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第89話 開拓村の初祭り

「見てくれ、あのテーブルに積まれた料理の山を。今まで私たちについてきた皆のおかげで、これだけの収穫が得られた。この短期間でこの村がこれだけの発展をすることができたのは、間違いなく皆のおかげだ。この場を借りて、改めて感謝させてほしい」


 机の間にしつらえられた演壇えんだんの上では、拡声魔道具マイクを持ったルスカが村人や兵士に向けて演説を行っていた。

 やっぱりああいう演説というか、説法みたいなものの言い方はルスカが一番慣れてるなぁ。


「昨日、新しくこの村に来た人たち。中には、旧大陸からはるばるここまで長い距離をまっすぐ渡ってきてくれた者もいるだろう。君たちも今や、我々の大事な仲間だ。君たちの力を借りることで、私たちはますますの発展を、そして豊かな生活を送ることができるだろう」


 正騎士用の席に向かうと、もうすでに俺以外の全員が揃っていた。

 ムスタが小さな声で「遅いぞー」と言い、ユニが「そうだそうだー」と続ける。

 おっと、演説していたルスカと目が合った。


「ここは開拓地でも西の果て、まだまだ魔獣のはびこる未開の地と言ってもいいだろう。そのことに不安を覚える者もいるかもしれない。事実、この村はつい先日、今まで見たこともないキマイラの襲撃を受けた。だが、我々は即座に撃退に成功できたよ」


 ルスカが俺を手招きしている。

 あれ、なんか嫌な予感がするぞ。


「その最大の功労者が、そこにいる。この開拓村の正騎士にして竜騎士、ロンだ。せっかくだから皆に紹介しよう。ロン、ここまで登ってきてくれないか。キマイラ撃退について一言頼むよ」


 うっそだろ!?

 この場の演説はルスカだけで終わらせるはずじゃなかったのか?


「ほら、ご指名ですよ」

「大変だぁなぁ」


 カエデもマクシムも、他人事のように俺を送り出そうとする。


「おぬしが来る前に、正騎士の紹介はもうやってしまったでのう。村人の前で挨拶してないのはおぬしだけなんじゃよ。なに、思ったことを一言二言、言えばいいのじゃ。失敗してもご愛敬じゃよ」


 リアラだけは助言してくれたが、止める気は無いらしい。

 いや、いくらなんでも、いきなりすぎるだろ。

 俺一人で、いきなりあんな場に放り込まれても。


「キュッ」


 俺一人、でも?


「キュッ!」


 いつの間にか、キュウが俺のそばまで来ていた。

 その小さな両手で俺の左手を握り、俺をその竜の瞳で見上げている。


 そうだな、俺は一人じゃない。

 キュウがいる。

 正騎士の仲間がいる。

 俺を慕ってくれる兵士たちが、畑を耕し恵みをもたらしてくれる村人たちがいる。


「背中、乗ってくれるか?」


 俺が自分の背中をつつくと、キュウはにっこり笑い、俺の背中に飛び乗った。


「よし。ルスカのとこまで、ひとっ飛びだ」


 俺が身をかがめると、キュウが翼をふくらませ、離陸の体制を取る。

 

 下の俺が地を蹴り、上のキュウが翼をはためかせて上空へ舞い上がる。

 演壇の上、ぴったりルスカの横に着陸すると、村人や兵士から歓声が、次いで拍手が巻き起こった。


「ロン、突然で悪いね」

「いいさ。でも次は準備させてくれよ」


 ルスカと小声でやりとりしつつマイクを受け取り、俺は演壇に注目する人々に向き直った。


「開拓騎士団の正騎士が一人、竜騎士のロンだ。背中の子は飛竜のキュウ」

「キュッ!」


 キュウが俺の背中の上で緑の翼を広げると、新しい開拓団の人々からかすかなどよめきが起きた

 そりゃ、いきなり女の子を連れてきて飛竜だなんて言ったら、戸惑う人もいるか。


 幸い、そのどよめきも俺たちのことを知る人々の拍手によってかき消された。


「ルスカは俺のことを最大の功労者と言ってくれた。だが、あのキマイラは俺一人ではとても仕留めきれなかっただろう。他の騎士と兵士たち全員の協力があってこそ、俺たちは未知の化け物を打ち砕くことができた」


 俺が周囲を見渡すと、杯を持った兵士や村人たちが歓声を上げる。


「俺たち正騎士も一人一人では力に限界がある。だが、力を合わせればその力は何倍にも、何十倍にもなるんだ。だから今までここにいた皆、新しく来た皆、これからも俺たちに力を貸してくれ!」


