出会い Side・アイリス
アイリス・ベルガー
レーヴェ帝國軍上等兵。まだ軍歴も浅い新参者。
見た目も声も可愛らしい美少女だが、男である。
気が小さく、自分にあまり自信がなく、さらに自分の容姿にコンプレックスを抱えている。
だが、剣の腕は凄腕で身体能力もかなりのもの。
自分に自信がないと言う割にいざ、剣で戦う時は一切の迷いもなく剣を振るえるため、戦いにおいては頼りになる。
軍に入った理由は気弱な自分を叩き直すためである。
ヴェルトラン大佐らと別れ、ディートリヒ少佐について行くボク。
最初はラーク君のために服を買いに洋服屋に寄りました。
『こんなのどうかな~?』
「これがいいのではありませんか?」
「こ、これはどうでしょうか?」
「……これはどうかな?」
ラーク君に似合いそうな服をあれこれと選んでいるボク達。
すると。
『あ、この服も買うか』
少佐が取ったのは女の子が着そうなフリルのワンピースでした。
「それ……女の子向けの服では?」
『ああ、これベルガー君に』
「ええっ!?」
『あははは、冗談だよ、冗談♪』
「ひ、ひどいですよ、少佐……」
確かにボクのこの容姿といい、この声といい、ボクも本当に男なのかと自分でも疑ってしまうことがあります……。
おまけに気が弱いし、自信もない、小心者なボクだし……。
そんな自分を変えるためにレーヴェ帝國軍に志願したのに、いまだにこの有様なのです……。
ボクの唯一の取柄は一族から伝わる剣の技だけ。
ボクの剣の技は帝國よりはるか東の東和国の剣技であり、ボクの一族は先祖代々から皆受け継いでいるのです。
元々ボク達の一族は帝國内の山脈にある集落住んでいます。
主に狩猟を生業としてずっと生活していました。
しかし、ルスラン王国の越境侵犯、そしてレーヴェ帝國の戦線布告。
当然、王国軍の魔の手はすぐにこの集落まで伸びてきました……が、一族皆の力で撃退しました。
その後も幾度か襲撃を受けるもこれら全てを返り討ちにし、そのうち王国からの攻撃が止みました。
ボクが軍に入るまでずっと襲撃を受けず、集落はとりあえず落ち着きました。
で、そんなボクはというと……。
実はボクは一族の長の長男で、次期長と決められていました……が、ボクの性格上、そんなもの務められる自信は全くありませんでした。
それに下の妹や上の姉さんにボクの性格や見た目でバカにされる始末……。
ボクはそんな自分を変えるべく、帝國軍に入ろうと、長であるお父様に頼みました。
お父様はこれをすんなり了承してくれました。
どうやら、お父様も今のボクに長を継ぐのは少し不安だったそうです……ひどい話です。
そして、集落を離れ、帝都に赴き、軍に志願しました。
まあ、そこでもボクの容姿やこんな性格で同僚や先輩兵士にからかわれたり、邪険に扱われたり、挙句戦いに出されなかったりと、嫌なことばかりでした……。
そして、今の部隊から逃げるように隠れて、一人でうずくまっていた所をたまたま通りかかったヴェルトラン大佐に声をかけられ、そのまま大佐と共について行くことにしました。
大佐が率いる分隊の隊員はどれも個性揃いしたけど、皆さんいい人ばかりです(やっぱり容姿でいじられるのはちょくちょくありますけど)。
彼らや……ボクのことをなにかと気にかけてくれるヴェルトラン大佐のためなら、ボクは剣を振るえると、そう思えました。
……で現在に至るわけです。
まさか異世界へ飛ばされるなんて思いもしませんでした……。
ボク達はこのままどうなってしまうんでしょうか……。
よ、弱気になっちゃだめだ!
