第4話・あら、よくないこと考えてるわね
「――アンタら、まとめて死になさい」
タコ足の女の後ろの地面から、巨大な何かが飛び出した。
「キャアッ!」
マキはその衝撃で吹き飛ばされ、木に背中を打ちつける。
「――マキ!」
俺はすぐにマキの元へ駆け寄った。
マキの身体を支えながら、突如現れたモンスターへと視線をやる――その見た目は、あの有名なUMAのツチノコに似ていた。
だが、まだ雑誌などで見かけたときのほうが可愛げがある。モンスターは鋭い牙を剥き出し、俺らに向かって咆哮した。
「マキ! 大丈夫か、立てるか!?」
「大丈夫なのです……。っ! それより、勇者様!」
俺はマキの視線の先に目を向けた。いつの間にか、そのモンスターは眼前まで迫ってきており、口を大きく開けていた。
――やばい、このままだと喰われ……!
「リアム、パーンチ!!」
そのとき、リアムが横から入り、モンスターを殴りつけた。モンスターはそのまま地面を転がった。
――危なかった。リアムの助けがなかったら食べられていたかもしれない。
「サンキューな、リアム!」
「Keep up your guard! まだ倒してないぜ!」
モンスターはすぐに身体を起こした。
全然ダメージを受けてないと言わんばかりだ。
「あら、こんなの相手に一発食らわせられるなんて、アンタ中々やるじゃないの。……なら、まずはアンタから片づけさせてもらうわ」
タコ足の女は言うや、力強く手を振った――ツチノコはそれに呼応して、リアムに向かって突っ込んでいく。
「リアム!」
「Don't worry! ユータはマキを!」
俺はリアムの言葉に甘え、マキを抱えてモンスターから距離を取る。
「わ、わたしたちも応戦しないと、リアムさんが!」
「マキは無理するな! ここは俺とリアムでなんとか……」
「ダメなのです! 二人にばかり甘えられないのです!」
「今の衝撃で、身体も痛むだろ。無理はするなって……!」
マキは「わたしもいくのです!」と叫び、俺の腕を払い、強引に降りた。
心配する俺に、マキは力強い笑みを見せる。
「勇者様、大丈夫なのです。実は、さっきのレベルアップで新しい攻撃魔法を覚えたのですよ」
マキは杖を構えた。
「――それに、勇者様がいるから。何があっても大丈夫なのです」
「……マキ」
マキの強い意志を受け、俺も剣を手に取った。
こんなかわいい女の子が、自分から戦うって言ってるんだ。俺がビビって戦わないでどうする。
「いくぞ! リアムに加勢しよう!」
「はいなのです! 勇者様!」
モンスターはリアムに集中している。俺はその隙を狙ってモンスターの背に剣を振り下ろした。
「――ッ!?」
しかし、モンスターの皮膚は柔らかそうな見た目に反して硬く、剣は呆気なく折れてしまった。
「あははは! バカなのかしら。そんなボロい剣がなんの役に立つっていうのよ!」
タコ足の女はこの戦いを楽しんでいるかのように笑った。クソっ、余裕ぶりやがって!
――そうだ。さっきの様子を見るに、このモンスターを操っているのも全部この女だろう。なら、モンスターの操り主であるコイツを叩けば……!
俺は、タコ足の女に向けて、方向転換を図った。
「――あら、よくないこと考えてるわね」
タコ足の女は右腕を大きく凪いだ。
刹那、背後に気配を感じる。振り向けば、モンスターの尾が俺を叩き潰そうと、振り上げているところだった。
「クソっ!」
対抗しようとしたが、その力の差は簡単に埋められるものではなく、俺はそのまま尾に押し潰された。
俺の意識は、そこで途絶えた。