城下町へ Side・ヴェルトラン
ヴェルトラン・シュタイナー
レーヴェ帝國軍大佐。
曲者揃いの分隊をまとめる隊長。
皆みたいに強みになる所がないが、それでも人並みに戦える。
実は転生者であり、元は日本人である。
前世の名は五堂 藍染。
「う……ん……」
目が覚めて起き上がる僕は辺りをきょろきょろと見回した。
「……そういえばここ……異世界でしたっけ?」
思えば軍服のまま寝てしまったな……。
でも替えはないし、ここにある服はディートリヒが言うにはどれもゴージャスな物ばかりであるそうで……。
ラーク君に着せたあの服を思い出すと、他もあれかと思うとずっとこの軍服一着のままでいいやと思う。
そういえば風呂も入ってなかったな……。
とりあえず……朝風呂でも行きますか。
部屋を出ると、ディートリヒが待ち受けていた。
『おはよう、ヴェル♪』
「やあ、おはよう……ふわぁ……」
僕は大きなあくびをした。
『朝からすごいあくびですね~。こんな所、アイケさんに見られたらシバかれますよ~』
「大丈夫ですよ。アイケさんはあの子とぐっすり――」
「あたしがなんだって?」
『!?』
「え?」
グイッ!!
「ぐえっ!?」
背後から何者かが僕の首を腕で羽交い絞めしてきた。
とゆうよりこの声は!?
「おはよう。朝から随分間抜けなあくびをしているな。果て無き戦場から異世界へ飛ばされて浮かれてるのではないのか?」
やっぱりアイケさんだ。
「い、いえ、これはいつものことで。起きたての僕はなにかと弱く――」
『大佐、それを言ったらあかんよ!!』
「あ……」
「ほう、ならばすぐに起きたら即時行動、戦闘ができるように訓練を施してやろうか?」
「ぐえぇぇぇ……」
アイケさんがさらに強く締め上げてくる。
とゆうか、胸当たっている!
柔らかい物が当たっています!
まあ……これは中々良いものですね。
でも、僕の首がそろそろ限界!!
「わ、わかりました! わかりましたから! 次から気をつけますので!!」
「……ふん」
僕はアイケさんの腕から解放され、ヘタレこんだ。
『大丈夫ですか~?』
「はぁ……はぁ……な、なんとか……。と、ところでラーク君は?」
「ん」
アイケさんが顔を後ろへ向けると、アイケさんの背後からひょっこりと現れた。
「おや、おはようございます」
『おはよ~♪』
「…………」
まだちょっと怯え気味のラーク君。
「ほら、あいさつ」
アイケさんはやさしく挨拶を促す。
「お、おはよう……ございます」
ラーク君は恐る恐る挨拶をした。
「よし、えらいぞ」
アイケさんはラーク君の頭をやさしく撫でた。
普段の彼女は不愛想であまり他者を寄せ付けない感じで、弟子である僕とディートリヒにはやたら厳しい。
だが、ベルガーやラーク君のような者対してはなんかやさしいのである。
もしかしてアイケさんって……。
『思えばアイケさんってラーク君やベルガー君とかには案外やさしいよね。は、もしかしてアイケさんってああいう少年がお好みの所謂ショ――』
ガシッ!!
突然アイケさんがディートリヒの顔面をわしづかみした。
あ、あれは……アイアンクローだ!!
