99話 宝の行方
気が付くと俺の顔面にはケイの拳がめり込んでいた。
「っう……あ、エミリーは!」
突然エミリーの事を思い出した俺はケイの拳を払いのけて、陥没した顔面のまま操縦席へと顔を向ける。
大丈夫のようだ。
エミリーが俺を見て指さして笑い出した。
それを見て少し安心したのだが、現状を思い出して再び声を上げる。
「あ、そうだ。全員脱出。爆発するかもしれないから急いで!」
敵戦車の砲弾を喰らったはずだ。
どこが被弾したか確認しないといけないが、その前に安全を確保しないと。
俺はエミリーを操縦席から引っ張り出して車外へ放り出し、自分のバックパックとショットガンを抱えて脱出した。
ケイとミウも銃だけ抱えて脱出したようだ。
またやられちまったか……
落ち込む俺。
脱出したところで敵戦車がどうなったのかが気になる。
たしか敵戦車が主砲を発射したと同時に砲塔がひしゃげたように見えたんだが。
気になって俺達を撃った敵戦車の方へ視線を向けると、ドス黒い煙をもうもうと吐き出しているのが見えた。
やはり砲塔に結構な威力の砲弾を喰らったようだ。
よくよく見るとタイプ7やタイプ70でもなく、あれってタイプ34じゃないだろうか。
砲身がタイプ70と違い小口径ではなく、もっと口径が大きい太い砲身、多分75㎜クラスなんだろう。明らかにタイプ70とは違う。
タイプ34だとかなり厄介な相手だ。
そのタイプ34戦車でさえ1発で破壊できる主砲をもつ戦車。
あの砲塔の壊れ具合だと75㎜砲以上、88㎜砲クラスじゃないだろうか。
でも味方の4型戦車やウルセイダー戦車の主砲にそんな威力のものなんて積んでいない。
この壊れ方はもっと強力な砲に違いないのだが、そうなるといったい誰が?
丸太Ⅱから脱出した俺達は近くの岩陰に身を寄せて辺りを見回した。
暗くてよく見えないのだが、俺の目にはその戦車がはっきりと見えた。
真っ黒に塗りつぶされた大型の戦車が闇の中から出現し、炎の中を走りながら残敵を蹂躙していく。
あれは間違いなく88㎜の主砲を搭載する6型戦車だ。
下っ端が持てるほど安くはなく維持費も高いので、ほとんどの持ち主は1等級ハンターだ。
その6型戦車の後ろをリュー隊長の4型戦車が続く。
ウルセイダー戦車はどこかと思ったら、足回りを破壊されたらしく、ずっと後方で鎮座しているのが見えた。
リュー隊長と一緒にいるということは味方か。
あれ、でも黒い6型重戦車って……
その時エミリーが俺に聞いてきた。
「お兄ちゃん、ミカエさんの戦車って黒い6型重戦車じゃなかったっけ」
その言葉を聞いてケイがピクっと反応したのが見えた。
そう、ミカエは反旗を翻してホクブ産業のビルを崩壊させた人物。そのホクブ産業のご令嬢がケイだからだ。
でも、お尋ね者のミカエはその後に捕まって、重罪犯用の刑務所へ行ったはずなんだが。
間接的にだが俺も移送に協力したし。
あれがミカエだとしたら脱走したというになるな。
「エミリー、あれがミカエさんの戦車だとしたらやばい気がするんだが」
「どういうこと?」
「リュー隊長と一緒にいるのが見えるよね。ということはミカエさんもこの作戦に一枚噛んでいるってことだよね。そうなるとミカエさんの仲間と言われても否定できないんだよ。犯罪者の一味だよ俺達。巻き込まれたってことだな」
俺の言葉に激しく反応したのはやはりケイだった。
「待ってよ。そ、そんなこと許せない!」
「許せないって言われてもなあ。まあ、バレなければ問題ないだろ。誰もしゃべらなければ大丈夫。だいたい、しゃべるわけないしな。元々グレーゾーンの仕事だからね」
俺の説明にケイは黙るが納得はしてない顔をしている。
それより丸太Ⅱが心配だ。
ここで擱座して動けないとなると回収不能になる。
しかしどう見ても修理出来るレベルではないのは一目でわかる。
起動輪が完全に破壊された上に、その軸もへし折られているという惨状だ。
切れた履帯は修理できても破壊された駆動輪とその軸は無理だ。
つまり動かすことができないということだ。
ここで丸太Ⅱは回収不能が決定した。
やっと強力な75㎜砲を載せて活躍し始めて戦車エースの称号まで貰えたのに。
「お兄ちゃん、しょうがないよ。でもこの仕事でお金が入ったらそれで買いなおせばいいだけでしょ。とにかくハーフトラックと合流して……」
そこでふと俺は考えた。
「なあ、みんな。ちょっと今思ったんだけど、この作戦ってミカエさんの“アベンジャーズ”の運営資金になるんじゃないのかって。俺達の分け前ってもらえるのかなあって心配になったんだけど」
するとエミリーが表情を変えて声を荒げる。
「それは困る。そんな事されたらハンター事務所に訴えるから!」
「いやまて、エミリーよく考えてみて。この仕事は非公式なんだぞ」
何も言えなくなるエミリー。
「あう……」
するとミウ。
「リュー隊長に直接無線で聞いた方が早いですよね」
「そうだな、まずは確認を取ろう。みんな、ハーフトラックと合流するぞ」
乗りものを失った俺達はとりあえずハーフトラックと合流し、そこから無線でリュー隊長と連絡を取ることにした。
丸太Ⅱの無線を使って居場所の連絡をしてハーフトラックとなんとか合流すると、周りを警戒しつつもリュー隊長へと無線連絡を試みる。
しかし電波が届かないのか無線が故障しているのか原因はわからないが、何度やっても無線が繋がらない。
そもそもリュー隊長と先ほど見た黒い6型戦車が見当たらない。
そういえばタイヤが壊れて動けなくなった現金輸送トラックはどうなった?
俺達は意を決して炎がまだ燃え盛る現場へとハーフトラックで乗り込んだ。
すでにオークの残敵はいなくなってはいるのだが、対岸のオークから銃砲弾が撃ち込まれてくる。
現金輸送トラックの所へと来てみると、予想通り積み荷は空っぽだ。
「くそ、予想通りだ。すでに持ち出された後だ。何も残ってない」
リュー隊長達が持ち出したに違いないのだが、次に俺達はどうしたらいいのか考えが思いつかない。
するとタクが一言。
「ケン隊長、ここは危険です」
「ああ、そうだな。安全地帯へ戻らないとな。よし、出発するぞ」
このままぐずぐずしていて夜が明けて明るくなれば、人間ということがバレバレとなる。
そうなったらこのオーク支配地域からの脱出は難しくなるだろう。
そうなる前にこの地を去らなければ。
丸太Ⅱは残念だけど命には代えられない。
俺達は逃げ出すことに全力を注ぐのだった。
次話投稿は明後日の予定です
次回もよろしくお願いします。




