82話 修理
まずは偵察へ行く準備をしないといけないから、自走砲の修理が最優先だな。
所長がハンター協会持ちで修理していいっていったもんね。
これはかなりラッキーだ。
燃料と弾薬は出来るだけ隠して置いて不足してるように見せて、できるだけ多くを補充してもらう算段を立てた。
その上で受付に申請書類を提出する。
すると検査されるかとビビっていたんだけど、なんとノーチェックで書類が通ってしまった。
それを見た俺は慌てて一緒に提出するはずだった自走砲の修理依頼を引っ込めて、受付のお姉さんに言い訳する。
「あっと、すいません。書類の申請箇所を間違えて書いちゃったみたいなんで、書き直してきます。ちょ、ちょっとだけ待っててください」
言い終わると受付のお姉さんの許可を聞く前に、俺は書類を握ってその場を走り去る。
エミリーも俺の行動で気が付いたらしく、受付嬢に愛想笑いを浮かべてさっさとその場を離れるのだった。
「お兄ちゃん、書き直すから契約書をテーブルに置いて!」
待合室に共有テーブルに俺がばばっと申請書類を広げると、エミリーが物凄い勢いでペンを走らせる。
その横で俺はエミリーに希望する“改造箇所”を次々に記入させる。
自走砲の分とハーフトラックの分の2枚だ。
この際だ、却下されようが申請するだけしてみて、その中の1か所でも通ればラッキーと言う考えだ。
あらから思いつくことは記入して、受付カウンターに書類を叩きつける様に出した。
「これでどうだ!」
俺の言葉に意味不明といった様子で書類を確かめる受付のお姉さん。
なんだか眉間にしわを寄せている。
ちょっと無理しすぎたか。
受付のお姉さんは上目遣いで俺を見ると、ため息をついて告げた。
「はぁ、これだと全部の申請は通らないと思いますけど、一応工房へこの書類を持っていって下さい。最終判断は工房長がします」
やっぱり全部は無理みたいだけど、あの言い方だと工房長次第ってことみたいだ。
『仮』と書かれたハンコを押された書類を渡された。
ハンコを押された書類を握り締めると、メンバー全員を引き連れて、ハンター協会専属の工房へと車両に乗り込んだ。
工房はハンター協会の建物のすぐそばにある建物だから直ぐに到着する。
今度は工房の受付に持って来た書類をバシッと差し出そうとして手を止める。
受付が女性ではなく、30代後半の厳ついおっさんだったからだ。
俺は書類をエミリーに渡しながらウインクで合図を送る。
それでエミリーも「はいはい」とでも言いたそうに片手をひろひらさせて書類を受け取り、胸元のボタンを2つほど外して受付前に立つ。
「えっとお、ハンター事務所の所長さんに~、この書類を工房長に持っていけって言われたんだけどお、どうしたらいいんですか~、てへっ」
エミリーの必殺のお色気作戦だ。
見た目が16~18歳くらいに見えるエミリーは、おっさん達から絶大の人気を誇る。
特に30代後半から40代前半のおっさん達には、幼さが残る中にも色気があるエミリーがエロ天使に見える事だろう。
エミリーは一部の人達から『おっさんに鉄拳』と言われているらしい。
エミリーはそれほどの破壊力を持っているのだ。
エミリーを見た受付のおっさんの厳つい表情が一変した。
見る見る内に顔が赤らんでいき、険しかった表情が崩れていく。
奴の装甲板は完全に破壊されたようだ。
顔の周りにハートのマークが浮かんできそうな勢いで、エミリーを修理場へと案内していく。
よし、第一の検問は通ったぞ。
俺達はエミリーの後を堂々とついて行くだけだ。
ふとタクとソーヤの姿が目に入った。
2人の視線がエミリーの胸元に集中している。
後でぶっ殺さないといけないな。
修理場内へと案内されると工房長と呼ばれる人物を紹介された。
50代前半の怖そうなおっちゃんだ。
これはまたしてもエミリーの出番である。
エミリーが書類を見せながら得意のエロ可愛い攻撃に出た。
工房長の眉がピクリと動くが書類を見る厳しそうな目は変わらない。
まずい、エミリーの攻撃が効かないのか。
しかし我が妹は第2段階に出た。
するりと服がズレ落ち、肩のあたりの肌が露わになり、胸のふくらみでそれがギリギリ止まる。
それは若さというステータスが限りなく発揮されるほどの美しい肌。
見えそうで見えないチラリズム。
それはごく自然に肩からズレ落ちたように見えるが、完全にエミリーが計算してやった事だ。
工房長の視線がエミリーの胸元へ固定された。
エミリーが俺の方を一瞬見てニコリとする。
どうやら攻略完了のようだ。
ついでにタクとソーヤも撃破されたようだ……
そこからはメカニックに強いソーヤと俺が改良箇所の説明をしながら話を進めた。
でも物理的に無理な注文や時間が掛かりすぎる内容は涙を呑んで諦めましたよ。
偵察は直ぐに行けということなんで、修理に時間を掛けられなかったのだ。
これによりほとんどの提案が却下されることになる。
まあ、それだけ無茶ぶりだったということなんだけど。
それでハーフトラックには後方に機関銃用の銃架を取り付けるだけにとどまった。
これはその場ですぐに取り付け完了した。
自走砲の75㎜砲の旋回故障を修理工の人に見てもらったのだが、険しい表情でつぶやかれた。
「こりゃあ修理するより載せ替えちまった方が早いな」
この言葉で修理ではく75㎜砲ごと載せ替えることになったのだが、俺はワクワクが止まらなかった。
この流れだと野砲ではなく、ちゃんとした75㎜対戦車砲に載せ替えできると思ったからだ。
しかし現実はそんなに甘くはない。
在庫が50㎜対戦車砲しかなかったのだ。
やはり戦時下という事なのか、ハンター協会の工房でも武器が足りてないらしい。
と言うことは50㎜砲に載せ替えが決定ということになる。
性能はどうなんだろうか、一応聞いてみる。
「あのう、性能的にはどうなんでしょうか。元々積んでいた75㎜砲と比べてなんですけど」
「弾種にもよるけど装甲を撃ち抜く力はそんな変わらねんじゃないか。でも榴弾威力で見れば75㎜砲のほうが口径がでかい分50㎜砲よりも高いかな。でも命中率は圧倒的に50㎜砲が上だよ。結局、用途にもよるから一概にどっちが性能がいいかなんて比べられねえよ」
「そうですか。わかりました。それから申請書にも書いてあるんですけど機関銃を付けたいんで――違う、機関銃が敵弾で丸々吹っ飛ばされたんで“修理”お願いします」
危ない、修理依頼だったんだよね。
「どの辺に取り付ければいいんだ?」
俺は戦闘室の前方方向に射界が向くように説明した。
だいたいの説明が終わったところで修理工の人に質問される。
「ずっと気になってたんだけどさ、この丸太は何?」
「……」
こうして修理というか改造に2両とも工房に預けて、俺達はその間に時間つぶしも兼ねて、情報を集めに行くことにした。
修理完了は明日と言われたので時間が空いたのだ。
俺達は全員でハンターが集まる飲み屋や闇市を手分けして回ることになった。
75mm野砲から50㎜対戦車砲に換装するようです。
ゴブリン相手ならばそれほど問題なさそうですが、オーク相手にはどうでしょうか。
次回は、遂に偵察へと向かいます。
さて、隠密偵察になるのか威力偵察になるのか……
次話投稿は明後日、もしかしたら明々後日になるかもです。
すいませんがよろしくお願いいたします。