「あたしがな・ん・だ・っ・て?」
『す、すみません!! な、なんでもございま……イダダダダダァァァァァ!!??』
アイケさんを怒らせるとは、ほんとバカだなぁ、我が相棒よ……。
『た、助けで大佐ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
『うう……顔が痛い……』
「アイケさんをからかうからですよ。それで何度半殺しの憂き目にあったと思ってるのですか?」
『てへぺろっ♪』
反省してないなこいつ……。
そんなこんなで浴室へ向かう僕とディートリヒ。
そこである人物らと遭遇した。
「あ、おはようございます。ヴェルトラン様、ディートリヒ様」
「おはようございます」
「おはよう!!」
侍女のリリネットさんと彼女の妹達のアルネットとメルネットだ。
落ち着いた感じの赤髪の侍女がアルネットで青髪の侍女がメルネットである。
昨日僕とディートリヒ、リリネットさんでこの二人とラーク君のことで諍いを起こしてしまった。
だが、ハーミットと名乗る謎の人物の乱入のおかげで、僕達は妹達を捕らえ、その後二人をペストさんに引き渡しました。
ちなみにハーミットはそのまま立ち去り、その後は不明。
で、二人はペストさんに人体実験をされたのですが、結果は……。
「おはようございます、ヴェルトラン様」
「おはようございます、ヴェル様!」
あれ? 二人の様子は戦う前の感じですな。
「あ、ああ。おはよう」
「ん? どうしたのヴェル様?」
「いや……あの、昨日のことですが……」
「昨日? ああ、昨日はホントに驚きましたよ。まさかアタシ達の裏の顔も見破っちゃうなんてな。おまけに僕にその実力を見せてくれとか言っちゃてな~」
「しかも私やメルにも引けを取らない戦闘技術には恐れ入りましたよ」
もちろんそんなことを言った憶えもないし、彼女らを試した憶えもありません。
恐らくペストさん記憶改竄されたのでしょう。
「そ、それはどうも。まあ、元の世界での戦いは苛烈でしたからね」
今もですけど。
「大変なんだな、ヴェル様達も」
「ところで、ヴェルトラン様達はこれからどちらへ?」
「僕達はちょっとお風呂へ。昨日入った記憶がなかったので。その後朝ごはんをいただきますよ」
「わかりました。着替えの方ご用意いたしますが?」
「大丈夫です。このままこの軍服で」
「ではせめて匂い取りのスプレーを用意して置いときますので」
「そうだな。風呂入ってもまた同じ服着ちゃ意味ないからな」
と、にやけながら言うメルネット。
「あはは、ありがとうございます」
「そ、それでは朝食の準備をしちゃいますね。行きましょう、二人共」
「はい」
「おう」
リリネットさんがそう言って二人と共にその場をあとにする。
去り際にリリネットさんは感謝するように会釈して行った。
「…………」
『昨日の今日で随分な変わりよう……。ペストさんはいったいどんなことを――』
「いかがでしたか、大佐?」
「!?」
『!?』
背後からペストさんが声をかけて来た。
「おはようございます」
にっこりと挨拶をするペストさん。
「お、おはようございます」
『お、おはよう』
それに対し僕らは苦笑いしながら挨拶を返す。
「一応あの二人ついてご報告させていただきます。まず、あの二人の記憶で昨日の件については抹消、リリネットさんの要望により記憶を多少改竄。さらに洗脳も施し、わたくしの意思でいつでも傀儡となるよう徹底的に改造してさせあげましたわ」
「そ、それはご苦労様です」
これが元の世界で人体実験を繰り返した結果か……。
ペストさんは僕の部隊に入る前から秘密裏に帝國内に侵入した王国兵を拉致し、彼女の秘密の場所にて人体実験を繰り返していた。
ある日、僕が中佐の頃、偵察任務中に仲間とはぐれた時に彼女が王国兵を拉致している場面を見てしまい、転移魔法で一緒に拉致されてしまったのです。
ですが、彼女は僕のことをじっと見つめるや否や交渉を持ち出してきたのです。
彼女の研究を秘密にするなら僕の忠実な部下になると言った。
普通逆なのではと思う所だが、彼女の階級は少尉(前からずっと)で僕は中佐。
いくら彼女がイカれた人間であろうと階級差にかんしてはわきまえているらしい。多分。
だけどここで断れば彼女が何するか、やっぱりわからないのでとりあえず承諾し、爺さんに彼女を僕の下に付かせるよう説得した。
爺さんもアイケさんも彼女についてはすでに知っていたのだが、帝國に仇をなすようなことは一切なかったため、黙認されていたのであった。
彼女が仲間になってかなり経ちましたが、やはりペストさんは恐ろしい人です……頼もしい人でもありますけどね。
