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第84話 ただいま静養中

<<ロン視点 自室内>>


 あの合成獣キマイラとの戦いから一夜明けて。

 俺は全身筋肉痛で、ベッドから起きる事すらまともにできなかった。


 リアラとルスカに診察してもらったところ、全身に大量の薬草製湿布を貼られ、その上から包帯でぐるぐる巻きにされた。

 そのうえで丸一日ベッドの上で強制休養である。


 まぁそのおかげか、次の日にはベッドから普通に起き上がることに成功したのだが。


「キュッ!」


 すぐにキュウにベッドへ連れ戻された。


「おーあしく、ねてー!」


 大人しく寝てて、だろう。


「わかったよ、寝ておくよ」

「キュ」


 うなずいたキュウは、机に置いてあったバッグを手に取った。


「リアァラ、おくすり、もらってくぅ」


 どうやらリアラの薬草小屋から薬をもらってくるらしい。


「あぁ、気をつけてな」


 俺が寝たまま見送ると、部屋の出口でキュウが一度振り返った。


「ねてーてね?」

「だいじょうぶ、寝てるよ」


 キュウはにっこり笑うと、そのまま部屋から出て行った。

 軽い足音がだんだん遠ざかっていく。


 俺は軽く深呼吸すると、首をゆっくり左右に動かした。

 首から肩、背中へと鈍痛が走る。

 とはいえ、痛み自体は昨日に比べればだいぶ落ち着いていた。


 あんまり記憶にないけど、一昨日のキマイラ戦で俺はだいぶ無茶な動きをしたらしい。

 ケガの確認のために呪具や服を外されたところ、俺の背中は真っ赤で、一部は内出血で赤黒くなっていたそうだ。


 カエデいわく槍の振り過ぎ、そして力の入れ過ぎらしい。

 長期間、猛特訓しすぎて身体を壊した人の状態に似ていたそうだ。

 一日でこんなに身体を酷使こくしする人はいないと、ちょっとあきれられた。


 で、俺はしばらく自室での静養を言い渡された。

 正確に言えば、ベッドから起きるなとのことだ。

 おかげで呪具もつけられず、キュウの翼やしっぽは今は消えている。


 外からは、遠くから木材を加工する乾いた音がうっすらと聞こえる。

 幸い、キマイラの襲撃による開拓村の被害はそこまででもなかったらしい。


 死者は出ず、建物も壊されたのは仮設のものがほとんどで、それほど時間をかけずとも修復できそうとのことだ。

 多少の傷がついた防壁の修理はマクシムとジオールが突貫で行い、防衛部隊も再編制済み。

 そんなわけで、俺がいなくても村の防衛や修理は回るから、ゆっくり休めと言われている。


「今、よいかの?」


 控えめに扉がノックされ、リアラの声が響く。


「どうぞー」


 俺が言うと扉が開かれ、キュウに手を引かれたリアラが部屋へ入ってきた。

 後ろには白い薬師のエプロンをつけた、助手らしい女性もひとり控えている。


「痛みはどうじゃ?」

「昨日よりはだいぶマシになったよ」

「それはなによりじゃが、まだ安静は必要じゃぞ。ひとまず湿布を張り替えるのじゃ」


 イスを持ってきて俺のベッドの横に座ったリアラが、横の助手に目くばせする。


「ロンの身体を起こしてもらえるかの?」

「はい。お背中、失礼します」

「あぁ、大丈夫。自分で起きられるから」


 俺はベッドに手をつくと、自力で上半身を起こした。


「無理するでない。まだ痛むじゃろ」

「言ったろ、痛みはだいぶ落ち着いたって」

「おぬしの背中の状態を知っておる者の前で強がっても意味ないのじゃぞ? あれだけの大物魔獣と正面から何度も打ち合ったのじゃ。筋肉が引きちぎれたとて、おかしくないんじゃよ。おぬしの腕前は認めておるが、調子に乗ってはいかんのじゃ」

