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第60話 キュウと仲良し騎士たち

 俺たちが森林地帯での調査を終えて帰還し、七日ぐらい経っただろうか。

 穏やかな日々が続いていた開拓村は、だんだん活気づいてきていた。


 以前に来た開拓団の人たちはこの地になじみつつあり、気づけば畑の開墾もだいぶ進んでいた。

 最初の頃に開墾した畑の麦はすでに収穫まで終わり、新たに作られた麦畑の育成状況も上々だ。

 他の野菜や豆、イモ、薬草やお茶の葉なんかも順調に育っている。


 中でも目立つのはトウモロコシだろう。

 今のトウモロコシ畑は、足を踏み入れるのも難しいくらいの密度だ。さらに一本一本の背が高く、巨体の盾騎士マクシムすら見上げるほどに成長している。


 そんな城壁のようなトウモロコシ畑の間を歩いていると、空がまともに見えない。

 自分が小さくなったんじゃないかと錯覚してしまう。

 農業には詳しくない俺でも、これだけ育った作物を見たら気分が盛り上がってくる。


 そして、この村に来る開拓民第二陣の内容も決まった。

 およそ二百人とヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜たちがこの開拓村の新たな住民として開拓本部からやって来る予定だ。


 前回に比べて倍の人数。そこに家畜まで加わって、受け入れは相当大変になりそうだ。

 けど、この畑の実りの多さなら、少なくとも食料が不足することはないだろうな。

 新しく来た開拓民には、到着してすぐトウモロコシの収穫を手伝ってもらわなきゃいけないけど。


 で、新たな開拓民の歓迎と豊作のお祝いを兼ねて、収穫祭のようなものをやろうという話が村民の要望として上がってきていた。


 現状のこの開拓村だと、食料だけは豊富にあるけど、他にこれっていうものがない。

 準備期間も短いし、祭ならではの目立った出し物なんてものはやれないだろう。

 ここで採れた食料をみんなで料理して食べるっていう、素朴なお祭りになる。


 それでもよければってことで、騎士たちの会議では祭りの開催が承認されたが。

 祭りをやるという話を聞いた村の住民の雰囲気は目に見えて上向いた。

 村人も兵士も、明るい顔で忙しそうにあちこちを走り回っている。


「キュッ!」


 俺はそんな彼らを横目に見ながら、キュウに引っぱられて兵舎の廊下を歩いていた。

 向かう先は会議室だ。

 俺の前を歩くキュウが振り返り、若草色の髪の毛が揺れる。


「キュッ、キュッ!」


 会議の時間にはまだ早いが、キュウは先に進んでは鳴き声をあげ、俺を急がせる。

 ずいぶん楽しみにしてるらしい。

 キュウがまだ竜だったときも、食事前の移動時はあんな感じだったなあ。


 会議室に着くと、中にはすでに女性騎士三人の姿があった。


「おはようございます」


 最初に気づいた剣騎士カエデがこちらに頭を下げ、高く結われたツヤのある黒髪がきらめいた。


「おはよう」

「おあよー」

「む?」


 俺たちが挨拶を返すと、テーブルについてお茶を飲んでいた金髪紫眼エルフの弓騎士リアラがこっちを見た。


「おやおや、早いのじゃな。おはようさん」

「キュウちゃん来たー。こっちおいでー」


 リアラの隣にいた術騎士ユニがキュウを両手で手招きし、その動きにあわせて彼女の赤と紫の混ざった長髪がふわふわ揺れた。


「キュッ!」


 キュウは俺から離れ、まっすぐ彼女たちのほうへと走っていった。

 あの三人にずいぶんなついたよな、キュウ。

 同性だと仲良くなるのが早いんだろうか。

 竜のときはそんなことなかったんだけどな。


「どうしたんですかロンさん、そんなところで立ち止まって」

「ん? 別になんでもないよ」

「ロン、なんかうらやましそうな顔してるー」

「いやいや、みんなキュウと仲良くなったなって思っただけだって」


 俺が言うと、三人はお互いの顔を見て笑った。


「それはまあ、ね」

「それなりに一緒に過ごしておるしのう」

「お風呂で洗いっこした仲だしー」

「いや、それはわざわざ言わなくていいのじゃ」


 ユニとリアラが言い合う横で、カエデと手をつないだキュウがにこにこ笑ってる。


 こうやって見てると、キュウがユニたちにすっかり心を許してるのがわかる。

 俺が開拓村の外へ調査してる間も、彼女たちがキュウの相手をしてくれていた。

 そのときに良くしてもらったんだろうな。

 安心する反面、ちょっと寂しい。

 

