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異世界軍人と七人の兵士共  作者: 藍染 珠樹
序章
1/9

戦火絶えない世界

「本当によろしいのでしょうか、姫様」

「ええ。復活した魔王がいつこの王国に攻めてくるかわかりません。この頃各地の魔族の活動も活発化し、我々では手に負えなくなるかもしれません」

「ですが、異世界からの勇者の召喚は王族代々禁じられていたはずでは」

「そんな悠長なことは言っていられません。王国の精鋭騎士団の隊長も行方不明で騎士団の士気も下がり、周辺諸侯や権力者達は己のことしか顧みないために頼りになりません。そして父上も……」

「姫様……」

「今ここで動かなければ何も始まりません。さあ、やりましょう。召喚の儀式を……。この国のために!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…………見つけた」

 僕は森の中をこそこそと動きながら一つの村を見つけた。

 双眼鏡で村を覗いてみると……エルフとダークエルフと青い軍服を着た人間がいた。

 その村は今……青いベレー帽に青い軍服を着た人間達に荒らされ、エルフ、ダークエルフ達は次々と捕らわれていた。

「やれやれ、クソッタレ王国軍共め」

「どうするんだ大佐?」

「早く助けねえとやべえぞ!」

 僕の後ろにいるシュタールメットをかぶり、灰色の軍服を着た兵士二人が僕に言う。

「落ち着いてください。まだ他の分隊からの連絡が――」

 その時だった。

「や、やめて!! その娘だけは!!」

「うるせえぞ、クソ共が!!」

 村の方でエルフに暴行する王国軍。

「もう我慢ならねぇ!!」

「よし、行くぞ!!」

「あ、ちょっと――」

「「うおおおおおおおおおお!!」」

 僕は村へ突撃する二人を止めようとしたが、行ってしまった……。

「ちっ、あのバカ共が」

 舌打ちするクールそうな女兵士。

「ど、どうしましょう、大佐」

 気弱そうな兵士が僕に問う。

「ディートリヒさん、他の分隊は?」

『……まだ。連中トロすぎるよ~』

 僕の問いに可愛らしい機械音声で答える首にスカーフを身に着けた陽気そうな兵士。

 手にはレーダーのような物を持っていた。

「仕方ありません。まあこうなるのは予想していましたしね。ベルガー、先に切り込んで、王国軍を撃滅しながら、あの二人に住民の救助をさせるように指示させてください。行って!」

「は、はい!」

 僕の指示を聞いて頷いた気弱そうな黒髪の兵士は腰に着けた軍刀を抜き、村へ向かった。

「アイケさんは木の上から狙撃。ディートリヒとペストさんは別方向から。カルさんは僕と一緒に」

 僕のそれぞれの指示に全員頷いた。

「よし、行け!」

 僕の号令で残り全員がそれぞれ行動を開始した。

 僕は短機関銃MP40の撃鉄を引いて、身長が高い女兵士と共に村へ駆け行く。

 村の方では銃声が鳴り響いている。

 もう戦いは始まっている。

 最初に突撃した二人の兵士がライフルGew43と突撃銃StG44で住民を守りながら王国兵と戦い、後から参入した気弱な兵士は軍刀でバッサバッサと王国兵を斬りまくっていた。

 銃火器で戦っている二人は住民にうまく当てないように王国軍だけを着実に片づけている。

「て、帝國軍め!!」

「クソ、どうするんだ!?」

「一旦退いて他の部隊と……ガッ!?」

 突然の襲撃に慌てふためく王国軍。

 僕らも村に到着し、王国兵に攻撃をし始めました。

「王国兵を一人たりとも逃がすな! 全て殺せ!!」

「クソ、せめてこいつらだけでも道連れに――」

 やけくそになった一人の王国兵がダークエルフに斬りかかろうとした瞬間だった。

 ダァァァァァン!!

 バキャッ!!

 その王国兵は先程指示したクールな女兵士のKar98kによる狙撃によってバタリと倒れた。

「う、動くな、帝國兵共!!」

 別の王国兵が幼いエルフを人質に取り、エルフの喉元に剣の刃を突きつける。

 だが……。

 カチャリ!

「!?」

 王国兵のこめかみに銃口が突き付けられた。

『死ねよ、ゴミクズ』

 バァァァン!!

