9話 自走砲
短めです
モリじいは短くなったタバコの火を灰皿で押し消すと、ゆっくりと新しいタバコを取り出し口に咥える。
じれったくなった俺はモリじいが口を開く前に質問する。
「なあ、たかが運搬装甲車にあの37㎜対戦車砲を取り付けるなんて、いくらなんでも無理だろ。武器を付けられるとこっていったら、運転席の横の助手席にある機関銃用の銃架だけだぞ。あんな狭い場所に機関銃よりもでかい37㎜砲なんて取り付けられないよ」
モリじいは咥えたタバコにライターで火を着けると、深く煙を吸い込んで幸せそうな表情で煙を俺の顔面に吐く。
堪らず俺は咳込む。
「ゴホ、ゴホ、ゴッホ」
モリじいはむせる俺を楽しそうに見ながら話し出す。
「違う、そんな場所じゃないわい。後ろの荷台じゃよ。エンジンの上の荷台に砲架を取り付けて、その上に載せるんじゃよ」
「え、あんなところにかよ」
後部の車体中央にエンジンルームがある。
そのエンジンルームの両脇が後部座席兼貨物置場なんだが、エンジンルームの天板の上に37㎜砲を取り付けるって話だ。
「じゃがな、本当にただ上に載せるだけなんじゃよ。防御が元々37㎜速射砲の正面だけに付属している防楯だけになるがのう。つまりのう、横からや後ろからクロスボウ程度の攻撃でも防ぎようなないんじゃ。砲手と装填手は生身の体をむき出しってことなるんじゃよ」
「いや、それでも俺はいいよ。だってキャタピラに速射砲っていやあ戦車じゃねえかよ。戦車が手に入るんならそれがいいに決まってるよ」
「ケン坊よ、厳密に言うとそれは自走砲っていう分類になるがのう。ま、広い意味では戦車ともいうか」
「でも載せただけの対戦車砲でも問題なく撃つ事はできるんだよな?」
「ああ、前にも似たような改造をやった時には普通に撃てたから大丈夫じゃろ」
「それで改造費用はどれくらいかかるんだ?」
「そうじゃのう、1万シルバでどうじゃ?」
それは確かに工賃としては格安なんだろうけど、俺の手持ちの金がほとんどすっ飛ぶ金額だ。
それを払うと生活が出来なくなる。
あれ、もしかして今晩の宿代も困らねえか。
いやそれだけじゃない、今月の借金返済まだだったような。
俺は悩んだ。
悩みに悩んだ。
しかし戦車という誘惑には勝てませんでした。
その場で即、契約書にサインしちまいましたよ。
改造には1日かかるということで、俺はゴブリンの盗賊の品を売った小銭を持って、エミリーが待つハンター協会へと歩いて向かった。
「それで残ったお金がこれだけ?」
「はい……」
現在俺は、ハンター協会の待合ホールで妹のエミリーに叱られ中であります。
「これじゃあ銃の弾を補充したら終わりじゃないの。今夜の宿代はどうするのよ」
「そ、それは今日、頑張って稼ごうかな~なんて……」
「それじゃあ今月分の借金返済はどうするの?」
「えっと……それも今日、頑張って稼ぐ所存であります」
エミリーは深くため息をついた後、諦めたように俺に言う。
「はぁ~。もう、しょうがないわね。その自走砲とやらは明日受け取れるんだよね? それまでに少しでも稼がないいけないじゃない。お兄ちゃん、ここで待ってて。仕事探してくるから」
エミリー陥落完了!
「ごめんなさい……」
エミリーはくるっと踵を返して仕事の依頼を探しに行った。
エミリーがその場からいなくなると、俺の表情が自然と笑顔に変わるのが自分でもわかる。
おおお、もう少しで戦車が手に入る~~!
俺の気持ちはすでにそっちへ向いているのだ。
嬉しくてたまらないのだ。
このワクワク感をなんと言って表現したらいいのだろうか。
血沸き肉躍るか?
そこでふと周りの視線が俺に集まっているのに気が付く。
やべえ、ここはハンター協会受付ホールだった。
そこでたった今までエミリーに叱られてたんだ。そりゃあ注目を浴びるわな。
可愛い女の子に叱られた後、急にニヤつき始めたらそりゃあ変態だよな。
俺は片手で口元を抑えて隠しながら、ホールの隅へと移動するのだった。
明日も次話投稿する予定です。
よろしくお願いします。