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【完結済】神風勇太はたった一人の勇者となる  作者: みおゆ
第一章・アンノウンダイチ
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第1話・We are friends of this world!

 勇者としての意気込みを言ったはいいが、何から始めたらいいのか皆目見当がつかなかった。


 この世界のどこかにゲームの権限を握るAIがいるというが、それはつまり元々この世界いる住人――〈NPC〉だったり、〈モンスター〉だったりってことか? 

 ……いや、キャラクターではなく、もはや()()っていう可能性もあるな。なんか巨大なボックスみたいなのが、黒幕! ……みたいな。


 考えたくはないが、外部の人間という可能性もある。そうであったなら、ゲームの中にいる俺らはどうすることも……。


 ――『今度こそ、この世界に終止符を打って』


 天の声が言っていた、あの言葉の意味はなんなのだろう。()()()()って……。そもそも、あの声の正体もわからないままだし……。


「勇者様。とりあえずギルドへ行ってみるのはどうですか?」


 マキに提案され、俺の意識は外側に向けられる。


「今は何もわからないですが……だいたいこういうゲームは、ギルドに行けば何かしら物語は進むものなのです! だから、試しに行ってみませんか?」


 マキの言うことは一理ある。考えるだけじゃ何も始まらない。とにかく、今は行動あるのみだ。


「ああ、行こう!」


 そして、俺たちはギルドの扉を開けた。


「だーかーらー! オラは、プリンセスを救いに来たんだ!!」


 ギルドに入って早々、何やら揉め事が起きていた。


 ギルドの窓口で文句を言っているのは、随分とガタイのいい男だった。身長は二メートル近くはありそうな、大きな人だ。ノースリーブの柔道着みたいな格好をしていて、そこから剥き出す腕の筋肉が隆々として浮き上がっている。その風貌まさしく――〈格闘家〉といったところだろうか。


