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第零話 影の存在
影。それは、人間の足元に付く形。また、光線に妨げられた暗い部分のこと。そして、時は明治。裕福に暮らす庶民達にとってはかけがえのない時間であった。
だが、その一夜で全てが逆転する……
「ん? こんな夜な夜な時間に客か? 全く礼儀知らずの者が」
「開けや…開かんかったら私が開けるや」
ある旅館にて夜な夜な時間に客が来るだろうか。男は何も気にせず戸を開けた。外を見渡しても静かな風景に変わり一つもしない。気のせい、と思い振り返ると影から現れる黒い怪物。
「な、何…」
言う隙も与えず男の顔面と腹に深い傷を負わせ再び、消える。男は、よろめくが最後の力を振り絞り名一杯鈴を鳴らした。いち早く鈴の音に駆けつけたのは、警官。だが来た時点で襲われた痕跡は何一つ残されてない。一方、近くの搬送先に運ばれたが間もなく死亡が確認された。
「警部!! 驚くことに誰も目撃者がおりません」
「何だって、そんな馬鹿な!?」
そして、裕福だった時間も次々と一夜で奪われてしまう始末に。またしても奴は、ある家族を主食に向かっていた。