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異世界軍人と七人の兵士共  作者: 藍染 珠樹
序章
2/9

目覚めたら見知らぬ世界

 僕は目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。

「ん……ここは……?」

 僕は身体を起こした。

 辺りを見回すと、そこは建物の中のようだった。

 僕の周りには起き上がろうとする隊員達がいて、あとは暗くて何も見えなかった。

『う~ん……ん!?』

 全員起き上がると、どこかもわからぬ場所に皆驚いた。

 驚かなかったのは僕とアイケさんだけだった。

「え!? こ、こ、こ、ここど、ど、どこ!?」

 狼狽えるベルガー。

『そしてあたしは誰!?』

「え!?」

「こら、ディートリヒさんや。ベルガーを混乱させない」

『てへぺろ♪』

 まったく、我が副官ときたら……。

「つか、ここどこだ?」

「オレは誰だ!?」

「そのネタはもういいよ」

 ハイドリヒさんの二度ネタにツッコむ僕。

「しかし、あの魔法陣……明らかにこの世界のものじゃありませんでした。いったい……」

「まさか異世界のとか?」

 カルさんがそう言うと、突然辺りに火の明かりが灯った。

「「「!?」」」

 視界が良好になると、僕達は見知らぬ建物の中にいた。

「ここは……」

「よくぞ参りました。異世界の勇者様!!」

「「「!?」」」

 突然女性の声が聞こえ、振り返る僕達。

 そこには、姫君であろう女性とその従者であろう騎士がいた。

「ようこそ、エインシェント王国へ。私の名は――」

「貴様ら!!」

「オレ達に何しやがった!!」

 ビットリヒさんとハイドリヒさんがいきなり姫君に銃口を向けた。

「きゃっ!?」

「貴様ら!!」

 姫君が悲鳴をあげると、従者の騎士が剣を抜き構えた。

 おいおい、いきなり一触即発ですかい。

「あの、お二人さん。少し落ち着いて――」

「大佐! こいつらきっと、あのクソッタレルスラン王国軍の幹部クラスかもしれないぜ」

「いや、ルスラン王国とは言ってなかった気が――」

「今ここであいつらをブッ殺せば、王国軍の連中に大損害を――」

「……アイケさん」

「……」

 僕の言葉にアイケさんはコクリと頷いた。

 そして。

 ビシ、ビシッ!!

「「んがっ!?」」

 アイケさんは双子共の頸椎を手刀で叩き、気絶させた。

「バカなのですか?」

『いやバカでしょ』

 気絶した双子共に吐き捨てるペストさんとディートリヒ。

 ベルガーはこの光景にあたふたしていた。

 姫君と従者も今の光景に唖然としていた。

 ちなみにカルさんはただ能天気に見ているだけだった。

「あー……こほん! 僕の部下が大変失礼いたしました。……でここはどこなのですか?」

「あ、はい。こほん! ここはエインシェント王国。そして私は。この国の王女オルティアと申します」

「エインシェント王国……」

『どうしたの、大佐?』

「あ、いや」

 僕は首を横に振る。

「で、その王女様は僕達をここに転移させた理由はなんですか?」

 なんとなくですが嫌な予感が……。

「私はこの王国を救うべく、かつて数百年前に行われた異世界から勇者を召喚する魔法を行使し、こうして異世界から勇者様を召喚しました。ですが……どうやら誤って他の方達も召喚してしまったそうで……」

