87話 優越感
タク達が無線で知らせてくれたおかげで、軍の戦車隊が動いてくれたようだ。
しかしオークやゴブリンの侵攻の勢いに比べて、人間の軍の動きが鈍い気がする。
色々と都合があるんだろうけど防戦ばかりでなく、もうちっと攻勢に出てほしいと思う。
でもいいさ。
おかげで今回は稼がせてもらった。
オーク戦車4両撃破に偵察任務完了だ。
そうだ、サクラさんに情報をもらわなければいけない。
軍の士官らしい人にさんざん詰問された後、やっとのことで街まで戻ってこれた。
ハンター事務所の駐車場へ行くとタクとソーヤは車両の整備をしており、そのそばではハーフトラックにもたれ掛かるように、葉っぱの恰好のままのサクラさんが座っている。
仲間の死が相当ショックだったのか、かなり落ち込んでいるように見える。
俺からは特に気の利いた言葉も掛けられず、機械的に偵察情報が掛かれた紙を受け取った。
サクラさんは俺達よりも全然年上だ。
年上に慰めの言葉などかけられるはずもない。
俺はエミリーと2人でハンター事務所の受付へと向かった。
戦時中とあってかかなりの混雑だ。
人をかき分けながら受付の順番待ちの整理券を取り、なにか新しい情報が増えていないか掲示板へと行く。
すると討伐褒賞金額が修正されたという通知書を発見。
それを見て思わず声に出てしまった。
「まじ、勘弁してくれよ」
というのも、褒賞金額が下がっていたからだ。
よくあることなんだけど、魔獣の数が増えて農作物に被害が出ている時は金額が上がる。
しかし数が減って被害も減れば金額も減る。
ただ今回の場合、数が減ったんではなく、オークやゴブリンの討伐数が一気に増えて、報奨金の支払いが予想以上に多額になったんだろう。
それで慌てて金額を落としたパターンかな。
まあしょうがない。
文句を言っても支払われる金額は元には戻らない。
それにしても変更後の討伐報奨金額は酷かった。
ゴブリンの角は80シルバ、ゴブリン軽戦車が800シルバ、ゴブリン中戦車が1300シルバ、そしてオークの角が150シルバ、オーク軽戦車で1500シルバ、オーク中戦車で2000シルバと戦争が始まる前の相場よりも落ちてしまっている。
これじゃあ値上りする燃料と弾薬を考えると、ハンター達はかなり苦しい生活を強いられる。
待つこと1時間ちょっとでやっと俺達の番が来た。
『ドランキーラビッツさん!』とパーティー名を呼ばれて、ウトウトしているエミリーの腕を引っ張りつつ受付へと急ぐ。
「はい、はい、ドランキーラビッツですよ~」
俺はここにいますよアピールで手を上げながら受付へと向かう。
するとどういう訳か、周りの人達の視線が集まりだした。
何かあったのかとキョロキョロ見回して気が付いたのだが、どうやら俺とエミリーに視線が集中しているらしい。
あれ、手を挙げただけだけど。
混雑してるときはみんなやってるよね。
まさか、尻に穴が空いてるとか!?
何気なく自分の尻を触ってみるが特に破れてはいない、大丈夫だ。
それじゃあやっぱりエミリーを見てるのか。
エミリーは可愛いからよく男共の視線を集めるのだ。
あれ、でも男だけじゃないな。
女の子もこっち見てるし。
訳が分からないまま受付へとたどり着く。
「ドランキーラビッツです。偵察任務の完了報告と討伐褒賞の申請です」
そう言って俺は受付のお姉さんに書類を提出する。
すると受付のお姉さんはにっこりと笑いながら言ってきた。
「あなた達がドランキーラビッツなのね。すっかり有名人になったわね」
「有名人って、俺達がですか?」
「あら、知らないの。午前中のオークとの戦車戦のことよ。オークの戦車隊30両をたった1両で撃退したんでしょ。それも変わった形の車両で。もうすっかり話は広まってるわよ」
30両って、だいぶ話が膨れ上がってるけど、本当は10両くらいですとは言いずらい雰囲気だから黙っていよう。
どうせ報告書を見ればわかることだしね。
でもよかった、30両撃退で。
30両撃破って噂が広まるよりはまだいい。
受付のお姉さんは俺達の書類を見るともう少し待っててくれといってきた。
指名依頼だから別部屋で話を聞くらしい。
15分ほどして再び呼び出される。
今度は2階の部屋へと案内される。
部屋の扉を開けると、所長が俺達の提出した書類に目を通している真っ最中だった。
俺は邪魔にならないようにとそっと扉を閉めて、エミリーと一緒に所長のテーブルの前へと移動する。
すると所長が書類に目を向けたまま話し出す。
「おまえら本当にこれだけの敵を撃破したのか?」
そういえば報告書には証拠写真を撮ってない分の敵車両の撃破報告もしてあるんだよな。
それをいれると撃破したのは戦車だけでも10両以上になるんだっけ。
うん、考えてみると確かに凄いことかもしれん。
信じられないのもしょうがない。
「はい、報告書に偽りはありませんよ。でも無人らしい戦車の撃破もありますから。あ、それもちゃんと報告書には書いてあります」
「写真を見て検証はするが、森の中の戦車戦に関してはサクラからある程度の話は聞いている。丸太で出来た乗り物で敵戦車4両も撃破したんだろ。5両撃破だったら戦車エースの称号が貰えたのにおしかったな」
丸太で出来てねえし。
そういえば俺も“丸太戦車”って呼ぶようになってたな。
そういえば1回の戦闘で5両の戦車を撃破したら戦車エースという称号がもらえるんだっけ。
1回の任務じゃダメらしい。
広い目で見れば1回の戦闘なんだけどなあ。
残念。
それでも写真がちゃんと撮れて撃破が証明されればかなりの金額になるはずだ。
いくら討伐報奨金が安くなってるとはいえ、30,000シルバ位にはなるんじゃないだろうか。
報告が終わると俺達は部屋を出た。
ちなみのエミリーとミウのハンターランクが4等級へと上がり、俺は3等級へと昇格した。
お金の受け取りは明日になるようだ。
でも視線が集まった理由はこれで判明した。
森の中での戦車戦を見たハンターがしゃべったんだろう。
それが勝手に尾ひれが付いて噂が広まったんだと思う。
ま、いいか。
有名になれば今まで見たいに馬鹿にされないだろうからね。
実入りの良い指名依頼が迷い込んでくるかもしれないし。
俺とエミリーが1階ホールに降りてくるとやはり視線が集まる。
「あれが鈍器ラビッツ……」
「丸太製の戦車に乗ってるらしいぜ……」
「ゴブリンハンター……」
ハンター達の間から色々と話声が聞こえてくるんだが、鈍器じゃなくてドランキーだし、丸太で出来てないし、ゴブリン以外も倒してるし。
色々と誤解されてる感があるんですけど、でも今までと違ってバカにされた視線ではない。
誰もが“羨ましい”とか“すげえ”とかといった感情の目で見てくる。
それに隣のエミリーと俺を見比べてから「爆せろ」とか言ってる奴もいる。
こんなに優越感を感じたことは生まれて初めてだ。
ああ、俺すげえぜ!
やっとのことで3等級になった主人公。
さらに戦車多数撃破で今や時の人となっています。
これでドランキーラビッツと言う名が少しだけ広まったようです。
次話投稿は明後日の予定です。
次回もどうぞよろしくお願いします。