 別方向から村に入った先程の陽気な兵士が歪な笑みを浮かべながらドスの利いた言葉を吐き、王国兵の頭を撃ち抜いた。

人質に取られたエルフは解放されて、エルフは慌ててディートリヒにしがみついた。

「く、クソ!!」

「こいつら強いぞ!!」

「は、早く逃げるぞ!!」

 他の王国兵達がバラバラになって村から逃げ出そうとした。

「残念ですけど、逃がしませんわよ」

 お淑やかそうな女兵士がそう言うと、地面に手を着けた

 すると、村の周りに土の壁が突然現れ、王国兵達の退路を断った。

「そ、そんな!?」

 逃げられなくなった王国兵達が絶望する。

 ズドドドドドドドドンッッッ!!!

 さらに追い討ちをかけるように身長の高い女兵士が二丁の機関銃MG42で次々と王国兵を薙ぎ払う。

 そして、数分後には王国兵は誰一人生きていなかった。

「チェックしてください。生きている王国兵がまだいたら始末してください」

 僕はそう指示しながら死屍累々となった王国兵を調べていた。

 そんな時だった。

 一人の王国兵が全速力で逃げ出していた。

『あ、あの王国兵、全速力で逃げてるよ!!』

「おっと、逃がすわけには――」

「皆さん、待ってくださいまし!!」

 突然、お淑やかな女兵士が止めた。

 そうするうちに、王国兵は土の壁を思いっきり跳び抜けて行ってしまった。

「……あの王国兵、風属性による身体強化魔法を纏ってましたね……ペストさん、まさか」

「はい……一人だけ生きておりましたので、情けで治癒魔法をかけて、さらに全速力で逃げられるように身体強化魔法もかけておきましたわ。仲間の王国軍の元へ逃がすために」

 そんなことをするのは普通許されないこと……なのだが。

「ペストさん」

「……はい」

「……何をしました?」

「…………」

 不気味な笑みを浮かべながら小声である事を伝える女兵士。

 どうやらあの逃げた王国兵にとんでないものを仕掛けたようです。

『おお怖い。あの兵士も哀れだねぇ。同情はしないけど』

「君も似たようなものでしょう。気分で敵兵士をひき肉にしたり」

『何のことかな~?』

「……まあいいや。とりあえず他の分隊もそろそろ到着する頃です。その間に怪我をした住民の手当て、王国軍の死体の後始末をしますよ」

「「「了解!!」」」

『了解~!』

 僕は皆さんにそれぞれ指示を出すと、エルフの男性とダークエルフの女性がこちらにやって来た。

「帝國軍の皆様。このような村のためにありがとうございました。私はこの村の村長で、こちらは妻です。」

 どうやらこの村の村長のようで、奥さんもぺこりと挨拶をした。

「レーヴェ帝國軍大佐のヴェルトランと申します。王国軍がこの森に入ったと報告があったので、追いかけて討伐したまでですよ」

「それでもあなた方我々の恩人です。どうか礼を」

「いえいえ、お気になさらず。……では礼の代わりに聞きたいのですが、エルフとダークエルフが共存しているのは珍しいですね。両者は仲が悪いというのはよくありますが」

「確かに両者は互いに相容れぬ存在……ですが、私達は皆、王国軍に追われ、この地にたどり着き、互いに支え合ったからこそ、対立していたエルフとダークエルフが共存できるようになったのです。まあ、この村だけのことですが」

「それでもこうして共存できるのはいいことです。我々帝國も魔族や亜人達ともっと交流を深め、共存できるようにしたいです。そのためには一刻も早くルスラン王国を打倒し、平和な時代になるよう奮闘しましょう」