『え、どゆうこと?』

「本当は一人だけのはずだったのですが……何故か他の方々も巻き込んでここに召喚してしまったようでして」

「……ちなみに、先のそちらが使った転移魔法の魔法陣は僕を中心に現れましたが……まさか」

「はい。本来ならあなただけを召喚するつもりでしたのです、勇者様」

 はい、僕勇者確定。そして魔法陣の中にいた隊員達は巻き添えで召喚されたようです。

「……なんかすみません、皆さん。面倒な事に巻き込まれてしまったようで」

 僕は部下達に謝罪をした。

『謝る必要なんてないよ~。元はといえば他力本願なお姫様が悪いんだから』

「そうだな。己の力で解決できず、他人に任せようとするような王族だ。大佐が気にする必要はない」

 ディートリヒとアイケさんはオルティア姫に悪態をつきながら、僕を慰めてくれた。

「貴様、姫に向かって無礼だぞ!!」

 それに対して激昂する従者騎士。

「クルト、おやめなさい!」

 姫は従者騎士クルトを諫める。

「し、しかし!」

「この方達のおっしゃる通りです。私達は今こうして異世界の勇者様に頼らなければ、この王国は滅ぶかもしれませんのです」

『王国なんて滅べばいいんじゃね』

 ボソッと呟くディートリヒ。

「ちょっと、黙りましょうか」

『は~い』

 小声で話す僕とディートリヒ。

「……とりあえずこのバカ共が起こしてから詳しくお話を聞きましょうか」

「わ、わかりました」

 なるべく面倒事にならなければいいけど……。

「じゃあ、お願いしますね、ディートリヒ」

『アイアイサー!』

 そんな時だった。

「オルティア!!」

 突然男の声が聞こえるや奥の扉がバァンと強く開かれた。

 そこには……威厳ありそうな白髭を生やしたおじさんと親衛隊であろう人間が二人いた。

「お、お父様!!」

 お父様ということは王様か。

「お前、こんなところで何を……!?」

 王様が僕らを見るや顔を強張らせた。

「き、貴様ら何者だ!? まさか賊か!!」

「お、お父様、違います!! この方達は――」

「オルティア、下がってろ! メルセリダ!!」

「はっ!!」

 メルセリダと呼ばれた親衛隊の女騎士がものすごい速さでいきなり僕に斬りかかろうとした。

 ガキィン!!

 だが、寸前でベルガーが軍刀を抜いて防いでくれた。

「さ、させません!」

「くっ!」

 メルセリダはさらに攻撃をし続けた。

 素早く剣を振るメルセリダに対し、ベルガーはそれをことごとく防いだ。

 ガキィン!!

 ベルガーはメルセリダを弾き、一歩下がると、刀を後ろに構えた。

 そして……。

「!!!」

 ベルガーが右足を床に踏み抜いた直後に目にも止まらぬ速さでメルセリダに肉薄し、神速の如く、居合い抜きのように刀を振った。

 ガキィィィィィィィィン!!

「ぐっ!?」

 メルセリダはそれを防ぐもかなり弾かれた。

 さらに受けた反動で剣を持っている手が痺れてしまったようだ。

「この剣士……手強い!」

「メルセリダ!」

 今度はもう一人の親衛隊が槍を構えた。

「下がっていろ。ここは俺が」

「いえ、リグル兄上は王を」

 あ、兄妹なのかこの二人。

「だが……」

 その時だった。

「皆さん、落ち着いてください!!」

 突然オルティア姫が大きな声で叫んだ。

「お、オルティア!?」

「聞いてください。この方達は私が召喚した異世界の者達です!」

「召喚だと!? お前まさか……異世界の勇者を呼んだというのか!?」

「……はい」

「なんて事を……お前はかつて異世界の勇者が何をしたか知らぬはずであろう」

「わかっています。ですが、王国騎士団長をはじめ精鋭の騎士達が行方不明の中、国民は魔王と魔族の侵略に脅えてしまっています。周辺諸侯もあまりに頼れぬばかりでもう手段は……」

「オルティア……」

 そろそろ嫌な予感がしてくるな、これは……。

「勇者様!!」

「はい」

「どうか魔王を倒し、この王国をお救いくださいませ!!」

 やはりそう来たか……。

「……ここで立ち話もあれです。どこか姫様方が落ち着ける場所でこの世界の現状諸々を教えてもらえませんでしょうか?」

「はい」

 とりあえず僕達は場所を移すことにした。

 ちなみに双子共をディートリヒが叩き起こしましたが、また姫と従者騎士、それに王様方に銃口を向けるかもしれませんので武器はこちらで没収させておきました。


 で、謁見の間に移った僕達。

 先ほどの転移して来た場所と異なり、流石謁見の間であって荘厳な場所であった。

 玉座には王様が座り、傍らにはオルティア姫、右には親衛隊兄妹に姫の従者騎士のクルトが並んでいた。

 そして、辺りには複数の槍と盾で武装した兵士もいた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はヴェルトラン・シュタイナーと申します」