 一方、窓口に立つエルフの女性はすっかり困り顔で怯えている。そりゃあ、あんな大男に至近距離で詰め寄られていては、萎縮もしてしまうものだろう。


 ――どんな事情かは知らないが、ここは俺が間に入るしかない。


 俺は男の肩に手をかけた。


「おい、お姉さん困ってるだろ! 一回、落ち着――」

「What!!?」

「いえ! なんでもありません!!」


 物凄い剣幕に圧され、豆腐メンタルの俺は反射的に引き下がってしまった。


「勇者様……かっこ悪いのです」


 ぐぬぬ……マキにそんなこと言われるなんて情けなさ過ぎる……。


 俺は気を取り直して、もう一度男に声をかけた。


「あの! すみません!!」

「なんだ!? Boy!!」


 男は首をぐるりとこちらに向けた。

 は、迫力すげぇ〜……。

 西洋風のガッチリとした顔立ちということもあって、ますます俺みたいなもやし男は縮こまってしまう。


「……えっと……その、お姉さん、困ってますから。もう少し落ち着いて話しましょうよ。何があったんです?」


 俺は宥めるように、恐る恐るそう言うと、男はやっとこの状況に気づいたようで、ガハハハと大きな声で笑った。


「いや〜Sorryね! オラ、怖がらせるつもりはなかった。すこーし、ほかの人より声がデカいってやつだ!」


 ――少しデカいってレベルじゃねぇ……。


 そうは思ったが、口には出さなかった。


「Well……あー、オラはリアム。リアム・グリーン。このゲームをプレイするためにアメリカからきたんだ」


 男はそう名乗った。


 顔立ちはそうだし、喋り方が独特だとは思っていたけれど……そうか、アメリカ人だったのか。……って、このゲームのためにわざわざ日本に来たのか!? すごい行動力だな。


 ……まあとりあえずそれは置いておいて。名乗られたら、名乗り返すのが礼儀だ。


「リアム……さんですか。俺はユータ。で、こっちがマキ」

「ユータにマキだな! よろしく!」


 男は気さくに笑った。

 最初はとんでもない奴かと思ったけど、意外といい奴っぽい。


「言っとくけど、ユータ、マキ。FriendlyでOKだぜ! Cause we are friends of this world!」


 男はそう言って、俺の肩を子気味よく叩いた。


「えっと……?」

「勇者様。同じ仲間なんだから畏まることないと伝えているのですよ」

「なるほど。マキは英語わかるんだな、すごいな! 俺はサッパリだからさ」

「何度も聞いて覚えたのです!」


 俺が褒めるとマキはうれしそうに笑った。


「じゃあ、改めて聞くけどよ、リアム。一体、さっきは何に怒ってたんだ?」


 俺は聞くと、リアムは「怒ってたわけじゃないけど……」と説明する。


「ギルドでクエストしようと思ったんだ。ホレた女に会うために! だけど、それがまだないって言うんだ!」


 んん? どういうことだ? 話が見えない。


「そもそも惚れた女って……?」

「きっと、さっきも言ってたプリンセスのことなのですよ」


 マキの言葉にリアムは「そうだ!」と頷いた。


「この世界を治めるプリンセス、テオドロス様だ! オラはその方に会うためにJapanにきたというのに……!」


 あー、あのテオドロス姫か。そういや発売前のゲームCMでも、看板娘としてしょっちゅう映ってたな。

 その美貌にファンは心奪われ、特に一部のマニアの人たちにはテオドロス姫を中心に盛り上がったりしていたな。


「ギルドでクエストを受け、テオドロス様に会おうとしたらこれだ! クエストで、テオドロス様はないと言うんだ!」


 リアムはキッと、受付のエルフの子を睨んだ。さっきのこともあってか、その人はまた肩をビクッと揺らし、こう言う。


「……で、ですから! 王宮からはまだ何もギルドに要請をしていないので、そもそもクエスト自体がないんですっ!」


 エルフちゃんの悲痛な叫びだった。きっと何度も説明していたんだろう。


「もしそんなに会いたければ、〈ニードル王国〉に行けば会えます。ただし、テオドロス様に会うには――」

「〈ニードル王国〉だな! わかった!!」


 リアムはそれを聞くや、すぐに走って、ギルド飛び出してしまった。


「ああ、ちょっと! それには、事前に王宮の許可が……! ……って、もう行ってしまいました」


 エルフちゃんは深くため息をついた。


「アイツ……人の話を最後まで聞かないんだな」


 呟いて、俺はエルフちゃんのほうを見た。


「あの、大丈夫ですか?」

「わたしは大丈夫ですよ。……ただ、あの方が心配です」


 エルフちゃんは扉のほうを見つめ、話す。


「王宮の許可もなく勝手に入ろうとしたら、もちろん衛兵に止められます。そこでまたプリンセスに会わせろなんて言い出すものなら、容赦なく地下牢に閉じ込められてしまうでしょう」


 その可能性は十分にありそうだ。あの調子じゃ、衛兵の言葉に耳を傾けず、テオドロス様に会いたいと叫び、止められようとも王宮に入ろうとしそうだ。

 そんな不審者を、衛兵たちは捕まえるに決まっている。


「――……それに、この《紫苑街(シオンガイ)》を出てから、王宮までの道には、モンスターが出るんです。見たところ、あの方はまだ戦ったことのない新参者……。王宮手前の城下町エリアから、モンスターは出なくなりますが、まずそこまで辿り着けるか……」


 エルフちゃんの顔が曇る。


「今までは凶悪なモンスターなんて出なかったのに。最近は、魔王復活によりこの世界の平和が脅かされているんです。もう、迂闊に街の外へは出られません」


 なるほどな……。その『魔王復活』ってのは、元々あったこのゲームの世界の設定……ってことなのかな?


「……勇者様。魔王なんて本来いなかったはずなのです」


 そんなふうに納得しかけたとき、マキはそう横入りしてきた。


「そんなの、ゲームの説明では見なかったのですよ。もしそんな設定があるなら、公表しているはずなのです。このゲームの雰囲気とも少し違いますし……」


 マキの話を聞いて、頷ける部分は確かにあった。


 このゲームは『ファンタジー世界を楽しむ』ゲーム。

 特定のフィールドにはモンスターが出て、バトルを楽しむというシステムはもちろんあったが……背景に魔王という大きな存在は、発売前情報には載っていなかった。

 そもそも、平和が脅かされている世界……そんな物騒な世界観ではなかったはずなのだ。


 俺らの認識と、この世界における現状に微妙なズレがある気がする。


「魔王復活とこの世界の権限を握るAI……何か関係がありそうなのです」


 マキの言葉に、俺は強く頷いた。


 こうしちゃいられない。今すぐ、リアムを追わなくては。

 もし、桁違いのモンスターと出会ってしまったら、それこそリアムはあっという間にゲームオーバーだ。


「リアムを追おう。そんで、俺たちも王宮へ行こう。この世界を統べる王様なら、何か知っているかもしれない」


 マキは、「もちろんなのです!」と答えた。


「じゃ、お騒がせしました! 俺たちもリアムの元に…そんで王宮へ行きます。モンスターのことも、全部任せてください!」


 俺がそう言うと、エルフちゃんは安堵の笑みを浮かべた。


 扉を開けると、「待って!」とエルフちゃんに呼び止められた。

 振り向くと、エルフちゃんはまるで俺に希望を託すかのよつな眼差しで見つめていた。


「――ここで、密かに応援しております……勇者!」


 ――勇者。


 聞く度に、なんて役を任されちまったんだって思う。

 でも、こうやって人々の希望を背負うのは、応援を貰えるのは、不思議と悪い気はしなかった。


 それは温かくて、自分を強くしてくれる。……なんてな。


 俺はエルフちゃんに大きく手を振って、マキとともにギルドをあとにした。

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