元JKの追放
「成功です!」
「さすがは姫様!」
「いえ、そんなたいしたことではないです」
光が消えたとき、そんな声が聞こえた。そろり、そろりとゆっくりと目を開けるものが出てくるが、真っ先に目を開けたのは彼女だった。しかし其処は明らかに日本では無い王城だった。
やはりこれは異世界召喚だったか。まあ、こうくるとする事は決まっているよね。ヲタクだもんね。強く念じて...
ステータス!
――――――――――
NAME:書来執実〈編集可能〉
RACE:人〈編集可能〉 Lv.1
JOB:執筆者 Lv.1
HP:300/300
MP:5000/5000
STR:400
VIT:380
INT:500
DEX:500
AGI:670
LUK:1000
STP:0
SKP:1000
SKILL
執筆Lv.1
編集LV.1
投稿
取得経験値100倍
必要経験値1/100
完全記憶
魅了Lv.1
TITLE
異世界からの転移者
勇者
運命を改変する者
天才
美少女
紅の里
黒の悪魔
――――――――――
まあまあなステータスではないのだろうか?少々魔法型のようだ。
「皆さん、目が覚めましたか。では、ようこそ勇者様方。私の名前はサリア・クルトレッド。このクルトレッド王国の第1王女です」
「わしはクルトレッド王国が国王、ガルンダ・クルトレッドじゃ。早速だが、貴殿ら勇者様には魔王を討伐してもらいたいのじゃ」
に、しても紅の里か。間違ってはいない。というか彼女はステータスに夢中になって国王の話なんか聞いていない。彼女は大体つかめているからいいのだろうが。
「クルトレッド王国?」
「そんなのきいたことないぞ!」
「つまりこれはもしや、あれか!?」
「「「「「異世界召喚だぁ!」」」」」
そりゃぁこれ見て異世界じゃないと思わない人は居ないでしょうとも。というかこれ、クラスにヲタクが多かったから彼女が不気味悪がられなかったのでは...?あ、眼鏡があった。一人だけ周りとは違い、伊達眼鏡をつける執実。
まあ、ここで拉致だ!なんて叫んだら皆に悪い。そんなことする勇者はいないだろう。しかし、やはりそういう人間は一定数居るものらしい。
「おい!なんだこれ!ただの拉致じゃねえか!元の世界に返せ!」
「そうだそうだ!」
そんなことを何人かが言っている。主にクラスカースト中位に存在する者たちだ。やはり日本のほうが居心地が良さそうなのだろう。
「すまないが魔王を倒してもらうまで元の世界に返すことはできない」
「では、皆様にステータスの見せ方をお教えします。心の中でも、口に出しても構いませんので、ステータスオープンと唱えてください」
その反応に、執実は「黒、ですね...」と呟いている。
ステータスオープン。幾人かがそれを唱え、それに続くように先程声をあげた者たちも渋々と唱える。すると、全員に見えるようにステータスが表示され、執実は「なるほど、これは...」とまたもや呟いている。そして一度ステータス画面を消し、いそいそと何かをいじり始めた。
どうやらSKPを使って、何かスキルを取るようだ。彼女がとったスキルは、《偽装》。詳細は...
スキル《偽装》
自身のステータス、スキルを偽装する。なおこのスキルレベル以上の《看破》《鑑定》スキルがあれば見破られる。
勿論わざわざステータスオープンと言わせているからには《看破》や《鑑定》のスキル持ちは居ないのだろう、という考えからだ。手早くステータス、スキルを隠し《偽装》も隠す。これは怪しまれることは無いだろう。彼女の小柄な体躯は他の者に隠れてしまっている。
そして彼女の番。
「ふむ?貴女...おかしいですわね。これでは他の勇者たちに付いて行く事などできません。生活に最低必要なお金を渡すので、出ていってほしいのですが」
ドストライクでそう言われる。彼女が窺うようにチラリと後ろを見ると...
流と鏡也は呆れたように溜息をついている。創華は...ぷくーっと頬をふくらませ、彼女のほうを睨んでいる。まあ、彼女が何をしたいかなど、すぐにわかるよね。特に幼馴染や、彼女の親しい友人なら。
と、創華が彼女のほうに歩きだす。それをじっと見つめる執実。
「執実!あんたみたいな自己中、私は大嫌いなんだからね!」
執実の前まで歩くと、びしっと指をさしそう言う。執実が珍しく驚いていると、
「嫌いだから...最後に嫌がらせをしてあげる!ねえ姫様。ここら辺で1番危険な場所はどこ?」
「死の森ですよ」
姫がそう言うと、創華は執実をそこに送るように頼む。それを軽く承諾する姫。それを見て、少し考えこんでいる様子の執実。
「執実!貴女には死の森に行ってもらうからね!決定事項よ!」
その言葉に、はっとしたように答える。だがその瞳の色は全く変わらない。姫に対する猜疑心。その色をうまく隠し、執実は最後となるであろう言葉を放つ。
「ええ、わかりましたよ、創華。ですが、やられっぱなしじゃ気が済みません。だからこれは、私からの最初で最後の嫌がらせです」
姫が転移の魔法を編んでいるのだろう。彼女の体が光に包まれていく。
彼女は眼鏡をはずし、自分をさらけ出す。
―――――《編集》―――――
彼女はそう言うと笑った。まるで可憐な花が咲くように。大輪の、とてもとても美しい花が咲くような、今迄誰も見たことのない顔で。
「さようなら―――創華。最初に渡されるものは装備しちゃだめだよ。絶対、絶対またいつか、会おうね。これは約束だよ。次に会ったら、また―――」
笑い合おうね、と。目を丸くする創華。流、鏡也。最後の言葉は、誰にも届くことなく、光に溶けて行った。