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失せもの探しの太鼓

作者: ウォーカー

 これは、片田舎の村に引っ越してきた、ある男の子の話。


 山々に囲まれた、片田舎の村。

その男の子は、両親に連れられて、その村に引っ越してきた。

今は、父親に手を引かれて、近所の人達に挨拶をしてまわっている最中。

村人に出会う度に、父親が頭を下げて挨拶をしている。

「この度、こちらの村に引っ越してきました。

 よろしくおねがいします。」

「ご丁寧にどうも。

 遠くから引っ越してこられて、大変でしょう。

 お困りのことがありましたら、相談してくださいね。」

村人と立ち話をしている父親と、

その父親に手を引かれているその男の子。

その男の子が、所在なく視線を漂わせていると、

向こうの方で、村の子供たちが集まって遊んでいる姿が目に入った。

村の子供たちの方も、その男の子の視線に気がついたようで、

数人の子供たちが近付いてきて、話しかけてきた。

「君、今度引っ越してきた子だろう。」

「う、うん。そうだよ。」

その男の子は、ちょっと人見知りして返事をする。

話しかけてきた子供は、その男の子と同年代のように見える。

その子供は、笑顔になって話を続ける。

「そっか、引っ越してきたばかりなのか。

 だったら、みんなと一緒に遊ぼうぜ。

 新しく引っ越して来たのなら、かくれんぼとか、どうだい。

 大人たちの話を聞いていても退屈だろう。」

思っていたことを、言い当てられてしまった。

父親の挨拶回りについていくのも、飽きてきたところだった。

その男の子は、父親を見上げて尋ねる。

「ねぇ、パパ。

 パパがご挨拶している間、僕はみんなと遊んでてもいい?

 かくれんぼしようって、誘ってもらったんだ。」

その男の子を見下ろして、父親は考えながら応える。

「えっ、この村の子供さんたちとかい?