た、大佐がきっと何とかしてくれる。
そのためにボクは大佐や皆さんの剣となり、力にならないと……だけどいろいろ不安になってしまいます……。
洋服屋の次は武器屋に寄りました。
本当ならボク達にはボク達の世界の武器があるからいい……のですが、現在銃火器に必要な弾薬を補充する手段がこの世界にないのです。
幸い、ボクやヴェルトラン大佐、アイケ中佐、ディートリヒ少佐は接近戦もできますし、ペスト少尉は魔法があります。
問題はビットリヒ軍曹、ハイドリヒ軍曹、カルテンブルンナー軍曹ことカルさんの三人。
双子軍曹は銃火器があれば十分と言って聞かないそうで、少佐からはすでに放っておかれてます……。
まあ、あのお二方の性格はちょっとあれですけど、息を合わせればとても強い方達です。
ただ、カルさんの場合は掃討にうってつけの火力のある貴重な機関銃をうっかり壊されたりしたらシャレにならないから、あの人だけは絶対に代わりの武器が必要ですね。
それにしてもこの世界の剣や槍とかの武器は元の世界と同じようなものばかりですね。
この世界にもボクが持っているこの刀の武器は存在しているのだろうか……。
集落で使っていた時の剣は刀ではなくどこにでもありそうな普通の剣でした。
集落にも刀はありましたけど、あれは代々長が使う名刀であり、この世に一本しかありません。
軍に入った時は同じような刀があって驚きました。
この武器を使ったときのしっくりした感じは今でも忘れられなかったです。
この世界にもきっと刀があるはず……。
万が一、この軍刀が折れてしまったら他の剣を使えばいい話なのですが……。
『何か欲しい剣でもありますかね?』
「しょ、少佐。いえ、特には……。でも万が一ボクが使っているこの剣が使えなくなったら、大佐達のお役に立てなくなりますので、せめて予備にもう一本この刀と似たような武器があればと……」
『別にそこら辺にある普通の剣とかでもよくね?』
「でもボクはこの軍刀以外の剣はどうも違和感があって……」
この刀に馴染んでしまったせいか、他の剣を使うと思うように剣が振れないのです。
何故なんでしょう……。
他にも戦闘手段があるとすれば一応アイケ中佐仕込みの格闘技も使えます。
あの時は……ホントに死ぬかと思いました。
中佐の鬼のような訓練にボクは幾度も悲鳴をあげました……。
大佐や少佐は軍人になる前から中佐にかなり鍛えられたとか……。
他の方達も中佐の格闘訓練を受けたそうで、軍曹三人のうち、ビットリヒ軍曹、ハイドリヒ軍曹の二人は死にかけて、カルさんはタフで頑丈なので平気だったそうです。
ちなみにペスト少尉だけは転移魔法で何度も逃走するため、諦めたそうです……。
皆に格闘訓練を行わせた理由は……中佐曰く、万が一武器がなくなったら戦えないなんて言わせないとのことです。
まあ、確かにその通りです。
何も抵抗しないでただ死ぬだけなのはボクも嫌ですから。
ちなみに拳銃も保険として持っています……が、あまり使う場面がないうえ、かなり下手くそです。
『それだったらとりあえず、店員さんに聞いてみれば?』
「そ、そうですね。そうします」
ボクはそう言って、丁度近くに店員を見つけたのでそこへ駆けだしました。
「あ、あのぉ……すみません」
「はい、どうなさいましたか?」
丁寧に対応したのは女性の店員でした。
「あら? 見かけない恰好した子ね。どんな武器をお探しかな?」
「あ、はい! えっと……」
ボクは軍刀を店員さんに見せました。
「これは……随分と珍しい武器をお持ちですね。確か刀……という東方の国の武器でしょうか?」
「え、あ、はい。そうです」
曖昧に答えてしまうボク。
「そ、それじゃあ、これと同じ武器があるのですか!?」
「え、ええ。ただ……」
「ただ?」
「その東方の国はですね……あろうことか魔族と同盟している敵国なんですよ」
「そ、そうなんですか」
「そうなのです。私達人間は魔族を滅ぼさんと各国と同盟組んでまで戦っているのに、魔族と手を組むなんて非人道的なことです」
