元JKの伝説の一ページ
遅くなりました!
黒竜の目は、獲物を見る目ではない。しかし表向きは、油断しきった目。
口を三日月に歪めながら書来執実がその拳を振る。首に向かって振られた拳はしかし、頑丈な鱗によって阻まれた。それを見て、少し空気を緩めた黒竜。
「その油断が、命取りになるんですよ。ふふっ」
連続で容赦なく拳を振る。その拳の一つが喉元に当たった時、少し黒竜が怯む。竜にあると言われる逆鱗というものだ。それを見つけた執見は、そこを狙うのをやめる。
彼女は長年のヲタク経験で分かっていた。弱点は、所謂“激情ポイント”であることが多いと。
途中でまるで邪魔だとでも言うように伊達眼鏡を放り投げる。一瞬そこに意識が行く黒竜。その一瞬の隙を見逃さず、彼女は拳を入れる。
―――――ポタリ。
一瞬の静寂に響く音。まるで何か液体が落ちるような音に、黒竜は認識する。自身に傷が入ったのだと。
油断などしていなかった。しかし傷を入れられた。こいつは、強い。それを認識した瞬間、黒竜はもう一度哭く。
「GRERAAAAAAA!」
先程とは違い、人間という弱者の中でありながら自身と渡り合える強者に出会ったことへの、歓喜で。また、自身を鼓舞するため。
「闘いの場で心を動かしてはいけませんよ。それは、只の隙です」
その歓喜も隙ととらえる彼女は、やはり口を三日月形に歪めている。
さて、実を言っておくと、黒竜と執見の間には恐ろしいほどのレベル差がある。しかし執見は黒竜と渡り合えている。それは何故か?彼女は昔、こう言っていたという。
「力で敵わないのなら、技術で補えばいいのですよ。簡単なことでしょう。もし技術でも劣っている場合?そんなの死を覚悟するほかないでしょう」
黒竜は圧倒的強者だ。しかし執見は、常に生と死の狭間にいた。自身は女だから、男に力は及ばない。しかし、技術はいくらでも極める事が出来る。
そんな単純で、しかし極意とでもいうべきことを、執見はわずか齢5歳にして導き出したのだ。彼女が戦うときは、常に死を覚悟しなければならない。それ以外は、彼女にとってはすべて“遊び”だ。
生死をかけた戦いを何度も行ってきた彼女にとって、力に任せた行動など、技術の無いものなど、何の意味もなさない。
「ふ、ふふふ、くくっ」
ああ、しかしここまでの強者と戦ったことは無いのだろう。または異世界に心がぴょんぴょんしているのか。思わずといった様子で出ている笑いを、止めようとはせずに、むしろずっと黒竜を見つめている。
ふと、一瞬。執見と黒竜の目が合った。その顔に、黒竜は思わず戦慄した。
瞳孔は完全に開かれ、その瞳は黒竜の一挙一動ですら吸収し、分析しようとしている。口は薄い三日月を描き、髪は汗で張り付き、ぼさぼさになっている。しかし本来の美しさは全く失われず、むしろ神秘的、煽情的にすら見える。
「もっと遊びましょう?黒竜さん」
この言葉が発せられた時、彼女の美しさは跳ね上がり、それを見た者の反応は大抵2種に分かれる。
ある者は戦慄し、恐れ戦いてその戦いを放棄する。またある者は気が狂ったように彼女に向かっていく。前者は強者、相手のおよその力を分かる者。後者は弱者、覚悟の出来ていないもの。
しかし黒竜はどちらでもなかった。相手の力が分かるこそ、そいつと戦いたいと思う。そんな戦闘狂だったのだ。
しかしそのような黒竜でも思わずといった様子で尻尾を叩きつけるといった反応しかできなかった。
「なっ!?」
しかし彼女には有効だったらしい。予想していなかった攻撃に、一瞬硬直してしまう。
ズドン、と。叩きつけられ、彼女は沈んだ。
黒竜はもう終わりなのか、とでも言いたげに尻尾をどかし、そこを見つめる。そして、ゆっくりと去っていこうとした。
「ふっ、ふふっ、ふはっ、ふはははははっ!」
しかし、声が聞こえた。狂ったように笑う、彼女の声が。
「黒竜さん、死体の確認もせずに去っていくなんて、愚の極みですよ?」
黒竜は驚いたようにそちらを見る。彼女は全身から血を流しているが、立っている。その、両の足で。
あんなに血まみれで立つ人間なんて、今までいなかったんだろう。そりゃあ出血多量で死ぬだろうから。
「ですが私は運命を改変する者。死んでいなければ、この程度の怪我、何ともありません」
そして先程、私は死なないように私の運命を改変しました。
そう言い狂ったように笑う彼女は、やはり異常なのだろう。
