75話 遺跡偵察
ミウが故障した箇所を調べた結果を報告してきた。
「ケンさん、装甲板が変形して旋回の邪魔をしてるんです。これを直すには強力な筋肉が必要そうです」
ちょっと発想が変だ。
ミウは時々だけど常識外れなところが見え隠れする。
どうやら装甲の変形を直せるような道具が必要らしい。
筋肉はどうでもいい。
つまり現状直せないということだ。
「ミウ、どのくらい旋回できる?」
俺が質問するとミウが旋回ハンドルを回しながら返答する。
「そうですね、これくらいです」
砲身の動きを見る限り、左に向いた砲身はわずかに右へ動いた程度。これだとほとんど固定されたも同然だ。
これでますます接近戦は不利になった。
なるべく敵に合わないように帰るしかない。
ケイが撃破した戦車を見つけたらしいが何故か慌て方が変だ。
「ケン隊長、戦車の近くにゴブリン兵!」
ケイの言葉とほぼ同時くらいにゴブリンからの銃撃が始まった。
戦車よりも歩兵の方が怖いかも。接近されて手榴弾でも投げ込まれたらそれで終わるし、75㎜砲は接近戦では使えない。
なるべく近づかないでゴブリン兵を蹴散らさないといけない。
しかしその必要もなかった。
何もしなくてもゴブリン兵は逃げ出したからだ。
装甲車両2両が迫って来たんだから歩兵が逃げ出すのも当然か。
その逃げるゴブリン兵に“脅かせやがって”と俺の軽機関銃とハーフトラックの機関銃が吠えまくる。
機関銃の弾を背中に受けて3匹のゴブリンが倒れるが、残りはすべて逃げていった。
これで俺達がここまで来た事がばれてしまった。
急いでゴブリンの角の回収と戦車の破壊写真を撮影して、俺達も逃げる様にしてその場を去った。
輸送部隊のいる車列に突撃することも考えたのだけど、後ろから別の部隊が来たらそれこそ詰んでしまうのでそれは諦めた。
引き際は大切なのだ。
それでも戦車2両にゴブリンの角が9個、それとゴブリンの装備品が少し。これでなんとか経費を差っ引いても1日分の稼ぎにはなったはずだ。
ただし自走砲の修理費用を考えると赤字になる可能性もあるけど。
そうなると遠距離からの攻撃で仕留めても、戦利品の回収や証拠写真の事を考えると、結局近くまで行かなければいけない。ということはヒットアンドアウェイ作戦は難しいと思えてきた。
敵を撃破しながら戦利品を回収して前進することになるのか。
やっぱり自走砲の用途は限られて扱いが難しいな。
強力な武器を装備した比較的安価な戦車なんだけど、あまり普及しない理由がなんとなくわかった気がする。
考え込んでもしょうがない。
そのうちゴブリンの追手が来そうだし、今は味方勢力圏内まで戻るのが先決だ。
俺達は林の中を通って味方陣地を目指す。
前を警戒しながらハーフトラックが先を行く。その後ろを砲の旋回があまりできないままの自走砲が進む。
皆は丸太自走砲、あるいは丸太戦車と呼んでいるが、俺はそんな名称など認めんぞ。
ただ、最初は半分バカにしていた様子だったけど、丸太で榴弾の威力を落とせたことから、バカにした様子は全くない。
むしろ丸太すげぇになってる。
戦車が通れそうな場所を選びながら進んでいるんだけど、だんだん街道から遠ざかっている気がする。
大丈夫か?
ちょっと心配になった俺は無線でハーフトラックに呼び掛けてみた。
「こちら75㎜砲、251型どうぞ」
『は、こちら251型です。どうぞ』
「俺だけど、方角間違ってないかと思って連絡したんだけど、どうぞ」
『多分間違ってないはずなんですけど。間違ってなければ地図にも載ってるキタ遺跡ってところにもうすぐ到着します。どうぞ』
「へ?! 待て、そこはまずい。止まれ、停止!」
前を行くハーフトラックが急停止して乗員席からタクが顔を出し、不思議そうな表情を見せる。
エミリーに停車するように伝えて全周警戒を指示したうえで、無線に向かって話をする。
「えっと、警戒しながらでいいんでみんな聞いてくれ。キタ遺跡は古代の小さな街の痕跡だ。俺もキタ遺跡の事をすっかり忘れれていたよ。湧き水があって軍の駐留にはもってこいの場所なんだよ。だからゴブリンが駐留している可能性も非常に高い。だけど地図を見てくれればわかると思うが、予定していたコースから随分外れてしまっているんだよ。この街を通らずに行こうとすれば、引き返して1つ山を回り込む事になる。早い話、非常に時間が掛かる。そこでだ、通れるかどうかまずは偵察。その結果を見て判断したいんだけど皆の意見はどうかな?」
今までの流れから多分「隊長に従います」になりそうだが、一応聞かないといけない。特に影の総番長にはお伺いを立てておかないと後で何を言われるかが怖い。
俺の話を操縦席で聞いていたエミリーが真っ先に返答してくれた。
「お兄ちゃん、私は別にそれでいいと思うけど、ゴブリンの拠点だったら普通に強行突破できそうな気がするんだけど」
俺はカッと目を見開いてエミリーを見て言った。
「エミリーさん。い、一応そういった意見もあるという認識で他の人の意見も聞いてみますね……」
エミリーは不満そうな表情でこくりと頷く。
他の意見やはり俺とエミリーに任せるという意見で一致した。
まずはここで留まって俺とタクの2人で遺跡を偵察に行く事になった。
遅い昼食を取った後、途中まではハーフトラックで送ってもらい、あとは徒歩で遺跡まで行って敵がいるか偵察を行うという手はずだ。
俺とタクはハーフトラックから降りると、ハーフトラックの偽装を手伝った後、遺跡へと向かうのだった。
設定資料
60型軽戦車
速度:44㎞
武装:20㎜機関砲×1、同軸に機関銃×1
装甲:7~20㎜
乗員:2名
設計上の理由から軟弱地での機動性に問題がある。
オークがよく乗る小型戦車である。
次話投稿は明日の夜の予定ですが、時間は未定となっています。
明日もどうぞよろしくお願いします。




