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第17話 ロンの いない ひ

<<キュウ視点>>


 ロンはけさ、いつもよりたくさん、わたしをぎゅーってだきしめてくれた。


 あさ、おきて、いっかい。

 きがえてから、いっかい。

 ごはんをたべてから、いっかい。

 でかけるじゅんびちゅうに、にかい。

 ばしゃにのるまえに、いっかい。


 それで、さいご。


 ロンをのせたばしゃは、はやく、まっすぐ、はしっていく。


 きのうのよる、えんせいたいが、みつかったあと。

 ロンとほかのひとたちとで、ながくはなしあって。

 えんせいたいを、たすけにいくってことになった。


 そのあと、ロンはわたしのかおをみて、いたいのをがまんしてるようなかおで、いった。


「キュウ。俺は明日の朝、遠征隊と合流しに行く。お前は、この開拓地で待っていてほしいんだ」


 ついていきたい。

 ついていきたいけど。

 いまのわたしは、はねも、つめも、きばもない。

 いまのわたしじゃ、ロンをまもれない。


「ここには、マールとクー、クァオが残る。俺が戻るまでの間は、あいつらの近くにいてほしい」


 わかってるけど、さびしくて、こわくて、そのよるはずっとロンにだきついてた。

 ロンは、わたしがねるまで、あたまとせなかをなでてくれた。

 

 ロンをのせたばしゃが、おかのむこうにいって、みえなくなって。

 キツネのクァオが、わたしのまえにたった。

 クァオが、わたしのうでを、りょうてではさむ。

 ふかふかで、ロンよりやわらかい、おてて。

 でも、わたしよりつよい、つめのあるおてて。


「さあ、中に入ろう。外でずっと待ってると、身体が冷えちゃうって。アニキも部屋の中で待っててって言ってたろ?」


 うしろにいたマールくんがそういって、クァオがわたしのうでをひく。

 わたしは、ふたりにつれられて、かいぎしつにいった。


 きょうのマールくんは、れんらくがかり。

 ロンといっしょにいった、ガウとクォンをとおして、ロンたちとおはなしする。

 わたしはロンのこえをきけないけど、ロンがなにをはなしたかしりたいから、いっしょにいる。


「お邪魔するよ」 


 かいぎしつに、しらがのおばさん、ダイラさんがやってきた。

 ロンのじょうしで、りゅうきしの、えらいひと。

 りゅうきしが、のるりゅうを、きめられるひと。


 ロン、あたらしいりゅうに、のるのかな。

 わたし、もう、とべないし。


「ありゃ、まいった。そんなに悲しそうな顔をされるとはね」


 マールくんが、わたしのかおをみて、こまったようなかおになる。


「ダイラさん。キュウが怖がってるみたいだけど、なにかあったの?」

「昨日、この子とロンとで話してるときに、ちょっと怖がらせちまったみたいでね」

「いじめちゃダメだぞ。アニキに、キュウを頼むって言われてるんだ」

「そんなことしないさ。ただ、子供ってのは一度怖がられると難しいもんさね」


 ダイラさんが、クァオのほうをみた。


「ところで、そのキツネの子、あんたの使い魔だってね」

「ああ、そうだよ」

「ロンと同じように、もとは動物だったのが、人間の姿に変わったんだって?」

「そうだけど、そんなことを聞いてどうするのさ」

「あたしは、紫の光で受けた不調がどうやったら治せるかを調べていてね。紫の光を受けた本人以外に影響があったのは、今のところロンとお前さんだけだ。二人の共通点から、なぜ本人以外が不調になったかの原因がわかれば、それが治し方のヒントにつながるかもしれない」

「治し方、か」


 マールくんの、かおつきがかわった。


「そういうことなら、協力するよ。治し方がわかったら、オイラにも教えてくれよ?」

「もちろんさ。いくつか質問するから、話を聞かせてもらえるかい?」


 それから、ダイラさんとマールくんは、いろいろはなしはじめた。

 マールくんのことや、つかいまのみんなのこと。

 どういうまほうで、つかいまとはなしているのか、とか。


 ロンからのれんらくは、まだこないみたい。

 ロン、なにしてるんだろう。

 はやく、えんせいたいをみつけられればいいのに。


 ロンのことをいろいろかんがえてたら、かいぎしつのとびらがあいた。

 りゅうきしの、ノエルさんがはいってくる。


「おや、もう戻ったかい。早かったね」

「夜明けとともに補給基地を出ましたので」


 ノエルさんは、ダイラさんのとなりまできて、かみをとりだした。

 ダイラさんが、うけとったかみをひろげる。


「援軍要請は問題なく受理されました。兵士が三百名と五十日分の物資が、明日中に補給基地から出発する予定です。こちらが、補給基地の司令官からお預かりした書類になります」