それにしても彼女は何故僕の部下になると言い出したのだろう……と、いろいろ思いたいですが、余計な詮索は命取りになりそうなので触れないことにしてます。
「あと、いろいろ面白い話もありますので今夜お時間いただけますかしら?」
「わかりました」
「ディートリヒさんやアイケさんもご一緒でお願いいたしますわ」
『マジか~。了解~』
「では、これにて失礼いたします」
そう言ってペストさんは去って行った。
『どんな話だろうね~?』
「多分あの王国連中についてでしょう。君やアイケさんも呼ぶほどだから、多少は警戒すべき話かもしれません」
それなら他の四人も呼ぶべきことでもあるのですが、これもデリケートそうな案件なので知る人間は少ない方がいいかもしれません。
もちろんリリネットさんにも話すのはまだ危険なので黙っておくことになるでしょう……。
「やれやれ、先が思いやられる……」
『なるしかないんじゃない?』
「まったく、血と硝煙に塗れた戦場の方がまだマシに思えてきます」
『あははは、確かに。あの戦場なら向かってくる敵をただブッ殺せばいいだけだもんね~』
「そうですね」
それから浴室にたどり着いた僕とディートリヒ。
流石は伯爵家の屋敷。
浴室も広くて豪華でした。
だけど僕らはシャワーを浴びて、頭洗って、ちょっと湯船に浸かって、すぐに出た。
所要時間はだいたい十五分ぐらい。
湯船なんて七分ぐらいしか入ってません。
普段からこんな感じであの世界において兵舎で生活していた僕らは、他の兵士と大所帯で風呂に入ることになるのですが、僕の部隊は僕を含めいろいろ有名なので、他の連中と関わり合いたくないがために素早く洗って素早く出てしまうのです。
それが完全に癖になってしまって、人が少ない時でもさっさと出てしまうのです。
少し落ち着いたら今度ゆっくり入ってみますかね……。
余談ですが、ディートリヒの首に着けている人口咽頭機の魔道具は水に濡れても故障する心配はございませんので、彼は普通にシャワーを浴びたり、湯船に浸かれますよ。
浴室から出た僕とディートリヒは食堂に向かった。
食堂にはすでに僕とディートリヒ以外の隊員達が朝飯を食べていた。
「お、大佐に少佐おはよう」
「おはよう」
双子共は食べながら挨拶をする。
「あ、おはようございます。大佐、少佐」
ベルガーは食事の手を止めて、ぺこりと挨拶する。
「おはよう」
「おはようございます」
アイケさん、カルさんも挨拶してきた。
「おはようございます」
『おはよ~♪』
挨拶を返した僕とディートリヒは空いている席に座った。
今日の朝食はパンに目玉焼きとベーコンにオニオンスープ。
元の世界とあまり変わらない献立……なのだが、パンとスープがなんかキラキラしてる。
おまけに贅沢にできたての目玉焼きとは。
「あたしがそろそろ来る頃だとリリネットらに言っておいたから」
だから出来立てなのか。
「なんかすみません、アイケさん」
『ありがとうアイケさん』
「気にするな」
そうして僕とディートリヒは手を合わせ「いただきます」と言って食べ始めた。
朝食を済ませた僕達は談話室に集まった。
「さて、諸君。今からやることを――」
「あ、あの……」
ベルガーは恐る恐る手を上げて、発言した。
「どうしました、ベルガー?」
「えっと……この子は?」
ベルガーはアイケさん……にしがみ付いているラーク君を指さして問う。
「ああ。この子はラーク君ですよ」
「可愛らしい、獣人君だな」
「クマ系かな?」
「可愛い……」
興味津々にラーク君を見る双子共とカルさん。
「この子どうしたんですか?」
「ええ、実は――」
僕は先日のことをあらかた話した。
ラーク君を連れて来たのはそのためです。
「昨日の夜にそんなことがあったなんてな」
「オレ達そん時寝てたな」
「ああ。なんせあんな広い個室を独り占めできる上に大きなベッドで大の字になって寝れるなんて最高だぜ」
のんきな奴らだ……。
「そういえばあの二人は何事もなかったようにしてましたけど……あ、ペストさんがなんかしたんですね」
「え!? 何をしたのですか、ペストさん!?」
「うふふふ……ヒ・ミ・ツ」
「!?」
ペストさん人差し指を口元に添え、妖しくそう言い、そんな彼女にベルガーは顔を青くしてブルブル身震いした。
「で、でも大佐。なんでもっと早くボク達におしえてくれなかったんですか?」
「そうだぜ、水臭いぜ、大佐」
「そうだ、そうだ」
僕に詰め寄るベルガーと双子共。
まあ、ごもっともなことですけど。
『仕方ないよ~。あの二人かなりの腕利き暗殺者らしかったからね~。途中で変な奴が現れてあっけなく終わりましたけど』
