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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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94話 報酬





 アシリアの街に戻る途中、やっと軍の守備隊が配置され始めたらしく、わずかではあるけど構築陣地らしきものが街の周りに作られ始めていた。

 対戦車砲も何門か配置され、機関銃座はいたるところに配置されようとしている。

 一緒に帰っていくハンターに聞くと、「アシリアみたいな小さな街は後回しだからこれでも思ったより早く守備隊が配置されたくらいだよ」と言っている。


 アシリアの街は特に鉱石が採れるとか、魔的な物質の産地とか、燃料になる物質が採れるとかそういった特産物がないからな。

 戦略的に見ても余り重要な地域ではないのだ。


 街の中に入って行くと軍人が歩く姿が多く見られ、なんだか街が活気づいているようにさえ見える。

 なんだか変な気分だ。

 必要物資も少しは補給されてきたらしく、弾薬や燃料も徐々に店頭に置かれるくらいにはなってきたようだ。

 値段はまだ少し高いけど商品として売り切れ状態よりも全然いい。


 ハンター協会へと、リュー隊長や生き残ったメンバーと一緒に向かう。

 リュー隊長は中年のおっさんという感じだが、歴戦の強者らしい顔をしている。

 でも20代中盤と実はまだ若いらしい。

 リュー隊長の活動拠点はもっと中央よりの高ランクハンター達があつまる場所らしく、この辺では活動しない為あまり知られていない。

 たまたまこの街へ立ち寄った時に戦争が始まっただけのことだ。


 そのリュー隊長がすべての手続きをやってくれたのは助かった。

 そして戦利品の配分だけど、今回はすべてお金に換金してそれぞれに配分することになった。

 俺達はいつも買取所へ持って行って換金するんだけど、今回はリュー隊長に任せているので、ハンター協会の窓口で買取をしてもらうことになった。


 ハンター協会に戦利品を買ってもらうのは手っ取り早いんだが、買取所に比べて買取金額が非常に安い。

 その代わりハンターにはポイントが入る。

 ポイントが貯まればランクが上がるから、ランクを上げたいハンターは協会で買取をするのだ。

 俺もポイントは欲しいけどその前に金が欲しいんだが。


 今回は単機で撃破した戦車でもチームで協力撃破扱いになって、少しだが徒歩のハンター達にも利益を回す。

 撃破したのは徒歩のハンター達の牽制や、囮誘導のおかげもあるという考えだ。

 でも配当はやはり撃破した者の取り分が圧倒的に多くなる。

 通常、撃破した車両は有効打の砲弾を撃ち込んだ人達で話し合う。

 揉めた場合は最悪ハンター協会で仲裁を頼み、それでも決着がつかなければ魔法判定をしたりする。

 しかし今回はリュー隊長に采配をしてもらおうという提案があり、それぞれのチームへの配当はこの1人に委ねることになった。

 もちろん俺達もそれに反論はなかった。

 この時点では。




 現在俺は今回の戦闘に参加したハンターのそれぞれのチーム代表が集まる会議に参加している。

 ドランキーラビッツの代表は俺が出席している。

 ハンター事務所の会議室を借りての話し合いの真っただ中だ。


「リュー隊長? 待ってくださいよ。それはおかしくないですかね?」


 と、文句を言ってるのは俺だ。


 リュー隊長は俺が文句を言った事に少し驚いたような表情で答える。


「なんだ、俺の決定に不服あるのか。確か俺の裁量で決めてもいいと言われたと思ったんだが?」


「いえいえ、そうなんですけど。確かにリュー隊長に決定権を委ねましたよ。でもこれじゃあ他のハンターから文句が出ますって」


 というのも、お金の配分比率が“ドランキーラビッツ”が一番多かったからだ。


 しかし俺の反論に、ここにいる他のチームの代表者達も首を傾げている。


 え、なにこの雰囲気。

 みんな“文句なんてありません”的な顔してるし。

 むしろ俺が変な事言ってる感が漂ってるんですが。


 「は~」と深いため息をついた後、リュー隊長がめんどくさそうに手元の資料を見ながら言った。


「ケン君と言ったかな。君たちの自走砲が撃破した数が何両か覚えてるのかい」


「えっと……」


 俺が指を折りながら数えていると、数え終わる前にリュー隊長が待ちきれないとばかりに答えを言ってしまった。


「共同撃破が3両、単独撃破5両の合計8両撃破。今回の戦闘での最多撃破数なんだよ。まさか知らなかったのか。それとあの珍しいハーフトラックだが、どんな無線機積んでるんだよ。他の無線が届かないのにあの無線だけが届いてな、おかげで榴弾砲の着弾誘導ができたおかげで敵の迫撃砲をぶっ潰せたんだよ」


