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カッチーン

 勉強会が終わった後、図書室を出てすぐの廊下で、俺はスマホを耳に当てた。


「で? 急に合コンって、なんだよ?」


 遅れて、図書室から皇が出てきて、冴島と電話中の俺の隣に並ぶ。

 ちなみに、姫金は「あたしバイトあるから!」と、数分前に帰った。


『いやぁ、実は他校の生徒と合コンの約束を取り付けるために、どうしても皇に来てもらいたくてさ』

「皇に?」

『ほら、だって超イケメンじゃん? 皇みたいなイケメンが来ると知ったら、向こうさんも絶対来てくれると思うんだよ~』


 つまり、皇を出汁にするわけか。


「で、俺に皇を誘って欲しいと?」

『そういうことだな! あと、手綱も一緒に来てくれ! 人数合わせで!』

「行かない」


 俺は通話を切って、皇に合コンの話をした。すると、皇は「行かない」と即答で首を横に振る。


「ボクが合コンなんて行っても、仕方ないじゃないか」

「まあ、そうだな」

「分かってるなら、電話で断っちゃえばいいのに」

「一応、聞いてみたんだよ。それに、俺としては合コンに参加してみるのも、いいと思うぞ?」

「え? どうして?」

「合コンで少しは色恋の経験が積めるだろ? お前、このままじゃどんどん姫金みたいな女子を量産して、いつか背中から刺されるかもだぞ?」

「うっ」


 自覚があるらしい。皇は「うーん」と悩む素振りを見せる。


「どうだ? この機会に、お前のそのヘタレっぷりを治した方がいいと思うぞ?」

「わ、分かったよぅ……ボクも君の言う通りだと思うし、参加するよ」

「そうか。なら、冴島にはそう返事しておくな」

「ただし!」

「?」

「条件がある」

「条件? なんだ?」

「……君も合コンに参加することだ」

「え」

「ボクだけ合コンなんて、絶対にいやだ」

「……」


 これは頷かないと合コンには行かないだろうな。


「分かった分かった。俺も参加してやる。これでいいだろ?」

「う、うん! ありがとう、手綱くん!」


 そんなこんなで冴島に、俺と皇の2人で参加する旨を連絡。

 それから数日後。

 

 乙伎原高校の最寄り駅から、2駅ほど離れたそこそこに栄えた街の喫茶店で、合コンをすることになった。


 幾何学模様のタイルの床に、オレンジの照明が店内をほんのりと照らしている。ゆったりとした赤色のソファは、背中を預けるとふわりと沈み込む。人1人が座れるくらいの大きさがあるそれは、1つのテーブルを囲むように6つ並んでいた。


 そのテーブルはやや手狭で長方形の形をしており、そこには6つのグラスが置かれていた。中身はそれぞれ違い、俺のグラスにはウーロン茶が入っていた。


「ボクは皇尊です。よろしくお願いします」


 と、俺の左隣に座る皇が、向かいのソファに座る女の子たちに微笑みかける。さらにその左隣には冴島がちょこんと座っており、ひどく落ち込んでいるように見える。


 それもそのはず。皇の先に、幹事ということで意気揚々と自己紹介をした冴島は、とんでもなく滑ってしまったのだ。なにがあったのかは、冴島の名誉のために伏せておくが……その時の女の子たちの視線は、とても寒かったということだけは言っておこう。


「かっこいい……」

「王子様みたい」

「やっばぁ」


 女の子たちの反応は三者三様だが、少なくても第一印象は冴島の真逆だろう。続いて、俺は無難に自己紹介を終えて、順番を女の子たちに回す。そうして、合コンは進むが――。


「ねえねえ、皇くんはさ? どんな女の子がタイプなの?」

「え~それ私も聞きたいなぁ~」

「うちもうちも~」

「あーうん。そうだなぁ……あはは」

「「んーーーー」」


 3人の女の子に皇が迫られている中、俺と冴島はすっかり空気となっていた。俺は別に構わないが、冴島は狙っていた女の子が皇と楽しそうにお喋りしているのを見て、かなり落ち込んでいるようす。