「そ、そうなんですねぇ……」
ボク達の世界でも帝國と魔族達で同盟を組んじゃっているうえに王国と戦争中なんですよね……。
「というわけで、この武器は向こうに行かない限り無理ですし、あの国に行ったら、軍に捕まってしまいますよ。補修とかもあの国以外では無理だと思いますよ」
「そ、そうですか……」
かなりショックなことを聞かされたボクは心の中でがっくりとうなだれました。
「ちなみに……どこでそれを手に入れたのですか?」
「え!? あ……その……実家の倉庫に埋まってたのをたまたま見つけまして……」
適当に誤魔化すボク。
「ふーん。でも今のうちに予備で別の武器を用意しておいた方がいいかも」
「だ、大丈夫です。ありがとうございました」
ボクは逃げるようにその場を後にしました。
買い物を終えて、武器屋を出たボク達。
武器屋で買った物は、少佐は予備用のナイフを二刀。
カルさんは巨大戦斧です。
巨大戦斧はかなりの値段だったそうですけどカルさんは気にしていないでしょうね……。
『そういえばどうでしたか、ベルガー君』
「あ、はい、ここからはるか東の方にこの軍刀と同じ武器があるそうですけど……どうやらあそこは魔族の領域なので行くのは止めておけと言われました」
『そうか~。まあ、どうせいつかは立ち寄るかもしれないけど、それまでせいぜいその愛刀折れないよう祈るしかありませんね~』
軍から支給された、ただの軍刀ですけどね。
しかも三本目です。
「そ、そうですね。気をつけます」
確かに、気をつけないといけませんね。
今の軍刀を失ったら替えがもうないのですから……。
しばらく歩くと、後ろから馬車が走る音が聞こえた。
『あ、馬車が来ますよ~』
少佐の声かけにボク達は道の端へよりました。
走り行く馬車はとても大きく、馬車の周りには強そうな護衛の人が幾人かいました。
それにしてもいったい何を運んで――。
「……!?」
ボクはあの馬車の中身を見てしまいました。
馬車の背後から手枷と足枷を着けられた獣人やエルフ達が……。
どうやらあの馬車は奴隷商の馬車のようです。
「…………」
ボクは刀の柄を握っていた。
カルさんものんびりしてそうな表情をしていながらも、腕にものすごい力が込みあがっており、少佐にいたってはものすごい殺意が放たれていました。
今すぐにでも彼らを助けないと――
「駄目ですよ、少佐」
『!?』
少尉が少佐を止めました。
「皆さんも落ち着きなさい。気持ちはわからなくもありませんが、今はダメですよ」
「な、なんで止めるのですか? こんなヒドイ事、ボク見過ごせませんよ……」
「それはわたくしも同じです。ですがここはルスラン王国ではありません。それどころかここは異世界です。ちょっとでも面倒でも起こしたらどうなるかわかっていますの?」
『じゃあ、あんたはあいつらを見捨てるってのか?』
「……まったく、変な所で血の気が多くていけませんわね。もう少しやりようが……!?」
突然、言葉を止める少尉。
「皆さんちょっとよろしいでしょうか?」
『?』
ボク達は少尉に裏路地まで連れていかれました。
『どうしたんですか、いったい』
「現在、何者かが我らの屋敷に向かっているのを探知しましたわ」
『え、マジ!?』
少尉のサーチソナーという魔法で範囲内に誰かが入ると少尉に探知されるそうです。
これは少尉が自ら編み出した魔法だそうです。
「まさか、オルティア様とか?」
「申し訳ありませんが誰が来るかまではわかっておりません」
『到着予定は?』
「十五分後」
『なら、今すぐテレパスで大佐をここまで呼んで――』
「いえ、ここで少佐を拠点まで転移させて、応対してもらいますわ」
『え、なんで?』
「先程大佐を捕捉しましたが、ちょっと面倒な事になっているようですので、副官であるあなたに行ってもらいますよ」
『えっ?』
少尉はそう言って指をパチンっと鳴らすと、少佐の足元に魔法陣が浮かび上がった。
