98話 被弾
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくです。
さて、新年1発目ですがちょっと長くなりました。
前を行く現金輸送部隊と俺達の車列の距離がだんだん狭まっていく。
向こうのトラックの性能は今一つらしく、この未舗装の道路では非常に遅い速度の上、ちょっとした道路のへこみがあるとさらに速度を緩めなくてはいけないようだ。
しかし俺達の車列のドンくさい車両と言えば6輪装甲車くらいで、それでも6輪ということもあってトラックよりはまだ良い。
通常のトラックよりは若干速度が出るといった程度なのだが、それでも少しづつではあるけど追いつきつつある。
もう少しでというところまで追いついたのだが、現金輸送部隊は橋の目の前まで来てしまっている。
このままだと車列は橋に差しかかってしまう。
そんなことよりも俺達がやばくなるだろ。
橋を修理したオークの工兵隊もまだいる様だし、街灯に照らし出された守備隊らしきオーク兵も見えるのだ。
俺が堪らずリュー隊長に連絡しようと無線に手を伸ばした瞬間、橋が大爆発を起こした。
橋の真ん中辺りで爆発が起こり、そのまま橋が次々に崩れ落ちて水飛沫をあげて川へと沈んでいく。
現金輸送部隊は橋の手前でストップだ。
橋の崩壊に巻き込まれてオークの守備隊が何匹も川の中へと消えていくのも見える。
まさか橋を爆破するとは思っていなかった。
恐らくリュー隊長の作戦なんだろうけど、初めに話せよって感じだ。
ってゆうか、この作戦に関係するメンバーの人数が多すぎやしませんか。
そもそも何人いるかも聞いていませんし、詳しい作戦も教えてくれない。
あの~、分け前は大丈夫ですかね。
1人当たり30万シルバはくだらないってこっそり聞いたんですけど。
オーク達が大混乱になりながらも何かを撃っているのか、銃撃音がいたるところから聞こえ始める。
敵が見えないから闇雲に撃っているんだと思う。
橋の爆発で近くで集積していた大量の修理用木材に火が燃え移り、辺りを明るく照らし出している。
そんな中、リュー隊長からの無線が入った。
『リューより全車へ、宴会の始まりだ!』
その連絡で俺達は思い出したように射撃を始めた。
タク達の乗るハーフトラックは安全な場所へ移動していく。
リュー隊長の4型戦車が壊れた橋のすぐ近くにあった、ベトンで補強された掩体壕に向かって主砲をぶちかました。
掩体壕は1発で破壊。
破壊された掩体壕から対戦車砲らしき砲身が吹っ飛ぶのが見えた。
続いてウルセーダー戦車がもう一つある土嚢で作られた構築陣地、恐らく機関銃陣地と思われる場所に砲撃を叩き込み、それでも生き残ったオークに対して今度は同軸機関銃で掃射して容赦なくなぎ倒す。
オーク達からは俺達は暗くて見えないはず。
唯一見えるとすれば戦車砲や機関銃の発砲炎くらい。
逆に俺達からは炎に照らされたオーク部隊は丸見えだ。
オーク達は橋がないから対岸へは行けないし、川沿いに逃げるには少し段差がある土手を下りないといけない。
しかし戦車なら降りられるだろうが、車輪の乗り物だとかなり慎重に降りないといけない。
現金輸送のトラックが降りようとすれば時間が掛かるはず。
だからそんなことはしないと思う。
でも現金輸送のトラックを置いて護衛の戦車だけが降りる訳にはいかないのだろう。
だが、その場にいても撃ってくださいと言っているようなものだ。
オークの車両は行き場を失ったように、その辺りを行ったり来たりしているだけだった。
そこへ丸太Ⅱの75㎜砲が狙いを定める。
「エミリー射撃するから停車してくれ。目標2時方向の土手を降りようとしてる装甲車、距離600、徹甲弾用意」
その間にも6輪装甲車が土手を降りようと車体上面をこちらに見せる。
逃げるなら俺達とは反対側の土手下に降りるべきなのだが、わざわざ俺達の方へ降りようとしているということは、完全にこちらの場所を探すつもりで接近しようとしているに違いない。
しかし、そんなことはさせない。
「よし、撃てっ」
徹甲弾は装甲車に当たらずその脇の道路に着弾。
「外したぞ。次弾装填」
命中を逃れた装甲車だが、着弾に動揺したのかコロリと転がるようにして土手下に落ちて、車体の裏を空に向けてタイヤを激しく空回転させている。
こうなると絶好の標的だ。
「ミウ、チャンスだぞ。撃てっ」
だが、次弾装填が完了していているにも関わらず砲弾は発射されない。
どした?と思っているとミウが言った。
「ダメです。土手下は暗すぎて照準器では見えません!」
肉眼ではかろうじて見える土手下の装甲車も、この照準器の性能では暗すぎて見えないらしい。
まあ、どうせひっくり返って動けないんだろうから放っておいてもいいか。
「よし、目標変更。12時方向の戦車。距離600、現金輸送トラックには当てるなよ。金が吹っ飛ぶから絶対に当てるなよ」
現金輸送車のすぐ近くにいた護衛の戦車が新たな目標だ。
護衛のトラックを敵弾から守ろうとしているのか、輸送トラックの盾になるようにしている。
そこへ丸太Ⅱの75㎜砲弾が放たれた。
「よし、命中――って、おいっ。それはトラックだよ!」
75㎜砲はトラックの後輪に命中して車体を90度回転させた。
