怒れる七面鳥
11月の第四木曜日の2週間前。七面鳥界のマッドサイエンティストと呼ばれているポーキーはある知らせを受け取っていた。その知らせは以下の通り。「親愛なる七面鳥界のマッドサイエンティスト ポーキー 今年の恩赦を君と妻のジェンティルに与える。当日は正装の上、ホワイトハウスに来賓されたし。 君の友 アメリカ合衆国大統領 ロナルド クランプ」ポーキーは、その書面を人語判読変換器を通して判読した。ポーキーはワイルド ターキーをボトルからラッパで呷りボトルを叩き付けるようにテーブルにドンと置いた。そして言った。「何が恩赦を与えるだ。ふざけるなってえんだ。俺ら七面鳥が一体どんな罪を犯したっていうんだ。恩赦ってのは犯罪者に与えるものなんじゃねえのか?大体、与える?何、上から目線で言っていやがるんだ。完全に尊大語じゃねえか。俺は昔から思っていたんだ。アスリートなんかが感動を与えられるように頑張ります。勇気を与えられるように頑張ります。与えるってお前らは与えてやる側の人間を同格の人間と見なしてないから与えるなんて言葉が使えるんじゃねえのか。世界記録出そうがメダルを獲ろうがそんな言葉を使う奴に何が感動出来るってえんだ。これは、俺のうがった見方かもしんねえけどな。そもそも感動ってもんは与えられるもんじゃなくて自分がどう感じてどのように動けばこの世は素晴らしい世界になるかってなもんじゃねえのか?感じただけで何も動かなかったらそんなもん感動じゃねえよ。口だけじゃなくて行動で示さなくちゃな。給与?給わる?与える?大体、働いて貰って当たり前の金を与える?おいおい、お馬鹿な経営者と役員の方達よ。社員が働いてくれるからあんたらの懐が潤っているんじゃねえのか?こんな恩赦なんかクソ喰らえだ。大体、俺はターキーなのに何故故にポーキーなんだ、教えてくれ、ジェンティル」ジェンティルがヒステリックに言った「そんな事あたしが知っている筈ないじゃないの。あんたのパパとママに聞いてちょうだい」ポーキーは全米七面鳥組合セブン フェイス バードの組合長ルーキーに猛り狂ったこの思いを伝書鳩に伝えて飛ばした。同じ鳥同士。以外と言葉は通じるもんだなとポーキーは思った。ルーキーから返信の伝書鳩が飛んで来た。「ポーキー、君の言っている事は尤もだ。今度の抗議集会で君の論をぶって欲しい。ところで、わしはセブン フェイス バードの組合長をかれこれ8年やっておるのじゃがいつまでルーキーと呼ばれなければならんのじゃろう」ポーキーは快くこの誘いを快諾した。そして、ルーキーにこう助言した。「俺には何とも言えないが、あんたが改名したければそれでいいんじゃねえのかい」2日後、マディソン スクエア ガーデン
で全米から約130万羽の七面鳥が集まって抗議集会が始まった。ポーキーが壇上にたって言った。「今日、集まってくれた同胞達よ、ありがとう。まず、俺が言いたいのは、何がサンクスギビング デイだってえんだ。何がターキー でいだってえんだって事だ。人間どもは家族や友人達と祝日を楽しく過ごしてんだろうがよ、俺らの家族や友人、同胞達はその数日前から大量虐殺されちまって、パック詰めになっちまって、スーパーの店頭に目玉商品として並んでいるっていうこの悲しい現状。俺ら七面鳥が一体、人間どもに何をしたっていうんだ?そもそも、人間どもは自己の生存のみを目的として食物連鎖を操り、資源を枯渇させ、大量の使われなくなった廃棄物を産出し、自然を破壊し、地球という惑星が使い物にならなくなっちまったら宇宙にまで進出して生き延びロウとしていやがる。