『マジですか~』
面倒臭そうに言う少佐。
「あ、少佐」
『なんです、カルさん』
「これ」
カルさんは少佐に荷物を渡した。
ああ、どうせ戻るならついでにというわけですね。
「それでは、よろしくお願いいたしますわね、少佐」
少尉がそう言って、指をパチンと鳴らすと、魔法陣が強く光り出した。
そして、少佐は魔法陣と共に一瞬で消えてしまいました。
「……さて、ベルガー君」
「な、なんでしょうか?」
「あなたはカルさんと一緒に大佐と合流してください。わたくしはちょっと野暮用を済ませますので。大佐にもわたくしは野暮用でと伝えておいてくださいね」
「え、え、え!?」
「お二人だけでも大佐と合流するだけなら問題ないでしょうけど、カルさんとはぐれないよう、しっかり連れて行くのですよ」
「そ、そんな!? 階級が下のボクがそんなことを――」
「カルさんはそんなこと気にしませんわよ。それじゃあ、よろしくお願いしますわね」
そう言って、少尉は指をパチンと鳴らした。
「ちょっ――」
ボクは声をあげるも少尉は一瞬で消えてしまったのであった。
「……………………」
口をポカンと開けながら呆然とするボク。
「……とりあえず行こう?」
「…………はい」
「あと」
「なんですか?」
「うちは自分の階級云々に関してはあまり気にしてないから」
「……なんかすみません」
「お気にせず」
大佐を探しに街を歩くボクとカルさん。
ボク達はいろんなお店が出ている所を歩いています。
そのせいかでものすごい人だかりです。
「あ、あの、カルさん。はぐれないように気を付けてくださいね」
「うん」
ところが――。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい!! たった今仕入れたばかりの新鮮な卵が入ったよーーー!!」
「え?」
ボクはその声に反応し、後ろを振り向いた次の瞬間……。
「!?」
突如、人の波がこちらに押し寄せて来ました。
「ちょ、ま、うわーーーーーー!?」
ボクはあっという間に人の波に流されてしまいました。
「か、カルさぁぁぁぁぁぁん!!」
カルさんと離れ離れになってしまいました……。
「はぁ……はぁ……」
なんとか人の波から脱出したボク。
「ああ、どうしよう……早くカルさんの所に戻らないと……」
ボクは急いでカルさんの元へ戻ろうとしました…………が。
「注目、注目!! 滅多に手に入らない上質な絹が入ったよーーーーーー!!」
「ひええええええええええ!?」
「今からタイムセール始めますよーーーーーーー!!」
「ちょ、ちょっとーーーーーー!?」
「美味しいパンが焼きあがったよーーー!!」
「あああああああああああああああ!?」
次々と宣伝が入る度に人の波に流されるボク。
流されて、流されて、流されて……。
そして。
「……………………」
迷子になりました。
ここはどこなのでしょうか?
もちろんわかりません。
完全に迷子になりました。
「ど、ど、ど、どうしよう…………」
カルさんとははぐれてしまい(というよりボクがはぐれた)、今どこら辺にいるのか全く分からないこの状況……。
地図は一度見たはずだけど……ダメです。思い出せません。
このまま闇雲に歩いても疲れるだけだし……。
「とりあえず誰かに道を尋ねて――」
そんな時だった。
「よう、そこのお嬢ちゃん」
誰かが声をかけてきました。
振り向くと、そこにはガラの悪い男が三人いました。
剣や斧で武装して、身なりは軽装……ここら辺で活動している傭兵でしょうか……。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。迷子かい?」
お嬢ちゃんって……。
「……あの、ボクのことでしょうか?」
「他に誰がいるんだよ、黒髪のお嬢ちゃん」
「なんだか地味な格好してるな」
「だけどめっちゃ可愛いじゃん」
うう……面倒な人達に絡まれました……。
しかも男として見られてない……。