 この世界は人間をはじめ、魔族や亜人族などが存在している。

 かつて魔族の王、いわゆる魔王が西のルスラン王国を攻め滅ぼそうとしていた。だが、一人の勇者とその仲間達のおかげで王国は救われたのであった。

 だが、十数年後……。

 今度は東のレーヴェ帝國とルスラン王国との戦争が勃発した。

 しかも両国の大地が広いためこの戦争はかなり長く続いていたのであった……。


「このバカ者が!!」

 村での後始末が終わった後、他の部隊に村を任せて僕達は拠点に帰還した。

 そして僕は今、老将軍からのカミナリを受けていた。

「貴様の分隊は何故いつも待てないのだ!?」

 先に突撃したことにお怒りのようです。

「お言葉ですが将軍。他の連中が遅すぎかと」

「いや、貴様の分隊が早すぎるのだ」

「仕方ありませんよ。皆、曲者ぞろいですから」

「貴様はその曲者ぞろい共をコントロールするのが役目だろ!?」

「まあ、おっしゃる通りですね」

「……まあ、貴様らの早い行動のおかげで被害は最小限に抑えられた。そこだけは褒めてやる」

「ありがたきお言葉」

「だが、あまり無茶はするなよ。ヴェルトラン」

「留意しておきます、爺さん」

「ついでにディートリヒの馬鹿にも言っておけ」

「言っておきますよ。無駄だと思いますけど」

「はぁ……まあいい。もう行ってよいぞ。今日はご苦労だった。数日後に中央前線に行ってもらうから、頼むぞ」

「了解しました。失礼いたします」

 僕は敬礼して、その場を後にした。

「やれやれ、疲れた」

 僕はあくびをして身体を上に伸ばした。

『大佐♪』

 陽気な機械音が僕を呼んだ。

 そこには首にスカーフを身に着けた中性的な兵士がいた。

「ディートリヒ」

『お疲れさん。またまた派手に怒られたね~』

「仕方ないだろ。うちの部隊が曲者ばかりですから」

『まあ、そうだよね~』

「お前もな」

『え? 何のこと~?』

「……将軍があまり無茶ばかりするなよと言われましたよ。君にもね」

『やれやれ。あの爺さんも心配性だな~。だいたい僕と大佐をここまで叩き上げたのは誰なのかな~』

「とりあえず皆さんの所に行きましょう」

『了解~。アイケ中佐が皆を集めて待ってますよ~』

 そうして僕は皆の所へ向かった。


 そう言えば自己紹介がまだでしたね。

僕の名前はヴェルトラン・シュタイナー。レーヴェ帝國軍の大佐です。

 この眼鏡かけた陽気な奴はディートリヒ・シュタイナー少佐。

 苗字が同じでありますが、血が繋がった兄弟ではありません……が兄弟同然に育った仲です。

 なにせ僕とディートリヒはかつて孤児院で育てられた孤児でしたが、いろいろあって二人まとめて軍人の家に引き取られてそのまま軍人になったのです。

 引き取ったその軍人は……先程僕に説教をしたあの老将軍のエルンスト・シュタイナーです。

 あのお爺さんにはいろいろ叩き込まれたおかげで僕は士官学校にて高成績を収め、戦地でもいろんな功績をあげて、そして若くして大佐まで昇り、今はシュタイナー将軍率いる第四師団の分隊の隊長を任されています。

