67話 面接
「お兄ちゃん、なんで落ち込んでるのよ」
店の外に出るとすぐにエミリーが俺の様子に突っ込みを入れてきたのだ。
だけど落ち込む理由が“自分の能力のなさ”なんて妹に言えるわけない。
俺は無言で歩き続ける。
するとエミリーがさっきの店で売ろうとしていたネックレスを取り出して、売らなかった経緯を説明し始める。
「さっきはごめんね、お兄ちゃん。でもこのネックレスは魔力を蓄えて置ける魔道具なの。それって魔法行使者には喉から手が出るほど欲しい物なのよ。私達2人とも魔法使えるじゃない。だからどうしてもそれは欲しかったのよ。だいたい欲しくても買えるようなお金はないし。それにそれがあれば今後の私達のハンター活動で有利になるよ。だってミウの命中の魔法がもっと使える様になるんだよ。それって凄いと思わない?」
「なんだよ、それを言ってくれればすぐに理解できたのに」
「だってそれ言ったらミウの命中魔法の事がばれちゃうじゃないの」
そこまで聞いて俺も理解した。
うつむいていた顔をビシっと上げて俺は答える。
「確かにそうだ! なんだ、売らなくてよかったな。ん?――でも俺だけが損してないか」
売らなかったから一切俺にはお金が入らないな。
それにネックレスは俺が持っていても使えないしな。
だいたいなんでエミリーがすでにネックレスを保持しているんだよ。
エミリーが慌ててフォローしてくる。
「な、なにいってるのよ。ドランキーラビッツとしてプラスになるんだからリーダーのお兄ちゃんも得することになるんじゃないの?」
「うん、まあそうだけど」
さらにエミリーの攻勢は続く。
「あ、お兄ちゃん。さっきのお店で見つけたんだけど、お兄ちゃんに似合うかと思って買っちゃったんだけどどうかな」
エミリーが1足のブーツを取り出した。
若干オーラを発しているから魔道具なんだろうと思う。
「え、魔道具なんだろ。俺が貰ってもいいのかよ」
「お兄ちゃんの為に買ったんだから当たりまえでしょ」
俺はその場でブーツを履き替える。
するとすぐに魔法の効果が表れる。
「お、なんか軽くなった感じがする」
「でしょ、そういう魔道具なんだって。似合ってるよ、お兄ちゃん!」
「そ、そうか。お兄ちゃんは嬉しいぞ。ふへへへへ」
俺が嬉しそうにしていると何故かミウがぼそりとつぶやいた。
「ちょろい……」
俺達3人はそのままハンター事務所へ向かう。
駐車場に止めてある自走砲とハーフトラックが見えてきて思い出した。
「そうだ、エミリーにミウ。大事な事を言い忘れていた!」
「はい?」
「なんですか?」
不思議そうに俺を見る2人に早速説明する。
「実はさ、ドランキーラビッツに入りたいっていう奇特な方々がいるんだよ。色々と問題を抱えている上にさ、全然戦力にもならないんだけど入れてくれってしつこいんだよ。だからエミリーからガツンと言ってやってほしんだよ」
「そこまでしてドランキーラビッツに入りたいっていうんなら、一応面接くらいはしてあげましょうよ」
「エミリーがそう言うんなら俺は構わないけど。でもかなりやばい奴らだからね。それは忘れないように。詳しくは本人たちから聞けばいいよ。きっと驚くと思うけど」
ハンター事務所の駐車場へと行くと、タクも戻ってきていてガキンチョ3人組はそろって75㎜自走砲の前にいた。
「なに、このでっかいちょんまげ戦車」
そっちかい。
エミリーが真っ先に気になったのは75㎜自走砲のほうだった。
それにちょんまげ戦車っていうな。
エミリーに続いてミウの口撃が俺のガラスの装甲を貫いて行く。
「前のちょんまげよりも大きいですよ……殿様くらい?」
いやいや、そういう表現は好きになれないぞ。
さらにエミリーの口撃は続く。
「バカ殿……」
やめろ!
もういい、やめてくれ。
これは早いとこ説明に移らないと俺が誘爆する。
自走砲を手に入れたっていう報告もまだしてなかったんだよな。
それとガキンチョ達の説明と。
俺はエミリーとミウにガキンチョ共に出会ったことから順に説明していく。
ストマックレイクに行って出会ったこと。
60型軽戦車を捕獲したこと。
廃墟の街へ行ったこと。
そこで死にかけたこと。
自走砲を手に入れたこと。
そして全員、改めて紹介していった。
そこからはエミリーの面接の時間だ。
今はハーフトラックの中でガキンチョ3人とエミリーとミウの合計5人が話している。
俺は1人だけ75㎜自走砲で時間を潰す。
結構長い時間かかってる。
1時間ほど経っただろうか。俺がウトウトしているとエミリーが声を掛けてきたんで、結果が気になる俺はすぐに聞いてみた。
「終わったか。それでどうだった。ちゃんと断れた?」
俺の疑問にエミリーは真剣な表情で言った。
「全員採用よ」
「はあ?!」
あいつらを採用するとますます俺のモブキャラが目立ってしまうじゃねえか。
これはあらゆる手段を使ってでも阻止せねば。
「ところでお兄ちゃん、影の総番長って誰の事か教えてもらっていいかな」
エミリーは笑顔でそう聞いてきたが目は笑っていない。
世の中、あらゆる手段を使っても阻止できないものがありました。
それは俺の妹……。
俺は再びうとうとと眠りの続きに入ろうと努力するのだった。
とうとうメンバーが6人に増えることとなりました。
それに兵員輸送車も加わったことにより出来る事の範囲が広がります。
そして待望の75㎜自走砲。
主人公は貧弱な防御力を少しでも良くしようと考えるのですが……
次話は明日の20時投稿予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