「お困りごとかい、お嬢ちゃん」
「い、いや、あの……」
「オレ達が解決させてやろうか?」
「い、いえ……大丈夫で」
平然と近づいてくる傭兵二人。
さらに……。
「もちろん、タダとはいかねぇけどな」
「!?」
舌なめずりしながらそう言う傭兵に嫌悪したボクはすばやく後ろに下がる。
「いえ……結構です」
ボクは急いでこの場をあとにしようとした。
だが……。
「!?」
後ろからもいつの間にかガラの悪い傭兵が三人現れた。
「へっへっへ。つれねぇこと言うなよ」
「オレ達と楽しいことしようぜ」
「げへへへ……」
ボクはガラの悪い傭兵達に囲まれてしまった……。
周りの住民達はざわめく。
「ねえ、あれって」
「【翠斧】の奴らじゃねえか?」
「あのグループっていつも迷惑ばかりかけてる連中でしょ」
民間人達が見ているこんな往来の場でなんという人達でしょう……。
だけど、彼ら程度なら問題なく切り抜けられる……のですが、ここで問題を起こせば大佐の迷惑になりますし……。
うう……どうしよう……。
「さあ、おとなしくオレ達と一緒に――」
「そこまでだ」
「「「!?」」」
突然、どこからか凛とした女性の声が聞こえた。
声の方へ振り向くと、傭兵達の背後にローブを身にまとい、剣を携え、フードをかぶっている人物がいつの間にかいました。
「ああ? なんだてめぇ?」
「邪魔すんじゃねえぞ、コラ!!」
「痛い目に遭いたくなきゃあっち行けや!!」
傭兵達は謎の人物に高圧的に絡んでくる。
「……低俗な人間風情が」
「ああ? てめぇ今なんて――!?」
突然、謎の人物が真ん中の傭兵の顔面にストレートパンチをかました。
「ブフォ!?」
まともにパンチを顔面に喰らった傭兵は倒れ、鼻を抑えながら悶えていた。
「んあ!?」
「こ、この野郎!!」
別の傭兵が謎の人物に殴りかかろうとした。
ところが、謎の人物は微動だにせず、傭兵の拳を……見事に受け止めた。
「な!?」
そして、拳を受け止めたまま、思い切り腹に蹴りを入れた謎の人物。
「ぐほっ!?」
強く蹴られ倒れた傭兵は腹を抑えたままのたうち回る。
「こ、こいつ……おい、お前ら!! 今すぐあいつをブッ殺せ!!」
リーダー格の傭兵が怒り、他の傭兵に命令を下すと、傭兵は武器を持ち、謎の人物に襲いかかる。
「この野郎!!」
「死にやがれ!!」
一斉に攻撃をしようとする傭兵達。
すると……。
「愚か者が……死ね」
謎の人物は剣を抜くと……一瞬で傭兵達を斬り殺してしまったのであった。
これを見ていた一部の住民達が悲鳴をあげた。
こんな往来の場で斬り殺しちゃうのは流石にやりすぎなのでは……。
「て、てめえ……」
「あとは貴様だけだな」
傭兵リーダーに剣を向ける謎の人物。
「クソ、こうなったら!!」
その時、傭兵リーダーがいきなりボクを盾に取り、ナイフを抜く。
「おい、動くな!! じゃねえとこの嬢ちゃんの命はねえぞ!!」
脅しをかける傭兵リーダー。
でもボクは慌てることなく……傭兵リーダーのみぞにエルボーをかました。
「ぐほっ!?」
そして、すぐに傭兵リーダーから離れるボク。
「こ、このクソガキ!!」
ナイフを投げ捨て、剣を抜いて斬りかかろうとしてきた。
流石のボクも自身の身を守るために刀を素早く抜き、傭兵リーダーの攻撃を防いだ。
「な、こいつ、いつの間に武器を!?」
どうやらボクの顔ぐらいしか見てなかったのか、軍刀まで見てないとは……。
いくらあの双子軍曹だってここまでバカじゃありません。
少佐なら三下以下の雑魚とか言いそうです。
「ち、ちくしょう、ふざけやがって……」
焦りだす傭兵リーダー。
他の傭兵達の半数は謎の人物によって殺され、残り二人もいまだ激痛にのたうち回っていた。
このまま引き下がってくれるとありがたいのですけど……。
その時でした。
「あれぇ、ミミィ。どこ~?」
「え!?」
突然一人の少女がひょっこり現れ、ボクは驚愕する。
傭兵リーダーは少女に目が向く。
いけない!!
