第3話・RPGじゃ、こまめなセーブは鉄則なんだぜ
王宮までの道のりは、やはりそんな簡単なものではなく、変則的にモンスターが立ちはだかった。特段強いモンスターの出現がなかったのが救いだ。
俺とマキは協力して次々と敵を倒していく。
「はぁ。やっと戦い方にも慣れてきたぜ。もうスライムの扱いはバッチリだ!」
「勇者様、剣の扱いがすごく様になってきたのです。こんなに戦ったし、そろそろレベルアップするかもなのですよ」
「レベルアップか……! もしかしたら、新たなスキルとか手に入るのかも」
そんな話をしていたら、また可愛いスライムが現れた。
「よし、これでもくらえ!」
俺はスライムに剣を叩き込んだ。スライムの身体は光となって消え去り、俺の眼前にはリザルト画面が表示され、経験値とゴールドの入手値が示されていた。
そして、ここで。
『LEVEL UP!!』
と、文字が浮かび上がった。
同時に、俺の身体が一瞬キラキラとしたエフェクトに包まれ、消耗していた体力が、元々あったMAX値を上回って回復した。
ついでに、ここでようやく俺にも新しい攻撃スキルが追加されたようだ。これで俺も、すごい攻撃技を繰り出せたりできるんだな……!
「やった! レベルアップだ! なんだかさっきよりも元気いっぱいだぜ!」
「わたしもさっき敵を倒してレベルアップしたのです! わーいなのです!」
マキもぴょんぴょん飛び跳ね、元気さをアピールしていた。か、可愛い……!
しかし一点残念なのは、パーティーを組んだからといって、パーティー内の誰かがモンスターを倒したら、戦っていないメンバーにも同じ経験値がそれぞれもらえる……というシステムではないらしい。あくまで個人が倒した分でしか経験値はもらえないようだ。
「俺が敵をガンガン倒して、マキといっしょにレベルアップ……なんてことも考えていたんだけどな」
ここは俺にまかせな、こんな敵、ササッと倒してやるぜ。もちろん、経験値は山分けさ!
キャー! 勇者様カッコイイのですー!
……なんて未来は、もう訪れないわけだ。
そんなアホな妄想を繰り広げていると、マキはちょっとだけ頬を膨らませて言う。
「何を言ってるのです、勇者様。そんな勇者様に負担はかけられないのです。それに、同じ敵に攻撃をしかけた場合、最後に倒した人関係なく、ちゃんと同じ経験値をもらえるのですよ。要は、バトルに参加したか否かなのです」
だから、いっしょに戦って強くなりましょ、とマキは微笑んだ。
なるほどな。それなら、仮にボス戦がやってきたとしてもみんなちゃんと経験値が貰えるな。
……まあ、できればボス戦とかはスルーしたいけど。
「あ、そうだ」
「? どうしたのです、勇者様?」
突然立ち止まった俺を不思議がるマキ。
俺は、動作を終えると顔を上げた。
「いや、せっかくレベルアップしたなら〈セーブ〉はしとかないとなーって思ってさ。RPGじゃ、こまめなセーブは鉄則なんだぜ」
「そ、そうなのですか……?」
マキは苦笑いだった。
〈セーブ〉もバッチリ完了したことだし、俺たちは、再び王宮に向かって歩き出した。
マキはマップを見ながら、「そろそろ、城下町につくのです。王宮まであと少しなのですよ」と、話す。
「城下町に着いたら、色々武器とか揃えたりもしてみたいのです」
「そうだな。姫さんに会ったあと、買い物しような。……ん? あれは……」
そのとき、前方に人影が見えた――リアムだった。
モンスターと遭遇したらしく、リアムは持ち前の戦闘スキルで、どんどん敵をやっつけていた。
加勢したほうがいいかと思ったが――様子を見ている限り、リアムひとりに任せても大丈夫そうだ。
むしろあの状況、俺らが入るほうが足でまといになりそうだしな。
「相変わらず、すごいなリアムは……。本当、あのとき仲間になりたかったぜ。な、マキ……」
マキを見ると、何やら深刻そうな顔を浮かべていた。
「……マキ、どうしたんだ?」
マキはじっとリアムのほうを見ながら答える。
「何か様子が変なのです。たった数メートル変わっただけで、モンスターの種類が変わりすぎてると思わないです?」
マキに言われて、俺は改めてモンスターを見た。確かに、そのモンスターはオオカミに近い見た目をした獣だったり、剣士の風貌をした骸骨だったり――決して序盤に出てくるような雰囲気の敵ではない。さっきまで俺らが戦っていたスライムとは違うことは、一目瞭然だった。
「『魔獣』に『ゴースト』なのですよ。……わたしたちが今まで出会わなかった相手なのです。なんで、急に城下町手前でこんな……」
マキは不安げにそう言った。
――もしかして、あれこそがエルフちゃんの言ってた、最近出始めた凶悪なモンスターってやつか?
一方、リアムはそんな敵にもめげず、むしろ楽しそうに敵をなぎ倒していく。これなら、強そうな敵だといっても、リアムが全部片づけてくれそうな勢いだ。
「――Last!!」
リアムは声を上げ、最後残った魔獣をやっつけた――そこで、モンスターの出現はやんだ。本当に、ひとりで全部倒しちまったみてぇだ。
「リアム!」
俺たちはリアムの元へと飛び出した。
「Wow! また会ったな、ユータ、マキ!」
リアムは少し傷をおっていたが、まだまだ元気そうだ。
「見てたぜ、あの戦い! すごかったな!」
「あんなのアサゴハン前だぜ!」
ちょっと惜しいというか丁寧な感じになっていたが、それでも凄い。俺には、まだあんな戦いはできそうにない。
「……リアムなら、本当にひとりでやっていけそうだな」
「Of course! 強い男じゃないと、テオドロス様に認めてもらえないからな!」
「お前はホント、テオドロス様ひとすじだな……。ところで、そんな戦ったんなら経験値もかなり入って、レベル上がりまくりじゃないか? 今、なんレベルまでいったんだ?」
「オラはまだレベル3だけど……。Wait……戦い終わったハズ、でも、ケーケンチもらえない……?」
――まだ経験値が入ってないのか? それは、つまり……。
「勇者様!」
俺とリアムはマキの視線の先を見た。
そこには、漆黒のドレスを身にまとい、ウットリと微笑む女性がいた――その身長は、軽く三メートルはあるようにみえるほど、大きな女性だった。
ドレスの裾からは、何やらタコの足のようなものを覗かせている。
一体、コイツは……。
「あらあら。レベルの低いザコかと思ったら。手加減し過ぎちゃったみたい。……って、あら!」
タコ足の女は俺を見て、パッと顔を明るくした。
「こんなところで勇者と出会えるなんて……! 運がいい。寄り道した甲斐があったわ」
タコ足の女は二回手を鳴らして、こう言う。
「――アンタら、まとめて死になさい」