「GRUA?」
先程まで乱れていた息はもう正常に戻っている。目は爛々と輝き、流れている血ですら彼女が最初からその姿であったかのような錯覚を覚えさせる。
そしてまた、猛攻が開始される。
先程とは威力、速さともに段違いだ。右手で突いたと思えば黒竜に血が流れ、いつの間にか左足が別の場所を蹴っている。
黒竜も吐息や魔法で応戦しているが、彼女はそれを意にも介さない。黒竜だけを見つめ、手を振り払って簡単に消してしまう。
もしその姿を見た者がいたのなら、彼女のことをこう呼ぶだろう―――武神、と。
実は、彼女はほぼ無意識下で魔法を使っていた。正しくは魔力を練っていた、というべきか。
体内で魔力を練り、それを魔力と合わせ体外に放出するのが魔法の原理だ。では、魔力を体外に放出せず、体内に留めればどうなるのだろうか。
答えは、身体能力が格段に上がる、である。俗に身体強化魔法と呼ばれるものだ。
彼女は魔力の扱い方を知らないにもかかわらず、一流の冒険者が使えるか使えないかの魔法をいとも簡単に使って見せたのである。まさに天才、末恐ろしい。
さて、些か脱線したが、話を戻そう。
黒竜は自信のあった己の炎を容易く消し去った彼女に驚き、さらに力を込める。
しかし、その溜める時間は、執見にとっては大きな隙になる。完全に開ききった瞳孔が、それを捉えた刹那。黒竜の視線から、彼女が、消えた。
例えるならば、空間跳躍だろうか。
一瞬で飛び上がり、黒竜の真上まで行った彼女は。
踵を大きく上げ。
そのまま、重力に逆らわず。
落ちた。
凡そ50メートルからの踵落とし。魔力の練られた身体。
その威力は、本来なら生身で蹴れば自身の骨が折れるような黒竜の頸を切るまでに達していた。
ズドンっ!と本来なら聞こえる筈もない音がして、地面に穴が開き、黒竜は絶命した。
首を断ち切られるという、有り得る筈のなかった方法で。
◇◆◇◆◇
「ふぅ...ふふっ」
彼女の笑いは収まらない。
あの、感覚。黒竜の首の肉を、骨を、断ち切ったときの、感触。その感覚を忘れられぬように、手を開いたり、握ったり。ずっと繰り返している。
「(私はここまで戦闘狂だったんですね。転移する前、道場破りをしていた時はそうでもなかったのですが...これも異世界にきてリミッターが外れたからでしょうか?)まあいいです。とりあえずステータスを確認しますか」
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NAME:書来執実〈編集可能〉
RACE:人<進化可能>〈編集可能〉 RANK1 Lv.984
JOB:執筆者 Lv.984
HP:99999999↑/99999999↑
MP:∞
STR:98300
VIT:97950
INT:98010
DEX:99000
AGI:97890
LUK:1000
STP:1546229
SKP:1546319
SKILL
執筆Lv.1 狂化
編集Lv.1
投稿
取得経験値100倍
必要経験値1/100
完全記憶
魅了Lv.1
強奪Lv.1
偽装Lv.MAX<進化可能>
強欲
竜の威圧Lv.58
TITLE
異世界からの転移者
勇者
運命を改変する者
天才
美少女
黒の悪魔
戦闘狂
竜殺し
強欲
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ステータスポイントとスキルポイントは...1桁で1、10~19で2、それ以降Lv.99まではLV.10たつごとに2倍されていく。そしてLV.100からは100ごとに倍々になる、という法則性がある。
あの黒竜が持っていたスキル...強欲は地球で言う七つの大罪の一つ。つまり、このほかに六つの大罪スキルがあることになる。そしてこの対になるスキル...七つの美徳のスキルもあるのだ。
それに気づいた彼女の当面の目標はそれらを全て集めることになったようだ。
そして、ひとつ気になるのが、RANK...ランクの欄である。人族は一律でランク1、そして<進化可能>の文字...進化すればランクが上がる。
彼女はそれの真偽を疑問に思っているようだが、世界はその法則により回っているといっても過言ではない。その憶測は大正解だ。
彼女はどうやら、最初にはなかったランクの乱を、進化して変わるかどうか試してみることにしたようだ。