大体、てめえらが、やれコロナウィルスだ、新型インフルエンザだ、癌だの何だの有らゆる疾患に対してワクチンだの新薬だのを開発して助かろうとしていやがるのに、鳥インフルエンザや豚コレラだの病気にかかった家畜は全て殺処分だ。臭い物には蓋、新薬を開発出来ねえ無能な俺らには死ねってか。何が自然との共存だ。何が生物との共存だ。何が人種を超えた共存だ。追求しているのは自己の利益のみじゃねえか。これの何が共存共栄だっていうんだ。人間どもの利己的で排他的なこの腐った性根に今こそ俺らが物言う時が来たんじゃねえのかい?そうだろう、同胞達よ」ポーキーのこの熱弁に集まった七面鳥達はスタンディングオベーションで喝采を浴びせた。この抗議集会を鳥語判読変換器を使って取材していたニューヨーク タイムズの記者ベンジャミン グッドマンは心を揺さぶられた。ニューヨーク タイムズに掲載された記事は以下の通り。「もう直ぐやって来るターキー デイ。それに合わせて全米七面鳥組合セブン フェイス バードがマディソン スクエア ガーデンで大規模な抗議集会を行った。そんな中、七面鳥界のマッドサイエンティストと呼ばれていて、今年の恩赦に選ばれているにも関わらずそれを辞退したポーキー氏が我々人間社会に警鐘を高々と打ち鳴らす素晴らしいスピーチを行った。彼の発言は以下の通り。『今日、集まってくれた同胞達よ、ありがとう。まず、俺が言いたいのは、何がサンクスギビング デイだってえんだ。何がターキー でいだってえんだって事だ。人間どもは家族や友人達と祝日を楽しく過ごしてんだろうがよ、俺らの家族や友人、同胞達はその数日前から大量虐殺されちまって、パック詰めになっちまって、スーパーの店頭に目玉商品として並んでいるっていうこの悲しい現状。俺ら七面鳥が一体、人間どもに何をしたっていうんだ?そもそも、人間どもは自己の生存のみを目的として食物連鎖を操り、資源を枯渇させ、大量の使われなくなった廃棄物を産出し、自然を破壊し、地球という惑星が使い物にならなくなっちまったら宇宙にまで進出して生き延びロウとしていやがる。大体、てめえらが、やれコロナウィルスだ、新型インフルエンザだ、癌だの何だの有らゆる疾患に対してワクチンだの新薬だのを開発して助かろうとしていやがるのに、鳥インフルエンザや豚コレラだの病気にかかった家畜は全て殺処分だ。臭い物には蓋、新薬を開発出来ねえ無能な俺らには死ねってか。何が自然との共存だ。何が生物との共存だ。何が人種を超えた共存だ。追求しているのは自己の利益のみじゃねえか。これの何が共存共栄だっていうんだ。人間どもの利己的で排他的なこの腐った性根に今こそ俺らが物言う時が来たんじゃねえのかい?そうだろう、同胞達よ』我々、人間はこのポーキー氏の魂の叫びを一聴衆者としてどうすればより良い社会になるか?今、立ち止まって考える時が来たのではないだろうか。私個人としてはU2の88年リリース“魂の叫び”よりも魂を揺さぶられた素晴らしいスピーチだったと感じている。 ベンジャミン グッドマン」このグッドマンの記事は、人語判読変換器を介して牛、豚、鶏などの家畜として生育された動物から形成された全米家畜として生まれて悲運の末路を辿る悲しき敗者連盟や野生の熊、鹿、猪、動物愛護団体、そして過激な報復で知られるシンシェパードと多くの動物と人間、ベジタリアン、草食動物の間で反響を呼んだ。これらの動物や人間がポーキーの放った言葉に賛同しサンクスギビング デイの1週間前にホワイトハウスの前で大規模なデモを行った。ポーキーが先導して言う。「人間は家畜を殺すなー。