 本来なら大佐ぐらいの階級なら大隊の大隊長を任される……はずなのですが、僕の率いる分隊はかなり曲者揃いです。

 元々そいつらはそれぞれ別の部隊にいたのだが、まあそいつらがそれはそれは相当な曲者故に他の兵から煙たがられている問題児共の集まりだった。

 ちなみにこのディートリヒも問題児です。

 陽気で明るい性格なのだが……本性はいたってかなりヤバいです。他の兵達が恐れてドン引きするほど。

 後にわかります。

 ちなみに僕はいたって普通……のはずです。多分。

 そんなこんなで皆さんの所に着きました。

「おかえり、大佐殿」

「やあ、ただいま。まったく君達双子共のおかげで将軍のカミナリが落ちましたよ」

「カミナリなんて落ちて直撃したら死ぬんじゃね?」

「そういう意味で言ったわけでは……まあいいや」

 さて、分隊の皆さんをご紹介しましょう。

 まず、先程の戦闘で先走って突撃したこの二人。

 ツンツン頭がビットリヒ・ハウサー軍曹。

 天然パーマ頭がハイドリヒ・ハウサー軍曹。

 二人は双子で猪突猛進な性格のバカコンビです。

 だけどコンビネーションはまあ最高。

 ビットリヒは身体補助魔法が扱え、ハイドリヒは治癒魔法が扱えるのである。

 ちなみにどっちが兄か、弟かは知りません。当の本人達もわかってないのである。

 だが、全く気にはしていないようである。

「ま、俺達のコンビなら!」

「どんな困難も余裕だぜ!」

 だから問題児とされてるんでしょうが、バカコンビ共が。

「……毎度怒られる僕の身にもなってください」

「「へ~い」」

 反省してないなこいつら……まあいいや。

 これ以上言っても無駄だし、あまり言いすぎると敬遠されそうだからやめておこう。

「このようなおバカさん達には少しお仕置きが必要なのではございませんか、大佐? よろしければわたくしが――」

「やめてください。あなただといろいろシャレになりませんよ、ペストさん」

 このお淑やかな金髪の女性はエウレカ・ペスト少尉。

 魔法に関してはかなりの技量を持ち独自にいろんな魔法を編み出し、あらゆる魔法を扱える……のですが、恐ろしいことに敵兵や気に入らない相手は人体実験素材(本人曰くモルモット)としか見ていない最悪な性格を持ち合わせており、魔法で拷問を楽しんだり、時に強力な魔法を連続で使用するとテンションが上がり、止まらなくなってしまう問題児というかもはや危険人物である。