「お嬢ちゃん、危ないぞ!!」
一人のおじさんが声をあげた。
「え?」
少女が後ろを振り向くや傭兵リーダーが少女に手を伸ばそうとした。
「!!」
ボクはすぐに刀を後ろに構え、一歩強く踏み出した。
そして、目にも止まらぬ速さで刀を振り上げた。
そして……。
「ギャァァァァァァァ!?」
傭兵リーダーが悲鳴をあげた。
そう、ボクは少女を捕まえようとしたその腕を斬り飛ばしたのです。
少女は傭兵リーダーの悲鳴とボクが目の前にいることに驚き、慌てて逃げ出した。
「お、オレの、オレの腕がぁぁぁぁぁ!?」
腕を斬り飛ばされ、悲鳴をあげる傭兵リーダー。
「あ……」
ああ、やってしまった……。
いくらあの子を守るためとはいえ、思いっきり斬り飛ばしてしまうのはやりすぎてしまいました……。
ここまで騒ぎを大きくしてしまった以上、大佐達の迷惑になるには確実。
きっとこの後、憲兵達がやって来るに違いない。
「そこで何をしてありんすか?」
ああ、来ました。誰か来ましたよ……。
そして現れたのは……魔女!?
妖しく美しく、そして背が高く、恐ろしい魔女……。
さらにその背後には骸骨の仮面を着けた魔女が三人もいました。
「ひっ、あ、あんたは!?」
「ざ、ザクロさん!?」
のたうち回っていた傭兵二人が魔女達を見て青ざめた。
「あらあら、同じギルドの方がなにしてはりますの?」
「い、いや……あの……」
「!!」
腹を蹴られた傭兵は立ち上がって一目散に逃げ出した。
「ちょ、おい、待てよ!!」
顔面殴られた傭兵も後から慌てて逃げ出した。
仮面の魔女達は逃げた傭兵を追いかけようとしたが、リーダーであろう妖艶な魔女がそれを止めるように手を出す。
「よろしいのですか?」
「雑魚に構うことはありまへん。用があるのはあそこで情けなく悲鳴をあげているあの男でありんす。他は捨て置きなんし」
「はい」
なんだか変わった話し方をしています……。
「ああ、チクショウ……オレの……オレの腕が……!?」
腕を斬り落とされたリーダー傭兵は魔女達に気づく。
「てめぇ……ザクロか……!!」
「あんた、前からここいらで他人に迷惑をかけてるようですな。しかもうちら【翠斧】所属の者ときたさかいに」
「お、オレをどうする気だ、このクソッタレイカれ魔女共め!!」
「ギルマスからあんたらをどうにかせえと言われましてな。あんたらみたいな【翠斧】の面汚しを野放しにするわけにはあかんと」
「チクショウ……こんなガキに腕をやられてなければてめぇらなんか」
「…………」
ザクロという魔女がリーダー傭兵に近づき手をクイっと上げると……突然宙に浮く傭兵リーダー。
あれも魔法の一種でしょうか……。
「あんたのような人間にうちらにかなうと思うてか? 寝言は寝て言いなんし」
!?
ザクロが放った言葉に少し寒気がしました。
この人……絶対に只者じゃないです。
「…………」
血の気が引いた傭兵リーダーは何も言わなくなりました。
ザクロさんは手を振り払うと、傭兵リーダーは地面にしりもちを着き、彼は呆然としてしまいました。
そして、ザクロさんはボク達の方に顔を向け、こちらに近づいてきました。
「お二人さん、大丈夫ではったか?」
「は、はい!」
「……問題ない」
「……あら、あんたはんどこかでお会いしましたかな?」
「……気のせいでは?」
互いに見つめ合うザクロさんと謎の人物。
「まあ、ええですわ。で、そこのお嬢さん、お怪我はございやせんか?」
その時、ボクの中で何かがひび割れた音が聞こえました……。
「お嬢……」
うう……やっぱりこの人も男と見られてない……。
「いや、その者……男なのでは?」
「!?」
まさかの謎の人物さんに男と見てもらえてた!!