 まだ引っ越してきたばかりだし、

 パパと一緒にいた方が良いと思うけど・・・。」

しかし、まだ挨拶回りはいくらか残っている。

子供の足でそれについて来させるのは、酷だろうか。

父親はそう考えて、やさしく応えた。

「よし、じゃあ少しだけだぞ。

 みんなの言うことを、よく聞いてね。

 それと、村から遠くに行っちゃだめだよ。

 村の周りは危ないからね。」

「はーい。」

「やった!」

その男の子と父親のやり取りを見て、村の子供たちが歓声を上げる。

そうしてその男の子は、村の子供たちと一緒に、

かくれんぼをして遊ぶことになった。


 挨拶回りを続ける父親から離れて、その男の子は村の子供たちの輪に入った。

村の子供たちが、その男の子を取り囲むようにして観察している。

新参者のその男の子を見て、物珍しそうに相談を始めた。

「見て。あの子、ちょっとかっこいいわね。」

「やっぱり、都会の子は違うのかしら。」

村の女の子たちのひそひそ話が聞こえてきて、

その男の子はくすぐったそうにしている。

観察が一通り済んだのを見計らって、

村の子供たちの一人が、前に出て説明を始める。

「よし。

 それじゃあ、この村のかくれんぼについて説明するぞ。

 この村のかくれんぼでは、鬼が太鼓を打ち鳴らしながら探すんだ。

 隠れている子を見つけたら、

 見つけた!って言いながら、ポンポンポンと太鼓を鳴らすんだ。

 そうしたら、その子は捕まったことになる。」

説明とともに、その男の子に小さな太鼓が手渡された。

その太鼓は、

小さな太鼓の下に、棒状の持ち手がついていて、

太鼓の両側に、紐で重りがぶら下げられた、

小さなでんでん太鼓だった。

棒状の持ち手を持ってくるくる回すと、紐の先の重りが太鼓を鳴らす仕掛けだ。

村の子供の説明は続く。

「まずは、新参者のお前が鬼だ。

 かくれんぼの鬼なら、みんなを探しながら、

 村を自分の足で歩いて覚えられるから、丁度いいだろう。

 でも、ひとつだけ気をつけて欲しいことがあるんだ。

 しめ縄が巻いてある木があったら、そこから向こうには行くなよ。

 そっちはあぶないからな。」

「よーし、じゃあ隠れるぞー!」

村の子供達が、わっと散らばっていく。

そうして、その男の子が鬼になって、村のかくれんぼが始まった。


 村から少し外れると、そこは木々が生い茂る山の中だった。

その男の子は、言われた通り、

渡されたでんでん太鼓を打ち鳴らしながら、その山の中を歩いていた。

初めて歩く山の中で、木々や茂みに取り囲まれて圧倒される。

こんな山の中でかくれんぼなんて、隠れる子の方が有利のように思えた。

しかし、注意深く観察してみると、山の中での人間は思ったよりも見つけやすい。

風の向きとは違う方向に動く茂み、山の中では目立つ服の色。

その男の子は、かくれんぼのコツを掴み始めていた。

「・・・見つけた!」

ポンポンポン。

でんでん太鼓を打ち鳴らす。

「ちぇっ、みつかっちゃったか。」

木陰から、村の子供の一人が姿を現した。

その子供が履いている青いスニーカーが、目に入ったのだった。

そうして、その男の子は、次々と隠れている子たちを見つけていく。

比較的幼い子供たちは、村の近くに隠れていたので、

順調に見つけていくことが出来た。

しかし、年長の子供達は、

山の中の隠れ場所を知り尽くしているのか、なかなか見つけることが出来ない。

そうして、その男の子が、

後少し後少しと山の中を進んで行くと、今までと違う風景が目の前に広がった。

太い縄が巻かれた木々。

事前に説明があった、しめ縄が巻かれた木だった。

しめ縄が巻かれた木があったら、そこから先には行かないように。

そう説明されていた、そのはずだった。

しかし、木にしめ縄が巻かれている位置は、木の上の方にあって、

その男の子の視界よりも高い位置にあった。

子供というのは、自分の視界よりも高い位置にある物には気が付きにくい。

その男の子も、例外ではなく。

枝葉が生い茂っていることもあって、

その男の子は、木に巻かれたしめ縄の存在に気が付かなかった。

木々にしめ縄が巻かれていることに気が付かないまま、

その木々の間を抜けて、その先へと進んで行ってしまった。

そのまましばらく山の中を進んでいく。

今まで歩いてきた道のりと違って、地面がゴツゴツと隆起していく。

木々が深くなって、日中なのに薄暗い。

木の根が土から顔を覗かせて、足を取ろうとしてくる。

・・・おかしい。

いくらなんでも、遠くまで来すぎた。

そう思った時。

突然、足元の地面が崩れて無くなった。


 村に夕暮れが近付いてきて。

挨拶回りを終えた父親が、慌てた様子で村中を駆け回っていた。

「うちの子を!

