第壱話 影と零
「悠斗、逃げて!!」
俺の背中を突き飛ばしたのは母さんだった。振り返っても奴は、母さんを残さず食いちぎる。後悔、絶望、恐怖、殺意と複数の感情が混ざり泣くことしか出来なかった。
責めて、母さんが残してくれた時間を無駄にしないよう必死に生き延びるしかない。戻るな、戻るな。例え、戻っても残酷な光景をあえて蘇るだけ。
それでも……
父さんの形見である刀を強く握りしめ、家に戻った。玄関は、ぼろぼろに壊れ至るところに血が飛び散ってる。吐き気がさらに俺を苦しめた。その時だった。先程まで生きていた母さんが手を差し伸べたのだ。
生きて、たのか。良かった…本当に、
まだ気付いてなかった。母さんの擬態をした奴と知らずに。
「だから、一つだけ望み聞いて……死んで」
俺の背後に鋭い爪が襲う。このままだと逃げ切れない。でも、足が硬直して動けない。一体どうすれば…
「そこまでだ、影」
そこに現れたのは、刀を持った男女。気に食わなかった奴は、彼らを襲いかかる。見事に二手に分かれた。女は俺の救助に向かい、男は奴の相手になった。
「チッ。お前らも道連れだァァァ」
強い舌打ちを鳴らし先程より更に鋭い爪を立て男に斬り込む。間一髪交わしきれたがバランスを崩してしまう。足が勝手に動き見知らず人を助けようとすかさず持っていた鞘から刀を抜く。
「やめろ! 素人のお前が下手すれば殺されるんだぞ!? さっさと…」
「相変わらず物騒な町だな、ここは」
刀を抜いたと同時に俺の意識が途切れた。刀から溢れる凄まじい力が感じられる。さらに、髪の毛や瞳の色が変わり唖然とする男達。影と呼ばれた魔物は、汗が止まらず後退りになりかけた。気付けば影の背後に立ち、刀身を見せる。
「貴様……まさか!?」
影の言葉は、誰も聞こえず掻き消された。刀を鞘へ戻し入れるとゆっくり、倒れていく。気絶と分かり二人は悠斗を連れ、ある場所へ連れていったのである。