なんか嬉しいです!!
「ほら、なんか心なしか、その子喜んでるし」
「あらら、これは失礼いたしやした……あら?」
ザクロさんがボクをじっと見つめる。
「あんたはんのその服装、どこかで見たような……」
え!? まさかそんな……。
「ザクロ様、もしかしてこの子の服装、あのヴェルトランという男と共にいた者達の服と同じでは?」
「ああ、そういえば」
「た、大佐を、ヴェルトラン大佐をご存じなのですか!?」
「ええ、先程。その口ぶりですと、あのヴェルトランはんのお仲間ですかな」
「はい。あ、申し遅れました。ボクはベルガーと申します」
「わっちはザクロと言います。で、あんたはんは?」
「……アミーだ」
互いに自己紹介をしているその時でした。
「貴様ら、そこで何をしている!!」
向こうから大きな声と共に誰かが駆け足でこちらに向かって来ました。
足音からして複数の人が向かって来ていました。
「どうやら憲兵達のおでましのようさかい。ヒトミ、このお二方をどこかへ行かせといてくれなんし」
「わかりました。さあ、こちらへ」
「は、はい!」
ボクとアミ―さんはヒトミさんという方の元へ向かいました。
「あ、あのザクロさん、すみません」
「ええよ、気にせんといて。ここはうちらに任せるさかい」
「あ、ありがとうございます」
ボク達はこの場をあとにしました。
なんとか憲兵に見つからずに済んだものの、なんだか疲れてしまいました。
カルさんとはぐれ、道に迷って、挙句に傭兵達に絡まれてあんな騒動起こして……。
「……はぁ」
「大丈夫か、ベルガー」
「え、あ、はい。大丈夫です」
精神的に疲れましたけどね。
「ところで、ここはどこら辺でしょうか?」
「あ、それなら丁度向こうに町の見取り図がありますよ」
早速見取り図が貼ってある掲示板の元へ向かいました。
ようやく現在地がわかり、大佐達との合流地点も見つけました。
これで一安心です……。
「あ、ありがとうございます。これで大佐達と合流できます」
「よかったな」
「はい。それでは、ボクはもう行きますね」
「待て」
突然アミ―さんに呼び止められる。
「途中でまた面倒な輩に絡まれると大変だろう。お前の仲間と合流するまで同行しよう」
「え、い、いいのですか?」
「かまわん。それに……」
「それに?」
アミ―さんはボクに顔を近づけてくる。
「君の剣に興味がある」
フードでずっと顔が見えなかったけど、間近でみてアミ―さんの素顔が見れた。
凛とした顔立ちで綺麗……。
まるで男装の麗人にも見える綺麗な素顔がボクに微笑んでいる。
「…………!! あ……は、はい……」
きゅ、急に顔が熱くなった!?
