60話 負傷
ちょっと長くなってしまったので後半を少し切りました。
俺の頭の中で“やばいやばい”と叫ぶ声が響く。
必死でぼやける目をこすりつつも銃口を階段下へと向ける。
胸の鼓動は止まない。
突然前方に動く物体が2つ現れる。
俺は無意識のうちにその物体に1発ずつ弾丸を叩きこんだ。
すると、どさりとその物体2つは床に転がった。
拳銃の残弾はあと何発だったかな。
俺はそんなことを考えながらも必死に前方へと銃を向け続ける。
そのうち徐々に視界が晴れてくる。
耳がキーンとしたまま頭はくらくらするが、なんとか視界ははっきりしてきた。
どうやら先ほど撃った物体はゴブリンだったようで、死にかけた2匹がもぞもぞと動いている。
その場に座って休みたい衝動に駆られるが、自分に鞭打って足を進める。
通り過ぎる途中でゴブリンへの止めは忘れない。
俺はそのまま裏口から外へと脱出する。
それとほぼ同時に正面入り口から新たなゴブリン達が教会へと侵入してきた。
あと少し遅かったら俺は終わっていたな。
教会のゴブリンは放っておく。
狙うのは指揮官がいる本隊。
その本隊の真横から手榴弾を投げ込んでやろうと思う。
拳銃から軽機関銃へと持ち代えて右肩の違和感に気が付いた。
首を曲げて自分の肩口を見てみると、服が赤く染まっているのが見えた。
さっきの手榴弾の破片でも刺さっているのか。
傷だと分かった途端に、どういう訳か右肩がヒリヒリしてくる。
医療セットからカーゼを取り出し肩口に詰める。
とりあえず今はこれぐらいしかできない。
ポーションがあれば一発なんだか無い物はしょうがない。
俺はそのまま先を急ぐ。
壊れた建物の瓦礫の間を縫って、指揮官らしいゴブリンが確認できるところまで来た。
お約束で腕に赤い布を巻いているのが指揮官だろう。
道路を隔てて反対側の建物の中に潜んでいるため、この位置から手榴弾をぶち込むのが難しい。
敵の数はここから見えているだけでも5~6匹いる。
恐らく全部で10匹近くはいるんじゃないだろうか。
軽機関銃でここから撃ってもラチが開かないだろうな。
頭がまだクラクラせいか、良い作戦が思いつかない。
せめてこの建物から出て歩道まで行ければ手榴弾をぶち込める位置に行けるかもしれない。
やってみるか。
俺は決心すると、できるだけ姿勢を低くして外に出る。
しかしまだふら付いているせいか、バランスを崩して転びそうになり、近くの大きな壁の残骸に手をついた。
その途端、手をついた壁が大きな音を立てて倒れてしまった。
まずいと思った時にはもう遅い。
ゴブリン共が一斉に俺の方へ銃口を向ける。
そうなると俺はその倒れた壁の残骸に身を隠すしかない。
それが近くで一番大きな遮蔽物だったからだ。
俺が身を隠した壁の残骸にゴブリンが放った銃弾が集中する。
俺が体を隠すスペースはわずかに高さ50㎝くらいだろうか。
早い話、寝ころばないと隠れることができない。
これじゃあ反撃も難しいじゃないかよ。
壁の残骸の向こうで“ゴトン”という音が聞こえて手榴弾の爆発音が響く。
そして同じようにまた“ゴロン”という音がして再び爆発音が響く。
どうやらゴブリンの腕力では俺の隠れるここまで手榴弾が届かないようだ。
よし、それならばと思い、強引に体を起こして軽機関銃で反撃を試みた。
しかし時間稼ぎにはなりそうだが、戦いを有利に持っていくことはできそうにない。
つまり膠着状態となってしまったのだ。
実際に撃ってみてわかったんだけど、今俺がいる位置からでは有効弾は与えられそうにない。
それにこの場所からだと逃げるに逃げられない。
逃げようとしたら間違いなく撃たれる。
このままだとまずい。
完全に釘着け状態だ。
さらに反対側に回り込まれたら袋のネズミとなって俺はおしまいだ。
気が付けば軽機関銃の残弾も残り20発となった。
最後の弾倉だ。
最後の試みでとりあえず届かなくても手榴弾を投げ込んでみることにする。
せめて起き上がって投げられれば届くはずなんだが、起き上がったら撃たれることは間違いない。
なので手榴弾の投てきはあくまでも牽制で、その隙に後方の元来た場所へ下がろうという作戦だ。
これしか今の俺には思いつかなかった。
成功する確率は多分低いということは解っている。
でもこのままここにいても結果は同じ。
それならば少しでも望みがある方法を取りたい。
俺は自分にうまくいくと言い聞かせながら、手持ちの手榴弾4つすべてを地面に並べる。
4つも投げれば一個くらい上手く届くか、さもなくばゴブリン共が怯んでくれるんじゃないかと淡い期待を込める。
「よっし!」
俺は自分に気合を入れる様に言葉に出すと、上半身を起こして1個目の手榴弾を投げ放つ。
投げた途端に一斉に射撃が集中する。
これじゃあ連続で投げられねえじゃねえか!
投げた手榴弾が爆発する。
どうなったか覗いてみるとやはり届いていない。
こうなったらやけくそだ!
俺は手榴弾を1個だけとっておき、それ以外はすべてゴブリン陣地へと投げ放ち、軽機関銃を持って立ちあがる。
手榴弾の爆発に気を取られて伏せていたゴブリンが徐々に顔を出す。
すると当然俺に気が付いてゴブリンがカービン銃を構える。
そこへ俺は軽機関銃を点射してゴブリンの頭を吹き飛ばす。
しかしそれができたのは最初の1匹だけだった。
それ以降は敵の数が多すぎた。
ゴブリンは俺に向かって一斉にカービン銃を撃ってきた。
左脚と左腕に1発ずつ銃弾を受け、頬に銃弾がかすめた。
俺はその場で片膝をつく。
脚を撃たれたのはまずかった。
傷は深そうだ。
これじゃあ前へ進めないし後退もできない。
くそお、こんなところで俺は人生を終わるのかよ。
ああ、もっと女の子とイチャイチャしたかった。
俺が死んだらエミリーは泣いてくれのかなあ。
そんな考えが脳裏をよぎる。
俺が完全に諦めていたその時だった。
俺にはまだ生き残るすべがあったことに気が付かされる事になる。
今回はプライベートライアンのラストシーンの雰囲気を思い浮かべてください。
戦車は出てきませんが、あんな感じでしょうか。
主人公は怪我を負ってしまいましたがこのままでは終わりません。
次回、ゴブリン指揮官を目の前にして主人公は最後の力を振り絞って奮戦する。
その結果は?
次話投稿は明日の予定です。
ここ最近ないってくらい猛烈な速度で書けます。
絶好調!
ただし誤字脱字は多いかもです。
どうぞ明日もよろしくお願いします。