 俺が右腕を振り上げると、今までで最大級の拍手と歓声が巻き起こった。


 この人たちなら、キュウを、そして俺を、受け入れてくれる。

 お返しに、俺は、キュウと一緒に、できることをする。

 それでいいのかな。


 俺がマイクをルスカに返すと、彼は満足そうに小さくうなずいてから村人のほうに向きなおった。


「ありがとうロン。さて、これ以上の言葉は無粋だね。料理も冷めてしまう。そろそろ乾杯といこうか。皆、飲み物は行き渡ったかな?」


 ルスカの言葉に、多くのジョッキが掲げられる。


「それじゃみんな、今までの収穫の感謝と、これからの繁栄を祈って。乾杯!」

「「「かんぱーい!!!」」」


 場の全員から、乾杯の大合唱が起きる。

 そして、村祭りが始まった。


 村人や兵士たちは立食形式で、机に並んだ様々な料理を飲み食いしながら周囲の人と談笑している。

 俺たち正騎士は専用の席が用意されていて、料理も持ってきてもらえるが、自分で取りに行くのも自由だ。


「キュウも手伝ったんだよな。これだけの料理を作るのは大変だっただろ?」

「んーん? たのしかった!」

「そっか」

「あー」


 俺が正面に置かれたカブトイノシシのステーキを切り分けてパンに乗せようとすると、膝の上のキュウが反応した。


「そえ、キュウ、こねた!」

「ん? こねた?」

「パンきじ!」

「おお、そうなのか」


 それなら、味わって食べないとな。


 よく焼かれたパンを横に切ると、白くフワフワの生地が目に入ってくる。

 そこに切り分けたステーキを乗せると、肉汁がパンに染みてピンク色に変わっていく。

 でもパンの外側はしっかり焼かれているおかげで、肉汁が手にまでこぼれ落ちることはない。


 かぶりつくと、パンと肉がちょうど半々のバランスで口の中に入ってきた。

 肉もうまいが、肉汁の染みたパンもうまい。

 焼きたてのパンの香りが、肉の味にも負けずに鼻へと抜けていくのが心地いい。


「どーお?」

「おいしいよ。このパン、良い匂いだし、外は良く焼けてるけど中がすごく柔らかい。キュウがしっかりこねたおかげかな?」

「キュ!」

「ほら、キュウも食べな? 今日はいくら食べてもいいぞ」


 俺が肉とパンを切り分けてやると、キュウも自分で手に取って食べ始めた。


「おいひい!」

「ああ。すごくおいしい」


 リスみたいにほっぺたを膨らませたキュウが、次の料理に手を伸ばす。

 イノシシ肉入りのコロッケ。ヒポグリフのもも肉とネギの串焼き。トウモロコシのスープ。マッシュポテト。で豆と葉野菜のサラダ。


 それらを、キュウがこねてくれたパンに乗せて食べる。

 それだけで、こんなに幸せを感じる。

 うまいなぁ。これだけ食べ物をうまいと感じたのは、初めてかもしれない。


「お楽しみのところ失礼します、ロン様、キュウ殿」


 かすかな羽音と共に、渋い男の声がかかる。

 顔を上げると、そこにはマールの使い魔たち、クーにガウ、クァオ、クォンがいた。


「おーうたー!」

「ククッ。そろそろ、お歌のお時間ですよ」


 クァオとクォンが、それぞれキツネしっぽとリスしっぽを揺らしながらキュウに声をかける。

 そうか、そういえば祭りで歌を歌うって言ってたな。


「いけるか?」


 クマの手で腕組みしたガウが、キュウの顔をのぞきこんだ。


「んー」


 キュウは口の中に入れていたカブトイノシシの肉を飲み込むと、席の下に手を伸ばした。

 再び顔を上げたキュウの手には、俺のラッパが握られている。

 いつの間に持ち込んできたんだ? 全然気づかなかったぞ。


「ロン、いっしょに、やろ?」

「ん」


 そう言われたら断れないな。

 ラッパを持たされた俺は、キュウや他のみんなと一緒に演壇のほうまで移動する。

 そこには、すでにマールとジオールがドラムのセットを準備していた。


「おぉ、ジオールもドラムをやるのか?」

「うむ。というか、マールや騎士団用のドラムを作ったのはわしだぞ」

「ジオール、叩くのうまいんだよ」

「おぬしらも演奏するのじゃな。こういうのは人数がいたほうがにぎやかでいいのじゃ」


 背後の声に振り向くと、竪琴ハープを持ったリアラがいた。

 どうやら他にも、席を立った何人かが楽器の準備をしているっぽい。

 気づけば、俺を含めた九人の騎士全員が、それぞれの楽器を持って集まってきていた。


 獣騎士マールは、手で叩く高音のドラム。

 岩騎士ジオールは、バチで叩く低音のドラム。

 弓騎士リアラはハープ。


 聖騎士ルスカは聖歌隊で使っていたというトロンボーン。

 術騎士ユニはマラカス。

 盾騎士マクシムは、普段使いの角笛ホルン


 剣騎士カエデが持ってきたのは、東方の楽器である横笛。

 陰騎士ムスタは、装飾付きのリュートを持ち出していた。

 あいつら、あんなの使えるんだな。知らなかった。


 そして俺、竜騎士ロンは指揮にも使っているラッパ。

 歌はキュウとクー、ガウ、クァオ、クォン。それに何人かの村人たち。

 

 そして、誰ともなく前奏がかれ始めると、それに合わせて全員が楽器を、声を、合わせ。

 優しく響く一曲が始まった。


 楽器も歌も、誰もが本職ではない。

 たまに調子はずれの音が出る時もある。

 でも、誰もそんなことは気にせず、思い思いに楽器を弾き、歌った。


 決して激しくなく、だが確かに響く、畑をなでる風のような歌。

 やがて村人や兵士たちも、俺たちがかなでる曲に合わせて歌い、踊り始めた。

 皆が皆、遊ぶように思い思いのステップを踏み、首を振り、手を叩く。


 こうして、この村初のお祭りは、どこまでも穏やかに、そして皆が笑顔のまま、夜がけるまで続いていった。


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