
今自分の身に起きていることはまるで、『恋の罪』ではないか。
――もしも、このままついていったらどうなるのか。この男に抱かれて、一晩2万……。
続きます!