『僕はディートリヒだよ』

「あたしはアイケ」

「わたくしはエウレカ・ペストと申します」

「あ、アイリス・ベルガー……です」

「俺はビットリヒ!」

「オレはハイドリヒ!」

 何故かカッコつける双子共。

「うちはカルテンブルンナー。カルでも何でも自由に呼んでくださいな」

 皆それぞれ自己紹介をした。

「ふむ……異世界の勇者は一人だけだったはずだが?」

 王様は首を傾げる。

「それが、事故で勇者以外の方を複数人巻き込んでしまって……」

 オルティア姫はそれに答えた。

「なるほど……で、誰が勇者なのかね?」

 と、王様が問うと、隊員共は揃って僕に視線を向ける。

「転移魔法陣の中心が僕でしたので、僕が勇者となります」

「なるほどお主が勇者か。他の者達と見比べると格好だけで大して強そうには見えんな」

「なんだと!?」

「てめえ、大佐をなめてんじゃねえぞ!!」

 双子共が王様の言葉に激昂する。

「貴様ら、王の御前だぞ!!」

 クルトが二人に怒鳴る。

「二人共、落ち着いてください」

 僕は双子共を諫める。

「失礼いたしました、王様」

 まあ、確かに僕はこの隊員達と見比べれば僕はそんなに強くはない……いや、むしろ隊員達が強すぎるのだと思う。

 僕だってそれなりの戦闘技量は兼ね備えてますから、あの世界でのそんじゃそこらの連中には負けませんよ。……多分。

「うむ、礼儀はそれなりなっているように見えるな。ところで大佐とはいったい何じゃ?」

「階級のことでございます。僕達は全員軍人です。そして僕は彼らを率いる隊長を務めております」

「なるほど。それにしてもお主らが持っている武器は見慣れぬ物ばかりじゃな。服装も勇者殿以外同じ服装じゃのう」

 やっぱりこの世界じゃ銃火器存在しないか……。

「……さて、僕達のことは置いておくとしまして。今のこの世界の現状を教えてもらえなでしょうか?」

「私がご説明いたします」

 オルティア姫が前に出る。

「オルティアよ、それはわしが――」

「いえ、私が説明します。この方達を召喚したのは私です。私が説明するのが義務です」

「う、うむ。わかった」

 そうしてオルティア姫はコホンと咳払いすると、説明が始まった。

「この世界は現在、魔界から魔王率いる魔族達に侵略されつつあります。我が王国をはじめ、イルニア共和国やブレイグ帝国は魔界軍と徹底抗戦をしておりますが、状況は拮抗しています。他にもいくつか小国も存在していましたが……」