 うちの子を見ませんでしたか。

 遊びに出かけたきり、戻らないんです。」

村の大人を見つけて、すがりつくように尋ねる。

遊びに出かけたきり、子供が戻らない。

その知らせは、すぐに村中の大人たちに伝わった。

子供が行方不明になった、ということで、

すぐに、村の大人たちが総出で探すことになった。


 行方不明になったその男の子を捜索するために、

村の広場に大人たちが集まってきた。

父親が恐縮して、集まった村の大人たちに頭を下げる。

「引っ越しをして来て早々、

 こんなことになってしまって、すみません。」

頭を下げる父親に、村の老人の一人が穏やかな表情で応える。

「ええんですよ。

 こんな小さな村だから、困った時はお互い様だ。

 それに探すなら、暗くなる前に早く探した方がええ。」

それから、少し深刻そうな顔になって、小声で話を続ける。

「実は、この村では、

 昔からたまに、子供が神隠しに遭うんです。

 神隠しというのはつまり、行方不明ってことですな。

 大抵は、すぐに見つかるものなんですが、

 中には、そのまま行方不明になってしまった子供たちもいるんですよ。

 だから、村の子供たちには、

 特に、かくれんぼは絶対にするなと、言うて聞かせてあるんですが・・・。

 まあ、子供のことだからのぅ。

 久しぶりに新しい友達が増えて、浮かれてしまったんでしょうな。」

「そんなことが・・・。」

この村では、子供が度々行方不明になっている。

その話を聞かされて、父親は心配のあまり絶句してしまった。

その様子を見て気の毒に思ったのか、

老人が父親に、ある物を手渡した。

「これは・・・?」

それは、あの男の子が渡されたのと同じ、でんでん太鼓だった。

老人が説明を始める。

「それは、失せもの探しの太鼓、というものです。

 この村では、神隠しが起こると、

 失せもの探しの太鼓を鳴らしながら探す、という風習があるんですよ。

 なんでも、それで実際に、

 神隠しに遭った子供が見つかったことが、何度もあるんだとか。」

別の老人が、口を挟んでくる。

「ですが、昔から、

 太鼓は異世界との扉を開く、と言いますからのぅ。

 もしかしたら、失せもの探しの太鼓の音色が、

 異世界の者を惹き寄せてしまうかもしれん。

 もし、異世界の者に遭って、何かを言われたとしても、

 決してそれに応えてはなりませんぞ。

 もし応えてしまったら、

 その人はもう、こちらの世界には帰って来られない。

 そう言い伝えられておりますからな。」

その説明を聞いてもなお、父親はキッと口を結んで応えた。

「私が帰って来られなくなっても構いません。

 あの子が無事に見つかって、帰ってきてくれるなら。

 この太鼓、使わせていただきます。

 ただの言い伝えだったとしても、

 今は頼れるものがあるのはありがたいのです。」

そうして、父親は、

でんでん太鼓を打ち鳴らしながら、山の中へと入っていった。


 父親が、その男の子を探し回っている頃。

その男の子は、山の地面の上で横たわって目を覚ました。

体中、擦り傷だらけ。

横たわったまま見上げると、崖のように切り立った山肌が見えた。

どこをどう転がり落ちてきたのか、思い出せなかった。

「痛っ!」

立ち上がろうとして、足に激痛が走る。

どうやら、足を怪我してしまったようだ。

これでは、山の中を自分の足で歩くのは無理のようだ。

仕方がなくその男の子は、山の地面に寝っ転がって、どうするか考えた。

自分の足で戻るのは無理。

近くに民家があるようには見えない。

電話も無い。

このままここにいたら、

一緒に遊んでいる子供たちが異常に気がついて、探しに来てくれるだろうか。

そんなことを考えていた、その時。

手元に何か感触があるのに気がついた。

それを引き寄せてみると、

引き寄せられたのは、あのでんでん太鼓だった。

でんでん太鼓は壊れてはいないようで、回すとポンポンポンと音が鳴る。

「太鼓を鳴らしていれば、

 音に気がついた人に、見つけてもらえるかも。」

ポンポンポン。

でんでん太鼓から、弱々しい音が打ち鳴らされる。

その男の子は、身動きが取れず、

森の地面に横になったまま、でんでん太鼓を打ち鳴らし続けた。

そうしてしばらく、

でんでん太鼓を打ち鳴らしていると、

近くの茂みが、ガサゴソと動いたような気がした。

でんでん太鼓を打ち鳴らしたままで、その茂みを注意深く観察する。

やはり、風とは違う動き方をしているように見える。

「誰か、そこにいるの?