「変な奴ってたしか大佐が昨晩に襲って来たって奴か?」
「何者なんだ、そいつは?」
双子共は首を傾げながら問う。
「恐らく魔王の刺客……かと。おまけに僕が異世界から召喚されたということも知っています」
「敵はもう近くにいる……ということか?」
アイケさんの言葉に僕は頷く。
「この世界において魔族達は僕達とは敵対関係。王国の方に至っても下手な真似をすれば最悪王国とも敵対関係に」
「そ、それって、この世界全てが敵に……!?」
「いくら僕達が魔族達を敵視していなくても、彼らがそうじゃありませんからね。あの姫に召喚された以上彼らからしたら敵でしょう。そしてあの王国の魔族に対する敵対心はルスラン王国と何ら変わりません。いくら彼らと協力関係があるといえど、思想が違う以上、彼らとも戦う事になります」
「そ、そんな……」
うつむきながらそんな声を漏らすベルガー。
「仕方ないんだ、ベルガー。あたし達と彼らとは思想も生き方も違う。魔族達もまた然り。あの世界とこの世界ではいろいろ違うのさ」
ベルガーを諭すように言うアイケさん。
「……まあともあれ、僕達は僕達のやり方でこの状況をどうにかしましょう。彼らの事は後々考えておきます」
『それじゃあ、今日は早速手分けして弾薬確保の目途を立たせてみる?』
「いや、まずは城下町とこの屋敷の周辺の下見をしましょう。僕達はまだこの世界に来たばかり。まずは下調べをしっかりしませんと」
『あ、ついでにラーク君の服も買っておかないとね~』
「皆さん、それで問題はありませんかね?」
僕はそう言うと、皆それぞれ頷きながら賛成の言葉を並べた。
「よし、では行きますか」
僕達は早速町まで出かけました。
リリネットさん達が「あたし達同行いたしましょうか?」と言ってきましたが、丁重にお断りしました。
理由は下の双子達を屋敷から出すのはかなり危険ですので(僕達にとって)。
それにリリネットさんもまだ完全に信頼してるわけではないので(ついでに言うと目を離したら彼女が迷子になりかねない)。
というわけで、身内のみで行くことにしました。
ちなみにラーク君も屋敷でお留守番。
アイケさんの部屋で休ませており、彼を退屈させないように適当に屋敷にあった子供向けの絵本をいくつか置いておきました(屋敷にあった書斎を軽く見ていたら何故かそんな本がありましたのでちょっと拝借しました)。
「だけど、俺達全員で行っても大丈夫なのか?」
「そうだぜ、もしオレ達がいない間に姫か使者がなんか来て、ラークのことバレたらどうすんだ?」
「それなら心配ご無用ですわ」
双子共の言葉に対し、ペストさんが応じた。
「実は昨夜、あの二人の処置を終えた後、屋敷にサーチソナーを仕掛けさせていただきました。ちなみにリリネットさんやラーク君達には探知されても反応がないように敵味方識別も施しておきましたので」
『サーチソナーって奇襲対策として使ってる特殊な音波で敵を探すあれ?』
「ええ。屋敷内はもちろん、屋敷から半径三キロメートル範囲に音波が出ていますので」
ちなみにサーチソナーは彼女が編み出したオリジナル魔法であり、この魔法が扱えるのは帝國軍でも彼女のみです。
他の魔道士兵達も似たような魔法をいくつか生み出していますが、彼女のように実戦には使えないものばかりです。
それに対し、ペストさんは次々といろんな魔法を生み出しているため、魔道士兵達から見たら天才、大賢者などと思えるかもしれませんが……本性は悪魔で凶悪な魔女ですからね。
ちなみにサーチソナーとは他人からは認識されない魔法の音波で敵を探す魔法です。
ペストさん曰く、音波は半径三キロメートルまでで、魔法珠と呼ばれる魔道具を仕掛けると、音波がそれに触れた時、同じ音波が同じ範囲でさらに音波が広がるようです。
敵がソナーに引っかかるとペストさんに知らされます。
だけど、ソナーから知らされるのはペストさんだけですので、それを他の者に知らせる際にはテレパスという魔法で知らせたりします。
テレパスは熟練の魔道兵なら誰でも扱え、テレパスが使える者が近くにいれば他の部隊や兵士とも連絡が取れるため通信兵としての役割も担っている。範囲もかなり広範囲まで行けるそうです。
他にもいろんなタイプのソナーもあるそうです。
ちなみに魔法珠というのは一部の魔法を強化したりする魔道具ですが、基本初級クラスの攻撃魔法や補助系魔法、回復魔法にしか使えず、中級以上の攻撃魔法を使うとオーバーヒートを起こし、最悪魔法珠が大爆発を起こし、大惨事を引き起こしてしまうそうです。
もちろんペストさんはそれを試しました。
