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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第一章・アンノウンダイチ
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第2話・俺たちと、いっしょにパーティーを組もう!

〈Inside Alive Quest〉の世界は、大きく五つのエリアに分かれている。


 この世界の中心地である『中央エリア』。そこから四方向に『北エリア』、『西エリア』、『東エリア』、『南エリア』と、それぞれのフィールドが築かれている。


 俺たちがさっきまでいたのは、西エリア〈アンノウンダイチ〉にある〈紫苑街(シオンガイ)〉と呼ばれる街だ。


「――〈ニードル王国〉の周りは深い森で囲まれているのです。リアムさんは、この先の森の中を走っていったかもなのです。ただ、もうここから先は安全地帯とは言えないのです。……いつ、モンスターとエンカウントしても、おかしくないのです」


〈ニードル王国〉とは、中央エリアの通称だ。

 

 マキは、「早く、リアムさんを追うのです」と言うと、マキの手のひらに光が集中し、それが弾けると同時に、そこに杖が現れた。


「おお、すごいな、それ!」

「〈ITEM〉の装備品欄から選択して、いつでも装備ができるですよ。使わないときは『しまう』って考えたら、パッと消えて〈ITEM〉の中に収納されるのです」


 ほら、ここに『木製の杖』ってテキストが表示されているのです、とマキは自分の〈ITEM〉欄を見せながら、話した。


「なるほど! じゃあ俺の背負ってる剣もそれが……って、やろうとしても上手くいかないな。マキ、どうやってるんだ?」


 メニュー画面を開くときみたいに、頭で想像したらマキのようにできるのかと思ったが……俺の剣は手の中に握られたままで、別に何も変化が起こらなかった。


「おそらく剣は一つのファッションとして認識されていて、自由に仕舞えないのかもなのです。複数持っている場合は、その内の使用する一本だけ出しておいて、それ以外はしまえるとか、そんな感じなのかもしれないのですよ」

「あー……。確かにゲーム内の勇者は、いつも最低一本は剣を背負ってたり、腰に携えたりしてるもんな……。うーん、なんか不便なような……?」


 まあそれはシステム上の問題だし、しょうがない。

 そんなことよりも、今はリアムのあとを追わないと。


「準備はいいか、マキ!」

「はいなのです!」


 俺たちは森の中へ足を踏み入れた。


「……と、忘れるところだった」


 俺は〈SKILL〉を立ち上げ、〈セーブ〉を選択する。

『セーブされました』という文字を確認し、俺は再び歩き出した。


 このゲーム世界に異常が起きている今、何が起こるかわからない。

 モンスターとの戦いは、最初に出会ったチンピラ男三人の比じゃないはずだ。


 万が一ゲームオーバーしてしまったときに備えて、〈セーブ〉しておくのが無難だろう。

 今後も忘れず、適度にしていかないとな。……『はじめから』なんてごめんだし。


 森を進んでいくと、何やら騒がしくなってきた。

 何かの呻き声のようなものも聞こえてきたのだ。


 ――まさか、モンスターか!?


「……勇者様」


 マキの表情は怯えていた。

 俺は安心してもらえるように、帽子の上からマキの頭を撫で、笑いかけた。


「大丈夫だ、マキ。何かあったら俺が守ってやるからさ!」


 そう言うと、マキは「はいっ!」と答え、笑顔が戻った。


 俺たちは覚悟を決めて、さらに奥へと進んだ。

 森が開けた先には、スライムがいた。

 ピンク色をした身体に、頭には兎の耳のようなものが生えていて、そのつぶらな瞳はとてもかわいらしい。


 ――なんだ。獣みたいな呻き声が聞こえたから、てっきり魔獣とか、そのへんの怖そうな敵を想像してたぜ。


「呻き声は気のせいだったってわけだ。まあ、冒険の初っ端から出会うのはこうしたスライム……ザコ敵からって決まりだよな。コイツらには悪いけど、俺の経験値になってもらうぜ」


