7話 燃料
ちょい短めです。
荒野で対戦車砲を牽引した装甲車がポツンと止まっている。
少し離れた場所には先ほどまで、ウルフライダーと死闘を繰り広げていた森がある。
今はそこから何とか逃げ延びて荒野の真ん中で、俺とエミリーは燃料切れの装甲車とで立ち往生だ。
幸運なのか食料と水はたくさんある。
だけど燃料が無い。
弾薬も心許ない。
やばい、このままだとこの状態で日没を迎えることになっちまう。
魔獣が襲って来るであろう真夜中を想像しながら、俺とエミリーは装甲車に寄り掛かって何度もため息をつく。
遮蔽物がほとんどないこの場所で野宿かあ。
まあ、火炎瓶がたくさんあるから、一晩中魔獣避けの為の火を絶やすことなくすごせそうだけどね。
弾薬が少ないのはかなり致命的な気がする。
「エミリー、今晩はここで野宿になりそうだから魔獣避けの焚火を起こそう。少しくらいは効果あるだろ。火炎瓶がたくさんあるから焚きつけには困らないしね」
俺がそう言うと、エミリーがハッとした様子で俺の顔を見る。
「お兄ちゃん、それよ。火炎瓶!」
「はあ、火炎瓶がどうしたの?」
さっきまでまるで生気が無かったエミリーが勢い良く立ち上がる。そして装甲車に積んでる木箱を取り出して「よいしょっ」と地面に置き始める。
「ああ、焚火起こすんだよね」
俺のあまりやる気のない言葉にエミリーが元気よく答える。
「違うからお兄ちゃん。火炎瓶の中身よ、なーかーみっ」
不思議そうにする俺を無視して、エミリーはおもむろに火炎瓶の中の液体を装甲車の燃料タンクに注ぎ始める。
そこで俺も我に返り火炎瓶を手に取り、中身の液体の臭いを嗅いでみた。
合成ガソリンの臭いだ。
俺の顔は笑顔で一杯となり、エミリーを後ろから抱きしめる。
「でかしたぞ。よくぞ気が付いた。エミリー天才!」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん。やめてよね。変なのがおしりに当たってるし……」
こ、これは違うんだ。
妹で興奮したわけじゃなくてだな……エミリーすまん。
「あ、ああ、すまんすまん。俺だって思春期の男の子だからね。色々と体にも変化が訪れるんだよ。街についたら体の中の毒を出すからさ。ははは」
「お兄ちゃん、汚らわしいよ……」
俺的には結構なオブラートで包んで話したんだが、エミリーの奴ストレートで返しやがったか。
今度寝ている時に見てろよ!
こうして荒野で野宿することなく、なんとか街まで戻ることが出来た。
街に着いたのはすっかり日も暮れてからだ。
アシリアという街。
最近俺達が拠点にしている街だ。
街の居住区の周りには4mほどの高さの防壁が張り巡らされ、一定の間隔ごとに監視所が設置されている。
これらは魔獣からの攻撃を防ぐ目的で作られている。
もちろん要所にはトーチカや地雷原が設置されている。
その一番外周部分に畑が広がる。
広大な畑まではさすがに防壁で囲えなかったということだ。
畑を抜けて検問所で入街税を支払いアシリアへと入って行く。
まず向かうのは買い取り所だ。
積んできた荷物を売り払う為だ。
ゴブリン盗賊から得た品々は結構な量で、査定には時間がかかるらしい。その間に俺達はハンター協会へと向かうことにした。
今回の護衛任務の事後報告をしに行くのだ。
まあ今回は護衛失敗なんでペナルティーとなる事は覚悟の上だ。
ペナルティーを考慮しても、少なくても対戦車砲が売れれば赤字にはならない計算だ。
それでプラスになった分、少しでも借金の返済に充てる。
そう、俺達兄妹には借金がある。
死んだ両親が残した遺産だ。
金額にして80万シルバだ。
毎月少しづつ返済はしてるけど、俺達の稼ぎじゃあ利息分が精一杯だ。
しかし払えないと妹のエミリーは歓楽街へと売られていくことになり、俺は強制労働へと送られる。
最低分の利息は支払っているから何とかそれは避けられている。
俺達兄妹には金が必要なんだ。
そんな事情があるため、危険であるけどこの仕事はやめられない。
エミリーの才能と肉体担当の俺とでなんとか稼いでいる。
俺は改めて気を振り絞ってハンター協会へと歩き出す。
しかし失敗の報告というのは嫌なもんだ。
疲れた身体に鞭打って、なんとか俺達はハンター協会の建物に入って行った。
明日も次話投稿します。
よろしくお願いします。