しかもわざわざ敵地まで足を運んでやったそうです。
僕は止めようとしましたが、すでに手遅れでした。
結果は敵軍壊滅、ペストさん本人は何故か無傷。そして、僕はこの件で爺さんにかなり叱られた(この時の僕はどうして……と現〇猫みたいな感じでした)。
「もし誰かが来たらすぐに大佐と少佐を屋敷に転移させますので、なるべく離れずにお願いしますわ」
「わかりました」
『了解~』
そうして話しているうちに町へ着きました。
城下町にたどり着いた僕達は噴水がある広場でどこから行くか決めていた。
……それにしても民衆の注目がすごい。
まあ、そりゃそうだ。
僕達は異世界の人間であり、僕達の恰好も珍しいのだろう。
とゆうより皆軍服で来ちゃったんだよな……僕もだけど。
『なんだか注目されてますね~。僕達』
「い、いろんな人達がみ、み、見てますよ……」
「まあ、仕方ないことですわね。わたくし達は異界の存在。それにこのような軍服を着ているのですから目立つのも当然ですわ」
「で、どこから見て回るんだ?」
「城下町だけあって広そうだぜ」
「そうですね……とりあえず二手に分かれましょう。利用価値がありそうな店とかを調べて、しばらくしたらここに一度集合しましょう」
「「「了解!!」」」
『了解~♪』
さて、どう分けますかな……。
メンバー分けはかなり重要で、かなり制限があります。
まず、メンバー内において僕をはじめ、ディートリヒ、アイケさん、ペストさんの誰か一人がいないと、他四名だけのチームだけでは絶対面倒事を起こしそうなので、お目付け役が必要なのです。
ペストさんの場合は面倒事を起こしても内々に処理してくれるから任せられる……けど時々不安になります。
ベルガーの場合、双子共やカルさんみたいに面倒事は起こしませんが、逆に面倒事に直面するとパニックを起こしてしまい、大変なことになるので僕かディートリヒ辺りがフォローしないといけませんので。
なので、メンバー分けはこうなりました。
僕、アイケさん、双子共。
ディートリヒ、ペストさん、カルさん、ベルガー。
四人ずつで行くことにしました。
「では僕は左の方へ」
『じゃあ僕は右へ。またあとでね~』
そうして僕達は二手に分かれました。
「さて、まずは服を買いませんと」
「そうだな。あんな派手すぎる服はいろいろ目立ちすぎる」
ちなみにリリネットさんもラーク君の着ている服に驚いていました。
他の隊員達もてっきりディートリヒの悪ふざけで着させているのかと思ったそうです。
リリネットさんからせめて三着以上は買ってきてくださいと言われたので、とりあえずあの子に合いそうな服を探さないと……(なんせ僕の服のセンスは前世の時からあまりよくないようなので)。
ディートリヒにも頼んでありますので。もし僕達が歩いている道に洋服屋が見当たらなくても、もう片方が見つけて買ってくれればいいし、両者が買っても特に問題はないですし。(まあ、こんな広い城下町だから洋服店ぐらいいっぱいありそうですけど)
お金はオルティア姫が用意してもらったのがあったので金銭面に関しては問題ありません。
とりあえず僕達は城下町を下見しはじめる。
利用しやすそうな酒場や武器屋、ちょっとした隠れた怪しい店があればいいかなと思ってます。
ちなみに酒場は飲み目的じゃなくて情報収集のため。
とゆうより僕はお酒飲めません。
前世でもお酒は飲まなかった……というより飲みたくなかったので、今でも飲んでいません。
理由は前世の小学生時代の時、保健室に入り浸る時期がありまして、その時アルコール依存症の本を何度も読み、それ以来お酒に対し拒絶反応のようなものができました(ウィスキーボンボンや料理酒がちょこっと入っている料理ぐらいは食べたりしてましたが、ウィスキーボンボンはあまり好きではありませんね)
当然タバコも吸ってません。理由は先程と同じです。
案外健康でしょ?
他にもこういう町なら裏系な店もありそうだと思うので、とにかく利用できそうなあれば知っておいて損はないかと思いますので。
しばらく歩くと、変わった建物を見つけました。
「なんだ、この施設?」
「冒険者……ギルド?」
「初めて聞く建物だな」
と、双子共とアイケさんはそう言いますが、僕の場合……まあこういう施設は前世時代で見たこと……というより利用したことがあります(もちろん僕が異世界召喚された時の話です)。
あの時みたいにこの施設は冒険者が集い、依頼を受けて仕事をする場所でしょう。
ちなみに看板には冒険者ギルド【紅剣】と書かれていた。
ギルドに名前がある……ということはここの他にもギルドが存在するのでしょうか?
