表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/282

74話 被弾





 林の奥から敵戦車の木を倒す音が聞こえてきた。


 タクから無線で連絡が入る。


『敵戦車あと50mほどで林を抜けます。この分だと自走砲正面30mの位置に側面を見せて出て来ます。それから輸送部隊は破壊された車両の除去をしながらゆっくりと前進しています。どうぞ』


「了解、あとは任せろ。もしもの時は脇道にそれた時の交差路で落ち合おう。以上」


 ここからが正念場か。

 キャタピラの音が聞こえてくる。


 木々の間から時折車体が見え隠れする。


 もう少しだ。

 俺は焦る気持ちに耐えながら自分の手が小刻みに震えるのをちらりと見る。

 頭では落ち着こうとうしているんだけど、体が緊張から抜け出せない。


 緊張を緩めようと右手を開いたり閉じたりする。

 そして深呼吸してから安っぽい照準器を覗き込む。

 すると照準器の端っこの方にゴブリンのブレタン戦車が現れて停車した。


 え?!

 止まったのか!!


 俺の予想した射点よりも手前で敵戦車は停車してしまったのだ。

 林の切れ目のギリギリの辺りで止まったブレタン戦車は、砲塔をこちらに旋回し始めた。


 まずい、撃たれる!

 俺は必死で75㎜砲の砲身を左へと旋回させる。

 すると車体斜め前に生えている木に砲身がぶつかる。

 ギリギリ射界に入らない。

 しまった、最大のミス!


 間に合わねえ、終わった……

 

 そう思った矢先に自走砲が前進する。

 砲身が木にぶつかったのを見たエミリーが、機転を利かせて車体で木をなぎ倒したのだ。

 エミリー、ナイスフォロー!


 しかしそれも数秒遅かった。

 俺が旋回ハンドルを回し終えて照準器にブレタン戦車を捕らえた瞬間、こちらに向けられた47㎜砲からの発砲炎が見えた。


 強い衝撃が車体を揺らし、目の前に火炎が飛び散り、どす黒い煙が立ち込める。

 数秒遅れて何かの破片が降り注ぐ。


 何がどうなったかわからない。

 強い衝撃と音で耳鳴りがひどく、頭がクラクラする。

 ただ、自分がまだ砲手席に座っているのはわかる。

 敵を撃たなきゃという気持ちが無意識に俺に照準器を覗かせる。


 真っ暗で何も見えない。

 ただそれが煙なのか、単に壊れてしまったからなのか今の自分に判断はできない。

 しかし俺はその暗闇の中へ75㎜砲を撃たなければいけないという衝動に駆られる。

 暗闇の先で何やらチカチカと瞬く光が見えた。


 俺は意識が朦朧もうろうとしたまま右手伸ばし、発射レバーに手を掛ける。

 そして照準器でそのチカチカするものに狙いを定め、体重を掛ける様にして発射レバーを引いた。


 俺の右横で砲身が勢いよく後退して砲弾発射時の反動を打ち消す。

 これで徹甲弾が発射されたことは理解できた。

 しかし耳鳴りのせいか発射音はほとんど聞こえない。


 「じ、次弾装填……」


  途中まで言いかけたのだが、自分の声が聞こえないせいか、ちゃんと喋れているか心配になり言葉を止めた。

 

 ふと、エミリーとミウとケイのことが頭をよぎる。


 自分のどの程度の大きさでしゃべっているかわからないまま、3人の名前を呼ぶ。


 足元にいる操縦手席を見ると、座席にもたれ掛かるようにしている。

 名前を叫びながら肩を揺らすと意識を取り戻して口をパクパクさせる。

 何か言ってるけど大丈夫そうだ。

 エミリーの肩を2度叩き、ケイとミウの方へと向かう。

 2人とも戦闘室に重なるように倒れている。


 2人とももぞもぞと動いているのが見える。

 良かった、生きてるみたいだ。


 3人の無事を確認すると一気に恐怖心が込み上げてくる。

 敵戦車は?!


