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第86話 第二次開拓民の到着

<<ロン視点>>


 例の合成獣キマイラ襲撃から五日目。

 俺はようやく静養期間が終わり、身体中に巻かれた包帯と湿布のなんとも言えない違和感から解放された。


 腕や背中の痛みはすっかり消えていて、呪具を付けても違和感はない。

 そして、呪具を付けられるようになったおかげでキュウに翼やしっぽが戻ってきた。

 キュウ自身はそんなに気にしてなかったようだけど、見てる俺としてはやっぱり笑顔で空を飛ぶキュウを見るのは嬉しい。


 そして、強制休暇明けの俺の初仕事は、この村へ新しく来る開拓民第二陣と、その護衛団の出迎えだった。


「コケーッコッコッコッ!」


 到着し次第、誰よりも先に馬車の中から声を上げたのはニワトリ。


「ンメエエエェェ!」

「ブエエエエ!」

「ニャーン!」


 続いてヒツジとヤギ、そして猫が「俺もいるぞ!」と言わんばかりの鳴き声を上げる。

 そんな中、鳴き声をあげずにどっしりと馬車の中に座る犬の姿に、頼もしさを覚えたのは俺だけだろうか。


 人の受け入れはルスカとマクシムが行っていく。

 動物たちの誘導はマールに任せた。

 俺は背中にキュウを乗せ、空から開拓村周辺の安全の再確認だ。


 特に開拓団が通ってきた道の周辺を重点的に飛び、草むらの中に伏せた魔獣がいないか確認していく。

 開拓団を狙い、後から付けてきた魔獣がいたら追い散らさなければならない。


 空を蛇行し、何度か着陸しながら慎重に確認していったが、幸いにも魔獣は一匹も見つからなかった。

 最後に開拓村の外周を一周し、兵舎に戻る頃にはすでに日が傾き、空が赤くなり始めていた。

 

「あ、お帰りアニキ」


 キュウを連れて会議室のドアを開けると、大机に並ぶイスに座ったマールが手を振って迎えてくれた。

 机には書類と軽食、水差しとカップが並んでいる。


「大丈夫だった?」

「ああ。念のため村の周囲も飛んでみたけど、魔獣は見つからなかった。静かなもんだったよ」


 俺の報告を聞いて、マールと同じくイスに座っていたルスカとマクシムが顔を緩ませた。


「それは何より」

「よかっただぁよ」


 ふたりは持っていた書類を机に置き、そばに置かれたカップの飲み物を口につけた。

 会議室にいるのはこの三人だけみたいだ。

 マールの使い魔が誰もいないのは、ちょっと珍しい。


「そっちはどうだった?」

「動物たちは数も種類もぴったり合ってたよ」


 俺がキュウと一緒に軽食をつまみながら質問すると、マールが真っ先に応えた。


「ぴったりって、前にみんなで相談して決めた数と?」

「うん。みんな元気だし、オイラの声もちゃんと聞こえてるみたい。ご飯をあげたら素直に言うこと聞いてくれたよ。今はクーやガウたち全員で、牧場予定地だっけ? そこに集めてもらってる」

「おお、さすが獣騎士」

「へへへ」


 俺がめると、マールは照れくさそうに微笑んだ。

 本人はあんまり自覚ないけど、初めて会った動物たちに言うことを聞かせられるって時点で、相当な能力なんだけどな。


「あと、こっちはまだ再確認の途中だけど、人間のほうも問題なさそうだ。出発地点の補給基地からここまでの道中は、魔獣の襲撃も無くて、ケガ人や脱落者はいないそうだよ」


 続いてルスカが手元の書類を指さす。

 そこにあるのは、今回開拓民としてここに来た人たちの名簿だ。


「そうか。あのキマイラが防壁の有るこの村を狙ってくれたのは、ある意味じゃ幸運だったのかな」

「そうだね。もしあのキマイラがこっちじゃなく、開拓団のほうを襲っていたらと思うと、ぞっとするよ」


 もしそうなっていたなら、開拓団は半壊、下手をすると全滅だっただろう。


「あれは特別だったと思うけど、似たような魔獣がまた出る可能性はあるよなぁ。なにか対策しとかないとまずいか」

「そうだね。このままだと騎士団に護衛された定期便はまだしも、小規模な行商や旅行者が安全に通行できるとはとても言えない」

「まぁまぁ、そのへんにしとくんだぁよ。そういう話をするのは、騎士たちをみぃんな集めてからのほうがいいぞぉ」


 マクシムが机を優しく叩く。


「今回はみんな無事に来られたんだぁ。それでいいじゃないかぁ。それに明日の村祭りは、今日来たみんなの歓迎でもあるんだろぉ? そんな顔してちゃ、新しく来た人たちが不安になるぞぉ」


 マクシムの言葉を聞いたルスカが、肩の力を抜いた。


「そうだね。マクシムの言う通りだ。開拓民は全員無事に来られたんだ、私たち迎える側は笑顔でいないとね」

「そういうことだぁ。新しく来たみんなには今日の夜ゆっくり休んでもらって、明日は村を案内して、夕方からはお祭りだぁ。きっと、なじんでくれるぞぉ」


 マクシムが、人好きのする良い笑顔を見せた。


「さて、そうなるとやるべきは、明日の準備かな」

「そうだね。だけど、その子は休ませたほうがよくないかな?」


 ルスカの視線の先、俺の膝の上に座るキュウは、俺の胸に頭を預け、その目は閉じかかっていた。

 疲れちゃったかー。どうりで静かだったわけだ。


「キュウ、お疲れ様。寝てもいいけど、せめて部屋でな」

「ンニュ」

「ほら、連れてくぞ。だっことおんぶ、どっちがいい?」

「あっこー」

「わかったわかった」


 俺はキュウの背中に左手を回し、右手を膝の下に差し込んで、その小さな身体を抱き上げた。


「ロンも休んだらどうだい? 君の仕事は終わったんだし、今日これからより、明日の朝からのほうが忙しいと思うよ」

「んー」


 正直、まだまだ動けるんだよな。眠気もそれほどない。

 ここしばらくの安静命令のせいでずっと寝てたから、動き足りないのかもしれない。


「ンゥー」


 けど、俺の腕の中で眠りに着こうとしてるキュウを見て、考え直した。

 そうだな。キュウは俺が寝てる間、あっちこっちを手伝って回ってたんだよな。

 今日はさらに偵察飛行に半日つきあわせたわけだし。


 今度は、俺がキュウに合わせる番だろう。


「わかった。俺も休むよ」


 俺は会議室の扉をくぐり、自分の部屋へと戻ることにした。


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