65話 交渉
俺はソーヤの知識と照らし合わせて、サファイヤちゃんとの交渉から契約までのいきさつをモリじいに説明する。
その上で俺は自分の気持ちを強気な表現で説明する。
「契約上はたぶん問題ないんだろうね。でもさ、なんか騙された感じがするんだよね。そうなるとこれからこの店での買い物を避けることになっちゃうよ。他にも買取所はいっぱいあるんだしさ」
実際はここ以外の店での買取は安く叩かれ、使い勝手も悪い上に融通も利かないから行きたくはないんだけどね。
するとモリじいは答える。
「うーん、それはうちの店としては困るのう。どうじゃろ、今回の取引に少し“色”を付けるってのはどうじゃ」
俺はしめしめと思いながらもワザとらしく話の先を促す。
「というと?」
「60型の査定金額は45,000シルバなんじゃが、それでその自走砲の代金と等価交換でどうじゃ」
査定額は確かに悪くない金額だ。
それと等価交換ってことは、75㎜砲の金額を5,000シルバ割引してくれるってことだ。
確かに悪くない、むしろありがたいんだけど……
「モリじい、モリ商会の信頼の価値ってそんなもんなんだ?」
「ケン坊、言う様になったのう。そうじゃのう、それならば――40型の7.5㎝砲が手に入ったら半額で譲るっていうのはどうじゃ」
俺はとぼけた顔ですかさず突っ込みを入れる。
「半額で譲る? 無料交換の間違いだろ」
「ふぉっほっほっほ。わかった、儂の負けじゃ。無料交換で手を打とうじゃないか」
「よし、約束だからね。モリじい、ごまかすなよ」
こうして俺はこの自走砲を手に入れた。
「なあ、モリじい。そういえば今回は自走砲にマークを描いてくれなかったんだね」
俺がそういうとモリじいは呆れたような表情で答える。
「何を言うんじゃ。ケン坊が早く取りに来なければちゃんと描いてやったわい」
「え、それじゃあ今からすぐに描いてよ!」
俺がそういうと「図々しくなってきおったのう」とつぶやきながらも、ペイントの準備を始める。
その間にも俺は工房のメカニックにこの自走砲の説明を受ける。なぜか一緒になってガキンチョの3人も話を聞きながら頷いているのだが。
俺達が説明を受けている間、モリじいが手慣れた手つきでスラスラとマークを描いていく。
俺達の説明が終わる前にはすっかりペイントは完成していた。
俺は完成したペイントを指さしてつぶやいた。
「モリじい、これって……」
するとモリじいが意地悪そうな表情で言った。
「今回の商談は大赤字なんじゃ。持ってけ泥棒みたいな販売じゃろ。だから儂のせめてもの反抗じゃよ。ふぉっほっほっほ」
モリじいが描いたのは泥棒をイメージしたペイントだった。
俺が安く買い叩いたからだそうだ。
まあ、面白いからいいか。
帰り際、ガキンチョ共がモリじいに掴まっていて、何やらしきりに説得されていた。
ハーフトラックを売ってくれと言われている。
しかし予想通り、3人とも冷たく突っぱねてた。
俺はやっと手に入れた自走砲を操縦してハンター事務所へと向かう。
まずは最近の魔獣や敵性亜人の出没記録や討伐褒賞の種類などをハンター事務所でチェックし、そのあと試乗も兼ねて狩場へと向かうつもりだ。
それからエミリーとミウの泊っている宿に連絡を入れておかなければいけない。
これは重要事項だ。
あとはネックレスか。
どんな魔道具なのか調べてもらいたい。
呪いのネックレスとかだったらどうしよう。
そんな心配をしながらもハンター事務所へと到着した。
駐車場へ行って車両を止める。
なんか周りから注目されている。
最近自走砲に乗ってるハンターも徐々に出て来たみたいだけど、まだまだ珍しいからね。
それに251型ハーフトラックも有名な上に珍しいときたら、当然暇なハンター達が集まってくる。
これは誰か見張りを置かないといけないな。
よし、ここの見張りはケイとソーヤにお願いして、俺は電話してから魔道具屋へ行ってと。タクにはハンター事務所で情報を見てきてもらおう。
こうしてそれぞれに仕事を割り振った。
なんかますますパーティーメンバーみたいじゃねえか。
ちょっと心配な気持ちを残しつつも俺は自分の役割を果たしに行く。
まずは影の総番長様に連絡を入れておかないと大変な目に合うからな。
俺は公衆電話からエミリー達の泊る宿へと連絡したが、日が昇ってだいぶ時間は経っていたからか、すでにエミリー達はどこかへ出かけた後だった。
俺はフロントに伝言を伝えて電話を切る。
よし、次はゴミアイテム予想である魔道具のネックレスの調査だ。
ハンター事務所の近くの魔道具を扱う店へと向かう。
比較的小さな店で、俺もほとんど来たことがない。
店の看板には『カレンの魔法屋』と書いてある。
店へ入って行くと変なオーラを発する道具の数々が、店内一杯に並べられている。置くところがなくなったのだろうか、壁一面にまで風変わりな道具らしきものが飾られている。
もちろんお約束のように、どれも変なオーラを発している。
「うわ、これ全部魔道具なんだ……」
俺はちょっと驚いて言葉を漏らすと、その声が聞こえたのか展示してある魔道具の陰にいた店員が現れる。
「あら、いっらしゃい」
いきなりの店員登場にびっくりしながらも、俺は声を掛けてきた店員に目を向ける。
そこにいたのは青い長い髪をした女性だった。
20台中盤くらいのお姉様といった感じ。
白い実験着を着て丸い眼鏡をかけていているから、見た感じでは研究所の学者のような外見だ。
ただし、ちょっとやばい雰囲気を漂わしいる。
「あのう、このネックレスを見てもらってもいいですか?」
俺が恐る恐る店員のお姉様にネックレスを渡す。
するとお姉様は目を輝かせながら説明しだした。
「あら、これはコボルト製の魔道具ね。多分これは魔力を貯める系の魔道具だと思うわよ。一応ちゃんと調べてみないとわからないけどどうする?」
どうするって言われても困るんだけど。
費用がどの位掛かるか聞いてみないとわからんな。
「調べるのに幾らかかるか聞きたいんですけど」
「そうね、ここまでの情報だったら無料でいいわよ。ちゃんと調べるなら5分ほど掛かるけど500シルバよ。詳しく調べるなら1日掛かるけど1,500シルバね」
「ちゃんと調べるのと詳しく調べるのではどの程度違うんですか」
「ちゃんと調べるというのは表面上の性能を知ることね。詳しくだと呪いが掛かってるかどうかとか、罠の有無とか、発動条件とかといった裏情報かしら」
敵の指揮官が身に着けていた物だから、罠とか呪いはないと思う。だから普通に調べて貰えればいいかな。
「それじゃあ500シルバのコースでお願いします」
俺がそういうとお姉様は掛けている眼鏡を何度もクイクイと動かしながら、1,500シルバのコースを俄然進めてくる。
モリ商会でのサファイヤちゃんの件があったばかりなので、ここはしっかりと抵抗しましたよ。
ボッタくられるの勘弁だ。
「そう、じゃあしょうがないわね。ちょっと待っててくれる」
そう言ってお姉様はカウンターの後ろにある部屋へと入って行った。
俺はそれを待つ間にも、店内の変なオーラを放つ商品の数々を見て回るのだった。
交渉の末、やっと75㎜自走砲を手に入れました。
次回は魔道具の鑑定です。
そして影の総番長が現れます。
次話投稿は明日の20時予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




