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第67話 密かな決意の弓騎士リアラ 前編

<<リアラ視点>>


 ロンとキュウは部屋から出ていきおったが、ユニはまだ残るつもりのようじゃ。

 まあ無理もあるまい。

 あれだけ楽しみにしていた髪飾りを取り上げられたままではのう。


「直んないのー?」


 ユニがかすと、ジオールは首を横に振った。


「すぐには無理だの」

「えぇー」

「この毒水晶を元にした新素材は、一度乾くとガラス並みに固くなるのだ。無理な力を加えると、歪むより先に割れる」

「でも、それは曲がっちゃったんでしょ?」

「曲がると歪むでは違うのだがの。まあ不自然に形が変わったと思ってもらって構わん」


 ジオールが髪飾りの向きをくるくると変える。


「しかし、わからん。なぜこうも歪んだ? 熱したわけでもなく、そもそも手で触れてもおらん。ただ頭に載せておっただけだ」

「呪術を防いだ結果の変質かもね」


 行儀ぎょうぎの悪い恰好でイスに座ったムスタが話に割り込んできおった。


「んん?」


 怪訝けげんそうな声を上げたジオールがムスタのほうを向く。


「どういうことだ?」

「この呪具の役目は、傷にかぶせる当て布とか縛って押さえる包帯みたいなもんだ、ってのは前に話したよな。覚えてるか?」

「うむ。身体を巡る血は、傷口があれば流れ出る。それを止めるのが包帯のような治療用具だ。今回作った呪具は当て布と同じように、呪術的な傷口から流れ出ようとする魔力を受け止める役目を持つ、だったな」

「そうだな。んで、たとえばだけど、深い傷で血がドバドバ出てるとこに布を当てて包帯を巻いたとしよう」

「いやいや、そんな状態じゃと包帯を巻く前に止血じゃろう。傷口と心臓の間の位置を布やひもで縛るなどするのが先じゃ」


 ムスタの乱暴な言い回しに、わらわは反射的に口を挟んでしもうた。

 わらわの本分は薬草栽培や加工じゃが、さすがにその程度の知識はあるわ。


「わかってるって。たとえばって言ったろ?」


 ムスタは悪びれもせず、ただ大げさに肩をすくめた。


「で、だ。出血してるとこに布や包帯を当てたら、それらは当然、出た血を吸いまくるよな。いずれ、ぶよぶよのぐちゃぐちゃになる」

「まあ、そうだの」


 言いたいことはわかるのじゃが、もっとマシなたとえ話はできんかったのかのう。

 ユニもジオールも真面目に聞いとるからこれ以上のツッコミはせぬが。


「そうなった布や包帯は血止めの役には立たなくなるし、洗っても完全に元には戻らない」

「ふむ」

「そんで、だ。魔力ってのも目には見えないが血と同じように生物の体内に存在し、身体中をぐるぐる回っている。そして今の僕たちの場合、光を受けて紫になったところに呪術の傷口があって、そこから魔力が流れ出続けてるわけだ」

「それを抑えるのがこの呪具だが、ああ、なるほど。これにも、さっきの包帯やらと似たようなことが起こりうるということかの?」

「わかってきたな。呪術の影響を抑え続けるってことは、呪術の傷口から出る魔力を受け止め続けるってことだ。そうやって長時間魔力を浴び続けたものは、少しずつ変化していく。そういう変化を呪術では変質と呼んでる」


 ジオールの顔がユニの頭へと向いた。

 ユニの髪の毛はもうすでに呪具をつける前の状態、ほぼ紫の色に戻っておるようじゃ。

 今のわらわの視界は全体的に紫がかっておるが、そんな中でもこの呪いの紫の色はひときわ目を引くのう。


「つまりこの髪飾りの呪具は、ユニの頭から出る魔力を受けすぎて形が歪んだ。ムスタの言葉で言えば変質した、ということかの?」

「おそらくな。そのアホの子は胸もでかいが魔力はもっとでかい。この開拓村じゃどっちも一番だろ。傷から出る魔力量も、呪具に影響の出る早さも一番ってことなんじゃないの」


 いちいち余計なことを挟まねばしゃべれぬのか、こやつは。


「ふむう」

「魔力ー、まーにょーくー」


 ふたりの話を聞いていたユニの頭が前後に揺れ始めたので、肩を支えてやる。


「これ、座ったまま寝るでない。危ないのじゃ」

「はふうー。ごめんー」


 寝かけた者をして、船をこぐとは、よく言ったものじゃ。

 今のユニのがくんとした揺れ方は、さながら急流を行く小舟の船頭せんどうじゃな。


「でもさぁ。今の話を聞いてたら、どうしても色々考えちゃってさー」

「それはそうじゃろうがのう」

「もっと考えたいー。寝たくないー。それ欲しいー。髪飾り欲しいー」


 ユニが机の天板をぺしぺし叩く。


「むう」


 ジオールは不満げに低くうなり、手元の髪飾りに顔を向けた。


「しかしだな。作り手のはしくれとしては、こんな簡単に歪むようなものを渡したくはないのだが」

「だいじょぶだってー。ちょっとくらい気にしないからー」

「ただ歪むだけならまだしも、とがったり割れたりしてみろ。つける場所は頭なのだ。刺さりでもしたら笑い事では済まんぞ」

「それなんだよなぁ。やっぱ僕は呪具を作るの当分やめとこ」

「あー、ムスタよ。気持ちはわからんでもないが、深刻な表情で自分の股ぐらを凝視ぎょうしするのはやめてもらえるか」


 ジオールもわざわざ口に出すでない。

 聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるのじゃ。


「そんじゃさー。確かめてみようよー」

「確かめる?」

「それを渡せないのってさー。呪具かどんなふうに形を変えるのか、わかんないからでしょ?」

「まあ、そうだの」

「さっきみたいに髪飾りをつけたままー、いろいろ考えてみるからさぁ。呪具が変わってくところを見ててよー。みんなの前でやれば、ちょっとくらいとんがったりしてもすぐ気づけるじゃない?」

「しかしのう」

「実験だよ実験ー。やんなきゃ、わかんないままなんだからさー」

「むうぅ」


 ジオールはまだ渡すのをためらっておる。

 ここはユニを援護するかのう。


「よいではないか。ユニが寝そうになったら、わらわが支えてやるのじゃ」

「ん、リアラおねがーい」

「あとは髪飾りをじかに頭に乗せるのでなく、間に布でも挟んだらどうじゃ? ロンも服の上から背当てをつけていたんじゃし、そのくらいなら呪具としての効果は薄まらんじゃろ?」

「それはそうだが」


 答えに詰まったジオールがムスタを見る。


「いいんじゃねえの?」


 意外にも、ムスタはあっさりと賛成しおった。

 また軽口でも叩くかと思ったのじゃがのう。


「どのみち呪具の耐久試験はやるつもりだったんだ。足が紫のやつを呪具つけて走らせ続けたりとかな」

「まあのう」

「魔力が大きい嬢ちゃんが協力してくれるんなら、願ったりかなったりだろ」


 ムスタがジオールの握る呪具を指さす。


「すでに、嬢ちゃんが使う呪具の変質速度はかなり速いってのがわかった。この調子なら観察時間も短くて済む。腕や足より、頭のほうが長く動かせられるだろうしな」

「ふむう」


 ジオールも渋々納得はしたようじゃが、髪飾りを見て首をかしげた。


「しかし、どうやって試すのだ?」


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