『ブレイグ帝国とは格好つけた名前だこと』

 小声でつぶやくディートリヒ。

「ちょっと黙ってください。……ほとんど魔族の手に落ちたと」

「はい」

 状況はあまり良くなさそうですね。

「それに我が王国は先日、騎士団長率いる部隊が討伐遠征に向かったのですが……」

「帰ってこずと」

「はい。王国でも勇敢で剣聖騎士とまで謡われた騎士団長のリスティアがいまだ戻ってこられず……」

 オルティア姫は不安になりながらそう言い、俯く。

「……他に残存している騎士団は?」

「副団長をはじめ、騎士団自体はリスティア団長以外の騎士達は無事に帰還され、現在はいつでも戦線に復帰可能です。ですが士気の方は低下あまりよろしくない状況です」

 クルトがそう発言した。

『他国と連携して動いたりしないの?』

「元々帝国や共和国とはあまり良い関係ではなく、今となっても両国同盟を結ぶことに躊躇いがあるそうで」

 足踏み揃わずか……。

 同盟組んで、連携していけば勝てそうなはずなのに。

 それどころか、もし帝国か共和国のどちらか、あるいは両方が魔王側に寝返ったら……。

 うん、正直勝ち目はなくなるな、これは

 なによりこの世界に銃火器が存在してないとなると。

「参ったなぁ…………」

 いろいろ悪い方向に考えてしまう僕は一人そう呟いた。

「勇者様!!」

「あ、はい」

 オルティア姫の声に、ちょっと抜けた返事をしてしまう僕。

「お願いです! どうか邪悪な魔王とその魔族達を討ち滅ぼし、この王国を、この世界をお救いくださいませ!!」

「はい来た、このお約束な感じな展開」

 つい小声でぼそりと呟いてしまった僕。

『大佐?』

 ディートリヒが僕を見て首を傾げてくる。

「……いくつかご質問がございますが、よろしいでしょうか?」

「……勇者殿」

 急に低い声色で僕を呼ぶ王様。

「なんでしょうか王様?」

「お主は何故、そこで一つ返事で我が娘の願いを了承できぬのだ?」

「と、言いますと?」

「貴様らは我が王国、ひいてはこの世界を救うために呼ばれた存在だ! 勇者は我らのために懸命に戦うと誓うものであろう」

 急に態度が変わりだしたな、この王様。

「……お言葉ですが、勝手に僕を召喚し、部下を巻き添えにして、挙句に魔王達をいきなり倒せと他人任せにして、僕がそう簡単に頷くと思いですか?」

「なんだと?」

「僕はあなた達が言う異世界の勇者である前に軍人です。巻き添えになった部下もいる手前、彼らを知らぬ世界で危険な戦い巻き込ませるおつもりですか?」

「なら、部下を置いて勇者一人で行くがよかろう。勇者は一騎当千の力を誇ると聞く。お主なら魔王も魔族も余裕であろう」

 このクソじじい……。

『おい、じじい……』

「!?」

『さっきから急にふざけたことを抜かし始めて、何様のつもりだ? 言っておくが王様だとか言ったら、すぐにあんたをブチ殺してもいいんだぜ!!』

「「「「!!!!」」」」」

 ディートリヒの言葉に親衛隊兄妹にクルトが剣を抜き身構え、さらに周囲から槍と盾で武装した兵士がぞろぞろと現れ、構える。

 それに対し、隊員全員も身構えた。

「って、俺の武器は!?」

「あ、オレのも!?」

「はい、どうぞ」

 双子共の武器はカルさんに預けており、カルさんは預けた武器を双子共に返却した。

「サンキュー!」

「さあ、いつでもおっぱじめられるぜ!」

 一触即発状態。

 異世界まで飛ばされていきなり王国と戦争ですか……。

 やれやれ、これでは先が思いやられ――。

「いい加減にしなさい!!!」