「ご苦労さん。確かに受け取ったよ。今後は何か動きがあるまで、この開拓地で待機だ」

「承知しました」

「ここ数日、飛び通しで疲れただろう。今日は休みな」

「はい。ありがとうございます」


 うなずいてから、ノエルさんがまわりをみまわす。


「他の方は?」

「ああ、遠征隊が見つかってね。ここにいない連中は、全員そっちに向かっているよ」

「なるほど」


 ノエルさんが、こっちにあるいてくる。

 わたしのまえまでくると、ロンみたいにしゃがんで、わたしのかおをみた。


「キュウちゃんは、お留守番ですか」


 そうだよ。

 そうだけど、わたしはしゃべれないから、うなずくだけ。


「私と、お話をしてくれますか?」

「だめだよ。キュウは言葉を話せないんだ。アニキなら言いたいことがわかるかもしれないけど」

「なるほど」


 ノエルさんは、すこしかんがえてから、みぎのおててをテーブルにおいた。


「それなら、これはどうでしょう。私がこれから、はいかいいえで答えられる質問をします。はいなら一回、いいえなら二回、テーブルを叩いてください。こんなふうに」


 そういって、ノエルさんはテーブルをたたいた。いっかい、とん。にかい、とんとん。


「わからないなら三回、叩いてくださいね。大丈夫そうなら、一回テーブルを叩いてみてください」


 わたしもノエルさんみたいに、おててでテーブルを、いっかい、たたいた。


「あなたの名前は、キュウですか?」


 いっかい、とん。


「あなたのご主人様の名前は、ロンですか?」


 いっかい、とん。


「お昼ご飯は、もう食べましたか?」


 まだたべてない。にかい、とんとん。


「私は今年で十八歳ですか?」


 そんなの、しらない。さんかい、とんとんとん。


「よくできました。頭をなでてあげます」


 ノエルさんが、まっすぐてをのばし、わたしのあたまをなでる。

 このなでかたは、てなれている。ロンにはかなわないけど。


「こりゃ驚いたね。返事ができるのか」


 おめめをまんまるにしたダイラさんが、こっちをみた。


「このやり方は、孤児院にいたころにダイラ様から教わったものですよ。口の不自由な子供を相手にするときに、と」

「そりゃそうだが、竜相手にはさすがにやらないよ。竜も犬並みには知力があるが、対話は無理だからね」

「昨日のキュウちゃんの様子を見てましたが、私の目には竜というよりも普通の女の子に見えました。なので、できるかな、と」


 ノエルさんが、わたしのあたまをなでながらダイラさんにこたえた。


「ダイラさん、孤児院って?」

「あたしは旧大陸で、孤児院みたいなことをやっててね。そこにはいろんな子供がいる。口や目、耳が不自由なのもいた。そんな子らを相手にするために、やり方をいろいろ考えるものさね。で、ノエルもそこの出なのさ。年下の子の面倒をよく見てた」


 マールくんとダイラさんが、ちいさなこえではなしている。


「さて。あなたが寂しそうにしているのは、ロンさんがいないからですか?」


 もちろん。テーブルをいっかいたたく。


「なるほど。竜から人になってしまったので、魔獣のいる外には一緒に行けませんね。では、ロンさんのことは好きですか?」


 だいすき。テーブルをいっかいたたく。


「そうですよね。あれほど見事な抱きつき首絞めを決めてくれたあなたが、ロンさんのことを嫌いなはずがない。好きな人と離れ離れになったなら、寂しくなるのは当たり前です」


 ノエルさんが、おめめをとじて、うんうんとうなずく。


「あなたのような子を、私は孤児院で何人も見ました。大好きな年上の人が、孤児院を卒業して独り立ちし、去っていく。自分はまだ子供なので、一緒に行くことはできない。好きな人に置いて行かれる子の寂しさは、とても大きなものです」


 わかる。

 さびしい。

 きょうのロンは、またもどってくるけど。

 わたしは、りゅうじゃなくなった。いまのわたしは、りゅうきしのりゅうに、なれない。

 ながいおわかれ、させられるかもしれない。

 このまえみた、ゆめみたいに。


 そんなの、いやだけど。

 いまのわたしには、なにもできない。


「諦めて、忘れようとする子もいます。自分の新しい道を探そうとする子もいます。ですが、その中の何人かは諦めませんでした。あることをして、一度は離れた好きな人とまた一緒に過ごすことができるようになったのです」


 ノエルさんは、しんけんなかおで、わたしをみている。

 まるで、わたしのさびしさを、しっているみたいに。


「その子たちがなにをしたか、知りたいですか?」


 しりたい。テーブルをいっかいたたいた。


「その人を追いかけて、結婚して、お嫁さんになったのです」


 ぜんぜんおもいつかなかったことを、ノエルさんがいった。

 ダイラさんが、のんでいたおちゃをふきだしている。


 およめさん?

 およめさんって、まちにたまにいる、おとこのひとと、おててをつないでいるひと?


「もちろん、簡単とは言いません。相手に、自分と一緒にいてもいいと思われるには、努力が必要です。ですが、あなたもお嫁さんになれば、ずっとロンさんと一緒にいられるのですよ。竜でなく、人の姿であっても」


 およめさん。

 ロンの、およめさんかあ。

 なるほど!


「なあ、ノエルや。なにを言い出すんだい」

「あんな辛そうな顔をした子は、放っておくとどんどん悪い方向へ進み、下手をすると暴走します。そんなのはキュウちゃんのためになりませんし、私は許せません。なにか目標を立てて、それに向かわせるべきです」

「いずれ、その子は竜に戻るんだよ? 毒水晶の影響は数年で抜けるんだ」

「キュウちゃんのような、竜が人になった事例は、今までないんですよね。今後どうなるかは不明です」

「そりゃそうかもしれないが……。ああもう。この子、その気になった顔をしてるよ。どう責任とるんだい」

「問題ありません。責任を取るのは私ではなく、ロンさんです」


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