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かっこいいところ見せるの、マジでやめて欲しい

 俺はそのまま姫金に引っ張られながらも、乙伎原高校の最寄り駅から2駅ほど先にある街までやってきた。

 そこは乙伎原近辺では、もっとも栄えていて、友達と遊ぶのも、恋人とのひと時を楽しむにも持ってこいなスポットとなっている。


「俺、あんまりここには来ないんだが……結構人が多いんだな」

「この時間は、学校終わりに遊びにきた学生が多いからね。それで、あの子は?」

「いるよ」


 後ろにちらっと振り返ると、そこには物陰に隠れてこちらを凝視する重縄がいた。ホラーである。


「さて、ここから俺たちのラブラブ具合を、あの後輩に見せつけるわけなんだが、どこへ行こうか」

「定番処はゲームセンターかな? あそこにあるけど」

「俺、騒がしいのはちょっと」

「わがままだなー。だったら、手綱くんはどこか行きたいところとかある?」

「公園でも行こうぜ」

「公園?」

「手でも繋いでのんびりーとしよう。それなら金もかかんないしな」

「それでいいのかなぁ」

「デートってどこ行くかより、誰と行くかの方が大事なんじゃないか? デートしたことないから知らんけど」

「まあ、そうだけどさ。でも、デートって行く場所も大事なんだよ?」

「そういうもんか?」

「そりゃあ、ある程度関係が進んでれば、手綱くんの言う通りどこでもいいと思うよ? でも、たとえば初デートとかだったら、お互い緊張して、なに話していいか分からないとかあるんじゃない?」

「ふむ……たしかに」

「そういう時、たとえばゲームセンターとかだったら、いろいろと話題にできることも多いでしょ?」

「……なるほど。ようするに、話題作りのためにデートの行先は大事ってことか」

「とは言っても、手綱くんの言うことは真理だと思うけどね。ただ、あたしたちはそこまで深い関係じゃないし……公園でのんびりしても、あたしは落ち着かないかなぁ……」

「……」

「手綱くん? 黙りこんでどうしちゃったの?」

「いや、俺と同じで経験ないのに、えらい的確だなと思ってな」

「友達のコイバナ聞いたりする機会が多いからねー」

「そういうことか」


 それから、俺は姫金のアドバイスに従って、話のタネになりそうなところとして、近場の本屋に入った。


「あたし、本屋さんってあんまり来たことないなぁー」

「ここはでかいし、いろいろ置いてそうだよな。姫金はなにか興味のあるジャンルとか、あるのか?」

「やっぱり、ファッション雑誌かな。どっかの誰かさんの影響で」

「ん? なんでそこで、俺を見るんだ?」

「さあー? なんでだと思う?」

「分からないから聞いてるんだが」

「そんなことより、手綱くんはなにか興味あるジャンルあるの?」

「あそこだな」


 そう言って俺は18禁のれんで隠されたエリアを指さした。


「サイテー」

「いつかあそこに入ってみたいもんだな」

「男の子って、そんなことばっかり考えてるわけー?」

「当たり前だろ」

「肯定されちゃった」

「むしろ、それ以外になにを考えるってんだ」

「そこまで言う……? もう……手綱くんもちょっとはファッション雑誌でも読んで、オシャレに興味持ったら?」

「俺は別にいいよ。洒落た服なんて着ても、似合わないだろうしな」

「そんなことないでしょ。手綱くん、身長あるし、肩幅も広めでスタイルいいじゃん」

「そうか?」

「顔も悪くないと思うし……うん。変にごちゃごちゃしたデザインよりも、スーツみたいなスッキリしたデザインで、逆三角形のシルエットを活かして……」

「おーい?」

「ぶつぶつ」


 姫金が自分の世界に入ってしまった。どうやら俺の声が届いていないらしい。ちらっと視線を周囲に彷徨わせると、ちょうど向かい側に重縄を見つけた。


 雑誌を立ち読みしているみたいで、時折ちらちらと俺の方を見てくる。はたから見たら、怪しいことこの上ない。


「姫金。そろそろ、次に行こうぜ」

「え? なに? 次?」


 ようやく自分の世界から戻ってきた姫金に「おかえり」と言ってから、俺は姫金に進められたファッション雑誌を持ってレジへと向かう。


「あ、買うんだ……?」

「まあ、勧められたからな。1度くらいは目を通しておこうかと思ってな」

「……そっか」


 姫金はどこか嬉しそうに微笑んだ。

 それからさらにいろいろと周り、時刻もいい頃合いとなったところで解散することになった。


「じゃあ、今日はありがとうな」

「ううん。あたしこそありがと」

「なんで姫金が礼を言うんだ?」


 協力してもらってる俺が言うのはともかく。


「楽しかったからだけど?」

「楽しかった?」

「え? 不思議? 手綱くんとのデートで、たくさん楽しませてもらったから、お礼を言っただけなんだけど……」

「ああ、いや……」


 不思議といえば不思議かもしれない。別に俺は、姫金の好きな人というわけでもないのだし。俺も姫金に楽しんでもらおうとしていたわけではないし。

 だが、楽しんでもらえたというなら、それはそれでいいことだ。


「それじゃあ、俺はのぼりだから」

「うん。あたしはくだりだから。じゃあね」


 そうして駅で別れようとした時だった。


「なんですか、お前」


 重縄の声が聞こえて、俺と姫金は同時に振り返った。すると、そこには男に絡まれている重縄の姿があった。


「いや~こんな時間に駅で、1人でいるみたいだったからさ~。ナンパ待ちなんじゃないの?」

「違います」

「そんな恥ずかしがらなくていいって~。俺、君みたいな可愛い子が好きでさ~。近くでおいしい水素水が飲めるお店知ってるんだ。よかったらそこでゆっくりお話しない? 奢るからさ?」


 おいしい水素水だと?

 姫金も引っかかったのか、「水素水?」と首を傾げていた。


「……おいしい水素水か。気になるな」

「え? 普通気になる?」


 姫金は気にならないのか。そうか。


「というか、あれナンパされてる……よね?」

「そうみたいだな」

「ストーカーがナンパされるとか……まあ放っておきましょうか」

「……」

「手綱くん?」

「……ちょっと行ってくる」

「え? 助けにいくの!?」

「姫金は帰ってていいぞ」

「え、ちょ、ちょっと!」


 俺は重縄を助けに踵を返した。


「はぁ……ストーカーを助けに行くとか……そういうかっこいいところ見せるの、マジでやめて欲しい……」

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