直撃ではないようでタイヤを破壊しただけで済んでるように見える。
危なくお宝が飛び散るところだ。
そして激しく動揺したミウが言った。
「え、え、で、でも。ケンさん当てるなよって繰り返したから、てっきり……」
呆れた表情でケイやエミリーがミウを見る。
そういえば前にもそんなことがあった気がするな。
そうか、ミウはそういうやつだった。
しかし現金輸送トラックはこれで動けなくなった訳だし、とりあえず今は結果オーライってことにしておくか。
「ミウ、大丈夫、トラックはこれで動けなくなった。次は戦車を狙えよ」
「はい、空気読めなくてすいません。次は戦車を狙います。ほんっとにすいません」
そんなことやってる間に4型戦車とウルセイダー戦車は走り去って行ってしまった。
俺のいる位置とは反対側に回り込もうとしているらしい。
敵は身動き取れない状態だから回り込んでの攻撃は有効だろう。
うまく回り込めれば挟み撃ちにできる。
「装填完了」
「照準よしです」
「撃てっ」
今度は護衛の“戦車”へ75㎜砲は発射された。
75㎜砲弾は敵戦車の正面装甲に命中するも、ガンっと火花を散らして弾かれてしまう。
「くそ、弾かれた。命中角度が悪かったみたいだ。もう一回いくぞ」
そのとき敵戦車の砲塔が回転して砲身がこちらに向くのが見えた。
「くそ、撃たれるぞ!」
敵戦車はこちらに向かって主砲を撃ってきたのだが、砲弾は丸太Ⅱの上を通って遥か後方に着弾した。
どうやら発砲炎を目安に当てずっぽうでの射撃らしい。
まだこちらの居場所はバレてない。
「ミウ、やつに射撃がどういうものか教えてやれ」
ミウが「はい、教育してやります」と言って75㎜徹甲弾を発射した。
炎をバックに黒く照らし出された戦車の陰に75㎜砲弾が吸い込まれる。
“パッカンーン”という命中音が暗闇に響き、見事な爆炎を振りまいて敵戦車の砲塔が真上に吹っ飛んだ。
弾薬が誘爆したのだ。
「やった、撃破。よし、もう一両の戦車も喰うぞ」
しかしその考えは甘かった。
反対側に回り込んだ4型戦車とウルセイダー戦車の集中砲火であっという間に撃破されてしまったのだ。
立て続けに3両撃破と考えていた俺がバカでした。
2等級ハンターのリュー隊長がそんなことさせてくれませんでした。
これで残ったのは戦車が1両だけだ。
だがその残りの戦車が見当たらない。
どこへ行ったかと思ったら、丸太で組まれた建物の陰に隠れていやがった。
砲身がにょきっと伸びているおかげで見つけることができたが、それが無かったら近づいて行くところだった。
「12時方向の建物の陰に敵戦車。距離600、まずは榴弾で建物を吹き飛ばす。その後に徹甲弾で戦車を仕留める」
俺の指示でケイが直ぐに榴弾を選んで装填して「装填完了」とつぶやく。
続いてミウが「照準よし」と続く。
2人ともだいぶ慣れてきたもんだ。
まだまだ遅いがケイもだいぶ装填速度が上がってきたし、ミウも魔法なしでも命中させることが出来るようになってきた。
戦車砲も初速の高い75㎜と申し分ない。
ただ欲を言えばちゃんと装甲で覆われた戦車が欲しい。
解かってはいるよ、この間までの自分たちの生活を考えたら格段のアップなんだけど。
それでも装甲で覆われていて、75㎜砲クラスの主砲を搭載した戦車が欲しいのだ。
そんな事を考えながらも発射の合図を出す。
丸太Ⅱ戦車から発射された75㎜榴弾が、オークの建物を吹っ飛ばしガラガラと丸太が崩れていく。
すると隠れていた戦車が露わになる。
姿を現した敵戦車の砲塔が回る。
なんかやばいっぽい気がする。
こちらに砲身が向けつつあるのは気のせいだろうか。
俺は直ぐにケイに指示を出す。
「ケイ、次弾装填急げ。奴より先に撃つぞ!」
だが無情にもケイが装填するよりも早く、敵戦車の砲身がこちらに向いてピタリと止まり主砲を発射した。
敵戦車が主砲を発射したのと同時に、敵戦車の砲塔がひしゃげたのが見えた。
敵の発射した砲弾は丸太Ⅱに命中。
着弾した衝撃が激しく車体を揺らし、ケイとミウと俺の3人は床に叩きつけられる。
一瞬で意識が飛んだのだが、直ぐに我に返り目を開ける。
頭を強くぶつけたのか頭痛がひどい。
煙が戦闘室を漂っているらしく視界がはっきりしない。
体が重い?
いや、違う。
何かが俺の上に乗っかっているようだ。
でも悪い気がしないのはなぜだろうか。
むしろ心地よいというか、脳の意識は薄れていても下半身を刺激するような香りと感触。
これはどかさない方がいいのではという欲求を抑えつつ、俺の体にのしかかっていたモノを手で押しのける。
すると手に幸せな感触が伝わる。
「うう、どうなったんですか……頭がガンガンしますけど」
聞き覚えのある声。
ミウの声だ。
俺に覆いかぶさっていたのはミウか。
しかしもう一つ覆いかぶさっている物体がある。
俺はそのもう一つを手で押しのける。
んんん、なんか触ったことのある手ごたえだ。
次の瞬間。
「ごらぁあ、どこ触ってんのよっ。このエロガキがぁっ」
薄々は解ってはいたのだが、それはケイだった。
全然書けなくなってきました。
いつも100話近くからこんな病気にかかります。
次話投稿は明後日の予定ですが、こんな状況なので送れるかもです。
どうぞよろしくお願いいたします。