「でもキュウちゃんってば、ベッドの上だと激しくてねー」

「言い方よくないのじゃ!」

「えー。リアラだって、夜は大変だったのじゃーって言ってたじゃない」

「それは、そうなのじゃが」

「夜にキュウとなにかあったのか?」


 俺が聞くと、リアラは首をぶんぶんと横に振った。


「違うんじゃよ! やましいことはしとらんし、されてもおらんのじゃ!」


 いや、うん。そこまでは思ってない。


「ただ、のう。ベッドに寝そべったところで、キュウが神妙な顔で近づいてくるもんじゃから、何事かと思って身構えておったら、のう」


 言葉を切ったリアラは、そっと目を伏せて横を向いた。


「におい、かがれたのじゃ。全身のにおいを、たくさん」

「あー」

「あるある」

「ありますねー」


 苦笑したカエデが自分の手を見た。


「私は指をしゃぶられましたよ。寝つくまでずっと」

「あたしー、起こされるときに顔とかすっごくなめられたー。頭もなでられたし、目を開けたらキュウちゃんの顔がすっごく近くてー」


 言ってから、ユニの顔がだんだん赤くなっていく。


「あー。思い出したら恥ずかしくなってきた。もうお嫁に行けないー」

「キュア!?」


 ユニの言葉にキュウが激しく反応した。

 俺を見て、ユニを見て、カエデとリアラを見て、またユニを見る。

 二度見はまだしも、三度見はかなり珍しいぞ。


「はしたないから、なめるのはいかんと何度も言っておるのじゃがのう」

「無理言うなって。なめてくるのは竜の愛情表現だぞ。止めさせるのはかわいそうだ」

「女の子にそういうことさせるのってどうなのよー」

「させてるんじゃなくて、竜はそういう生き物なんだよ。むしろ、なつかれるの早すぎだぞ? 俺だってそこまでなつかれるのに半年ぐらいかかったのに」


 竜は確かに人になつく。

 しかし、竜の警戒心は犬とかに比べると高めと言えるだろう。

 会ったばかりの頃だと、あまり長時間はなでさせてくれない。

 そのぶん、一度なついてくれればすごく仲良くなれるんだけどな。


 だが、俺の言葉を聞いたキュウ以外の三人は、顔を見合わせて小さくため息をついた。

 どうも理解は得られなかったらしい。


「ロンさんらしいと言えば、らしいんですけどね」

「今くらいレディとして扱ってもいいと思うんじゃが」

「こんなにかわいいのにねー」

「なに言ってるんだ。キュウは前からかわいいしきれいだし、格好よかったぞ」


 それこそ二十年近く前、俺が実家の竜牧場でキュウと最初に出会ったときからな。


 太陽を浴びて明るい緑に輝く瞳と鱗。

 ふわふわながらも、毛並みの整った美しい翼。

 頭からしっぽまでなめらかに伸びる流線型のボディライン。


 あの姿を見れば誰だって見とれる。


「ほうほう。かわいくてきれい、と。ん? 格好よかった? それってー……」


 途中までニヤニヤしてたユニが、何かを察したように真顔になってリアラのほうを見た。


「ユニよ。あれは竜バカがゆえの反応じゃぞ」

「だよねー」

「でしょうねぇ」

「キュ」


 相変わらずひどい反応だ。

 キュウまでうなずいてるし。


 まあ、自分のキュウに対する今の態度はどうなんだって意見が出るのもわかる。

 子竜のキュウと一緒に育ってきた俺と、この新大陸で初めてキュウを見た人とでは、印象が全然違うだろう。

 まして、女の子の姿である今のキュウのほうがなじんでる人とじゃあなあ。


 それに今のキュウは、言葉とか料理とか、人としての技能をがんばって身につけようとしている。

 今、キュウが竜だとこだわり続けているのは、俺だけなのかもしれない。


 ……俺、キュウに対してどう向き合えばいいんだろうな。

 今まで通り、あくまで竜としてか。

 それとも、人間の女の子として、か。


「お、いるいる」


 どこかから陰騎士ムスタの声がする。

 声のするほうを見ると、窓の外からムスタの角つき銀髪の頭が見えた。


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