「「「「!?」」」」

 姫の怒声に皆、身体をびくつかせた。

「異世界の者に刃を向けるとはなにごとです!! 今すぐに武器を収めよ!!」

「で、ですが姫――」

「二度は申しませんよ、クルト」

「…………」

 オルティア姫の言葉に全員武器を収めた。

「諸君らも」

 僕は隊員達にそう言い、それぞれの武器を収めさせた。

「お父様、彼らのことは召喚した私に責任があります。あまり高圧的な物言いは控えてくださいませ」

「だ、だがオルティアよ……」

「彼らはいきなりここに飛ばされて不安になっているに違いないのです。例え軍人であろうとも」

 いや、不安になってないのでご安心を。

 と、言いたいけどこれ以上また面倒になるから言わないでおこう。

「勇者様、先程のご無礼お許しくださいませ」

 オルティア姫は僕達に頭を下げ、謝罪した。

 全員がざわめきだす。

「オルティア姫、このような者共に頭を下げる必要など――」

「お黙りなさい!」

「!?」

 リグルはオルティア姫の一喝に怯む。

「……先程の質問、お伺いいたしましょう」

「ありがとうございます」

 随分と勇ましい姫様だなぁ。

「では、一つ。まず僕達はその魔王とやらを倒す辺り、衣食住の方は用意されているのでしょうか? 軍資金や物資の用意等は?」

「問題ありません。勇者様とそのお仲間の皆さん全員が住める屋敷をご用意してあります。軍資金や物資の問題もございません」

「お、オルティア!? わしの知らぬ間にそんな準備まで」

「このくらいは当然のことです、お父様。国をお救いするためとあらば」

 行動力もすごいな。

「ありがとうございます。ではもう一つ。僕達が元の世界へ帰れる保証はございますのでしょうか?」

「もちろんです。ですが、元の世界へ帰すには――」

「魔王を倒せ、でしょう。帰してくれる約束をしてくれるのならば」

「では!!」

「いいでしょう。引き受けます」

「ああ、ありがとうございます!!」

「ですが、やり方に関しては僕達のやり方でやらせていただきます。それで構いませんか?」

「ええ。この国をお救いしてくださるならば!」

 オルティア姫は大いに喜んだ。

「おい、ヴェルトラン」

 小声で僕を呼ぶアイケさん。

 普段は階級呼びのアイケさんですが、何かしら忠告事があると名前呼びになる。

 まあ、僕の師匠ですからね。

「何ですか、アイケさん?」

「いいのか、そんな簡単に引き受けて」

「他にどうしろと? ここは僕達がいた世界じゃないのです。ここで協力をせねば孤立無援です。何にせよまずは情報が必要です」

 小声で会話する僕とアイケさん。

「……わかった。あたしもやれるだけのことはやる」

「頼りにしてますよ。少なくとも一番大変なのは僕やディートリヒ、アイケさんになりそうですからね……」

 こうして僕達は魔王討伐の使命を負うことになった。

 元の世界に戻るのと引き換えに。

 だが……そう簡単に帰してくれそうにない気もしますので、いろいろ手を打つ必要がありますね……。


 謁見の間を出た僕達はオルティア姫に拠点まで案内された。

 城を出るまで見回りの兵士や侍女などいろんな人に注目された。

 ひそひそと話す者達もいた。

 まあ、それもそうですよね。

 他人から見ればこんな怪しげな集団、警戒しない方がおかしいですし。

「ごめんなさい、皆さんには大変失礼だとは思いますが……」

 オルティア姫は周りを見て僕達に謝罪した。

「仕方ありませんよ。彼らにとって僕達はよそ者ですし、それに皆軍服のままですしね」

