第六十話 一回戦
「さぁさぁ、一回戦ではヘレンス、アイシャ、ラゲニダ、コルエの四人が登場だぁ!」
会場に響く声に、フィリネは配布されたパンフレットを開く。
「コルエ……前回は聞かなかった名前ですね。どのような方なのでしょうか」
「おや、対戦相手の調査に余念がないね」
「一応、ですけどね。仲間として、二人の実力は信頼していますし」
フィリネはジュークの方を見ずに告げたのち、ぱらぱらとページをめくり始める。それとほぼ同時に、開戦の合図が鳴り響いた。
「前回は女に後れを取ったが……今回こそ、俺は勝たなきゃいけねぇ! 行くぞ!!」
「「――――!!」」
初動ですさまじい気迫を見せたラゲニダに、アイシャとヘレンスがぬかりなく構える。
――しかし、そこからラゲニダが動くことはなかった。
「う……」
うめき声をあげたかと思うと、力なく倒れ込み、そのまま動かない。その様子に、戦場で戦っていた人はもちろん、観戦に回っていた人も目を丸くした。
ただ一人を除いて。
「ぎゃーぎゃーうるさいんだよ。負けられない理由? とかいうのがあるのは分かるけど、もう少し静かにしてくれないと鼓膜が破れちゃう」
緑色の髪を風に揺らしながら言う女性は、男勝りでありそうな目をしているが、同時に物憂げな雰囲気も纏っている。眠たそうな薄い目が、それをより一層加速させていた。
「……で、あなたたちもやるの?」
目がはっきりと開かれているわけではないが、鋭いまなざしから放たれる質問。しかし二人は全く動じることもなく答える。
「そりゃあねぇ。やらないわけにはいかないでしょうよぉ」
「でも、どうせならこの子の相手は俺にやらせてほしい、準備運動がまだできていないんだ」
二人の答えに少しむっとした様子のコルエは「準備運動の相手になってあげるつもりはないんだけど」と呟く。
まぁ直後に、それを全く意に介さない発言が飛び出たのだが。
「ん~。いいよぉ、譲ってあげても。最後にタイマンで負けた時に言い訳されても面倒だからねぇ……」
ニタニタと笑うアイシャを見てか、露骨に眉をしかめるコルニ。それとは対照的にヘレンスは楽しそうに笑っていた。
「珍しく聞き分けがいいな。そんじゃ、ありがたくいかせてもらうぜ!」
「――うるさっ」
「うるさいねぇ」
「――さてはお前ら味方同士か?!」
◇◇◇
「それで……さっきからずっとページをめくっているようだけど、フィリネは何かわかったかい?」
「ええ……なんでラゲニダが何もされていないように見えたのに倒れたのか、これでようやく合点がいきました」
フィリネはパタン、とパンフレットを閉じ、ジュークの方に向き直る。
「あのコルニという女性、この情報通りであれば……暗器使い、です」




