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混線  作者: ゆにお
1/8

(1)

はじまります! お読みください^_^

――こんな欲に溺れた人たち、ほんと愚かだと思う。なのに、私はこのヒロインたちに共感してしまうのだ。



『恋の罪』、その映画をつい繰り返し観てしまう自分に、瑞稀みずきは戸惑っていた。


それは日本の作品だった。

舞台は渋谷・円山町まるやまちょう


作家の妻として裕福な暮らしを送る女性。

そして、大学教授として働くもうひとりの女性。


はたから見れば非常に恵まれた暮らしをしているふたりのヒロインが、街頭での売春にハマり、その道を突き進んでいくというストーリーだ。



――どうしてだろう。なぜか自分の心が重なる。こんなに浅ましくて救いようのない愚か者たちなのに、こうなってしまう気持ちが少しだけわかる。



しかし、それがどちらのヒロインになのかが、自分ではわからない。


おとなしくて引っ込み思案な作家の妻と、経済的に自立し性格も強気な大学教授は真反対の性格として描かれていた。


実際の瑞稀は、どちらの性格にも近くない。

両方のヒロインがそれぞれ気になるのだった。


瑞稀は自分の人生のステージが変わる節目で、同傾向の作品に巡り会っては惹かれていた。


高校時代に読み耽った『アンナ・カレーニナ』。

大学時代にハマった『ボヴァリー夫人』。


そして、結婚してから数年経った頃、再会――実は大学時代にも読んでいるはずなのだが、そのころはほとんど印象に残らなかった。――した村上春樹の短編『眠り』。


時代も国も様々で、置かれた立場も全く異なる作品たち。


一つ共通しているのは「女としてそれなりに幸せなはずなのに、何かが不満」というヒロインが登場することだった。


彼女たちは、いつも「何かもっと素敵な世界」を夢見ている。

「本当の私は、こんなはずじゃない」という夢を。


その夢が彼女たちを苦しめる。

そして、彼女たちは自死にまで追い込まれていったり、見知らぬ男たちに車を揺さぶられたり、殺されてしまったり、売春の闇から抜け出せなくなったりする。


そう、自由を求めて不倫の恋をしたり夜通し読書をしたり、夜の渋谷に繰り出したりするのだが、その結果、より不自由で不幸せな結末が彼女たちを待ち構えるのだ。


どこにどう惹かれて、どう共感してるのか瑞稀にはうまく説明できない。


しかし、『恋の罪』のDVDを借りてきてからというもの、何度も繰り返し観てしまうのは、やっぱりこの物語が好きだからだと思う。


DVDを返却したあとも、瑞稀はYouTubeで動画を探して細切れになった『恋の罪』を順番もバラバラに見返した。


ストーリーの流れなどはもうどうでもよかった。


場面ごとの、彼女たちのセリフ、振る舞い、表情を眺め、男たちが彼女を罵る声を聞きながら、入り浸るように観た。


もちろん、それは夫がいない時間だ。


そう、「人生のステージの変化」の最たるものは結婚だ。

瑞稀は結婚していた。

子どもはいない。


瑞稀は夫と非常に仲がいい。

それなのに、こういう作品にはまり込んでしまう自分が不思議だった。


いや、瑞稀がこの手の女たちの物語が好きなのは結婚前からのことなので、結婚がうまくいってもいっていなくても、瑞稀はこういった作品に惹かれてしまう性分なのかもしれなかった。


そうだとしても。


続きます〜

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