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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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92話 援軍







 徐々にキャタピラ音が近づいてくる。


 よりによって俺達が隠れている場所へまっすぐに進んでくるのが戦車なのだ。

 それもでかいぞ。

 見たこともないほどのでかい戦車だ。

 それに砲塔はひとつではなく、中央の主砲塔以外にも小さな砲塔が幾つかあった。

 もしかしたらあれが多砲塔戦車と呼ばれる種類のものなのかもしれないな。

 オークの個人工房のようなところで、原型が解からないほど改造された戦車というのも考えられる。


 どのみちここへまっすぐ来ても段差があって河川敷に降りられないから、別の進路をとるしかないはずだ。

 いやまて、この場所から降りられないってあの戦車は知っているのか。

 知らないから真っすぐこっちへ向かってるんだよな。


 他にも多砲塔戦車が何両かいる。

 タイプ7戦車も見える範囲でも10両以上はいる。

 見つかったらあの沢山ある砲塔の集中砲火を浴びることになる。

 だからと言ってここから動く訳にはいかないが、じっとしていたら結局は見つかって集中砲火だ。


 方向転換して猛スピードで逃げようものなら、防備の脆弱な後面を見せる事になる。

 丸太戦車は後ろから撃たれたら戦闘室へ弾が飛び込んでくる可能性の高い構造なのだ。

 それも高い場所から撃ち降ろされる状況だとなおさらだ。

 それがライフル弾だろうが拳銃弾だろうが、装甲がないところから入ってくれば直接生身の乗員に被害が及ぶ。

 結局は逃げたら撃たれるということだ。

 

 俺は自分の判断に後悔した。

 河川敷なんて渡るんじゃなかったと。


 すぐ目に前で敵の多砲塔戦車が徐々に速度を緩めながら目の前まで進んでくる。

 ハッチのほとんどを開けた状態で、そこから身体を出して乗員どうして遠くを指さしながら会話している。


 やばい、やばい、これ以上近づかれると見つかる!

 俺が50㎜砲の発射の合図が喉まで出かかったところで敵戦車は停車した。

 危なく声を出しかかったところでぐっと自分の口を押えて堪える。


 伸びた砲身のすぐ先に敵戦車はいる。

 その後ろから来た2両の多砲塔戦車も同様に停車した。


 見るとミウやケイも肩の力を一気に抜いている。


 エミリーも俺達の雰囲気で状況はある程度想像しているらしく、操縦レバーは握ったまま首だけこちらを向けている。

 エミリーの位置からは全く外が見えないからしょうがない。

 その表情はいつになく真剣だ。

 俺からの合図があればすぐにでも転回して走り出す姿勢である。


 しばらくすると敵戦車からオーク1匹が飛び降りて、双眼鏡を片手にこちらに向かってくる。


 俺は26型機関銃をそっとそいつに向けて射撃体勢を取る。


 一歩、また1歩とオークが近づくのと同様に、俺達の緊張も徐々に蒸し返ってくる。


 つま先が『コツリ』と何かにぶつかって、オークは視線を自分の足元へと向ける。

 そして一瞬不思議そうな表情をするのだが、直ぐにそれは驚愕の表情へと変わった。

 奴がつまづいたのは50㎜砲の砲身の先端だからだ。


「ミウ、撃てっ」


 50㎜砲弾はオークの右足を吹っ飛ばし、そのまま多砲塔戦車の前面装甲板を撃ち抜いた。

 それと同時に俺は機関銃をぶっ放し、開いたハッチから覗かせるオークの顔に弾丸を叩きこむ。


 その攻撃でオーク達は一気に大混乱となる。

 攻撃を受けるとは持ってもみなかったんだろう。

 対岸に人間の姿は見えないのだから。


 次々にハッチは締められるが、何匹かは血祭りにあげた。


 その間にも50㎜砲で撃ち抜かれた多砲塔戦車は後退を始める。

 貫徹はしたんだけど仕留められなかったらしい。


 次弾装填が完了すると、すぐに同じ戦車へと発射命令を下す。

 今度は副砲塔に砲弾は命中して装甲を撃ち抜いた。

 だが、それでも奴を止められなかった。


 そして車体中央にある主砲塔に搭載の75㎜クラスの砲だろうか、砲身が徐々に俺らに向けられようと下がってきて、真っ暗な穴の空いた砲口がはっきりと俺の目に映った。

 俺の頭に危険という警告が急速に流されるのと同時に、多砲塔戦車の主砲は発射された。


 しかし、砲弾は俺達の頭の上で風切り音を響かせて後方の地面に着弾。


 俺達が敵戦車よりも余りに低い位置にいるため、主砲の俯角ふかく限界を超えていたようだ。

 つまり射界外ということだ!