 俺は背中の剣を抜き、構える。


「ゆ、勇者様。大丈夫なのですか? かわいくても、モンスターなのですよ! 油断大敵なのです!」


 余裕綽々でスライムのほうへ行こうとする俺に、マキは心配そうに言った。


「こんな相手、余裕のよっちゃんってやつだよ。まあ、マキはそこで俺の勇姿を見てくれってばよ」


 俺はそう言って、スライムたちに斬りかかった――そのときだった。


「ウグァガァァァッ!!!」


 スライムは途端に雄叫びを上げた。

 かわいらしい見た目も剥がれ落ち、つぶらな瞳は獰猛な獣の目に、愛らしいピンクの身体には、赤い殺気みたいなのをまとい始め、臨戦態勢をみせたのだ。


 スライムの雄叫びは風を巻き起こし、俺は反射的に目を瞑った。さらには風圧で足元が浮き、後ろへとふらつく。


 風が収まったかと目を開け、顔を上げると、さっきまで一体のスライムだったのが、今や数えられないほどの大量のスライムが集合していた。


「いつの間に、こんなに……!?」


 驚く間もなく、スライムたちは俺たちに飛びかかってきた。

 俺はひたすらに剣を振り、引っついてくるスライムを引き剥がす。


「いやぁ! そんなにくっつかないでほしいのです!」


 マキも必死に杖を振り回し、スライムたちをのけようとしている。


 しかし、俺たちの抵抗も虚しく、スライムはどんどんと俺たちにまとわりつき、ついには身体も動かせなくなってしまった。


「離れるのです! どこ触ってるのです!! 助けてほしいのです〜!!」


 マキはいよいよ口を塞がれ、身体全体がスライムで覆われてしまった。


 ――あれじゃあ、マキが窒息死しちまう!


 ゲームの世界で窒息死なんてないのかもしれないが……それでも、マキを助けなくては。なんとかしてマキに手を伸ばすが、スライムに邪魔され、届かない。俺自身の視界も、スライムの大群に覆われていく。


 こうなっては、もうどうにもならない。


 ――そうだ。〈ロード〉して、森に入る前からやり直せば……!


 唯一動く指先を懸命に動かし、俺は操作を進めていった――だが、しかし、そこで初めて気づく。

〈ロード〉をしようとすれば、『戦闘中・操作不可』と文字が表示され、使えないことに。


 ――クソっ、じゃあこのままHP(体力)がゼロになるまで待てっていうのかよ!?


 ここはゲームの世界だ。だけど、五感はしっかりと働いている。押される痛みと圧迫からくる呼吸の苦しさがつづく。ファンタジーの世界をフルで体験できるのはうれしいけれど、こういうときは本当にいらない機能だ。


 俺が早くゲームオーバーになれば、セーブポイントに戻ることができる。早く俺が倒れれば、マキもスライムから解放されるはずだ。


 自分の体力ゲージを見たが、ジリジリとゆっくり減るばかりで、まだまだゲームオーバーまて時間がかかりそうだ。


 ――クソっ……クソっ! 今だって、マキが苦しんでるっていうのに……!


 マキの言うとおりだ。俺がスライムだからと呑気に油断していたから……!


 俺は、後悔と不甲斐なさに、強く下唇を噛んだ。


「――I am here!!」


 絶望に打ちひしがれたそのときだった。

 刹那、視界が開け、突風が吹き込んだ。

 ゆっくりと目を開けると、そこにはスライムを地面に叩きつけるリアムの姿があった。


「リアム!」

「リアムさん!」


 リアムの拳を受けたスライムは、光の粒子となって消えていった。


 攻撃された仲間に気づいてか、スライムたちは次々と標的をリアムに移し、襲い始めた。しかし、リアムはそんな襲撃を諸共せず、スライムの大群を返り討ちにしていく。その動きには無駄がなく、的確に拳や蹴りを決めていき、スライムはどんどんの数を減らしていった。


