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第59話 キュウの はじめて おふろ

 おふろ。

 うわさにはきいている。

 みずあびのすごいやつで、つかれとよごれがすごくとれる、らしい。


「入るのじゃ!」

「入ります!」


 リアラさんとカエデがたちあがって、わたしのてをとった。


「さ、キュウも来るのじゃ」

「行きましょう行きましょう」

「場所はあっちだよー。着替えとかは持ってきてね?」

「おおう、そうじゃった」

「急いで持ってきますね」

「クククッ。皆さん乗り気ですねぇ」


 すぐにきがえをじゅんびして、おふろのまえにしゅうごうすることになった。

 みんな、あしがはやい。

 そんなにいいものなのかな、おふろって。


 おふろは、このまえできたばっかりの、あたらしいたてもののなか。

 リアラさんのおうちにくらべると、よこにすごくながくて、となりのたてものともつながってた。そっちには、もくざいがいっぱいつまれている。


 きられたもくざいのにおい、すき。

 ほかではかげない、いいにおい。


「さぁ、入って入ってー」


 ユニのあとについていって、おんなのへいしさんのよこをぬける。

 おふろにはいるのは、ユニとカエデ、リアラさん、クォンとわたしの、ぜんぶでごにん。

 みんながたてものにはいると、いりぐちのとびらがしめられた。


 きでつくられた、だついじょでふくをぬいで、となりのへやにいくと、ゆげがもわもわしてた。

 おおきないしのまんなか、けずってへこんだところに、おゆがたまってる。


 あれが、おふろなのかー。

 おもってたより、ずっとおおきい。

 もしかしたら、ひりゅうのときのわたしでも、はいれるおおきさかも?


