聖女召喚
血まみれ注意…
「召喚に成功したぞ!」と言う声と、「わぁっ」という歓声が聞こえる。
私はいつの間にか魔方陣らしきものの上に立っていた。さっきまで夜道を急いでいたはずなのに。
「聖女よ! よくぞこの世界に参られた。感謝いたします」
声のする方に目をやると、にこやかな笑顔の着ぐるみのウサギが血まみれのナイフを持って立っている。
「ギャーッ、こわいこわいこわい…」
叫びながら辺りを見回すと、魔方陣を囲むようにクマの着ぐるみ、キツネの着ぐるみ、なんだか良くわからないゆるキャラっぽいのが数体、同じように手を血まみれにして立っている。
「聖女様、どうなさいましたか?」
「いやーっ、近寄らないで!」
不気味な様子の着ぐるみ達に囲まれた私には逃げ場がない。目をつむって、頭を抱えてしゃがみこむ。
「異世界転生?異世界召喚?なんでも良いけど、何?なんなの、あなたたち!近寄らないでーーっ!」
周りを見ないようにしながら叫ぶ。
「何故聖女様はこんなに怖がっておいでだ?」
「怖がらせないように細心の注意をはらったはずだが…」
「この、ゆるキャラ?とか、着ぐるみ?とかいうものなら、怖がられないという話ではなかったか?」
着ぐるみ達が集まってボソボソ話す声が聞こえる。
「着ぐるみが怖い者もいるとか?」
「あぁ、聖女様は着ぐるみに恐怖なされているのか」
「では!」
着ぐるみ達の気配がする方から、ピカッと光が見えたので、そっと顔をあげて様子を見る。
魔法使いのイメージそのものというような、黒いローブを着た数人の男女がおどおどした態度で私を見下ろしていた。
「着ぐるみは脱ぎました。これでいかがかな?」
最初に声をかけてきたスプラッタなウサギと同じ声がして、ツカツカと歩み寄ってきた。
その手にヌラヌラと血まみれの包丁を手にしたまま…
「いやーっ!」
私はその場にバタンと倒れ込んだ。
「「聖女様っ」」
「早く、聖女様を寝室へ」
「治癒魔法の得意な者を呼べ」
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魔法使い達は、いつも自分達の血を使って魔方陣を起動したり、使い魔との契約を行い、終われば治癒魔法で傷を治しているため、召喚した聖女が血を恐れるとは思わず、血まみれのまま召喚の成功を喜んでいたらしいのだが。
「スプラッタな着ぐるみに囲まれたら、誰だって怖いでしょ!だいたい、なんで着ぐるみなのよ!魔法使いらしく、いかにもな姿の方がマシよ!」
と、目覚めた聖女にこっぴどく叱られた。