84話 強行偵察
俺がショットガンを掴んだ途端に、葉っぱの化け物が小さな声で警告を発した。
「声を出さないで」
それは人の言葉だった。
だけどちょっと訛りがある発音だ。
俺はそれでも強引にショットガンの銃口をそいつに向けると、タクも慌てて銃を構える。
するとまるで申し合わせたように茂みの中から一斉に葉っぱ怪人が3人現れて、俺達は周りを取り囲まれてしまった。
葉っぱ怪人は身長130㎝ほどと背が低く、全員が短機関銃で武装している。
タクは若干パニックとなり、銃口をあっちこっちへと何度も向け直して目標が定まらない。
葉っぱ怪人のあまりの手際の良さに俺が唖然としていると、再びエミリーを捕らえている葉っぱの化け物が声を発する。
「あなたたちハンターね。私達は敵じゃないわ」
そう言うと、手に持った刃物をそっとエミリーの首から遠ざけて、塞いでいた右手も口から遠ざける。
エミリーはさっと葉っぱの化け物から離れる。
「お兄ちゃん」
エミリーが俺の胸に飛び込んできた。
ちょっと嬉しい気持ちを抑えつつ俺は葉っぱの化け物に言った。
「わかった、武器を置く」
俺は左手でエミリーを抱きかかえたまま、右手でゆっくりと銃を地面に置く。
タクも俺にならう。
すると周りを囲んでいる葉っぱ怪人達も銃口をゆっくりと下に向けた。
「で、お前らは何者なんだよ」
俺が尋ねるとエミリーを捕らえていた葉っぱの化け物が答える。
「私たちはナイトレンジャーよ、一応ハンター協会にも所属してるけど今日は別の所からの依頼だけどね」
そう言うと葉っぱの化け物はマスクを取った。
「マスク被ってたのか。俺はてっきり魔獣かと思ったよ」
マスクを取った素顔は、人間から見ても美しいと思えるような大人の女性だった。
ナイトレンジャー独特の小柄で華奢な体系で、耳は尖り青みが掛かった灰色の肌をしている。
夜目が効くから夜行動することを好むと聞いている。
そのナイトレンジャーの女性が俺に向かって言った。
「私達種族は夜行性なの。昼も行動できるけど陽の光に弱いから夜が明けたらこういう格好をするのよ。ところであなた達はオークの偵察でしょ。もうちょっと気を付けてもらわないと丸わかりだから。あなた達の存在がバレたら私達も仕事がしずらくなるの。だから警告をしに来たって訳よ」
面と向かってそう言われるとちょっと辛いもんがあるな。
だけど現にこうして味方とはいえ、奇襲されて囲まれちゃったんだから何も言えん。
俺達が会話する間にも彼女以外の葉っぱ怪人は周りの警戒に散っていく。
凄い連携が取れてるんだな。
それに比べて……
エミリーは安心したのか近くの石にちょこんと座って、バックから取り出した何かをポリポリと食べ始めるし、タクもエミリーを見てやはり石に座って休憩し始める。
俺はため息しかでなかった。
彼女から話を聞くと、依頼主は極秘として教えてくれなかったけど、ハンター協会からの依頼ではないという事だけは教えてもらったので、これは軍関係からの依頼じゃないかと俺は思う。
やはりオーク陣営の偵察が目的らしく一晩中偵察していたという。
それで偵察情報は渡す代わりに邪魔をしないでほしいと遠回しに言われた。
情報をくれるなんて美味しい申し出じゃないですか。
そう思って勢いよく返事しようと思ったら、エミリーから横やりが入った。
「ちょっと待って。情報が貰えるのはいいんですけど、その情報の内容にもよると思いますよ。私達これでも指名依頼で来たんですよ。大した情報しかもらえずに街へ戻っても、ハンターランクのポイントを落とすだけになっちゃうじゃないですか。あなた達がまだ偵察を続けるってことは、今持っている情報じゃ足りないって事ですよね。そんな薄っぺらな情報で私達は引き下がれないです」
言ってくれちゃいましたね、エミリーさん。
喧嘩売って勝てるような相手じゃないですから。
それ以上言わないで!