 俺は75㎜砲の防盾の上から顔を出して前方を覗き込む。


 すると20mほど先には車体側面に穴を空けたブレタン戦車が煙を上げながら擱座かくざしていた。


 俺が発射した砲弾がブレタン戦車を仕留めたのだろうか。


 でも確かブレタン戦車が先に撃ったような気がするんだが。

 はっきりと覚えてない。


 そこへ崖の上からタクは滑り降りてくる。

 俺が手を振ると安心したように近づいてくる。


 タクは何かしゃべりながら車内へと入ってくるのだが、俺にはほとんど聞こえない。

 タクは俺に小瓶を手渡すと、まだ朦朧もうろうとしているケイとミウにも小瓶を渡した。さらに操縦手席にいるエミリーにも小瓶を渡す。

 ヒールポーションらしい。

 俺はその小瓶を一気に飲み干すとあっという間に頭が冴えてきて、ずっと鳴っていたキーンという耳鳴りがなくなった。

 あ、これは絶対高価なやつだ。


 意識がはっきりしたところでどうなってるかタクに尋ねた。


 タクが言うには敵の輸送部隊の半数がすでに前線方面へと抜けて行ったそうで、現在も破壊された車両の横を1両ずつゆっくりと通り抜けているらしい。


 今のところこちらへは攻撃してきてないという。

 

 俺は自走砲を下りて正面に回る。

 すると正面にワイヤーで縛り付けていた丸太が吹き飛んでいた。

 徹甲弾ではく榴弾を喰らったようだ。

 丸太の防御のおかげで助かったのか。

 恐らく敵ゴブリンは俺達自走砲の姿を確認していなかったから、対戦車砲か野砲だと思ったんじゃないだろうか。

 それで装甲標的用の徹甲弾ではなく、非装甲標的用の榴弾を装填したまま突っ込んできたんだと思う。

 

 後ほどタクに話を聞いたところ、ブレタン戦車の砲弾は丸太に命中して爆発。そのあとブレタン戦車は破壊できなかった自走砲に機関銃を撃ち込み始めたそうだ。

 次弾装填までの時間を稼ごうとしたのかもしれない。

 そこへ突然75㎜砲が発射されたということだ。

 俺が目にしたチカチカ瞬いたのは機関銃の発射炎だったようだ。


 さて、この後どうするかだ。


 崖の上へは登れそうにない。

 このまま街道沿いの林の中を突っ切るか、いっその事敵を蹴散らして街道を走って戻るかだ。

 

 この位置からだと街道上の輸送部隊は林の木で見えないけど、ゴブリン戦車が戻ってこないことからそのうち装甲車か歩兵が斥候に来るはずだ。

 ここに留まるのはまずい。


 俺はタクに言う。


「タクとソーヤは崖の上から戻った方がいいよ。崖下から戻るにはリスクが多いと思う。一旦ここで別れよう」


 するとタクは当たり前のように返す。


「何言ってんですか。僕達も崖下から行きますって。置いて行かないでくださいよ」


 そうだ、こいつら付いてくる癖があったと思い出す。

 少し考えた末、俺は「勝手にしろ」と言って投げた。

 遠回しに付いてくることを了承した形だ。


 タクが崖の上から顔を出しているソーヤに手を振ると、分かったとばかりに手を振り返えし、ハーフトラックへと向かう。

 そしてエンジン音を響かせて崖の上から大きく車体を乗り出した。


 崖崩れのような土砂の流れに乗って、ハーフトラックが滑り降りてくる。

 そして見事に俺達の前でピタリと止まった。


 なんかソーヤの操縦の腕前ってエミリーと並ぶんじゃないのか。


 俺はタクに戦利品の回収と写真を任せると、早速ブレタン戦車の乗員のゴブリンの角や拳銃を回収し、破壊した戦車の証拠写真も撮影した。


 これで角3個に中戦車1両撃破だから少なくても3,600シルバの稼ぎになった。

 でもこれだと6人の稼ぎにはまだ足りない。

 林の中にまだ破壊した戦車が2両あるはずだ。


 しかし敵の車両部隊に接近することになる。


 もう1両は林の中間あたりで破壊したが、もう1両は街道下の沢で破壊しているから接近は難しい。

 折角破壊したのに証拠の写真が撮れないだけで3,000シルバがもったいない。


 ますは林の中間の戦車に接近してみる事にした。


 ただ出発する寸前に各部の故障点検で発覚したんだが、75㎜砲の旋回に不具合が生じていたことが発覚した。

 どうやらブレタン戦車の47㎜砲を受けた衝撃が原因のようだ。

 修理には時間が掛かりそうで、敵の斥候が怖いのでまずはここから出発する事を急いだ。


 斥候の歩兵を警戒しながら自走砲を先頭にしてそのあとをハーフトラックが進む。

 ミウは旋回ハンドルを何度もクルクルと回転させながら不都合を調べている。

 その間にも俺は26型軽機関銃を戦闘室を囲う装甲板に載せて、何も見えない周囲に睨みを利かせるのだった。







次回、ゴブリンをかわして林の奥へと進みますが、その先に遺跡があることを思い出した主人公は……





次話投稿も明日ですがやはり時間は未定です。



明日もどうぞよろしくお願いします。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