 おふろのちかくには、イスがたくさんならんでる。

 はじっこにある、いしのみぞから、おゆがちょろちょろとでていた。


「キュウさん、まだ湯船には入らないで。先に身体を洗ってからですよ」


 おゆのところにいこうとしたら、カエデにとめられた。

 イスにすわって、おゆをくんで、みんなでならんでからだをあらう。


「クォンちゃん、そんな大きなしっぽ洗うの大変だよねー?」

「ククッ?」


 あたまをあらってたら、となりからユニとクォンのはなしごえがする。


「それに、そのリスの手じゃ洗えないよねー?」

「えーっと、ユニ殿?」


 そっちをみると、りょうてをひろげたユニが、じりじりとクォンのほうにちかよってきてた。

 さがってきたクォンのリスしっぽが、わたしにぶつかる。


「キュウちゃん、おさえてー。一緒にしっぽ洗お?」


 わたしがしっぽをだきとめると、あわてたクォンがこっちをみた。


「クッ、逃げ場がない!」


 いまのわたしよりおおきいかもしれない、もこもこしっぽ。

 たしかに、あらうのはたいへんそう。

 でも、ユニにまかせっぱなしは、よくない。


「キュ!」

「えー?」


 わたしがじぶんのふとももをにかいたたくと、ユニがとまった。


「ククッ、そうですキュウ殿。止めてください」

「だめなの?」

「しっぽ、あさしく!」

「ク?」


 しっぽは、びんかんなのだ。

 わたしもりゅうのときには、しっぽがはえてたから、わかる。


「えっと、やさしく?」

「みいてて?」


 ユニのなでなでは、しっぽにやるには、ちょっとつよめ。

 いっしょにおひるねしたときの、けいけんじょう、まちがいない。

 ここは、なでられのけいけんぶかい、わたしがおてほんをみせなくては。


「ん、見てるー」

「クク? 止めてくれないんですか?」

「ああうの、あいじ」

「洗うの大事? それはそうかもしれませんが自分でクァ!?」


 わたしのしっぽは、うろこだったけど、おうようはきく。

 やさしく、けのねもとをちょっとだけぐりぐりして、よごれをおとす。

 けのながれにさからわず、ねもとからさきにむかって、ゆっくりていねいに、ごしごし。


「くぉあぁぁ」


 よし、こうかはある。

 クォンのきもちよさそうなこえが、そのしょうこ。


「ほほーう」


 わたしのゆびのうごきを、ユニがじっとみてる。


 なでなでは、なでられるほうが、しゅやく。

 なでるほうは、あいてをきもちよくさせることに、しゅうちゅうしなくてはいけない。

 あいてのかおをみて、こえをきいて、なでてほしいところをかんじとり、ゆびさきをびちょうせい。


 にじゅうねんちかく、ロンになでられつづけたわたしなのだ。

 これくらいは、できる。


「だいたいわかったー。そろそろあたしもなでていい?」

「あさしく、ねー」

「うん、やさしくー」

「いやいや待って待ってお願い待って」

「だいじょーぶ、やさしくするよー」

「ふたりがかりとかずるいです本当ダメですから待って止めてくぉあー!?」


 しっぽは、いがいとよごれやすい。

 どろがついたり、はっぱがついたり、ほしくさがからまったり。

 たまに、ちいさなきのえだやいしころが、うろこのあいだにはさまったりもする。


 ふわふわの、けのしっぽだと、なおさらだよね。

 ちゃんと、おていれしないと。

 すみからすみまで、ねんいりに。


「先に入っておるぞー。おぬしらも洗い終わったら湯に入るがよい」


 しばらくしっぽをあらってたら、はんたいがわからリアラさんのこえがきこえてきた。


「んあああ~。生き返るのじゃあぁ~」


 おゆにつかったリアラさんの、ふといこえが、おふろばにひびく。

 すごく、きもちよさそうなこえ。

 クォンのこえとは、ほうこうせいがちがうけど。


「さあ、私たちもそろそろ入りましょう?」


 かみのけをまとめたカエデが、そっとたちあがった。

 みんなでおゆにつかって、いきをはいて、からだをのばす。


 おゆは、ロンのからだより、ちょっとあつい。

 つかってると、からだのおくまで、ぽかぽかしてくる。

 ちからをぬくと、からだのまわりを、おゆがゆっくりながれていくのがわかる。

 なるほど。これはきもちいい。


「お湯の熱さ、だいじょーぶ? 熱すぎない?」


 かみのけを、あたまのみぎとひだり、にかしょでまとめたユニがきいてきた。


「ん~、ちょっと熱めかのう」

「私はもう少し熱くてもいいくらいです」


 リアラさんとカエデが、ぎゃくのことをいう。

 わたしには、ちょうどいいくらいだけどな。


「あー。一番熱いのはあっちのお湯が出てるほうだよ。ぬるいのは反対側かな。試しにちょっと行ってみてくれる?」


 ユニにいわれて、ふたりがおふろのなかをうごく。

 おゆになみができて、うかんでたわたしのからだがちょっとゆれた。


「ああ。ここならいい感じですね」

「こっちもちょうどいいのじゃ」

「そっか。よかったー」


 にっこりわらったユニが、おゆのでるところをゆびさした。


「そのお湯が出てるとこ、隣の木材乾燥場につながってるんだよー。あっちで使ったお湯をこっちで再利用してるの」

「あら、乾燥なのにお湯を使うんですか?」

「火の魔道具で水をあっためてー、できた熱いお湯を石の管に入れるの。その石から出る熱気を、風の魔道具で木材に向かって飛ばして乾燥するんだよ」

「火を直接使わないんですね」

「うん。これがエルフのやり方なんだって。リアラに教えてもらったんだよー」


 おめめをとじてうなってたリアラさんが、かためだけあけた。


「大量の木材のそばで火を直接使うのは怖いからの~。火事になっては一大事なのじゃ~」

「なるほど。それはそうですね」

「とはいえ、わらわも乾燥法については概要を知っていた程度での~。実際にこの風呂と木材乾燥場を作ったのは、ユニとジオールじゃよ~」

「建物設計は全部ジオールだよー。私は魔道具を作って組み合わせただけー」

「それでもこれだけ立派なお風呂を作れるのですからね。すごいですよ」

「改良の余地ありありだけどねぇ。使ってる魔道具も低品質なのばーっかり。もっと温度とか細かく制御できればいいんだけど、今の私の頭だとこれが限界かなぁ」

「焦らなくていいんじゃよ~。今できることを積み重ねていけばよいのじゃぁ~」


 ちょっぴりかなしそうなユニにむかって、リアラさんがひらひらとおててをふった。

 リアラさん、かなりふにゃふにゃになってる。


「安全性は確保できておるんじゃろ~?」

「それはだいじょぶ。ここに使ってる魔道具はそもそも火力上限が低いの。仮に暴走しても、火を吹く前に壊れて砂になっちゃうよー」

「それなら安心なのじゃぁ~」


 リアラさんがまたおめめをとじて、きもちよさそうにうえをむく。

 それから、おふろはしずかになった。

 おゆのながれる、ちょろちょろっておとだけがきこえる。

 みんな、ゆっくりおゆにつかって、だつりょくしてて、きもちよさそう。


 りゅうは、にんげんにくらべて、からだのさがおおきい、らしい。

 でも、にんげんだって、からだのさはおおきいとおもう。

 うたがうなら、ここにきて、よくみてみるといい。

 こうしてみんなのはだかをみると、からだつきがだいぶちがうことが、わかるはず。

 ロンをここにつれてきたら、もっとわかりやすいかな?


「ふふふ。でも間に合ってよかったー。今日は私の番だからね。きれいにしとかないとー」


 ユニがゆっくりこっちにちかづいてくる。

 じっとしてたら、ユニはえんりょなくわたしをつかまえた。

 そのからだは、だいぶあたたまっている。


「ユニさんの番って、あー、そうでしたね」


 カエデがちいさくうなずいた。

 いまのわたしは、こうたいでみんなといっしょにねてる。

 さびしくないようにって、ロンがおねがいしてくれたのだ。


 きのうはカエデ。

 おとといはリアラさん。

 そしてきょうは、ユニのばん。


「昨日はカエデだったよね。どうだったー?」

「えー、なんといえばいいか」


 カエデがわたしをみて、ちょっとこまったかおをした。


「キュウさん、ほどほどにしてあげてくださいね」

「えー、なにそれー」

「それはまぁ、すぐにわかるということで……」

「ふーん。なにするのかなー。ふふふ、たーのーしーみー。あ、そうだ」


 なにかをおもいついたユニが、クォンのほうをみた。

 クォンは、あかいかおで、じぶんのしっぽをだきしめてた。

 そういえば、クォンはさっきからずっとだまってる。いつもはよくしゃべるのに、めずらしい。


「クォンちゃんも一緒に寝るー? 寝ようよー?」


 ユニがこえをかけたら、びくんってしたクォンが、ゆっくりこっちをみた。

 クォンがユニをみて、わたしをみて、そのかおがもっとあかくなる。


「いやでひゅ……」


 クォンはそれだけいって、おゆのなかにかおをうずめた。

 いつものかるいちょうしのこえじゃなくて、ちょっとほんきのこえ。


 うーん。

 さっきのなでなで、ちょっとやりすぎたかな。

 でも、すっごくきもちよさそうだったけどなー。


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