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そのパーティ、勇者不在につき  作者: 抹茶味のきび団子
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第八話 勝者の余韻

なんとかジショウとの戦いに勝利したフィリネ。そんな勝者フィリネの様子は……?

「やっぱり、あれだけの身体強化をすると疲れますね……」




 フィリネは一人、ベッドの上でそう呟いた。数時間前にも一度訪れたこの部屋は、先ほどまでと変わらぬ様子のままだった。異なるのは、フィリネの疲労度合いだけだ。


 勝利してからこの部屋に運ばれたものの、結局疲れすぎて寝ることもできずにこの部屋でぼーっとしていたのだ。未だ全身が生気を抜かれたように重く、とてもじゃないが横になっていようなどとは思えなかった。




「この部屋にあるものって──食べてもいいんですよね……?」




特に誰かがいるわけではない。それでも、つい口をついて言葉が出てしまう。




「それが勝者の特権じゃ。誰が止められようかの」


「──! ってなんだ。ジショウさんですか」


「嬢ちゃんが疲れておるらしいから少しでもねぎらってやろうと思ったら……その必要はなかったようじゃの」




そう言うジショウは、手に大量の食べ物を持っている。どうやら出場者は食事が無料になる権利を使って大量に買い込んできたらしい。この部屋にはあまり脂っこいものや味の濃いものは置かれていないので、正直に言うと喉から手が出るほど欲しい。




「…………なんじゃ。斬られる直前の小型モンスターみたいな目をし追って……これが欲しいのかの?」


「そういうものの方が手っ取り早くエネルギーになるので……」


「そうかい。まぁ、もともと嬢ちゃんのために持ってきたものだから特に支障はないけどの」




 そう言ったジショウから食料を受け取ると、一番手近にあった、可食魔獣の肉と野菜が生地で挟まれたもの『魔獣サンド』を食べる。


 ジショウもジショウでお腹が空いたのだろうか、ホットスナックをかじっていた。




「──美味しい! なんだか普段のお店で食べるよりも美味しいですね!」


「ホッホ。そうじゃろうて。この店は我のお気に入りじゃ。嬢ちゃんの口には合わんやもしれぬ……とも思ったが、気に入ったようで何よりじゃわい」




 先ほどまで争い合っていた二人とは思えないほど会話が弾む。実査、二人の顔は戦闘時とは打って変わって朗らかだった。




「あっ、そういえばなんですけども」


「なんじゃ? やはりお気に召さんかったか?」


「いえ、そうではなくて」




 少ししょげた顔をして聞いてくるジショウだが、そんな顔をしないでほしい。何やらこっちが悪いことをしている雰囲気になってしまう。




「──わたくしの次に戦ったグループの勝ち残りが誰かって……分かったりしますかね?」


「なんじゃ。そんなことか。それなら知っておるぞ。嬢ちゃんが知っておるかは知らぬが……短剣を構えた幼い少年だったはずじゃ」


「そうですか……ありがとうございます!」




 ジショウがここで追加の情報を出さないという事は、ジショウもこれ以上は知らないのだろう。そう思い、すんなりと話を切り上げる。




「なるほど、そんなやつが……」


「──? どうなさったんですか?」


「いや、嬢ちゃんの決勝戦の相手がの。少々厄介なことになりそうじゃて」


「……と、言いますと?」




 ジショウは、何と説明したものやら……と言うような顔をしたのち、しばらくしてからフィリネに言葉を返す。




「──どうやら、勝ち残った相手は嬢ちゃんと同じく魔法が使えるようじゃ。しかも、炎を出す魔法を使っておったようじゃ」


「炎を出す魔法、ですか……」




 魔法というのは、術者のイメージと世界に語りかける力によっていかようにでも強くなる。例えば、世界に語りかける力の強い人が土でできたドラゴンを思い浮かべれば、土によって形成されたドラゴンを生み出すことも可能だろう。


 だが、魔法には大まかに三つのランクがある。


 一番簡単な第一種であれば「向上」の力を持ち、程度の差こそあれど、術者の身体能力を向上させるという域から出ることはない。


 炎を生み出す魔術は、第二種の「顕現」によるもので、これを極めることができれば、先ほどのドラゴンのようなものも生み出せる強力な魔法だ。


 しかしその分、世界に語りかけるために必要な体力を多く消費するのだ。




「嬢ちゃんから見て、残った者どもには勝てそうかの?」


「分かりません。──ですが、勝ちたいとは思っていますよ」


「ホッホ。その意気じゃ。我を負かせた嬢ちゃんなら、勝ってもらわにゃ困るぞい」




 ジショウが機嫌よさそうに笑ったところで、会場内にアナウンスが入る。




「お前ら~! もう少ししたら最終試合だ! 出場者にとっては、負ける奴も勝つ奴も、今戦えるのはこれが最後! 賞品目指して頑張ってくれよな! ──あ、そうだ。最後の試合に出るメンバーは特別ルールに関する話があるから俺の元まで来てくれよ!」




 その声で、アナウンスは終わる。




「えっと……そういうわけなんで、行ってきますね?」


「良い良い。むしろ回復の邪魔をしてすまんかったのう」


「そんなことはないですよ。それじゃあ、見ててください。勝ってくるので」


 


 そう言い残して、フィリネは部屋を後にするのだった。

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