ナチスのホロコーストには審判を下しても俺らは見て見ぬ振りかー。俺らにも生存権があるぞー。動物性タンパク質を補給するなー。タンパク質は大豆で補えー。人間は育てた穀物と野菜のみで生存しろー。野草も食べられるぞー。ベジタリアンになれば疾病の発症率を抑制出来て長生き出来るぞー。iPhoneのモデルチェンジはそんなに頻繁に必要なのかー。車は全て軽自動車のハイブリッドにしてそれ以外の車は生産するなー。車は購入したら11年は乗り続けろー。政治家に何故高級車の公用車が必要なのかー。VIP待遇クソ喰らえー。一歩譲ってカローラまでだー。特権階級なんかクソ喰らえー。エアコンなんて必要ねえー。俺ら動物は灼熱の炎天下でも凍てついた冬空の下でも裸一貫だー。デスバレーでは54度を超え文字通り死の峡谷と化す日もあるぞー。自国の利益ばかり優先して貿易摩擦を激化させるなー。宗教観の争いはやめろー。戦争反対ー。育毛剤は必要なのかー。何故、老化を防止しようと美容やエステに走るのかー。自然の摂理に抗うなー。人間の欲望に果ては無いのかー」ポーキーの言葉を連呼するデモに参加した動物と人間達。このデモ行進にはエディ マーフィーも参加していた。その様相はドクター ドリトル2で動物達が繰り広げたストライキさながらであった。事の重大性を重んじた大統領補佐官兼報道官のゲイリー マクナリーはデモを先導しているポーキーに特使を送った。その書面は以下の通り。「我が親友なるポーキー 君と内密に話したい事がある。大統領執務室まで隠密に来て欲しい。 君の友 アメリカ合衆国大統領 ロナルド クランプ」ポーキーは、この特使に応じシークレットサービスに付き添われ執務室に入っていった。部屋に入るとクランプ大統領はYMCAのリズムに合わせて踊っていた。互いに人語判読変換器と鳥語判読変換器を取り出し交渉に入った。先にクランプが口火を切った。「幾らだ?幾らで手を引く?お望みの額で切ってやる。どうせ、これは税金からの支出になるんだからな」クランプは悪びれもせずににたりと笑って言った。ポーキーは嘲笑って悲しげな視線をクランプに投げ掛けた。「金の問題じゃねえよ、おっさん」クランプが性懲りも無く言った。「それなら、わしの特別参謀の役職で手を打たんか?動物界からは初のホワイトハウス入りだぞ」ポーキーは冷ややかな眼差しをクランプに向けて言った。「おっさん、あんたの下で働く気なんてサラサラねえよ。俺が今日ここに来たのは家畜を殺生するなって事を伝えに来たんだ」クランプはいつもの挑発的な態度で言ってきた。「そんな子どもみたいな事を言っても国民はあんたらを食いたがっているんだ。私の一存では何とも言えんな」ポーキーが翼をすくめて言った。「それなら交渉決裂だな、おっさん」クランプは苦渋に満ちた表情で言った。「それなら、クローン家畜はどうだ?」ポーキーは顔の前でチッチッチと指を振って言った。「あばよ、おっさん」クランプが捨て台詞を吐く。「それなら武力行使だ。血の雨が降るぞ。いいか、覚えておけ」戻って交渉決裂を同胞達に伝えるポーキー。怒り狂ったデモ参加者はその場で脱糞しその糞をホワイトハウスに皆で投げつけた。この日を境に大統領官邸はブラウンハウスと呼ばれるようになり、家畜達は人間の口に運ばれまいと水銀や砒素などを服用し尊厳死の道を選んだ。これはポーキーの最期の言葉だ。「人間どもの糞になって捻り出される結末よりも七面鳥としてのプライドを抱えて俺はあの世に逝っちまった方が俺らしいな」
セブン フェイス バードは、ルー大柴氏を意識してみた WWW