前世では冒険者ギルドなんてその国に一つしかありませんでしたけど、まあ、ギルドが複数ある所はあるにはあるのでしょうね。
まあ、いろんな世界があれば勝手も違うでしょう。
「なんだか気になる場所だな」
「行ってみるか?」
興味津々の双子共。
「そんなところに用はない。それにあたし達は軍人だ。冒険者ではない」
淡々とそう言うアイケさん。
「ま、それもそうだな」
「それに冒険者はオレ達にとっちゃほとんど敵だもんな」
あの世界でも冒険者は存在していますが、ほとんどはルスラン王国側の者が多く、時折王国軍の混成軍として彼らとも交戦することもあるのです。
一方で帝國にも冒険者はかつてはいたのですが、現在はほとんどいません。
理由はほとんどの冒険者が帝國に反発して王国側に寝返り、帝國内で大暴れする者もいました(すぐに鎮圧しましたが)。一部の冒険者は軍に志願した物好きな者もいました。
ちなみに帝國内でいまだ冒険者として活動する者もいますが、基本的に薬草採取や凶暴な害虫退治(特に生きとし生きる者達が恐れる巨大人食いゴキローチはかなりヤバいです)に行商人の護衛など。
軍が関わること仕事には基本関わらせてはいません。軍事機密情報漏洩防止のため。
「冒険者か……昔は憧れてたなぁ。いろんな所を行き、誰かのために戦って、いろんな亜人族の美女達にモテたかったなぁ」
「そうだな。まあ、あの帝國だったら冒険者より軍人になった方が亜人族美女にモテモテになるから軍に入ったんだけどな」
まさかこいつら冒険者に憧れてたのか……。
だけど動悸があまりに不純すぎて草しか生えない。
おっと、あまりにおかしすぎて前世の癖が。
ちなみにアイケさんはかなり呆れすぎてでかいため息をついていた。
「バカ言ってないで行くぞ、バカ共」
「「バカを二回も言わないでくださいよ、中佐」」
とりあえず先に進もうとした僕達。
そんな時、ギルドの入り口のドアが開かれ、誰かが出て来た。
そこには五人組の冒険者であろう人物が現れた。
赤髪ロングの女剣士を中心に青髪の僧侶の男、緑髪おかっぱの魔道士の男、ピンク髪の女戦士、そして黄色の髪で片目が髪で隠れている重装騎士……なんだか色とりどりな連中ですね。
完全に戦隊ものですよ、これ。
しかも全員の服装がどことなくゲームで見たことあるやつばかりだ。
細かく言うと僧侶、魔道士、女戦士がほとんどドラ○○で女剣士と重装騎士なんてファイアー○○ブレム。
まあ、だからそいつらがどんな職の冒険者かわかるのですけどね。
「なんだか派手な連中が現れたな」
「おいおい、あのピンク髪の戦士ちゃん、めっちゃセクシーだな」
「ああ、こりゃあすげぇぜ」
この双子共ときたら……と思いつつ、僕もさっきからチラッ、チラッとあの女戦士のことを見てしまうのであった。
まあなにせ、あの世界で露出度の高い冒険者なんて見たことなかったからねぇ……。
あの場にディートリヒがいれば興味津々でじろじろ見ていただろうな。
逆にベルガーは顔をイチゴのように赤くしながら絶対目を逸らすに違いない。
「おい、バカ言ってないで行くぞ」
アイケさんが低い声でそう言った。
「「へーい」」
そんな時だった。
「おい、そこの黒集団連中! ちょっと待ちな」
突然、赤髪の女剣士が声を上げてきた。
黒集団……って誰のことやら。
「お前らだよ、お前ら」
僕達に指を差す女剣士。
ああ、僕達のことですか。
まあ、周りを見れば僕達の恰好色明かりが暗いからな……。
ちなみに僕の軍服はまあ黒ですけど、隊員達は灰色です。まあ、連中から見たら大差ないかな?
「何か御用ですかな?」
女剣士はずかずかと僕に接近してくる。
「お前ら見ない連中やな」
ずいっと僕に顔を近づけ、絡んできた女剣士。
いきなり目をつけられるとはついてないなぁ……。
しかも関西弁……。
「お前ら、どこの冒険者や?」
「なんですか、君達は?」
「ああ!? アタイらを知らんかいな!?」
知らんわな。
「知らんならしゃあないな。よし、お前ら自己紹介タイムや!!」
女剣士が号令すると、他の四人が駆け足で女剣士を中心に横に並んだ。
「では、始めに。僕は僧侶のスィーニ!」
「私は魔道士のズィリョーヌ!