「マジですかっ!」


 そんなに撃破してたとは気が付かなかったし。

 そもそも撃破写真はソーヤやタクに任せたし、砲弾の命中は確認したけど撃破までは全部確認する余裕がなかったし。

 無線に関しては金持ちのボンボンの持ち物なんで俺は知らないよ。


 あれ、ちょっと待てよ。

 単独撃破が5両ってことは……


「すいません。もしかしてですけど、戦車エースになるんですかね?」


 するとここにいる誰もが“何当たり前の事言ってるんだよ”という視線を向けてくる。

 ここに今いる人達は、高ランクだからこそ生き残ったハンター達なんだろう。

 戦車エースなんて言葉は聞きなれているんだろうね。

 でも俺達低ランクの者にとっては喉から手が出るほど欲しい肩書だ。

 それで一応確認のために聞いてみたのだが、雰囲気的にダメだったみたいだ。


 俺は慌ててごまかそうと言葉を続けようとする。


「あ、いえ、なんでもないです。べ、別に自慢しようとかじゃないですから、忘れてください……」


 するとリュー隊長が資料を見てから驚いたように俺を見る。


「ちょっと待て。ケン君は3等級になったばかりなのか。それにチームメンバー全員が4等級。この資料、おかしくないか」


 俺はリュー隊長に言いたいことが理解できない。


「その資料は間違ってないと思いますけど、なんかまずい情報が書かれてるんですかね。あ、借金の件ですかね。そうです、お恥ずかしいですけど借金がまだ返し終わって――」


 リュー隊長が俺の言葉を遮る。


「おい、そんな事言ってんじゃない。もしかして1回の戦闘で単独5両撃破は初めてなのか」


「はい、そうですけど。それと借金と何かつながりでも――」


 リュー隊長はさらに俺の言葉を無視して話を続ける。


「3等級1人と4等級ハンターだけで8両もの戦車を撃破したのかよ。それに自走砲のくせに単独で敵戦車のど真ん前に突っ込むしな。どんだけだよ、ったく。そのランクでこれだけの事が出来るとは末恐ろしいな。まあ、借金もそれなら直ぐに返せるだろうよ」


 それを聞いてやっと自分の置かれている立場が理解してきた。


 なんか凄いことになってるみたいだね。

 でもさ、それって金持ち連中と魔法娘たちの仕業だからな。

 どうせ俺はモブだし。


 でも配分比率はわかったけど幾らもらえるんだろうか。


 会議を終えて解散して帰る時、お金の入った布袋をジャラっと手渡された。

 回収されたオーク戦車の代金も入っているから結構な金額だ。

 再利用可能な戦車が多ければそれだけ金額も多くなる。

 それに単独撃破ならなおさらだ。

 

 俺は急いでトイレへと駆け込み、個室に入って恐る恐る金の入った袋を開けてみて驚いた。


「え、え、え、いいんですか!」


 俺はトイレの個室で絶叫するのだった。



 俺は興奮を抑えながらも大慌てで、いつもの駐車場に止めてあるハーフトラックを目指す。

 お金の入った布袋を大事に抱えて、常に周りをキョロキョロと警戒する。

 どこの誰が見ても不審者だろうな。

 だけど今の俺はそれでも構わない。

 誰も近寄らない方がかえって良い。

 今、俺は現金輸送者なのだから。


 駐車場でハーフトラックを見つけて上から中を覗くと、みんなしてクッキーを囲んでお茶をしてやがる。


「おい、大変だぞ、大変。奇跡が起きた!」


 全員が俺を見上げてきょとんとしている。


 その中央に俺は持っていた布袋を投げ込んでやる。


 するとみんなの座る丁度真ん中に、「ジャラン」と音を立てて落ちた布袋から、数枚の金貨があふれ出る。


 金貨を見て真っ先に反応したのはミウとエミリーだ。

 ソーヤ、タク、ケイ達の金持ち3人にとってはこんな金は見慣れた光景なんだろうか、あまり興味を示さない。


 エミリーがそっと手を伸ばして袋を大きく開く。

 すると中にはぎっしりと金貨が詰まっているのが見えた。


 それを見たミウは瞳孔が開いたまま完全に固まっている。


 エミリーはゆっくりと両手を伸ばしてその金貨をすくい取り、目を輝かせながらジャラジャラっと床に金貨を落としてつぶやいた。


「お兄ちゃん、死ぬほどチョコレートが買えるよ」


 俺の瞳孔は開いたまま戻らなくなった。


  






物凄い成果を上げたらしい主人公達。

その金額に驚く一部のメンバー。


その金額とは……




次話投稿は明後日の予定です。



次回もよろしくお願いします。





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