 ……ちなみに先の戦闘で逃がした王国兵ですが、ペストさんは小声で恐ろしい事を言いました。

 あの逃がした王国兵にペストさんは治癒魔法や風属性の身体強化魔法をかけた……と同時に体内に火属性魔法による時限爆弾を着けたそうです。

王国兵はそうとも知らずにそのまま自軍の陣地に逃げ帰ってしまったのでしょう。

 そしてドカン……。

 哀れ……だけど同情はしません。

 平和に暮らしていたエルフ、ダークエルフ達に乱暴なことをした天罰だと思って。

「じゃあうちでよろしければ」

「カルさんも加減が効かないのでやめてください。死んでしまいますよ?」

 分隊の中で身長が高く、この能天気そうな女性はカルさんことメリル・カルテンブルンナー軍曹。

 皆さんからはカルさんと呼ばれています。

 分隊随一の力自慢で機関銃二丁同時にぶっ放すのは朝飯前な程。

身長が高い割に体格は普通な感じなのに、どう鍛えれば機関銃二丁を軽々持てるのが不思議な物です。

ただ能天気な性格でカルさんの辞書に考えるという言葉がなく、力加減が効かないうえに面倒事は力任せで解決しようとする脳筋な人である。

双子共と似たタイプの問題児です。

「大丈夫ですよ。おでこに軽くデコピンを」

「それで前にペストさんを脳震盪で気絶させたばかりでしょう」

「そうでしたっけ?」

「あの時は死ぬかと思いましたわ……」

「それは申し訳ないです」

 カルさんはペストさんにペコリと謝る。

「で、デコピンで脳震盪……」

 今の話を聞いて震える気弱そうな兵士。

 この気弱な兵士はアイリス・ベルガー上等兵。

 分隊の中では最近入ってまだ半年しか経ってない新兵です。

 可憐で可愛らしい黒髪の美少女で声もとっても可愛らしい……なのだが、実は男である。

 入った当初は全員女の子だと思ったほどです。

 普段から気が弱く臆病な面もあるのです……が、剣の腕に関してはかなりの達人級で臆病に見えても襲い来る敵はバッタバッタ斬り捨ててしまいます。

 見た目に反してめちゃくちゃ強いです。

 だけどあの性格とあの容姿故に他の部隊からいろいろ邪険に扱われたそうで、挙句ここに流れて来たのです。

 元々彼女……じゃなくて彼は帝國内にある集落出身で剣士一族の末裔だそうです。軍に入ったのは自分の臆病な性格を叩き直すために入ったとか。

 だけど、いまだに臆病なのは治っていませんが、血筋故に剣の腕は最強です。

 そして他の奴らより良識ある方です。

 だけど容姿のことで時折ネガティブに陥ったりして、時にとんでもない自虐行為もするので、問題があるとするとそこら辺ですね。

 前にもあることをしようとして、それを止めるのに苦労しましたよ……あ、なんなのかは黙秘で。

 そろそろ自分に自信つけてね。

「貴様ら、そろそろ静まれ。大佐」

「あ、はい」

 この冷静で少し不愛想な感じの女性はアイケ中佐。

 元は爺さん……シュタイナー将軍の部下であったが、現在は将軍の計らいによりこの部隊にいます。

 ちなみに僕とディートリヒにとって、彼女は近接戦闘の師匠でもあります。

 基本狙撃担当なのですが、近接戦闘から潜入工作、暗殺等、あらゆる任務を軽々とこなしてしまうかなりのエリート軍人です。

 彼女だけ苗字がないのはちょっと出自が理由で、まあ後程に。

 彼女も良識ある方でいろいろとあらゆることで何度も助けられています。

 ちなみに不愛想に見えますけど案外面倒見いいですよ。

 だけど彼女との対人訓練は容赦ないですけどね……。

 本来なら彼女が一番軍歴が長いのですが、何故中佐止まりかは不明である。

 聴いてみようとしたら一本取ってみろと言われたので辞退しました。

 戦闘面で彼女に勝てるわけないから……。

『では、大佐より訓辞!!』

 最後に僕の副官であり相棒でもあるディートリヒ・シュタイナー少佐。

 彼が副官なのは長い付き合いもあってのこと、僕からの希望により、ディートリヒより階級が上であるアイケさんではなく彼が副官なのである。

 ディートリヒはいろんな道具や兵器を作ったり、仕掛けたりする工作員です。

 他にも雷属性の魔法も多少扱えたり、二丁の拳銃で戦ったりもします。

 ちなみに彼がこのような機械音声なのは……かつてある戦闘で喉を負傷し、幸い命まで落とさなかったが、傷が元で本来の声が出せなくなってしまったのです。

 本来なら声も出せなくなった時点で焼夷退役されるところを彼はある物を作ってなんとか退役を免れた。

 彼が今こうして声を発しているのは首に人口咽頭を着けているからです。

 こんな可愛らしい声にしたのは本人の悪ふざけによるものです。

 まあ、顔立ちが中性的だから女装させたらホントに女性と思われても不思議ではない。元から女の子と思われるベルガーといい勝負です。

 スカーフはそれを隠しているために着けているのである。

 彼とは孤児院時代からの長い付き合いもあって、一番心を許せる人です。

 だけど本性があれだから問題児であることには変わらないのですけどね。

「さて、諸君。諸君らの活躍のおかげでエルフ、ダークエルフの村は救われた。まあ、先行しすぎて怒られもしたが」

「まあまあ、終わりよければ」

「全て良しだ」

「……まあ、ともあれ今回はご苦労様でした。いまだ王国軍は帝國に侵犯し、平和に暮らす魔族達に危害を加えているでしょう。ですが後日、我々は前線へ赴くことになります。また危険な戦いになりますが、諸君らの奮戦に期待してますよ」

「「「はっ!!」」」

 