 助けに来てくれたの?」

その男の子は横たわったままで、

首を持ち上げて、その茂みに向かって話しかけた。

すると、呼びかけに反応して、茂みから何かが飛び出してきた。

誰かが助けに来てくれた。

そう思ったのだが。

しかし、茂みから現れたのは、

その男の子には、見たことがない姿のものだった。


 茂みから姿を現したそれは、

一見してみると、人間の子供のように見えた。

しかしよく見ると、それは人間の子供とは違うようにも見える。

白髪混じりでボサボサの髪の毛。

曲がっていて低い背。

少し毛深くて、赤焼けた肌。

古くてボロボロの、衣服とも呼べないような布切れを身に着けている。

子供なのか年寄りなのか、その姿だけでは判然としない。

そんな外見のものだった。

現れたそれは、その男の子に顔を近付けて、笑うように口を開いた。

「キキッ。

 今度は、お前が鬼か?」

現れたそれが、甲高い声を出す。

その口からは、長い歯が覗いていた。

しかし、話しているのは、確かに人間の言葉ではある。

その男の子は、

目前に寄せられた顔に、ちょっと面食らったが、

落ち着いてゆっくりと返事をした。

「う、うん。

 僕が、かくれんぼの鬼だよ。

 だけど、僕、足を怪我しちゃって、動けないんだ。

 だから、今日はもうかくれんぼを終わりにして、

 家に帰りたいんだ。」

「キキッ。

 人間の子供は、体が脆いからな。

 でも、俺にはお前が久しぶりの遊び相手なんだ。

 もう少し遊んでもいいだろう?」

現れたそれは、頭を左右に傾けて話しかけてくる。

どうやら、その男の子と一緒に遊びたいようだ。

しかし、男の子は遊ぶどころではなく、今すぐにでも帰りたかった。

申し訳なさそうな顔で、それを伝える。

「ごめんね、今日はもう遊べないんだ。」

「・・・どうしても、か?」

その男の子に断られて、現れたそれは、しょんぼりとしてしまった。

大きな瞳には、涙すら浮かべているようにみえる。

その姿を見て、その男の子は、なんだかかわいそうになって言葉を続けた。

「え、えっと・・・。

 じゃあ、少しだけ。

 少しだけ、一緒に遊ぼう。」

その男の子は、そう返事をしてしまった。

良い返事を貰って、現れたそれは、嬉しそうに手を叩いた。

「キキッ!キキッ!

 嬉しいな。

 そうと決まれば、早速、かくれんぼだ。

 俺は、かくれんぼが大好きなんだ。

 お前、太鼓を持っているから、鬼だな。」

現れたそれは、その男の子が持っていたでんでん太鼓を指差して言った。

その男の子は、上半身を起こして応える。

「うん、いいよ、分かった。

 でも僕、足が痛くて動けないんだ。

 この状態で鬼なんて出来るかな。」

その男の子が、つらそうに足を擦ってみせた。

現れたそれは、頭を左右に傾けて応える。

「キキッ。

 足を怪我したのか。

 どれ、ちょっと見せてみろ。」

しげしげと、その男の子の怪我した足を眺めたり撫でたりしている。

「・・・キキッ。

 骨は大丈夫みたいだな。

 これなら、擦り傷に薬を塗って、固定すれば大丈夫だろう。

 ちょっと待ってな。」

現れたそれは、手近な草を摘んで手ですり潰すと、その男の子の足に塗り込んだ。

そして、適当な大きさの木の枝を拾うと、

ボロボロの自分の衣服を細く千切って、その男の子の足をしっかりと固定した。

「・・・キキッ。

 これでよし。

 これで、歩くくらいはできるだろう。」

その男の子は、恐る恐る立ち上がってみる。

少し痛みはあるが、全く動けないという程ではなくなっていた。

「う、うん!

 すごいや。これなら、歩くくらいは出来そうだよ。

 どうもありがとう。」

「キキッ。

 どういたしまして。

 それじゃあ、かくれんぼするぞ。」

その時。

遠くから、でんでん太鼓の音と大人たちの声が聞こえてきた。

・・・ポンポンポン。

「大丈夫かー!

 パパは、ここにいるぞー!

 どこだー!

 返事をしてくれー!」

聞こえてきた声は、その男の子の父親の声だった。

その男の子を探して、すぐ近くまで来ているのだ。

「パパだ!

