68話 丸太
俺が影の総番長の決定に逆らえることもなく、ガキンチョ3人を正式にドランキーラビッツのメンバーに迎え入れた。
もちろんハンター事務所でメンバー登録もした。
人数も増えたんでチームバッジと旗なんかも作らないといけない。
近いうちに考えないといけない。
それとゴブリンの戦利品を売り払った金と元々持っていた自動小銃を売り払って、ガキンチョ共は武器も新調していた。
俺の言った通りの軽量モデル1カービン銃で全員揃えたのだ。
これでとうとう総勢6人のパーティーとなってしまった。
それに自走砲にハーフトラックと装甲車両が2両もある。
何しろ便利なのはハーフトラックで荷物が沢山運べることだ。
自走砲の燃料と弾薬の輸送に苦労しなくて済むのはありがたい。
街から街への移動時には荷物輸送や人員輸送の仕事も受けられる。
ただしハンター事務所と同じように商業事務所に登録しないと、正式には輸送業務はできない立場となるから、他の商業事務所登録者に影響がない程度の仕事しかもらえない。
それでも全然稼ぎは違ってくる。
それにミウのポーション作成技能の稼ぎもあるみたいだし。
これは完全に大儲け道まっしぐらだ。
「なあなあ、ミウ。ポーション作成でどのくらい稼げるんだよ」
俺の含み笑いの笑顔の質問にミウの表情が暗くなる。
え、俺何か悪いこと言ったかな。
「すみません、役立たずで……」
小さな声でつぶやいて急に落ち込むミウ。
いやいやいやいや、待ってよ。
俺が悪いみたいじゃね。
するとエミリーが口を開く。
「えっとね、お兄ちゃんがいない間に2人でポーション作成でどのくらい稼げるか試してみたの。でもね、全然稼げないことが分かったのよ」
「でもさ、魔法の店でポーション入りの小瓶を35,000シルバで売ってただろ」
「そうなんだけどね、材料を集める日数や時間を考えるとね、全然割に合わないのよ。まずね材料費が凄い掛かるの。それと作成する機械を借りないといけなくて、それを引いて利益が4,000シルバよ。4日間2人がかりで作業した結果がよ」
「うん、ハンターの方が儲かるな」
俺は納得するのだった。
結局この日はガキンチョ共のパーティー登録や武器の新調とかで時間を取れれてしまい、75㎜自走砲の試乗も兼ねた魔獣狩りは翌日へ持ち越しとなった。
陽が沈むまでまだ少し時間はあるんだけど、特にメンバー全員でやるようなこともないので今日は解散だ。
ちょっと早いがエミリーとミウの2人を宿で下ろし、俺は駐車場付きの宿へと向かう。
その途中、ふと考える。
ホーンラビットが撃破された戦い、一撃でやられた時のことだ。
原因はやっぱりあの貧弱な装甲のためなんだろうと思う。
この75㎜自走砲も薄い装甲で戦闘室を囲っただけだ。
恐らく戦車砲が当たれば1発で貫通する。
いや、対戦車ライフルの攻撃でさえも戦闘室なら簡単に撃ち抜ける。
当たり所が悪ければそれで終わる。
75㎜砲があるから火力は強いが撃たれたら終わるんじゃしょうがない。
せめてもう少し防御力を上げたい。
実は方法はある。
追加装甲を増設したり予備のキャタピラを装甲替わりに張り付けるというもの。
でもそれには金が掛かり、今それをやったら確実に粛清される。
今は無理だ。
それじゃあ金があまり掛からない方法。
土嚢を積むという方法だ。
しかし正面や後面にだったら積める。でも側面には積むには台座が必要なのだ。
防御力向上と考えると効果はあると思うんだけど、崩れやすいから積み込んだ後の維持が難しいらしい。
そこで俺は悩んだ。
ある程度でいいから装甲に代わる物。しかも金のあまり掛からないもの。
俺はそこら辺を見回す。
土、石?
土嚢と一緒だな。
水?
洗車してどうする!
ふと、中央広場に植えてある木を見て閃いた。
そうか、木なら側面装甲にロープや針金で固定できるし、大きさも自由に加工できる。それに泥濘地ではキャタピラの下に引いて、脱出用にも使える優れものだ。
俺はとりあえず材木店へ行って安い丸太を何本か購入し、側面に針金で固定してもらった。
いい感じだ。これで少しはましになったと思う。
丸太に当たってくれれば小口径の砲や対戦車ライフルなら防げるんじゃないだろうか。
足りない分は明日にでも森で木を切って積み込もう。
その方が安い。
ちょっと見栄えが悪いけど命には代えられない。
どうせ殿様戦車とかバカ殿戦車って呼ばれるのは目に見えてるし。
今更もう何と呼ばれようが怖いものなどないのだ。
そういえばこの戦車の名前を考えてなかった。
うーん迷うな。
結局その日は名前を決めることだできなかった。
その日は早めに宿に入り、久しぶりのベットで心ゆくまで眠りについた。
翌朝、集合場所のハンター事務所へと集まった。
俺が一番遅かったらしく、すでに俺以外は全員集合していた。
駐車場に止めたハーフトラックの中でみんなしてコーヒーを飲んでいる。
俺はハーフトラックのすぐ横に自走砲を止めて操縦席から這い出ると、ハーフトラックの兵員席いたエミリーが立ち上がって顔を出す。
「お兄ちゃん遅いよ――って何その材木?」
エミリーに続いて他のメンバー4人も次々に立ち上がって、俺が乗る自走砲を見て変な顔をする。
俺は慌てて補助装甲の役割を説明し始める。
「いやね、これは薄い装甲をだね……」
タクが口を挟む。
「はあ? 丸太ですか、格好悪いですよ」
「いや、だからね。小口径砲ならこれで……」
今度はソーヤだ。
「それだったらちゃんと増加装甲を張り付けましょうよ。丸太じゃ見栄えが悪いですよ」
俺の説明を聞いてよ。
「いやだからさ、見栄えよりも俺は命の……」
泣きそうになってきた俺に強烈な徹甲榴弾を放ったのはケイだった。
「丸太戦車? キモっ!」
するとミウとエミリーが追随を始める。
「やったねお兄ちゃん。丸太戦車だよ」
「丸太戦車……」
「もういい……」
完全に心を撃ち抜かれた俺は、この時点でそれ以上反論することを諦めたのだった。
うな垂れたまま全員でハンター事務所へと入って行く。
朝一番の魔獣情報を知るためだ。
するとなんかいつもと雰囲気が違う。
ハンターの数も多い。
なんか事務所の所員が慌ただしい上に、いつもならハンター達が受付に並んでいるはずなのだが、誰一人として並んでいない。
よくよく見ると仕事の依頼表も全く更新されていない。
これはなんかあったな。
エミリーは解っているようだけど、それ以外のメンバーは何事かと不思議そうに周りを見回している。
それでキョロキョロするメンバーに俺は説明を始める。
「この雰囲気はただ事じゃないみたいだな。なんかでかい事件があったみたい。もう少しここで待ってれば一気に依頼表が増えるパターンだよ」
その少しあと、誰もが驚く事態が発表されるのだった。
防御力の向上のためにと思った主人公。
しかし評判はあまりよくなかったようです。
そしてハンター事務所になんだか不穏な空気が流れる。
次回、緊急事態に主人公は……
次話投稿は明日の20時の予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