「はぁ……疲れた」

 僕は帝都に帰還して、兵舎の自分の部屋の寝床に倒れこんだ。

 先程の拠点から帝都までかなり距離がある……のですが、広大な大地故に拠点各地に転移魔法装置が設置されており、好きな場所へ行けるようになっているのである。

 もちろん王国軍のも同じのがあり、もし帝國軍が王国軍の拠点を占拠すれば、その転移装置は帝國軍の物になり、王国軍は使用できなくなる。

 その逆もまた然りである。

 ちなみに僕達がいた拠点は後方南部拠点と言う場所。

 主な拠点は七つあり、前線、後方の二種に北部、南部、中央と三つに分かれている。そして本部はもちろん帝都である。

 僕の分隊は帝都からいろんな所へ飛んで戦地を転々と渡り歩く所謂遊撃隊ですね。

『お疲れ様、ヴェル』

 僕の部屋は二人一部屋でルームメイトはもちろんディートリヒ。

 ディートリヒは僕と二人だけの時愛称で呼ぶのである。

 僕も基本的に二人だけで会話する時だけ言葉使いが変わります。

「まったく、あの連中率いるのも楽じゃないな。頭が痛くなる」

『皆個性強すぎるけど、他と比べたらかなり精鋭中の精鋭だからねぇ。今までたくさん戦果上げてきたし』

「その度に何かやらかしては怒られたりもするけどな」

『あははは、ドンマイ♪』

「まったく、こいつは……」

『……それにしてもずっと続いてるね、この戦争』

「帝國も王国も前進したり後退したりする日々が続く毎日……」

『だいたい、元はといえば全部あのクソッタレ王国が元凶じゃない』

「まあ、あのクソ共が度々コソ泥のように越境侵犯していましたから、そりゃあ戦争にもなるわな」

 そう、元々この戦争の発端は西のルスラン王国が東のレーヴェ帝國に越境侵犯したのが始まりだった。

 王国は魔族や亜人族に対して迫害的で奴隷にもしたりしていた。

 そのせいで一度魔王に王国を滅ぼさそうになったが、王国はどこで勇者共をこさえたのか、勇者達の活躍により魔王は倒される。

 今は魔王の娘が新たな魔王であるが、王国内では魔族、亜人族に対する扱いはますますひどくなる一方。

 魔族達の領域と王国の行き来は王国のせいで取り締まりが厳しいため、帝國に亡命する者もいる。

 帝國は魔族や亜人族に対しては寛容なので亡命を受け入れていた。

 だが、王国はそれが気に食わなかったのか、度々帝國内に越境侵犯しては、亡命した者達を秘密裏に襲撃していたそうだ。

 越境侵犯はすぐに帝國中に知れ渡り、レーヴェ帝國は宣戦布告。

 こうして長きに渡る大戦争の幕開けとなったのであった。

 なお、この戦争はもう十五年以上も続いていた……。

 僕とディートリヒが将軍に拾われたのもこの戦争中の時にである。

 僕とディートリヒがかつていた孤児院は魔族や亜人族の子供達もいた。

 だが、王国軍の襲撃により責任者や他の子供達はみんな殺されてしまった。

 僕とディートリヒは運良く生き残り、後に帝國軍に保護され将軍に引き取られる。

 ちなみにどのように生き残ったかはいつか語る。

「この戦争が終わるにはどちらかの国が滅ぶぐらいでないと終わらない……」

『それならさっさと王国を滅ぼして、帝國に完全勝利を』

「だけど両国の地形は恐ろしいほど広いですからね。滅ぼすのも一苦労だ」

『まあ、それもそうか』

「とりあえず、今日はもう寝よう」

『その前に、トランプやろうよ♪』

 トランプカードを出してにっこりしながら言うディートリヒ。

「お前な……少しだけだぞ」

 そうしてポーカーを十回ほどやりましたが、全部負けました。

 だって、ディートリヒさんはトランプに関してはめちゃくちゃ強いですもん。イカサマも通じないほどね。

 ちなみに新たな魔王は戦争勃発の翌月帝國と同盟を組むが、戦いの手出しは無用と帝國側が発言し、物資の援助や帝國内に亡命している魔族達の保護を頼んでいるのであった。

 

