73話 崩落
このまま接近戦はまずい。
俺達が陣取っているこの崖は、戦車で簡単に登れるようなものではない。危なくなったら直ぐに撤退するつもりだ。
でもよくよく考えたら撃破した戦車の写真を撮影しないと、ハンター事務所から撃破褒賞がもらえないじゃねえか。
この距離からだと遠すぎて撮影は無理だし。
軍隊と違って俺達は稼がなければいけないのだ。
俺は崖と近づいてくる戦車を見比べる。
まてよ、もしかして真下に接近されても撃たれないかも。
高低差がありすぎて下に接近されても、敵戦車の砲身が上を向ききれないはずだ。
しかしこれはあくまでも俺の予想だ。
もしかしたら届く可能性もある。
ゴブリン戦車のそんな細かな性能まではさすがに把握していない。
リスクはあるが俺は留まることを決意した。
残る戦車は接近してくる2両のみだ。
敵が確認できなきゃ命中魔法も効かない。
ミウが言うには撃った瞬間に標的が見えてないと、魔法の効力は発揮できないらしい。
それを考えると接近してくる戦車は見え隠れして照準は難しいんだよな。
この際は放っていて車列を攻撃するか。
「ミウ、魔法はあと何回できそうだ?」
俺の問いにミウが答える。
「魔力のネックレスがあるからまだいけるんですけど、多分あと2回ってところです」
「よし、敵戦車も残り2両。なんとかいける」
「わかりました。命中魔法掛けます」
「よし。徹甲弾装填、目標は左からくるブレタン戦車、距離800」
ケイの装填完了の声が聞こえる。
俺は直ぐに「撃て」と口にした。
75㎜徹甲弾が木々の間をすり抜けて突進する。
そして森に「ガンッ」という音が響くと激しい土埃が舞い上がり、ブレタン戦車が木の幹に乗り上げてひっくり返った。
俺は「命中」と小さく宣言して、次発装填を急がせる。もちろん徹甲弾だ。
ミウも残った魔力を使って命中の魔法を75㎜砲に掛ける。
「距離600、ケイ急げ!」
「うるさい、これでも急いでるんだから――はい、完了よっ」
「よし、撃てっ」
俺の言葉とほぼ同時くらい、敵戦車もこっちを見つけたらしく47㎜砲を撃ってきた。
47㎜砲弾は自走砲の直ぐ下の地面に着弾。
直撃ではなかったのだが着弾したのは榴弾だった為、爆発した砲弾は自走砲の車体を大きく揺らしてミウの照準を狂わせた。
発射レバーを引いてすぐにミウが叫んだ。
「ああっ、外しました!!」
ミウの撃った砲弾は見当違いの方向へと飛んでいき、全く関係のない木の幹に突き刺さる。
さらに悪いことに車体が傾き始めた。
俺はエミリーに怒鳴る。
「エミリー、後退しろっ、急げ!」
しかしエンジンを吹かす音は聞こえるが履帯は空回転するばかりで、徐々に車体は前の方にずり落ちていく。
やばい、やばい。
崖の下に落ちるぞ。
崖の高さは大したことないが、落ちたら恐らく登れない。
それがまずい。
せめて横転しないことを願う。
土砂と一緒に車体は一気に下まで滑り落ちた。
そして戦闘室に入って来た土をかぶりながらみんなして咳き込む。
大丈夫だ。
横転はしていない。
思ったより安全に降りられたようだ。
崩れた土砂と一緒にまるで波に乗るかのように上手く地面に降り立てたのだ。
ただし、戦闘室内は土で凄いことになっているけど。
運が良かったのかエミリーの操縦が凄いのか、とにかく助かった。
いや、安心してる場合じゃない。
ケイとミウは派手にひっくり返ったようで、2人して腰をさすっている。
「敵戦車が迫ってる。エミリー動かせるか」
「痛たたたた……うん、なんとか大丈夫みたい」
しかしこれでミウの命中魔法は魔力切れでもう使えない。
そして敵ブレタン戦車が迫っている。
どうする?!
俺は車内を見回す。
戦車に異常はないようだ。
やるしかない、一騎打ちだ。
「ミウ、俺が砲手席に着くからミウは敵を監視してくれ。ケイは徹甲弾装填だ」
俺の真剣な声にケイとミウが動き出す。
それを確認した後、隠れる場所がないか辺りを見回す。
左の方に若干くぼんだ場所がある。
少しでも隠れられる場所はあそこしかない。
俺はそのくぼみを指さして言った。
「エミリー、敵戦車に砲身を向ける様にしてあのくぼみに車体を入れてくれ」
「うん、わかった。あそこくらいしかない隠れるとこないみたいね」
そう言ってエミリーはその小さなくぼみに車体を入れた。
入ったはいいが、車体の下半分も隠れられない。
入らないよりましな程度というところだ。
敵ゴブリン戦車が林の中を普通にまっすぐ進んできたならば、この自走砲の真ん前に戦車側面を見せて出てくるはず。
こっちがやられる可能性も十分にある。
初弾を外したら次には必ず撃たれる。
向こうは砲塔があるけどこっちはないから接近されると間違いなく不利だ。
この一発が勝負だ。
動く標的だ。
慎重に見越し射撃をしないといけない。
ケイ、エミリー、ミウに作戦を説明すると真剣な表情で了承してくれた。
タクから安否を気遣う連絡が無線で入る。
こっちは大丈夫だと伝え敵戦車を迎え撃つ作戦を説明する。その上で敵戦車の動向を逐一無線で教えてくれるように言った。
タクとソーヤはまだ崖の上だから敵戦車の動向が見えるはずだ。
これで敵がどこに出てくるかだいたいわかるようになった。
あとは命中させることに全神経を集中させる。
乗員3人に対して自走砲から降りて離れておくように伝えるが拒否された。
ケイは徹甲弾を装填しながら「誰が次弾装填するのよ」と言う。
エミリーは「敵の動きに合わせて誰が車体の向きを変えるの?」と言う。
ミウは「私……応援します!」って何それ?
俺は苦笑いを浮かべながら敵戦車のいる林を睨むのだった。
次回、車体をさらしてのブレタン戦車との一騎打ちとなります。
しかしブレタン戦車の動きが……
次話投稿は明日の予定ですが時間は未定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