 僕は皆に振り向きながらそう言うと、皆苦笑した。

「あと、お父様のことも申し訳ございませんでした。あの人は気に入らないことがあるとああなってしまって」

「お気になさらず。僕達の世界でもああいう奴はいるにはいましたから」

 ああいう奴らほど大抵は無能な奴らばかりで戦場で後ろから部下に撃ち殺されることはまあよくあったことだ。

 僕はそういう事にはならないよう気をつけている……が、部下が部下だからなぁ。

「……あの勇者様――」

「ヴェルトランでいいですよ、オルティア姫」

「い、いえ! そういうわけには」

「構いませんよ。僕が勇者であっても所詮はよそ者。それに、その呼び方はあまり慣れない物で……」

「では……せめて大佐? とお呼びしても?」

「まあ、別に構いませんけど」

「わかりました。大佐って確か階級の事でしたでしょうか?」

「ええ、そうですが」

「他の皆様にも階級があるのですか?」

「皆軍人ですからね。階級はありますよ」

「そうなのですか」

『僕は少佐でペストさんが少尉。カルさんとバカコンビは軍曹』

「「誰がバカやねん!?」」

 しかし、ディートリヒは双子共をスルーして話を続ける。

『で、アイケさんが中佐でベルガー君が上等兵』

「ボクがこの中で一番下の階級です」

「そうなのですか? あの親衛隊の神速の剣技を持つメルセリダと互角に打ち合ったのに」

「ボクは元々、ある剣士の一族の人間なのです。でも、ボクは気が弱くて……」

『それで自分に自信をつけたくてわざわざ帝國軍に志願したんだよな。アイケさんといい勝負ができるほどの剣技を持っているのに、今だにこんなんだからな~』

 と、ベルガーの頭をポンポンと叩くディートリヒ。

「うう……」

「こらこら、ベルガーをいじめない」

『へーい』

「しかし、城の中ってこんな感じか初めてだぜ」

「だな。オレらみたいな軍人には縁遠いものだからな」

 きょろきょろと城の中を見回す双子共。

「この世界の魔法はどんな感じなのかしら? あの転移魔法といい、いろいろ興味深い……」

「お腹すいたな~」

 カルさんとペストさんの二人はそんなことを呟いていた。

「うう……なんだか場違いですよ、ボク達……」

「怯える必要はない。堂々としていろ」

 怯えるベルガーにアイケさんは彼の背中を軽く叩いてそう言った。

「……ふふ」

 オルティア姫が小さく笑った。

「どうしました?」

「いえ、大佐様のお仲間の皆さんは賑やかで楽しそうでついほほえましく」

「まあ、賑やかな隊員達ですが、問題児揃いでもありましてね」

「そうなのですか? 皆さん大佐様のことを慕っていそうな感じですけど」

「慕ってくれてはいますが、いろいろ問題ばかりも起こす奴らでして……」

 

「根は悪い奴らではないのですけどね」

「まあ、それは大変そうですね」

「もう慣れてますけどね」

「ふん、それは貴様の統率力がないだけじゃないのか?」

 従者騎士のクルトが素っ気ない態度で言う。

「クルト!」

「だいたい勇者は王国のために勇敢で正義感ある者だと思ったのに、こんな拍子抜けな男が勇者だなんて」

「ですが、大佐様は軍人なのです。かつて召喚された勇者は平民と変わらぬ者であったそうですが、軍人である大佐様なら戦いの経験だってあるでしょう。もちろん大佐様のお仲間も」

 必死に僕達のことを擁護するオルティア姫。

「大佐様、見知らぬ世界でいろいろ不安でしょう。ですので、先程大佐様のお言葉通り、大佐様のやり方に全てお任せします。何か必要なことがございましたら何なりとお申し付けください」