 さて、数日後。

 帝國軍中央前線基地にて。

 僕とディートリヒは今、軍議に出ている。

 他の皆さんは外で待機中。

 軍議には爺さんことシュタイナー将軍をはじめ、僕と同じ階級で隊長を務めている者や将軍階級の者もいる。

全員灰色の軍服ではなく黒の軍服を着ている。もちろん僕も黒の軍服です。

 ちなみに爺さんは大将であり、帝國軍総司令官でもある。

 爺さんも僕達のように各地を周り、爺さんがここぞという時に僕達を出撃させる。

 今回も僕達をこの中央前線基地へ赴かせたからにはやはり重要な役割を任せられるであろう。

 僕達は今、一つの地図を見ていた。

「で、ここの辺りに王国軍の大隊規模の部隊が集結しているわけだな?」

「はっ! 偵察機を飛ばした所、大隊規模の部隊の確認が取れました」

「やれやれ、懲りない連中ですこと」

「とはいえ、ここまでの部隊を集結したとなれば、また激戦になるな」

 僕はしばらく考えた後、口を開く。

「この大規模部隊以外に動いている部隊の確認は?」

「申し訳ありません、ヴェルトラン大佐殿。あの部隊を確認して数秒後に偵察機が見つかり、落とされてしまいました」

『あちゃ~、ダメだったか~。バレないようにカモフラージュ機能搭載したのに』

「単に空と同じ色に塗装しただけでしょ?」

『まあね』

 偵察機はディートリヒの製作で発案者は僕である。

 ディートリヒは作るのは上手いが誰かの案がないと何も作れないという謎の欠点がある。

 ついでに僕の案以外誰の案も効かないというこだわりがある。

 まあ、そいつらの案を僕が聞いた限り、ロクな案ではなかったのではあるけど。

ちなみに先日の村での戦いもあの偵察機が帝國内に不法侵入してきた王国軍を見つけた。

そしてかけつけたらその村に襲撃しているのを見つけたのであった。

 偵察機は機体に風魔法を付与し、監視魔道具と呼ばれる宝珠を取り付けている無人機である。

 監視魔道具は拠点から映像魔道具で全て見られる。

 機体自体は風魔法が切れる寸前にこちらに戻り、また再付与して飛ばすリサイクル法でやっているのであった。

「丁度雲が出て来たばかりに見つかったようでして」

「まあいいでしょう。まず大規模部隊は必ず止める必要があるとして、他の所も警戒しなければなりません」

「でしょうね。ここばかり集中していたらまた王国軍がコソ泥のように不法侵入されかねないからね」

「ふむ……ではアルテナ准将。貴官の大隊を率いてこの大規模部隊を任せてもらおうか」

「お安い御用よ。シュタイナー将軍」

「偵察機が見つかった以上、王国軍は何か仕掛けてくるかもしれん。留意するように」

「はっ!」

「あとはリッケルト大佐、ラーゲル中佐はこの大規模部隊を中心に他の方面からの王国軍の動きを警戒せよ」

「はっ!」

「了解しました」

「ヴェルトラン大佐はアルテナ准将と共に行き、遊撃部隊として動いてもらう」

「了解しました」

「他にも各部隊に…………」

 そうして軍議は終了した。

 僕はディートリヒと共に、皆の所へ向かう。

 その途中、先程軍議にいた女将軍のアルテナ准将が声をかけてきた。

「やっほう、ヴェル君」

「アルテナ将軍」

「あんたの部隊、先日も南の方で派手に暴れたそうじゃない」

「あはは、お恥ずかしい限りで」

「だけど、今日はあたし達が大暴れさせてもらうからね」

『ま、大軍相手に一騎当千のごとく大暴れできるのはうち以外アルテナ将軍だけだもんね〜』

「当然よ。あんたのとこのアイケやベルガーがうちの部下にいれば半日で王国領を三分の一まで削れそうだけどね」

「それはそれは大した事で」


 アルテナ将軍と他愛もない会話をし、外に出ると、他の皆さんが待機していた。

「では、将軍。また後程」

「ああ」

 僕はアルテナ将軍と別れ、皆の所へ向かった。

 アイケさんに預かってもらった短機関銃を僕は受け取り、全員がいるのを確認する。

「よし、集まりましたね。では、今から僕達は――」

 その時だった。

 突然、僕を中心に魔法陣が浮かび上がった。

「え!?」

 突然の出来事に分隊全員はもちろん、周りにいた兵士やアルテナ将軍に外に出て来たシュタイナー将軍も全員が驚愕した。

 そして、魔法陣の中には分隊全員入っていた。

「な、なんだこりゃ!?」

「まさか、王国軍の魔法か!?」

 双子は慌てふためく。

「い、い、いったいなんなんですか!?」

「魔法陣から出ればなんのことも――」

 と、カルさんは魔法陣から出ようとした……が、見えない壁に弾かれてしまったようだ。

「あれ? 出れないや」

 どうやら魔法陣からは出られないようであった。

「ペストさん、この魔法陣の解除を!!」

「言われなくても!!」

 僕はペストさんに命じると同時に実行するペストさんは魔法陣に触れ魔法陣の解除を試みようとする。

 だが……。

 バチィッ!!

「!?」

 ペストさんは弾かれるように魔法陣から手を離した。

「あらら、解除できないようですわね……」

『マジか!?』

 魔法陣の光が一向に強くなった。

「くっ!?」

「ヴェルトラン!!」

 魔法陣の外からシュタイナー将軍とアルテナ将軍が駆け寄って来た。

「将軍――」

 次の瞬間、魔法陣の眩い光に目が眩み、意識を失ってしまった……。


『いつか、あなたの世界へ行ってみたいです』

『あ、あたしも行ってみたいな~』

『行けるかどうかわかりませんけど……まあ、行けたらいろいろ案内しますよ』

『約束ですよ、○○』


 この声、とても懐かしい声だ……。

 そして、この約束もいつかしたことがあったな……。

 だけどその約束はもう……。

 それに今の僕はもうあの時の僕ではない……。

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