「ミウ、キャタピラを撃てっ」


 下がられると奴の射界に入ってしまう。

 そうなる前に奴の足を止めないと。


 50㎜砲弾はキャタピラを撃ち抜いて転輪を破壊。

 破壊された転輪をキャタピラが巻き込んで、ガクンと戦車が止まった。

 すると生き残ったもう片方のキャタピラだけが動くので、戦車がその場で回転し始めるも、操縦士もそれに気が付いて停止する。


 そこまできてやっと俺達の位置が他のオーク戦車にも分かったらしく、ほぼ一斉にこちらへと砲身が向けられていく。


 河川敷に沿うように10両ほどの戦車が並んでいる。

 その全砲門が俺達に向いている。


 ただ、地の利は俺達が圧倒的に有利ということに変わりはない。

 やはり敵戦車が今いる俺達の場所へ砲身を向けるのは難しいはず。

 それが証拠に大半の戦車は何度も車体の位置を変えたり、砲身をしきりに上下させて動向がせわしない。

 

 俺は決断しなければいけない。

 後悔しない為にもあらゆる想定が一瞬で脳内を駆け巡る。


 そして決断した俺の答え。


「左の戦車を撃てっ」


 ミウは旋回ハンドルを急速に回して砲身を左へと向けて即座に発射。

 しかしその発射とほぼ同時、逆に敵戦車から一斉に砲弾が撃ち込まれることになる。

 

 発射された50㎜砲弾はやや後方左側にいた多砲塔戦車の前面装甲を貫通した直後、弾薬庫に直撃したのだろうか、盛大な火柱を上げて爆発した。


 そして丸太戦車は集中砲火を浴びる。

 

 集中砲火を浴びるが、そのほとんどの砲弾は頭上を通り越していくか、近くの丸石に命中するだけだ。

 奴らの位置からではやはり死角に入っていて、そう簡単には当たらないようだ。


「ミウ、いけるぞ。次は右にいる多砲塔戦車を狙う」


 狙いを着けた多砲塔戦車も必死にこちらに砲弾を放つのだが、ほとんど砲身しか見えない程度しか露出していない丸太戦車に狙いを着けるのは困難。

 俯角ふかくの限界も相まって、ほとんどの砲弾は頭上を通り過ぎていく。

 しかし、機関銃だけはこちらに正確に弾丸を放ってくる。

 これはちょっと厄介だ。


 丸太戦車の装甲板をカンカンと銃弾が鳴らし、地面に激しい土誇りを舞いさせる。

 時折車内まで銃弾が入り込むが、怪我がなければそんな事気にしている余裕さえない。



 その機関銃攻撃に耐えながらも50㎜砲弾は多砲塔戦車の転輪を破壊、盛大にキャタピラと転輪の破片を飛び散らせた。

 すると戦車搭乗員はハッチを開けて逃走しだした。

 そのオークを機関銃で掃射していく。


 よし、これでこいつは放っておいても大丈夫だな。

 破壊も同じ!


 そのさらに後方にトラック部隊とオーク兵が見える。


 ついでにとばかりに機関銃でその辺りを掃射すると、突然1台のトラックが大爆発を起こした。

 そしてさらに近くのトラックも爆発し、あれよあれよという間に横につなぎに爆発が連鎖していく。


 全く訳が分からない。

 弾薬運搬車だったのかも。


 その爆発が後方にいたオーク兵たちにも混乱を巻き起こした。

 どうやら後ろから攻撃されたと思ったようで、しきりに後方に銃を向けている。

 いやいや、撃ったの俺だよ、俺。

 どう考えても敵は俺達の戦車だけだろ。


 幸運なのはそれだけではなかった。

 河川敷の対岸から砲撃が始まったのだ。


 その時、無線連絡が入る。


『こちらリュー、待たせたな。酔いどれうさぎさん達、美味しいところを独占するなんてずるいぞ。俺達にも取っておいてくれよ』


 対岸にはリュー隊長達のハンター戦車が砲撃をかましていた。

 その数はわずか4両しかないのだが、どれも高ランクのハンター戦車で、4型戦車やモデル4シーマン戦車、ヘッター駆逐戦車、レム戦車だ。

 逆に言えば、それ以外の戦車はこの戦いで生き残れなかったのだろう。


 俺達はここぞとばかりに次々に砲弾をオーク部隊に叩きこんでいったのだった。

 


 

 





元々ミリタリー系が好きで書籍関係も子供の時から買い漁ってきましたが、今回この小説を書いている間にも徐々に資料が増えていってます。

小説ってお金のかからない趣味かと思っていたらそうでもなかった。

客観的に見れば同じような内容の資料なのに、ちょっとの違いだけで購入してしまう自分。

これはあれだ、ヲタクなんだろうなと実感しました。






次話投稿は明後日の予定です。


どうぞよろしくお願いします。





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[良い点] タイプ35とな? やや強靭な鋳造装甲と貧弱な武装と、鈍足でなければ信頼性に欠ける足回りのRenault35 中途半端に欲張り過ぎ詰め込み過ぎな、パレードで見栄えが良いだけのハリボテ戦車T-…
[気になる点] この世界ではタイプ35は使える戦車なんだろうか?
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