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本当にモテる王子様は辛いなぁ

 夜。

 もはや定番となった皇との密会場所である窓辺に肘を置いて、夜風に当たっていると、向かいの窓が開いた。


「こんばんは。手綱くん」

「こんばんは。皇」


 今日は重縄のことを皇に相談しようと思い、先ほど話せないかと携帯に連絡を入れたのだ。

 早速、本題に入ろうとしたところで、俺はふと違和感を覚える。なにやら、皇の装いがいつもと違う気がする。


 そして、その違和感の元凶に気づく。


「その髪留め、どうしたんだ?」

「え?」


 そう――髪留めだ。皇の前髪に、クマがモチーフの髪留めがあった。なかなかにファンシーな髪留めで、王子様などと学校でもてはやされている人物が、身に着けるものには見えないだろう。


 皇のことを男子だと思っている学校の連中が見たら、目を丸くして驚きそうなものだ。しかし、皇尊が本当は女子であり、こういった”可愛いもの”が好きであると知っている俺からすれば、特別驚くこともない。


 だが、俺は驚いた。他でもないあの皇が、そんな可愛いものを”身に着けることができる”という点に。


「えっと、どこか変かい? 前髪が邪魔だと思った時なんか、よくこうして留めてるんだけど」

「変じゃない」

「そう? なんだか驚いてるみたいだけど?」

「いや……ただ、それができるんだったら、そういうところから女の子っぽい格好ができるんじゃないか?」


 皇は過去のトラウマから、スカートなどのいわゆる”女の子っぽい”を連想させるような装いをすると、フラッシュバックで嘔吐してしまう。

 今、彼女はそのトラウマを克服しようと、コツコツと女の子っぽい格好にチャレンジしている最中なのだ。


「…あ、たしかに!」

「アクセサリー類が大丈夫なら、候補は多いんじゃないか?」

「うん!」

「買い物に行くなら付き合うぞ」

「いいのかい?」

「約束しただろ。お前のトラウマを克服する協力してやるって」

「…手綱くん。ありがとう」

「っと、話が逸れたな。そろそろ本題に入っていいか?」

「うん、どうぞ」


 俺は先刻、重縄司を名乗る女子生徒に絡まれ、「ひどい目に遭わせる!」という脅迫を受けたことを、皇に話した。


 俺の話を聞いて皇は、苦虫を噛み潰したかのような渋面で、額に手を当てる。


「彼女は……前の学校の後輩なんだ……」

「それは聞いたが……もしかしてなんだが、あの子は以前話してた恋愛的にお前のことが好きだったいう……」

「うん。手綱くんの想像している通りだよ」

「本当にモテる王子様は辛いなぁ」

「他人事みたいに言うのやめてくれるかな!?」

「他人事だしな」


 首を竦めて、「俺関係ない」とアピールする。皇はそのアピールにたいして、首を横に振った。


「そうは言えないよ。彼女、ちょっと嫉妬深いというか……なんというか……」

「なんだ? 歯切れが悪いな。はっきり言えよ」

「……ボクのストーカーなんだよ」

「あぁー……」


 そういえば、本人も言ってたなぁ。

 ここしばらく、皇をストーキングしていたとか、さらっと。


「あの子は、自分がボクにとって一番でありたいと思っている。それが、恋人だろうが、友達だろうが、親しそうにしていれば……」

「嫉妬で怒り狂うバーサーカーになるわけか……」

「君に脅迫してきたのが、いい証拠だよ」


 なるほど、これまた厄介なことだ。


「なあ、もしもなんだが。そんなやつに、お前が本当は女だってバレたら、どうなるんだ?」

「……分からない。騙していたことに怒り狂うのか、案外受け入れてくれるのか」

「怒り狂ってなにかする可能性があるなら、やっぱバレない方が無難か」

「だね」


 となると、今回も早急に手を打って、なんとかしてやらないといけないわけか。


「とにかく、気を付けてね? あの子、頭がおかしいから」

「まあ、なんとかなるだろ」

「楽観的だなぁ……」






 数日後。俺は、自分の考えが甘かったことを悟った。


「じー」

「……」


 見られている。学校を出てからずっと、物陰に隠れながら俺の後をつけている人物がいる。


「じー」


 重縄司だ。例の脅迫から今日までずっと、彼女は俺のことを付け回している。楽観的に、「まあ大丈夫だろ」と思っていたのだが、これは怖い。


 単純に後ろをつけられているのも怖い。さらに、なにをしてくるのか、なにを考えているのか、いつ襲ってくるのか。そういう小さな”分からない”が寄り集まって、俺は今とても恐怖を覚えている。


 たとえるなら、ホラーゲームとかお化け屋敷に近いかもしれない。あの手のエンタメは、怖がらせてくるのが分かっているのに怖いものだ。それは、いつ来るか分からず、常に身構えなければならない緊張感ゆえだろう。


 ゲーム内でなにをされようが、現実の自分に害が及ぶ可能性は、限りなくゼロだろう。驚きのあまり心肺停止とかしなければ。


「はぁ……」


 が、これは現実。なにもしなければ、実害が出る。

 ならば、こちらから先に動いておくべきか。


「おい、重縄」

「ささっ」


 あいつ、俺に名前を呼ばれてから、電柱の陰に隠れた。まだ見つかっていないとでも思っているのだろうか。思いきり、体が電柱からはみ出しているのだが。


 というか、目も合ってるし。


「なにしてるんだ? そんなところで」

「ストーキングですが、なにか?」

「ずいぶんと堂々としたストーカーだな……」

「よく気づきましたね。この私の完璧なストーキングに」

「……」


 ボケているのだろうか。あえて、ツッコミは入れないが。


「いつ皇から俺に乗り換えたんだ?」

「……」

「分かった。俺が悪かった。謝るから、その懐から取り出したスタンガンをしまえ」


 怖い。なんでそんなものを持っているのだろうか。


「お前を気絶させる用――げふんげふんっ。自衛用ですが?」


 怖い。俺を気絶させるためだけに、スタンガンを用意していることよりも、俺の思考を読んできたことが怖い。


「ふんっ。お前如きが考えていることなんて、全部分かるんですよ」

「じゃあ、今俺が考えていることは?」

「『よく見たらこの子めっちゃ可愛くね?』でしょう? ふふん」


 怖い。ドヤ顔で的外れなことを言っている上に、自意識過剰だ。


「でも、ごめんなさい。私、皇先輩一筋なので」


 怖い。告白もしてないのに振られてしまった。なんかショック。


 閑話休題。


「それで? 結局、なんで俺をストーキングしているんだ?」

「お前の弱みを握って、無理矢理にでも皇先輩から離れさせるためですよ。私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげますよ……ふふふふふ」

「こっわ」


 そんなこんなで、俺は重縄に四六時中ストーキングされた。朝から晩まである。この後輩、学校とかないのだろうかと思ったら、「出席日数よりもボクのことが最優先な子だから」と皇が言っていた。


「やばいやつじゃん……」


 俺はドン引きした。


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