「ローヴィはおんなせんしのローヴィだよ!」
「俺は重装騎士のジョール!」
「そしてアタイが女剣士にしてリーダーのクラースィ!!」
『我ら、五人揃って……ファーブルズ!!』
と、全員格好つけながら自己紹介をした。
はぁ…………あほくさ。
僕の脳内では戦隊よろしく、爆発とそれぞれの色の煙が上がっているのが見えた……。
ちなみに彼らの職は予想通りでした。
だって装備の見た目がね。
「で、あんたらは何者なんや?」
ビシッと指を差して問う女剣士のクラースィ。
「ええっと……僕達は……」
そういえば僕達のことを知ってるのって王族連中とあの侍女三姉妹ぐらいだけだったな……。
住民や冒険者連中、ましてや騎士団なぞ僕達のことなんか知らないだろう。
さて…………なんて言えばいいのやら。
「……ってお前は!?」
その時突然、クラースィが僕……の背後いる誰かを指差した。
僕は彼女が指を差した方へ振り向くと、どうやらアイケさんに…………ん?
アイケさんの前に何かいました。
視線をちょっと下に下げるとそこには、白髪に黒い鎧を身に着け、白いランスを携えた人形のように無表情の黒騎士少女がいつの間にかいた。
「「「!?」」」」
僕やアイケさん、双子共は少女の突然の出現に驚く。
まさかのアイケさんも少女の出現に気づかなかったとは……。
「…………え、誰?」
「…………」
アイケさんまでも驚かせるほどのこの只者ではない少女は無表情で僕をじっと見つめているだけだった。
「あの…………」
「…………」
いやいや、じっと見つめてないでなんか答えてよ。
「お、お前はギルド【蒼槍】のクロエス!!」
ギルド【蒼槍】?
そういえば僕達の前にある建物はギルド【紅剣】だったな。
違うギルドの冒険者か?
「はっ!? お前らまさかあのギルドの新参者か!!」
え、なんでそうなるの!?
「い、いや、僕達は――」
「そうだよ。こいつらはわたしの臨時の仲間だよ」
クロエスと呼ばれる少女は無表情でふざけたことをぬかした。
「え、え、え!?」
ちょっ、おまっ、何を言ってるのですかな!?
「まさか、ライバルギルドの新入り連中だったとはな……」
ちょっと、何信じてしまっているのかな、この女剣士さん!?
だんだん面倒かつややこしい事になってきたその時だった。
「あら、何の騒ぎですかえ?」
どこからか妖艶な女性の声が聞こえた。
「こ、この声はまさか……!?」
クラースィがある方向へ顔を向ける。
僕も彼女が向いている方へ顔を向けると、そこには黒と紫を基調としている妖艶な魔女の恰好をした黒髪ロングの女性が現れた。
その後ろには取り巻きであろうか同じような魔女の恰好に骸骨の仮面を着けた者が三人いた。
「ギルド【翠斧】所属のザクロ……」
また変な奴らが現れたなぁ……。
「【紅剣】の五人組に【蒼槍】のクロエスはんやないかぁ。そちらの御仁は新入りかいな?」
妖艶な眼差しで僕を見つめるザクロさんとやら……。
「あらあらあら……」
そう言いながら僕に接近してくるザクロさん。
意外と身長高いなこの人。
そして目のやり場が……
「ぬし……この国の人間じゃあらへんな。そこらの同じ格好した三人も違う感じがしますし、何者でありんすか?」
「いや、あの……」
近い、近い、近い!!
彼女の美しき顔に両肩を晒してるせいで見える巨大な胸が近すぎて直視できない……。
こんな僕がありえないだろと思うかもしれませんが、あの世界で何度か魔族領域の街に遊びに行ったことがありまして(いくら戦時中でも二カ月に一カ月ぐらい休みがもらえるのです。ありがたい)、その時ディートリヒや双子共にめっちゃいかがわしい店へ連れてかれたことがありました。
そこにはサキュバスやラミアといった男を誘惑する種族がわんさかおり、この時の僕はすごく心臓がなりまくってヤバかったです。
そういえばベルガーも一緒に入った時、入って数秒後にめっちゃ顔がイチゴみたいに真っ赤になって加湿器みたいに顔から煙が上がってたな……。
ちなみに僕はいまだにこういうタイプは接近されるとどうもね……。
つか、双子共の顔がサルみたいになってめっちゃ鼻の下伸びまくってるし。
「この人達はあたしの臨時の仲間」
クロエスがいつの間にか前に割り込んでそう言う。
「いや、だから違うって――」
「ふぅん。あ、わっちはザクロと言います。以後お見知りおきを」
「あ、はあ……はい」
「よし、せっかく三大ギルドが揃ったところや。勝負せえへんか?」
「…………は?」
いきなりどうしてそうなる?