 パパが僕を探しに来てくれたんだ。

 パパー!僕はここだよー!」

その男の子は、父親の声が聞こえた方に向かって叫んだ。

「・・・子供の声がしたぞ!」

「こっちだ!」

その声に反応して、他にも大人の声が聞こえる。

その男の子の声は、父親と大人たちに届いたようだ。

「よかったぁ。

 パパに見つけてもらえたみたいだ。」

ほっとしているその男の子。

その男の子に、現れたそれが話す。

「キキッ。

 かくれんぼの鬼は、もう別の奴がやってたのか。

 じゃあ、お前は鬼じゃなくて子だな。

 上手く隠れろよ。」

現れたそれは、父親が打ち鳴らしているでんでん太鼓の音を聞いて、

父親がかくれんぼの鬼をやっていると思ったようだ。

「あ、違うんだよ。待って!」

その男の子が止める間もなく。

現れたそれは、来た時と同じように茂みの中に消えていった。

入れ違いに父親と村の大人たちが姿を現し、

その男の子の姿に気がついて駆け寄ってきた。

父親は、手に持っているでんでん太鼓を打ち鳴らしながら、

その男の子に話しかける。

ポンポンポン。

「見つけた!

 ここにいたのか!

 こんなに遠くに来るなんて、何があったんだ。

 怪我は無いか?」

「う、うん。ごめんなさい。」

返事を聞きながら、父親はすぐにその男の子の体を調べる。

そして、ほっと肩の力を抜いて話し始めた。

「よかった。

 見たところ、骨折などはないみたいだ。

 大きな怪我が無くて、一先ず安心したよ。」

そして、顔に疑問符を浮かべて話を続ける。

「しかし、この応急処置は、お前が自分でやったのか?

 ちゃんとした処置がされている。

 お前に応急処置のやり方なんて、教えたことがあったかな。

 それとも、誰かにやってもらったのか?」

もっともな問いに、その男の子は正直に応える。

「えっとね、

 僕が動けなくなっていたところに、

 知らない子が現れて、助けてくれたの。

 その子は、村の子じゃなかったと思う。

 それから、一緒に遊ぶ約束をしたんだけど、どこかに隠れちゃった。」

話を聞いて、父親と村の大人たちは、顔を見合わせた。

この辺りには民家もなく、用がなく人が来るところではない。

村の子供達は皆帰宅している。

近隣の村までは遠く離れている。

子供がひとりで、こんな山の中に来るだろうか。

しかも、怪我の応急処置まで出来る子供なんて。

首を捻る大人たち。

その大人たちの前で、

その男の子の手には、でんでん太鼓が握られていた。


 そうしてその男の子は、

父親におぶさってもらって、村に帰ることになった。

父親の大きな背中に乗って、山の中を進む。

そうしていると、近くの茂みから、

ガサゴソと物音が聞こえたような気がした。

よく見ると、その茂みは、風とは違う動きをしている。

それを見て、その男の子は約束を思い出した。

父親の背中越しに話しかける。

「パパ、ちょっと待って。」

「どうした?落とし物か?」

「ううん、違うよ。

 やり残したことがあって。

 ちょっと太鼓を使うね。」

その男の子は、父親の背中から降りると、

預けていたでんでん太鼓を受け取った。

手に持ったでんでん太鼓を、くるくると回す。

ポンポンポン。

「見つけた!」

その男の子は、茂みに向かって声を出した。

「キキッ!」

茂みから、そんな声が聞こえたような気がした。

中にいた何かが去っていったのか、もう茂みが不自然に動くことはなかった。

その男の子は、怪我をした足で危なっかしく立って、

茂みに向かって頭を下げた。

「どうもありがとう。

 また一緒に遊ぼうね。」

その男の子の言葉を聞いてか、遠くの茂みがガサゴソと揺れた。

「キキッ。またな。」

遠くから、そんな声が聞こえたような気がした。



終わり。


 太鼓には、異世界と通じる効果があるというお話を聞いて、

失せもの探しの太鼓というものがあったら、どうなるだろう。

ということを考えて、この話を書きました。

今回、この男の子は、

結果的に、見知らぬ何かに助けられたわけですが、

事情が少し違っていたら、

その何かは、全く別の存在になっていたのかもしれません。


お読み頂きありがとうございました。


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