なんか心臓がドキドキしてる……。
「む、どうした?」
「い、い、いえ、な、なんでも」
ボクは手を振りながら誤魔化す。
「で、君はどうするんだ?」
ザクロさんの部下であるヒトミさんという魔女に問うアミ―さん。
「そうですね。では、私も同行しましょう。万が一他のギルドに絡まれても、私がいれば」
「あのザクロという魔女の部下と見ればそう簡単に手は出さないか。ベルガーはそれで構わないか?」
「は、はい。な、なんかすみません、こんなボクなんかのために……」
「気にするな。さあ、行こうか」
ボクはアミ―さんとヒトミさんと共に大佐達との合流地点に向かって歩いています。
「それにしても、あの時の一撃は見事なものだったな」
ああ、きっとあの傭兵の腕を斬り飛ばした時ですね……。
「あんな一瞬であの傭兵の懐まで入って、目にも止まらぬ斬撃……只者じゃないな?」
顔を近づけてくるアミ―さん。
「……!!」
ま、また顔が熱く……。
「ぼ、ぼ、ボクは一介の兵……普通の剣士にすぎませんよ」
あまり軍人であることは言わない方がいいかなと思い、剣士と言い換えました。
まあ、実際にボクは剣士の一族でもありますけどね。
「ふーん……まあいいけど」
「そ、そういうアミ―さんもすごかったですよ。あんな人数を一瞬で」
「あんな人間ごとに負ける私ではないからな」
「……失礼ですが、その口ぶりからして、も、もしかしてあなたは……人間ではないのですか?」
ボクは恐る恐る聞いてみた。
「……さあ、どうだろうな?」
「…………ゴクリ」
彼女の答えにボクは唾を飲み込んだ。
「逆に聞くが、君ほどの実力ならあの程度の連中、どうということはなかっただろう」
「そ、それは……」
面倒事起こして王国の人達に何か言われたら、大佐の迷惑になるかもしれない……と言いたいけど、あまりボク達のことをペラペラしゃべるのはいけないかなと……。
「…………」
「……何か話せない事情があるなら話さなくてもいい」
「す、すみません」
「別に構わん。ただ、対処できるならなるべく早めに対処しておけ。でないといつか取り返しのつかないことが起きるぞ」
「う……留意します」
アイケさんみたいに手厳しい人ですね。
「そういえば、なんであの連中に絡まれたのですか?」
ヒトミさんが首を傾げて聞いてくる。
「あ、あの……そ、そ、それは……」
ボクは事の経緯を話しました。
「というわけです……はぁ……」
ボクは大きくため息をついた。
「どうした?」
「いえ……やっぱりボクって男には見え
ないのかな……と思いまして……」
さっきの事を思い出したらなんだか憂鬱になってきました……。
「はぁ…………」
ボクはさらに大きくため息をこぼす……。
この世界でもボクはこの容姿であのごろつき傭兵達にお嬢さん呼びされ、ナンパされて……はぁ……。
「……あの、あまり落ち込まないでください、ベルガーさん」
「自分で事情を説明しておいて自ら地雷を踏むとは……なんとも情けない奴だ」
「いいんですよ。ボクはどうせ可愛いお嬢さんなんですよ……」
「…………」
アミ―さんがボクの目の前に回ると、ボクの両頬を両手でパチンと叩いてきました。
「あ、アミ―しゃん!?」
「そんな情けない顔をするな。君は君であろう」
「え……」
「……私もかつて、女っ気がないと言われ、バカにする者は数多くいた。だが、私は気にしなかった。そんなもの、些末なこと気にしていなかったし、そもそも女らしくすることが苦手だったからな、私は」
苦笑しながらそう言うアミ―さん。
「そ、そうだったのですか……」
「君は少し自信なさそうに見えるが、君の剣の腕は中々のものだ。少しは自信を持て、ベルガー」
「は……はい……」
な、なんだろう……。
アミ―さんの凛としたその顔を見ると……ドキドキが止まらなくなる……。
なんとか合流地点に着いたボク達。
そこには大佐達にはぐれてしまったカルさんもいました。
どうやらいち早く合流できたそうです。
「ああ、ようやく着いた。あ、あのありがとうございます! アミ―……さん」
そこには彼女の姿はなかった。
「あ、あれ!? ヒトミさん、アミ―さんは!?」
「あれ? いつの間にかいませんね」
「どこに行っちゃたんだろう……改めてお礼が言いたかったのに……」
「……いつかまた会えますよ」
ヒトミさんはボクの頭を撫でながらやさしい声でそう言いました。
「そ、そうですね……」
「……じゃあ、私も失礼しますね」
「あ、はい。ヒトミさんもありがとうございました」
「いえいえ。それではまた近いうちにまたお会いできれば」
「は、はい!」
……?
それはどういう意味だろう?
……まあいいか。
早く大佐達と合流しなきゃ。
ボクは駆け足で大佐の元へ向かいました。
……アミ―さん。また会えますよね……。