「いつも一人で活動してるクロエスはんが臨時とはいえ誰かと組むなんて珍しいからな。ちょっと興味が湧いてもうてな」
「あら、それは面白そうやな。受けて立ちますえ」
「上等だよ」
なんか僕らそっちのけで急にやる気満々なのですが!?
「いや、あの、ちょっと――」
「なんや、まさか尻尾巻いて逃げ出すんか?」
「情けないわねぇ。それでも男かえ?」
挑発してくるクラースィとザクロさん。
そんな挑発に――。
「上等だ!!」
「受けて立とうぜ、大佐!!」
はい、挑発に乗るバカがいた。
「大佐、時間の無駄だ。断れ」
ごもっともなことを言うアイケさん。
「…………」
まあ、正直かなり面倒ですけど、ここで尻尾を巻いて逃げれば後々僕達のことでよからぬ噂が流れ、あの国王連中に知られてしまうと絶対に面倒になるに違いないだろう。
いろいろ考えた末、僕は……。
「いいでしょう。受けて立ちましょう」
僕は前に踏み出して宣言した。
「バカが……」
アイケさんは顔に手を当て、呆れた声で呟いた。
「決まりやな!」
「ほな、明日中央の大噴水広場に集合やね。逃げたりしたら……」
僕にゆっくり近づくザクロさん。
「承知せえへんよ?」
「ええ、わかっていますよ」
おお怖い。
これは敵に回すとペストさん並みに厄介になりそうです……。
「では明日、楽しみにしとるで……と、そう言えば最後に聞きたいことあるんやけど」
「なんですか?」
「あんたら、名前は?」
そう聞いてきたクラースィ。
「俺はビットリヒ」
「オレはハイドリヒ」
「……アイケ」
そして彼女らの視線が僕に向いてきた。
「僕はヴェルトランと申します。以後お見知りおきを」
その後、クラースィ達とザクロさん達はそれぞれの方へ去って行った。
クロエスだけがちょこんと残っていました。
「どういうつもりだ、大佐」
「すみません、アイケさん。ですが今後のことを踏まえて受けて立ったのですよ」
「…………」
「そんな睨まないでくださいよ」
「なんだか楽しくなりそうだな」
「そうだな」
ウキウキする双子共。
「ちっ、くだらない。あたしは参加しないぞ」
やれやれ、頭の固いお人で……。
「わかりました。では当日はラーク君のことをお願いしますよ」
「言われなくてもそうするさ。留守は任せろ」
「頼りにしてますよ、アイケさん」
「……ふん」
「ところで少佐達とかはどうするんだ?」
「少佐なら喜んで参加しそうだな」
確かにこんなこと、ディートリヒが食いつかないわけがないですね。
「一旦合流しましょう。そこで先の事を話します」
「「了解」」
そして、僕はクロエスの方に顔を向ける。
「君にも同行してもらいますよ。元はと言えば面倒事になった発端の一人なのですから」
「いいよ、ヴェルトラン」
彼女はこくりと頷きあっさりそう言った。
「おい」
アイケさんが声をかけてきて、小声で話しかけてくる。
「いいのか? 部外者何か連れて」
「こうなったのは彼女のせいなんですから、とりあえずこの件が片付くまでは同行してもらいますよ」
「どうなっても知らないぞ」
「大丈夫ですよ。何かあっても頼れる仲間がいるのですから。もちろんアイケさんもね」
「……ふん。調子のいいことを」
そう言いながら顔を背けるアイケさん。
「とりあえず一旦ディートリヒ達と合流しましょう」
ところが。
「………………」
合流場所には巨大な戦斧を身につけていたカルさんしかいなかった。
いつの間に買ったのですかあの戦斧……。
まあ、機関銃を二丁も持てるカルさんだから似合ってるには似合ってますね。
……いや、そんなことより。
「……あの、カルさん。皆さんは?」
「ええっと……話すと長くなるかな?」
ああ、ダメだ。いろいろ不安になってきました。
まあ、なるようになるしかないのはいつものことですけどね……。