「そういうつもりじゃないんだけどな。というか、お説教なら昨日みんなから散々《さんざん》聞かされたよ」


 寝たきり状態だった昨日は、正騎士のみんなが交替でお見舞いに来てくれたんだけど、そのうちのほとんどから「無茶はよくない」と怒られた。

 いつもなら、ここぞとばかりにからかってくるムスタからもだ。


 ユニだけは「がんばったねー」とほめられつつ、なぜか頭をなでられたが。

 この前の、呪具を作った時にユニの頭をなでくりまわしたことの、お返しだろうか。


「それもまた、良い薬なのじゃ。心配されるうちが花じゃよ」

「まぁ、そうかもしれないけどさ。それに、痛みが引いてきてるのは本当だぞ?」

「それが本当なら、野生動物にも引けを取らぬ、たいした回復力じゃよ。まぁ、湿布の交換をしていくのじゃ。包帯をほどいていくゆえ、じっとしておるのじゃよ」


 リアラの指示を受け、助手によって俺の包帯がはがされていく。

 白かった包帯は、湿布に使われた薬草の汁を吸って、薄い緑色に染まっていた。

 包帯を取り終わり、湿布を一枚ずつはがされていく俺の背中に、紫の眼鏡をつけたリアラが顔を近づける。


「んんん?」


 背後から、リアラの不思議そうな声が聞こえてきた。


「なにかあったか?」

「いや、炎症がかなり引いておるのじゃよ。わらわの目でもすぐわかるくらいにのう」

「それは、いいことなんじゃないか?」

「まぁそれはそうなんじゃがのう。あれだけの炎症が落ち着くまでは、十日やそこらはかかると見ておったのじゃが」


 眼鏡を外したリアラが、再び俺の横に座る。


「とはいえ、まだ炎症や内出血は残っておる。もう数日は湿布を張って安静にしておくのじゃ」

「数日ってことは、村祭りには間に合いそうかな」

「ふーむ。今の治癒速度から見れば十分間に合いそうじゃ。ただし、安静にしていればの話じゃぞ」

「わかってるって」

「よし、では新しい湿布を貼りながら包帯を巻きなおしていくのじゃ。背中をこっちに向けて、じっとしておるがよい」

「キュッ」

「おぉ、キュウも手伝ってくれるかの? では、そのバッグに詰めた湿布を一枚ずつ助手にわたしていくのじゃ」


 リアラと助手、そしてキュウの手で、俺の背中に湿布が貼られていく。


「しかし、俺にこんな時間をかけて大丈夫なのか? 他にも重傷者はいるだろ」

「んー? おぬし以上のケガ人はもうおらんのじゃ」

「え、そうなの?」


 なにげなく聞いてみた質問には、意外な答えが返ってきた。


「ケガという意味では、兵士の何人かがり傷や打ち身などの軽いケガをしたくらいじゃな。村人にいたっては、魔獣相手にケガをしたものすらおらぬよ。そのあたりは、おぬしが先頭を切ってカブトイノシシやキマイラの相手をしたおかげじゃな」

「そっか」

「だからといって、同じような無茶を繰り返すではないぞ?」

「わかってるって」


 あの時の俺は、ただキマイラの背中に合った緑の翼を見てブチ切れただけだ。

 誇れるような行動じゃない。


「まぁ、そのおかげで、わらわが詰めておる薬草小屋の手はそれなりに空いておるのじゃ。薬の在庫が少し減ったから、その補充の指示をしておるくらいじゃの」

「そうなのか。それはまあ、よかったけど」


 ケガという意味では、か。


「しかし、新たに呪いを受けた者はそれなりにおるのじゃ」


 俺の考えを察したのか、リアラが言葉を続ける。


「今はジオールが追加の呪具を作っておるところじゃよ」

「キマイラの吐息ブレスで受けた呪いは、解けてないんだな?」

「うむ」

「あのキマイラは死んだってのになぁ」


 力を奪う呪い。

 今回の事件では、新しい兵士がキマイラのブレスを受けたことで、俺たちと同じように腕力や脚力を奪われた。


 だが、あのキマイラは俺たちの目の前で死んだ。

 ユニが限界まで力を込めた破壊魔術の直撃を受けて、文字通り粉々になって。

 後に残ったのは、奴が自慢げに広げていた翼の内の一対、横に広げられた紫色の翼だけだった。


「俺は詳しくないんだが、呪術も魔術も、術者が死んだら解除されるものじゃないのか?」

「それは、違うんじゃよ」


 リアラの声の調子がすこし下がる。


「簡単な、その場限りの魔術なら、おぬしの言うとおり術者が死ぬことで解除されることも多い。しかし、強力な術というのは一度発動、定着すればその効果は半ば永続的に続くのじゃ。これは魔術も呪術も問わぬ」

「そういうものなのか」

「たとえば、会議室にかけられた各種防御魔術のうち一部は、ルスカがかけたものじゃ。今のルスカは呪いのせいで魔術が使えぬが、会議室の防御魔術はそのままじゃろう?」

「そういえば、そうだな」

「あるものに儀式魔術などで強力な魔力を付与し、それが定着すれば、付与した魔術の影響は長く残り続けるのじゃよ。たとえその後に術者がどうなろうとも、関係なくのう」

「なるほど」

「呪術のほうは詳しくないのじゃが、ムスタいわく、強力な呪いも同様とのことじゃ。あげく、呪術を行った空間にも呪術の影響が残り、近づいた無関係な者をも巻き込むとか」

「うへぇ」

「あぁ、それで思い出したのじゃ。あのキマイラの死んだ広場は、しばらく立ち入り禁止じゃよ。おぬしもキュウも、近づかぬようにのう」

「キマイラの死んだ場所にも呪いが残るってわけか」

「うむ。今頃はムスタとルスカが広場の浄化じょうかをしとるころじゃろう」

「浄化?」

「いわば呪術の解除じゃな。マクシムの土魔法も使って広場の土を集めて、焼きながらきよめると言っておったのじゃ。清めが終われば、また使えるようになるそうじゃよ」


 そんなことを話しているうちに、俺の背中には新たな湿布が張られ、包帯もほとんど巻き終わり。


「よし、貼り替え完了じゃ」


 最後に腰のあたりで包帯が留められた。


「念のため、今日一日はまだ寝ているがよい。明日また湿布を貼り替えに来るつもりじゃが、そのときに経過が良ければ出歩くことも許可できそうじゃな」

「そうか、助かる」


 さすがに寝たままだと背中に呪具をつけられないからな。

 このままだとキュウを空に飛ばせてやれない。


「念のため言っておくのじゃが、呪具を付けるのは当分先じゃぞ」

「えっ」


 俺の心を読んだかのように、リアラが言った。


「まだ腫れが収まっておらぬのに、あんな背中を押さえつけるようなものを付けさせるわけにはいかんのじゃ。呪具を付けるとしたら、腫れが完全に引いて、湿布を貼らずとも良くなってからじゃな」

「そんなー」

「キュウも我慢じゃぞ。落ち着いたら薬草小屋に来るのじゃ。ロン用の湿布作りを手伝ってもらうからのう」

「キュ!」


 キュウは素直に答え、自分の胸を一回叩いた。

 なんというか、キュウの扱いがうまくなってるなぁリアラ。


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