第漆話 災厄の黒幕 後編
「鼠を残してどうすんだよ。愛花、怪我はないか?」
「隆人…、助けに来てくれたんだね! 私は、平気よ。でも彼には、気を付けて!! ただ者ではない気がする」
そこに現れたのは、陽仁だ。見張りをしていた影を瞬殺で終わらしたのだ。俊太は、微笑む。拍手が部屋中に鳴り響く。そっとしゃがみ、俺の耳に一言、呟く隆人。直後に陽仁は、俊太に向かって斬りかかっていく。その間に俺が、愛花を救出へと向かう。
(俺は、奴を引き付ける。その間に愛人を救えよ、悠斗)
愛人は、余計だ。調子乗ってるのか、陽仁は。これで愛花を救え…
「君のお友達、手強かったけど凄く遊べたよ。感謝する」
陽仁は、既に倒れてる。まだ、愛花のところにたどり着いたばかりだぞ!? 陽仁さえ、敵わない奴なのか。背筋を凍るような寒さが急激に襲う。背中に激痛が走り、立てない状況に。
「彼女を救いたければ、流星新月を渡せ。素直に渡せば誰一人、危害を加えずそのまま立ち去ろう」
……出来ない。形見でもある刀を差し出すなんて出来ない。愛花を救えなくていいのか。刀を渡さなくていいのか。どっちだ、どっちが正しい? ふざけんな、どっちも不正解だよ。素直に渡すしか、
「貴方に忠誠を誓います。だから悠斗には、もう手出しをしないでください」
涙声で喋りきった愛花。守れなかった俺に涙を溢す資格は、あるのか。心に問い詰めても涙が溢れてしまい、限界だった。俊太は、陽気に笑う。
「ふ、ふっははは!! 影の絶対的支配者である私に忠誠を誓うとは。お前は、彼女に命乞いしたな」
「アルカディア様、準備が整いました」
真下に魔方陣が浮かび消えていくなか、愛花は悠斗を優しく抱きしめ、一言呟いた。
「必ず助けに来て。いつでも待ってるから、だから死なないで。大好きだよ」
最後にとびきりの笑顔で去る愛花。抱きしめられた手を強く握り、地面を思い切り殴った。罅が入るほど殴り続けること数時間。真っ赤に染まった血のついた手をふらつかせ、声が枯れるまで叫んだ。
「“あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ”!!!!」
絶望的に満ちた世界で俺は覚悟を決めた。アルカディア、覚えておけ。貴様等に殲滅という名の祝福をくれてやろう。