 俺はちびちびと注文した飲み物を飲みながら、時間を潰す。しばらくして、女の子だけでなにやら話が盛り上がり始めて、皇はようやく解放された。


「ふう……」

「お前は相変わらずヘタレだなぁ」

「うっ」

「誰にたいしてもいい顔してるからだぞ」

「わ、分かってるよ……」

「にしても、本当にモテるよなぁ、皇は」

「ちなみになんだけどさ……? た、手綱くんはさ……? もし、ボクが誰かと付き合ったらさ? どう思う?」

「別に、なにも思わないが」

「カッチーン」

「ん? なんだ?」

「別に?」

「いや、なんか怒ってないか?」

「怒ってないけど?」

「怒ってるだろ」

「怒ってないって言ってるだろ! ふんっ!」


 皇は明らかに怒りながら、テーブルのグラスをひったくるようにして、手にとってぐびぐびと中身を飲み干す。俺はそれを横目に見ながら、「皇」と落ち着いた声音で話しかける。


「なに」

「それ、俺の」

「え」


 みるみるうちに、皇の顔が赤くなっていくのを眺めつつ、俺は店員さんに新しい飲み物を頼む。

 そんなこんなで、合コンは特に面白味もなく終了。3人の女の子は、それぞれ皇と連絡先を交換して別れた。


 ちなみに、俺と冴島は1人も交換できなかった。それが余程ショックだったのか、冴島が「ずーん」と落ち込んでいた。


「まあ、そう落ち込むな」

「手綱ぁ……」


 俺がそんな感じで冴島を励ましてやっている間、皇はなにやら1人で「もしかしてボク……」とぶつぶつ呟いていた。先ほどの合コンで、気になったことでもあったのだろうか?


「皇? どうかしたのか?」

「ああ、うん……ちょっと君のこと――って、なんでもない! 別に君のこととか、考えてない!」

「うん? そうか? なんでもいいが、冴島を励ますの協力してくれないか」

「冴島くんは、どうして落ち込んでいるの?」

「お前に狙ってた女の子を取られたからだよ」

「あー……それは、その……ご愁傷様?」

「ぐすん……」


 皇よ、励ましになってないぞ。


「手綱、それに皇。もう俺は大丈夫だぜ」

「立ち直ったのか、冴島」

「ああ……いつまでも落ち込んでたって、女の子は向こうから来てくれないしな! また頑張ればいいさ!」

「そうか」

「つーわけでだ! 2人とも、今日は俺に付き合ってくれてありがとな! これ! お礼にもらってくれ!」


 そう言って、冴島が俺に渡してきたのは、テーマパークのペアチケットだった。


「なんだよこれ?」

「今日、俺が狙ってた女の子と行く予定で用意してたペアチケットだ。やるよ!」

「お前……これで、俺と皇の2人で行けってことか?」


 皇が俺にしか聞こえないくらいの声で、「2人きり……」と漏らす。俺と2人きりは、いやなのだろうか……なんだかショックだ。しかし、冴島は「なに言ってんだ?」と首を傾げて続けた。


「男2人でテーマパーク行っても、面白くないだろ? 誰か女の子でも誘って行ってこいよ。1枚しかないから、どっちが使うかはじゃんけんで決めてくれや」


 それは、お礼としてはどうなのだろうか。

 しかし、そうか。冴島からしたら、俺と皇は男同士だもんな。


「んじゃ、俺は帰るな~」

「ああ、またな冴島」


 俺は冴島の背を見送りつつ、手の中のペアチケットに視線を落とす。それからしばらく思考を巡らせて、ふと閃く。


「これだ……おい、皇。ちょっといいか?」

「手綱くんと……2人きり……2人きり……」

「皇?」

「へ? あ、なにかな!? ボクは別に、君と2人きりのデートなんて、これっぽっちも想像していないけど!?」

「なに言ってるんだお前は」

「……」

「それより、俺にいい考えがあるんだ」

「……いい考え?」

「皇。これで、姫金とデートをしてこい」

「え?」

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