 やがて、残りわずかとなったスライムたちは、リアムを恐れたのか、一斉に逃げていった。


 ようやくスライムから解放され、俺たちはすぐにリアムの元へ駆け寄った。

 リアムのおかげで、俺たちはなんとか一命を取り留めたのだ。


「感謝しかねぇぜ、リアム! お前すげぇよ!」

「ありがとうなのです! とっても強かったのです!」


 リアムは「That's not a big deal」と前置きして、こう聞いてきた。


「ユータたちはここでなにしてたんだ? ユータたちも、王宮へ行くのか?」


 俺は頷く。


「王宮に行けば、俺たちを閉じ込めやがったAIについて何か手がかりが掴めるかもしれないと思ってな」

「エーアイ? 何の話だ?」


 リアムは首を傾げている。俺とマキは一度顔を見合わせてから、リアムにこう質問する。


「リアムはさ、もしかして、まだゲームに閉じ込められたこと知らないのか?」


 リアムはますます首を傾げている。


「ゲームの……この世界の権限がAIに奪われてしまって、ログアウトができなくなってしまったのですよ」


 リアムはメニュー画面を開いた。今になって事態を知ったのか、目を丸くしていた。


「Oh my gosh!! こりゃあ、一大事ってやつだよな!?」


 ……いやいや、今更かよ。


「リアムは聞いてなかったのかよ。《紫苑街(シオンガイ)》で聞こえた天の声をさ」

「Hmm……ギルドいて、外、サワガシイなーとは思ってた。そんなことより、オラはテオドロス様に会うほうが重要だからな!」

「…………」


 リアムはテオドロス様しか目がないんだな……。


「まあ出れないなら出れないで、俺はテオドロス様に会えればそれでいいんだ! 急いで王宮に行かないと!」


 そう言って、リアムはさっさと行こうとするので、俺は「待て! リアム!」と呼び止めた。


「リアム。王宮へ入るには事前許可がいるんだ。お前みたいなやつがズカズカ入ろうものなら、衛兵に捕まって地下牢行きだぞ」

「Thank you」


 リアムは俺の忠告も聞き流し、先へ行こうとするので、「あと、それと!」と、慌てて、また引き止めた。


 若干めんどうくさそうな顔をするリアムに対して、俺は右手を差し出す。


 さっきのスライムとの戦い――戦いとも呼ぶには忍びないかもしれないけど――で、気づいた。俺たちには、戦力が圧倒的に足りない。


 この先、確実にモンスターなどの敵に出会うことだろう。そんな時、俺たち二人だけでは到底乗り越えることはできなくなってくる。

 もし、リアムという、すでに基礎戦闘能力の高い〈プレイヤー〉がパーティーにいれば、こんなに心強いことはない。


 ギルドで出会ったあのとき、俺たちのことを『仲間』と言ってくれたリアムだ。きっと、パーティーに誘えば参加してくれるはずだ。


 ……だから。


「――リアム。俺たちと、いっしょにパーティーを組もう!」


 リアムは差し出された手を握ることなく、右手を高らかに上げると、


「ムリ! Good bye!!」


 と言って、アッサリとその場を去ろうとする。

 

 ――あれ?


「待て待て待て! 無理ってなんだよ! 無理って!」


 リアムは嫌々ながらに足を止め、振り向く。


「オラはこの先ひとりで行く。テオドロス様にお近づきになるのは、このオラって決まってるからな! エーヘーなんていうのも、ゼンブ吹っ飛ばしてやる!」

「いやいやいや! ダメだって! それにさ、この先ひとりだと厳しいこともあるかもしれないだろ? だから、ここは俺らと協力して……」


 リアムは小さくため息をつくと、こう言う。


「オラは強いから、誰の手も借りずにいける。よわよわユータたちとパーティー組んでも、イミない!」


 リアムはそう言い残していってしまった。


「よ……よわよわ………。面と向かって言われると、心抉られるぜ……」

「ゆ、勇者様、元気出すのです! わたしたちはまだレベル1なのです、弱くて当たり前なのです!」

「マキ……。俺が不甲斐ないばかりに……ごめんな」


 マキは微笑んで、「全然気にすることないのですよ」と言ってくれた。


 俺のせいでスライムに襲われたのに、怒りもせず、笑顔で包み込んでくれるマキは、まさしく天使そのものだった。


「……マキ〜! マキだけは、俺といっしょのパーティーでいような!」

「そんなの、もちろんなのです! ずっと、ずっといっしょにいるのです! ……って、勇者様! 変なお触り厳禁なのですっ!!」


 と、頭に杖が振り下ろされた――ふむ。調子に乗って抱きつくのも、ほどほどにしよう。


 頭のてっぺんがまだジンジンする。まあそれはいいとして。


 リアムを仲間にできなかったのは残念だが、こうなってしまっては、慎重に先へ進むほかない。


 俺たちは王宮を目指し、再び歩き出した。

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