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そのパーティ、勇者不在につき  作者: 抹茶味のきび団子
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第七話 フィリネから見える世界

あらすじ フィリネはジショウと一対一の状況に持ち込むが、劣勢になってしまう。

そんな時、フィリネは何かを呟いた──。

「大気よ、我が周囲に集いて、先を見通す礎となれ──」


 そう言ったフィリネに、ジショウは警戒の色をあらわにした。


 見た目に大きな変化はない。先ほどまでと同じように、額にクリスタルのようなものを付けた、ブロンドの髪の女性がいるだけだ。


 ──ただ、言い表すことのできない悪い予感が、ジショウの足を鈍らせる。


「来ないのであれば、こちらから行きますよ」


 未だ加速効果の残っている脚で、フィリネはジショウの元へ駆ける。


「嬢ちゃんや、また同じ手を食うつもりかのう?」


 嫌な予感はするが迎撃しないわけにもいかない。ジショウは一度右に切り払うと、反対方向へ回避したフィリネに向かって二太刀目を浴びせようとする。──が、刀の先に、フィリネの姿はなかった。代わりに上空から、対戦相手の声が聞こえてくる。


「遅いですよ、おじいさん。もう少し早く動かなければ、相手の動きを見切ることなどできません、それとも──もうお年でいらっしゃいますか?」


 皮肉たっぷりに踵落としを見舞うフィリネ。ジショウはなすすべもなく頭頂部に一撃入れられる。


「やはり……先ほどまでの嬢ちゃんとは違うのう……何があった?」


「先生であれば、ご自身で見抜くことが出来ると思いますよ」


 皮肉を交えながらもう一度ジショウの元へ駆けるフィリネに、ジショウはその場で立ち上がって構えを取る。


「嬢ちゃんの言う通り、早い動きは大事じゃが……それを相手に気取られてしまっては、何の意味もないぞい?」


 再びカウンターを狙うジショウに対し、フィリネはためらわず突っ込んでいく。


 フィリネの攻撃を刀でいなし、その反撃を最短距離で行う──かと思いきや、ジショウの刀は一度明後日の方向を斬りつけようとする。


 かと思えば、すぐに向き直ってフィリネの体を切り裂かんとする。


「どうじゃ? 小手先の技ではあるが、戦いのリズムを崩されては避けることも──」


「先生こそ……その動きが相手に伝わってしまっていては、何の意味もない。どころか──隙をさらしただけですよ?」


 揶揄するようなフィリネの声は、今度は背後から聞こえてきた。慌てて後ろを向いたジショウの顔に、フィリネの拳が鈍い音を立てて打ち込まれる。


 体勢を崩されたジショウは、二撃、三撃と続けて攻撃を受けていく。


 そのまま蹴りを叩きこまれ、フィールドの地面に打ち付けられた。


「ごはッ…………」


「おや先生。先ほどまでの教育の勢いはどこへ行ってしまわれたのですか?」


 先ほどと比べ、わずかに息の上がったフィリネが問うが、ジショウにそんなことを気イにする余裕はない。


「嬢ちゃん……何をしたんじゃ? 先刻までと動きが明らかに違うようじゃが」


「先生が生徒から教えを乞うとは……まぁ、それも一興でしょうか」


 丁寧ながらも挑発的なフィリネに、ジショウの顔が思わず強張る。


 そして思い直したかのように頭を振ると──今度はジショウからフィリネの元へと攻めていく。


「これで分からなければ、その時は本当に教えを乞うしかあるまい。……じゃが、この一撃は全力で行かせてもらうぞい」


 ジショウは片手で刀を持ち、重みを一切感じさせない速度で近づいていく。そしてフィリネの目の前に到達して刀を振る。──と同時に、空いた左手で、服の合わせから短刀を取り出した。


 その短刀はあくまで短刀であり、刀と比べてはリーチも威力も劣る。だがしかし、人を斬るには十分なほどの切れ味を有していた。


 その短刀をもって、フィリネの拳によるカウンターを防ぐ。


「我のとっておきじゃ! 本来は使う気などなかったんじゃが……ともあれ、これで嬢ちゃんの得意な近距離にも我は対応できる──!」


「それなら確かに……わたくしの攻撃にも対処できるかもしれませんね。ですがそれは、先生がわたくしの動きを見切ることが出来れば、の話ですが」


 刀を払いきって、短刀は拳に対する盾として使ったことによる衝撃で挙動をずらされている。──それはつまり、この瞬間、ジショウを守るものは存在しないという事であった。


「風よ、我が足に宿りて、彼の者を吹き飛ばす力となれ──!」


 そう呟いたフィリネは、勢いそのままに足を蹴り抜き…………ジショウの体をフィールドの端にまで吹き飛ばした。


 ギリギリのところで意識を保っているジショウが、フェンスに身体を預け、床に座り込みながらも問うてくる。


「ホッホ……。完敗じゃよ。どれ、この出来の悪い生徒に、嬢ちゃん──いや、先生の秘訣を教授してはもらえぬじゃろうか?」


「しょうがないですねぇ……いいですよ。わたくしが途中からあれほどの動きを見せるようになったのは、わたくしの魔法の補助によるものです」


「ふむ……して、その詳細は?」


「本来は秘密なのですが……」


 そう言ってフィリネはジショウの耳元に寄って小声で話し始める。


「──わたくしの魔法によって、わたくし自身の空気を読む力を強化させました。人が動く瞬間の、その直前に起こるわずかな空気振動。それを読み取れるようにすることで、ジショウさんの動きに対処できるようにしたんです」


 本来、そのような微細な揺らぎは、常人には感知することが出来ない。──もちろん、程度が大きく成れば、風圧などとして知覚することは可能だが。


 その動きを読み取ることが出来るようになるまで、フィリネは自身を強化したのだった。


「なるほど。そういうことじゃったか……」


「とはいえ、この技は強化量が大きいので使うとめっちゃくちゃ体力を消耗するんです。本当はすぐにベッドで横になりたいくらい」


「ホッホ。それじゃあ、敗者があまり勝者の手を煩わせてはならんのう」


 そう言うとジショウは、司会に見えるように降参のしるしを送る。


「──ジショウ降参! よってこの試合勝者は……フィリネェェェ!!」


 フィリネのお腹から発された音は、観客の大歓声によってかき消された。

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