69話 ゴブリン帝国
皆がざわついている中、ハンター事務所の2階から階段で下に降りてくる人物がいた。
50代前半くらいだろうか、顔に大きな傷跡があり黒い髪の毛にはところどころに白髪が混じっている。
元1等級のハンターで、この街のハンター事務所の所長だ。
そして階段の途中で立ち止まる。
すると急に事務所内が静まり返る。
これは何か発表がある雰囲気だ。
所長は時計を確認した後ホールを一度見回す。
そして持っている書類に目を通しながら口を開く。
「え~、一部のハンターにはすでに情報が回っているらしいが、今日ここで正式に発表する。本日午前3時に元ゴブリン王国があった場所が新たにゴブリン帝国を宣言した。これをもって我が人間族はゴブリン族と戦争状態に突入――」
そこまで話を聞いていたハンター達が騒ぎ出し、所長は書類から目線を外しホールに向かって声を張り上げる。
「――俺がしゃべり終わるまで騒ぐんじゃねえ!!」
ハンター事務所のホールは再び静まり返る。
所長はそれを確認すると、何もなかったかのように再び書類に目を向けて話を続ける。
「――という中央からの発表だ。早い話、ゴブリンとの戦争だ。これによって戦時下特別法が適用され、ゴブリンの討伐報奨金も増額する。それとゴブリンの戦闘車両にも正式に討伐報奨金が支払われることになった。詳しくは資料を配布するんで各自目を通してくれ。それ以外にも色々変わることがあるが説明が面倒臭いから掲示板に張り出すんで確認してくれ。以上だ」
話を終わるとハンター達から質問の声が上がるのだが、所長は「受付で聞け」といって2階の部屋へと引っ込んでしまった。
俺はごった返す人ごみの中、早速配布された資料を手に持ってみんなの所へと戻る。
「ここにいたら話もできないな。一旦外に出よう」
俺の提案に全員が外の駐車場まで引き下がる。
そしてハーフトラックの兵員座席に全員が座ると、ミウがポットから少し冷めたコーヒーを次いで回る。
各々がコーヒーを口にして一息ついたとこでエミリーが口を開く。
「お兄ちゃん、戦争だって。これからどうするの」
どうすると言われても困ってしまう。
特に今までと変わったことをしようとは思わないし、戦争が始まろうが俺達の借金が減ることもない。
「どうするも何にも、今までと変わらいだろ。ゴブリンの装備が良くなっていたのは実感していただろ。ゴブリンが戦車に乗り始めたのも知っているし、実際戦闘にもなってるしな。それで何か特別変わったか。何も変わらないだろ。だから俺達も今まで通りの生活を続けるだけだよ」
エミリーだけじゃなく、ガキンチョ3人とミウも心配そうな顔をしている。
俺は配布されている資料を指さしながらみんなに見せる。
「ほら、心配してても金は入ってこない。それより見ろよ、これ。ゴブリンの角の値段が200シルバに上がってる。ゴブリン軽戦車を1両撃破で2,000シルバ、中戦車だと3,000シルバだ。これは今が稼ぎ時だぞ」
タクが顔を上げて俺を見る。
俺が目で合図すると、俺の意図が理解したようで突然元気な振る舞いをし始める。
「そ、それは凄いですよね。お、大儲けできそうじゃないですか。あーやるきでてきた」
それを聞いてエミリーが「ふっ」と小さく笑ってすっくと立ちあがる。
「それじゃあみんな、ゴブリン狩りに出陣しようか」
エミリーの声でみんなの重い腰がやっと上がる。
そうだ、弾薬とかの物資を買っておかないと!
「みんな、品薄になる前に武器屋へ行くぞ!」
俺達はまずは金を下ろすのに銀行へ向かうが、大混雑していて順番まちも長蛇の列をなす。これじゃあ何時間かかるか想像もできない。
俺達は銀行は諦めて手持ちの金で弾薬を買いにくことにした。
しかし武器屋へいくとやはりハンター達も考えることは一緒だったらしい。
どの武器屋も大混雑だ。
比較的空いている武器屋を覗くとほとんど売り切れ状態だ。
遅かった。
考えることはみんな一緒か。
諦めて狩場へと向かうことにした。
自走砲を購入するときに75㎜砲弾は48発サービスという条件だったから十分に足りている。
足りなさそうなのは銃の弾丸か。
1~2日分の銃弾はあるけど、それ以上になると下手したら足りなくなりそうだ。
あとは俺個人の武器として短機関銃が欲しい。
戦争が始まったというならば、これが一番切実な問題だ。
今持っているような重い軽機関銃じゃなくて、近接戦闘で振り回せる短機関銃が欲しい。
それからミウとエミリーにも護身用の拳銃を持たせないといけないな。
ミウは俺が使っていた26型リボルバー拳銃を上げればいいけど、エミリーはすでに拳銃を持っている。
“チャリガン”と呼ばれる小型拳銃で、子供が自転車に乗りながら野犬を追っ払えるようにと開発された銃だ。
口径9㎜の5連発リボルバー拳銃で、子供でも撃てるように威力を弱く設計されている。
ゴブリン相手なら十分といえば十分なんだが、俺としてはもう少し威力のある拳銃を持ってほしい。
それにちょっと距離を開けると命中率が極端に落ちるのもマイナスだ。
魔法が使えはするが、車両を操縦するときは探査や検知の魔法を使ったりするから、常に魔力があるとは限らない。
だけど性能の良い小型拳銃は非常に高価だ。
それが問題なのだ。
しかし無い物はしょうがない。
俺達は今ある武装でゴブリンの軍隊と戦うことになるのだった。
とうとう始まりました。
全面戦争です。
次回、主人公達は最前線へと向かいます。
次話投稿は明日の20時の予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