「ふっ、お嬢ちゃんのそのバッジ、5等級ハンターのよね。坊ちゃんのは4等級ね。もう少し自分たちの実力を考えて物事を考えなさい。まあ、でもいいわ。確かにあなた達の言い分は間違ってないわね」
「お嬢ちゃんはやめてください。エミリーって言います。ドランキーラビッツのエミリーです」
「あ、俺は同じくケン。そっちがタクです」
タクも軽く頭を下げて挨拶する。
「ごめんなさい。自己紹介もまだだったわね、私はサクラよ。それじゃあこうしましょう。今からしばらくここでじっと動かないでいてくれるかしら。その間に私たちは仕事を済ませるから。仕事が済んだらあなた達が知りたい情報をすべてあげるわ。どうかしら?」
私達の仕事って今言ったよな。
偵察じゃないのか?
俺はその疑問をぶつけてみた。
「あのう、サクラさん達の仕事って偵察じゃないんですか」
「それもあるけど偵察任務はついでみたいなものよ。詳しくは今の段階では教えられないけどね」
「それじゃあ僕達はあなた達を信じてただ待っていろと言うんですか」
「そうね。さっきも言ったけど極秘任務としか今は言えないのよ。でも任務が終わったらわかるわよ?」
「え、どういうことです?」
「さあどういうことかしらね。どう、契約するのかしら」
「ちょっと話し合いますから待ってください」
俺はエミリーとタクに近づいて話をする。
「どうする、俺は契約してもいいと思うんだけど2人は?」
俺の言葉にエミリーとタクが返答する。
「お兄ちゃんがいいんなら別にいいよ私は」
「悪い人には見えないです。だから僕も賛成です」
まあ予想はしていたけど2人とも賛成と言うことなんで、俺は契約する事をサクラさんに伝える。
「はい、それじゃあ契約成立ってことで、よろしくね」
サクラさんは笑顔で握手を求めてきたので俺も自然と手を握る。
これで口約束だが契約したことになる。
これで俺達はじっとしているだけで情報が貰えるのだ。
サクラさん達のチームの行動は早かった。
笑顔で握手してすぐに動き出す。
鳥のさえずりのような口笛を発すると、あっという間に仲間と一緒に森の中へと姿を消していった。
残された俺達は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
じっとしていろと言われたんだけど、大人しくここでボ~っとしてもいられず、俺は双眼鏡を取り出してこっそり廃墟の街を観察し始めた。
ただし、敵に見つかってはいけないのでこれ以上前へは出ないつもりだ。
しばらくすると、正面門からオーク軍の車列が出て来た。
その中にオープントップの4輪車があり、それには士官らしい制服を着ているオークがふんぞり返って乗っているのが見える。
指揮官なのかなあなんて考えていると、そのオークの頭が1発の銃声と共に吹っ飛んだ。
するとハチの巣をつついたように大混乱になった。
葉っぱ怪人の奴らに違いないな。
その後は物凄い銃撃戦となった。
と言ってもオーク側からの一方的な銃撃みたいだけど。
サクラさん達はこの状態で俺達の所に来るつもりなのか。
俺達がここから逃げようか迷っていると、サクラさんが突如俺達の前に現れて言った。
「作戦は一応成功よ。ごめんなさいね、戦闘になっちゃって。これじゃあ強行偵察になちゃったわね。でもこれで敵の戦力も把握できるわよ」
サクラさんはそう言って正面門を指さす。
すると正面門からはオーク戦車が何両も出てきていたのだった。
次回、オーク軍に見つかり戦闘に。
主人公達は逃げ切れるのか?!
次話投稿は明後日の予定です。
次回もどうぞよろしくお願いします。




