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そのパーティ、勇者不在につき  作者: 抹茶味のきび団子
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第六話 相対する三人

 ジショウとリゲウォが争っているところに、フィリネは走りこみながら言う。


「風よ、わが足に集いて地を踏みしめる力となれ──!」


 そう呟いた途端、フィリネの速度が数段上がる。


「「──!」」


 争っていた二人は、声を出すこともなくフィリネから離れる。その際、ジショウが去り際にリゲウォの足を斬った。


「爺さん……やってくれるなぁ」


 斬られた足を軽く押さえながら、リゲウォはそう呟く。ジショウに意識が向いているようでいて、その実フィリネの方にも意識を向けている。


「我は何もしておらんぞ? 刀を振る腕が抑えられんかっただけじゃ」


「なんともまぁ狂気じみたご老人ですね……」


 三者思い思いに言葉を交わすが、それぞれがチャンスを探っている。──ように見えるが……フィリネは内心、それどころではなかった。


『さっきの刀の振り、まったく見えなかった……。あんなものの動きを読み切って先手を取るなんて……』


 一応フィリネは魔法によって自身の能力を底上げすることが出来るが……果たしてそれだけで対処できる相手かは分からない。


 そんな思案を巡らせていると、もう一人の対戦相手であるリゲウォがこちらへ向かってくる。


「──爺さんが倒せねぇならまずは嬢ちゃんからだァ!」


「この状況でわたくしを狙ってきますか……」


 実際その判断はメリットもある。強敵と対峙する際に、余計な相手がいては思考を乱されかねない。それを先に処理しておくというのは負担の軽減につながるだろう。


 ──まぁ、その余計な相手を処理する際に、本命に邪魔をされるという危険性を孕んでもいるのだけれど。


「ホッホ。我が邪魔するか、それとも若者たちに任せてお茶を飲むか、考えものじゃの」


「どうせならそのまま勝利の座もわたくし達に任せてくれると嬉しいのですけれどね……!」


 先ほど付与した魔法のおかげで、回避自体はそれなりに楽にできる。だが、ジショウの行動が読めない以上、リゲウォの攻撃を回避したからといって安心できるわけではなかった。


「嬢ちゃんもそこそこやるクチか……どうだ? 俺と組んでそこの爺さんを倒さねぇか?」


「少々考えたいところですが……それならせめて攻撃の手を止めてから言ってくれませんかねぇ?!」


 回避し続けるフィリネと、共闘を持ちかけてなお攻撃し続けるリゲウォ。──それにマイ湯飲みでお茶を飲んでいるジショウ。戦場の様子は混沌極まっていた。


「共闘しようと言いながら攻撃するってことは、その意思がないってことでいいですよね!?」


 そう言いながらフィリネは、詠唱の時間を稼ぐために距離を取る。


「大地よ、我が眼前に集いて、彼の者から身を守る壁となれ!」


 そう言うフィリネに構わず、リゲウォはフィリネの元へ突進する。──が、リゲウォは自身の体を、謎の固い物質に打ちつける羽目になった。


「いってぇ……なんだぁ? こりゃぁ……」


 リゲウォの目の前には、壁がそびえていた。


 土でできた厚みのない──しかし頑強な壁が、元は何もなかったはずの場所に現れている。


「こんなもんで止めた気かぁ……?」


「──わたくし、戦闘能力はあまり高くないのでこういう策を弄さないと勝てないんです」


 その声は、壁の向こう側から聞こえてきた。リゲウォには壁が邪魔で聞き取れない程度の声で、呟く。


「風よ、我が拳に宿りて、壁を刺し穿つ力となれ!」


「嬢ちゃん。こんな壁すぐに──ゴファッ!」


 瞬間、風がレールガンのように解き放たれた。実際は拳圧による風が放たれただけだが、魔法の効果によって、その威力は先刻フィリネが作った壁を抉り穿つほどの力となっていた。


 そんな風の直撃を食らったリゲウォが立っていられるはずもなく……フェンスに音を立ててぶつかった後、重力に任せて崩れ落ちる。


「……よもや嬢ちゃんがあれほどの力を持っておるとはの……」


「まぁ、乙女のたしなみというやつでしょうか」


「ホッホ。最近のうら若い乙女には困ったものじゃわい。こりゃ昔の世代からの教育が必要かのう」


「教育はいいですけど……お手柔らかにお願いしますね?」


 舌戦を繰り広げた二人は、共に駆けて相手の元へ向かう。フィリネはジショウの左に振る刀の動きを見てから反対方向に回避するが、燕返しを食らってしまう。


「今目に映っていることが全てとは限らんぞ」


「本当に先生のような口調で戦うのですね……」


 できればその口調は止めてほしいところだ。一緒に旅をしていた時の勇者様を思い出してしまう。


「嬢ちゃんにはまだまだ教えたいことがたくさんあるからのう。今のうちに努力すれば、かなり高名な戦士になれるやもしれんぞ?」


「それはなりたいですが──あいにくわたくしには、既に近接格闘術を教えてくれる先生がいるので、さらに教えてもらう必要はありませんよ」


 勇者様はもちろんだが、パーティの拳闘士であるジュークにも教えてもらうこともある。今は勇者様は捕らわれているが、既に間に合っているのも事実だ。


「なるほど。それなら勝手に教えるだけじゃから場悦に我は構わんがのう」


 そう言ってジショウは再び斬りかかってくる。先ほどと同じような動きをしてきたので、今度は回避後の二度目の刃先の動きを読んで後方に避けようとする。──が、今回ジショウが繰り出してきたのは刀による刺突であった。これでは遠のいた距離も意味がない。


 肩に衝撃が走り、肉体を抉るような音と共に鮮血がしぶく。


「二度目は通用せんとでも言いたそうな表情をしておったが──残念ながらと言うべきか、それはこちらも分かっておることじゃよ。


 一度通じたからといって二度連続で同じ手を使うような奴は強者として名を残せんぞ?」


「確かに一理ありますね。では、生徒になった覚えはないですが質問を。──その技が圧倒的に過ぎる場合はどうなのでしょう?」


「ふむ……とはいえその技もいつかは研究され、圧倒的ではなくなる。そうして鍛錬を怠った末に負けた者を、我は幾度となく見てきた」


 ジショウがその言葉を発した瞬間、フィリネの動きが止まり、普段はほとんど見せないニタリとした笑みに変わる。


「ということは……要はその技が初出であればいいんでえすよね?」


 ジショウもその異変に気付いたようで、今まで張っていた空気がよりいっそう──一滴の雫で破れてしまいそうなほどに、張り詰める。


「この技は少しばかり燃費が悪いのですが……ここまで教えてもらった以上、生徒の成長を見せねばなりませんよね」


 ジショウも、観客も、会場にいたすべての存在が、フィリネの一挙手一党則に神経を研ぎ澄ませる。そんな中、フィリネはまるで晴天の草原にでもいるかのような気安さで呟いた。


「大気よ、我が周囲に集いて、先を見通す礎となれ──」

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