「ありがとうございます」

「おい、のんびりだけはするなよ。王国、ひいては世界が魔王に支配されたら何の意味もないんだからな!」

 と、クルトに釘を刺されてしまう。

「留意しておきますよ」

 僕はそう返事した。


 城内を出て、用意された馬車に乗り込んだ僕達。

 本当は一台だけのつもりが僕達のために追加で二台も用意してもらった。

 僕はオルティア姫とクルトとディートリヒと一緒に。

 あとはビットリヒさん、ハイドリヒさん、ベルガーとアイケさん、ペストさん、カルさんの二つのグループに分けて二台の馬車に乗せました。

 馬車に揺られて用意された拠点へ向かう僕達……。

『どんな拠点だろうね、大佐~』

「……あの、つかぬ事を聞きますが」

「ん? なんでしょうか」

「えっと、ディートリヒさんでしたか? 随分と変わった声を発していますが……」

『ああ……これね』

 ディートリヒはそう言うと首元のスカーフを少し下げた。

「……!?」

 オルティア姫は驚愕な表情を表した。

 ディートリヒの首には……傷跡と人口咽頭機の魔道具が付けられていた。

『戦場でやらかしてね。まあ、命があっただけでも奇跡でしたよ』

「……僕達はこれでもかなり戦場を駆け抜け、たくさんの戦いの経験をしています。そして僕達の世界はいまだに戦争中……」

「そ、そんな……も、申し訳ありません! こんな大変な時に」

「過ぎたことはとやかく言いませんよ。今は目の前のことをどうにかする。それだけですよ」

「大佐様……」

 申し訳なさそうにするオルティア姫。

『大佐ったらカッコいいこと言っちゃて~』

 と、肘でつついてくるディートリヒ。

「カッコつけたつもりはありませんよ」

「あ、そろそろ着きますよ、大佐様」


 目的の場所に着いて、僕達は馬車から降りると、そこには少し大きい屋敷があった。

 辺りには木々に囲まれた自然豊かな場所であった。

「元々はこの町で勇者様の仲間になってくれる方達と共に生活できるようにこの屋敷をご用意いたしましたが、丁度良かったです」

「この屋敷は……」

「このお屋敷は元々ある公爵様が住まわれていたお屋敷でしたが、公爵が突然このお屋敷を手放して一家と使用人共々失踪して以来、長らく使われておりませんでした」

「なんでそんなことに?」

「私にもさっぱり……。なにせ五十年以上前のことで、騎士団も必死に捜索したそうですけど、結局見つからず、捜索も断念してそのまま放置状態だとか……」

 それはまたミステリーな事だな……。

「それにしては随分綺麗ですね。最近まで人が住んでいたみたいな感じですが」

「ええ、この時のために私の直属の侍女達がいつでも使えるように綺麗にさせておきました」

 まさかそこまで用意しているとは……。

「姫様、勇者様、お待ちしておりました」

 入り口から小柄で可愛らしい黄色髪の侍女が現れた。

「小柄なわりに」

「ナイスバディ」

 と、双子共が呟いた。

 バチバチ!!

「「ギャッ!?」」

 何か電気が走る音と同時に双子共が悲鳴をあげ、オルティア姫やクルトに侍女、そしてベルガーが驚いた。

「ど、どうしたのですか!?」

「いえ、なんでもございませんわ」

 姫の問いにペストさんがにこやかに答えた。

 ……そして痺れた双子共を見やるや、ゴミを見るような目で見ながら鼻で笑った。

「えーコホン! お初にお目にかかります勇者様。あたしはここの管理を任されました。リリネットと申します。以後お見知りおきを」

「お世話になります。僕はヴェルトランと申します」

「ヴェルトラン様……。そちらの方達は?」

「僕の部下達です。彼らと共にお世話になりますが」

「もちろん構いませんよ。大歓迎です!」

 元気いっぱいな娘だな。

「それでは大佐様、私達は先に城にお戻りいたします」

「わかりました。お気をつけて」

「何かわからないことがあったらリリネットにお聞きください。あと、私に御用がありましたらいつでも城へお越しください。それでは」

 そうしてオルティア姫とクルトは城へ戻って行ったのであった。


 屋敷の中に入った僕達。

 リリネットが一階の談話室であろう部屋に案内された。

「では、この屋敷の内部を説明いたしますね」

 リリネットがテーブルに屋敷の見取り図を広げて説明し始めた。

「まずここが私達のいる談話室。それでここは……」

 長くなるので省略。

「と、屋敷はこんな感じです」

『流石は公爵様の屋敷ですね~。アホみたいに広いよ』

「ぼ、ボク達には身に余る拠点ですね……」

「つか、完全に贅沢できるところだな」

「オレ達軍人にとってこんなところで生活するなんて一生ないことだからな」

 確かに、これはいくらなんでも広すぎる……。

 僕達のような分隊如きにこの屋敷はかなり勿体なさすぎる。

「ちなみに、君以外の侍女は何人いるのですか?」

「今ここにいる侍女はあたしを除いて二人。その二人はあたしの妹なのです。今二人共食材の買い出しに城下町まで行って、もうすぐ帰って来るはずなのですが……ちょっと遅いですね。あたしちょっと町まで行ってきます」

「誰か随伴させましょうか?」

「いえ、大丈夫です。皆さんはここでゆっくりしていてください」

 そうしてリリネットは出かけて行った。

「…………さて、諸君」

 僕は皆の方に向き合う。

「これからこの世界でどうするか少し話し合いましょうか」

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